暖房期の平均日射熱取得率基準値と省エネ計算の正しい使い方

暖房期の平均日射熱取得率・基準値と省エネ計算の正しい活用

「暖房期のηAH値は基準をクリアしているから、あとは断熱だけ考えればいい」と思っていると、一次エネルギー消費量が想定より2割以上膨らむ可能性があります。

この記事の3ポイント
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暖房期のηAH値に「基準値」は存在しない

外皮基準(UA値・ηAC値)とは異なり、暖房期の平均日射熱取得率(ηAH値)には省エネ基準上の合否判定がありません。しかし一次エネルギー消費量(BEI)の計算には直接影響するため、無視すると省エネ性能が低下します。

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ηAH値は「冷房期とセット」で計算する

ηAC値(冷房期)の計算と係数を変えて2回実施するのが正しい手順です。どちらか片方だけでは一次エネルギー消費量の算定が完結しないため、両方の計算が不可欠です。

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ηAH値が高いほど暖房費の削減に直結する

ηAH値が大きいほど冬の日射熱を多く取り込め、暖房設備への負荷が減少します。南向きの窓面積と日射取得型ガラスの採用が、ηAH値を高める最も効果的な設計手法です。


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暖房期の平均日射熱取得率(ηAH値)とは何か・基本を正確に理解する

暖房期の平均日射熱取得率(ηAH値)とは、冬の暖房期間において太陽の日射熱が建物内部にどれだけ取り込まれるかを示す指標です。正式には「単位日射強度当たりの建物内部で取得する熱量の合計を、暖房期間で平均し、外皮面積で除したもの」と定義されています。読み方はイータ・エーエイチ値、もしくはηAH値と表記します。

この値は「外皮面積当たりに流入する日射熱の量」を表しており、数値が大きいほど冬の日射熱を多く室内に取り込める設計であることを意味します。日射を「取り込む」ことが目的の指標であるため、ηAC値(冷房期)が「小さいほど良い」とされるのとは逆で、ηAH値は「大きいほど暖房効率が高い」と評価される点に注意が必要です。

つまり、冷暖房で評価の方向性が逆になるということですね。

計算式の構造はηAC値と共通しており、以下の要素をすべて盛り込んで算出します。

変数 内容
Ai 外皮部位(一般部位・開口部)の面積(㎡)
ηH,i 各外皮部位の暖房期の日射熱取得率
νH,i 各外皮部位の暖房期の方位係数
Aenv 外皮全体の面積合計(㎡)

計算手順としては「各部位の面積 × 日射熱取得率 × 方位係数」をすべての外皮部位で合計し、外皮全体の面積で割って100を掛けることで算出します。外壁・天井・屋根・窓(開口部)がすべて計算対象となり、床や土間床は日射が入らないため除外されます。これが基本です。

また、同じ計算を係数だけ変えて冷房期(ηAC値)と暖房期(ηAH値)の両方について行うため、計算量が単純に2倍になります。特に窓の日射熱取得率の計算が複雑なため、実務では省エネ計算ツールやwebプログラムを活用することが多い状況です。

参考:暖房期ηAH値の定義と計算方法について詳しい解説

平均日射熱取得率(ηAC値、ηAH値)- 住宅の省エネ基準

暖房期の平均日射熱取得率に基準値はない・省エネ基準との正確な関係

不動産従事者の方が特に押さえておくべき最重要ポイントです。省エネ基準の外皮性能基準において、ηAC値(冷房期)には地域区分ごとに明確な基準値が定められていますが、ηAH値(暖房期)については一切の基準値が存在しません。

基準値の一覧を確認すると、次のようになります。

地域区分 対象地域の例 UA値基準 ηAC値基準 ηAH値基準
1地域 北海道(北部) 0.46以下 基準なし 基準なし
2地域 青森・秋田・岩手 0.46以下 基準なし 基準なし
3地域 宮城・長野 0.56以下 基準なし 基準なし
4地域 東京(山間部)等 0.75以下 基準なし 基準なし
5地域 関東北部等 0.87以下 3.0以下 基準なし
6地域 関東以西・関西 0.87以下 2.8以下 基準なし
7地域 九州・南部 0.87以下 2.7以下 基準なし
8地域 沖縄 基準なし 6.7以下 基準なし

ηAH値はすべての地域で基準値なしです。

ここで「では計算しなくても関係ない?」と思う方もいるかもしれません。しかし実態はまったく異なります。

ηAH値は「一次エネルギー消費量(BEI)」の算出に直接組み込まれる数値です。BEIとは「設計一次エネルギー消費量 ÷ 基準一次エネルギー消費量」で求められる省エネ性能指標で、1.0以下であることが省エネ基準適合の条件となります。2025年4月から全新築住宅に省エネ基準適合が義務付けられた現在、BEIの適合判定を得るためにηAH値の計算は避けられない要素です。

暖房設備の一次エネルギー消費量は「暖房負荷をどれだけ日射熱で補えるか」という観点でηAH値に依存しています。ηAH値が低いと、日射による自然な加温効果が少ないため暖房設備の稼働時間が増え、その分だけ計算上の一次エネルギー消費量が増加します。結果としてBEIが1.0を超えてしまう場合もあります。厳しいところですね。

参考:建築物省エネ法の概要と各基準値の詳細

住宅・建築物の省エネルギー基準の概要(一般社団法人日本サッシ協会)PDF

暖房期の平均日射熱取得率を高める設計の具体的なポイント

ηAH値を高めるためには、冬の太陽光を積極的に室内に取り込む設計が鍵になります。計算式の構造上、「各部位の面積 × 日射熱取得率 × 方位係数」の合計値を大きくすることが目標になります。この3つの要素のうち、設計段階で最もコントロールしやすいのが窓の「方位・面積・ガラス仕様」の3点です。

まず方位係数について考えてみましょう。暖房期の方位係数は、冬の太陽高度が低い時期に南から入る日射量が最も大きくなる特性を反映しています。そのため南向きの窓は暖房期の方位係数が高く設定されており、北向きの窓は日射が入りにくいため係数は低くなります。南面の窓面積を大きくすることが、ηAH値を引き上げる最も効果的な手段の一つです。

次に窓のガラス仕様です。日射熱取得率0.50以上のガラスを「日射取得型」と呼び、0.49以下を「日射遮蔽型」と呼びます(JISR3209基準)。南向きの窓に日射取得型ガラスを採用すると、同じ面積でも暖房期のηAH値を大きく上げることができます。逆に全窓を一律に高遮熱ガラスにしてしまうと夏の冷房負荷は下がる一方で、冬の日射取得量も減少します。夏だけ考えると冬は損をするということです。

実際の数値を使ったイメージとして、LIXIL(リクシル)の設計資料によれば、南面に大きな日射取得型の窓を設けてηAH値を2.5まで高めた場合、断熱等性能等級6(UA値0.46)の住宅でBEI0.59という非常に高い省エネ性能が実現できています。一方で同じUA値0.46でもηAH値が1.6しかない設計では、BEIが0.63に留まり、省エネ性能の差は約1割に上ります。数字は伴うということですね。

加えて、方位係数には「屋根・天井・外壁」も含まれるため、南向きの外壁面積が大きい形状の建物もηAH値を高めやすい傾向があります。ただし実務上は窓の日射熱取得率と面積の影響が最も大きく、壁・天井の影響は窓に比べて小さいのが実態です。

参考:パッシブデザインとηAH値・ηAC値のバランスについての実践的な解説

設計手法④ パッシブデザインと高断熱の比較(LIXIL)

暖房期の平均日射熱取得率の計算で不動産従事者が注意すべき実務上の落とし穴

不動産従事者の立場では、新築住宅の販売・仲介時に省エネ性能の説明を行う場面が増えています。2024年4月から始まった建築物の省エネ性能表示制度(BELS等)と連動して、物件の広告・販売時には省エネ性能ラベルの表示が求められるようになりました。ηAH値はこの省エネ性能を裏付ける数値の一部として機能しており、正確に理解しておかないと顧客への説明で誤解を生むリスクがあります。

よく見られる誤解の一つが「暖房期のηAH値には基準がないから、省エネ計算書に出てきても無視していい」という認識です。しかし前述のとおり、ηAH値はBEI値の算定根拠であり、BEIが1.0を超えると省エネ基準不適合になる可能性があります。2025年4月以降に着工する全新築住宅は省エネ基準適合が義務であるため、BEIへの影響があるηAH値は実質的に無視できない数値です。これは原則です。

また、「ηAH値が記載されているのは標準計算ルートの場合だけ」という点も理解しておく必要があります。簡易計算ルートやモデル住宅法では、暖房期のηAH値について一部簡略化されたデフォルト値を用いる場合があります。標準計算ルートで詳細に算定した住宅は、よりηAH値の精度が高く、BEIの最適化ができているといえます。

さらに注意が必要なのが、地域区分ごとに「暖房期」の定義が異なる点です。暖房期間は「日最低外気温が10℃未満になる期間」を基準としており、1地域(北海道北部)と7地域(九州)では暖房期の長さがまったく異なります。暖房期が長い寒冷地ほど、ηAH値が一次エネルギー消費量計算に与える影響が大きくなります。場所によって重要度が変わるということですね。

不動産従事者が取引で省エネ性能表示を確認する際、計算書中の「ηAH値」欄を見て数値がどの程度かチェックする習慣を持つと、物件の冬期快適性・光熱費水準についての説明精度が上がります。顧客から「冬の暖房費はどのくらいかかりますか?」と聞かれた際に、ηAH値を根拠とした説明ができれば、信頼感も大きく向上します。

参考:2025年省エネ基準義務化と省エネ性能表示制度の詳細

【2025年最新】省エネルギー基準とは?計算方法や適判の流れを解説(株式会社CEEC)

暖房期の平均日射熱取得率・ηAH値と断熱性能等級の意外な関係性

断熱等性能等級(等級4〜7)と聞くと多くの方はUA値だけをイメージします。しかし実際の住宅性能を判断する上では、ηAH値を組み合わせることで初めて「冬の快適性」の全体像が見えてきます。これが実務で見落とされやすいポイントです。

断熱等性能等級の定義自体はUA値(外皮平均熱貫流率)と一部ηAC値で規定されており、等級の合否判定にηAH値は直接使われません。ところが、同じ断熱等性能等級6(UA値0.46相当)の住宅でも、ηAH値が2.5の物件とηAH値が1.6の物件では、冬の暖房にかかる一次エネルギー消費量に明確な差が生じます。前述のLIXILのデータでは、その差がBEIにして0.04〜0.05程度、一次エネルギー消費量にして約2,000〜2,900MJ/年もの開きになります。これは使えそうです。

2,900MJ/年という差を電力換算でイメージすると、約806kWhに相当します。電気代を1kWh当たり30円として計算すると年間約24,000円、30年間では約72万円の差になります。この差は断熱等級の「同じラベル」の中に隠れているため、等級だけを見ていると見落としやすいポイントです。

断熱性能等級が高くても、ηAH値の低い設計であれば冬の日射取得が乏しく、暖房エネルギーをより多く必要とします。逆に等級6でもηAH値を2.5程度まで高めれば、等級7相当の断熱材を投入するよりもBEI改善の費用対効果が高い場合があります。LIXIL資料によれば、ηAH値を高めるパッシブデザイン型の設計は等級7(UA値0.26)へ移行するよりも約200万円安く、同程度以上のBEIを達成できるケースがあるとされています。意外ですね。

住宅性能表示制度や長期優良住宅認定の場面では、断熱等性能等級が注目されますが、購入検討者に対して「暖房費の実態」を説明する際にはηAH値も含めて解説できると、より誠実なアドバイスになります。「断熱等級6ですが、ηAH値が高く設計されているので、冬の暖房費が一段と抑えられる住宅です」という説明は、顧客の納得度を高める有効な根拠として活用できます。

等級だけ覚えておけばOKというわけではありません。

参考:国土交通省が公開する住宅性能基準の正式な説明ページ

住宅を選定する時に候補となる住宅の基本性能(国土交通省 国土技術政策総合研究所)