耐震改修計画の認定メリットと不動産活用の要点

耐震改修計画の認定メリットを不動産従事者が押さえるべき理由

計画認定を取れば、容積率が上がり物件の資産価値が跳ね上がります。

この記事の3つのポイント
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建築規制が大幅に緩和される

耐震改修計画の認定を受けると、既存不適格・容積率・建ぺい率・耐火規定の4つの制限が緩和され、改修の幅が一気に広がります。

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税制・融資の優遇が受けられる

固定資産税の翌年度分が最大1/2に減額され、所得税から最大25万円の特別控除も適用可能。低利融資の活用でコスト負担も軽減できます。

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マンションの議決要件も緩和される

区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定(法第25条)を受けると、共用部分変更の議決要件が3/4以上から過半数(1/2超)に緩和されます。


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耐震改修計画の認定とは何か・耐震改修促進法の仕組み

耐震改修計画の認定とは、「建築物の耐震改修の促進に関する法律(耐震改修促進法)」第17条に基づき、建築物の所有者が作成した耐震改修の計画が一定の技術基準に適合していると所管行政庁(都道府県・市区町村)から認められる制度です。単に耐震工事を行うだけとは異なり、行政から正式な「お墨付き」をもらうことで、建築基準法上の特例や税制優遇など、複数のメリットを同時に享受できる点が最大の特徴です。

認定制度は、耐震改修促進法の中でも特に重要な柱のひとつです。同法にはほかに、「建築物の地震に対する安全性に係る認定(第22条)」と「区分所有建築物の耐震改修の必要性に係る認定(第25条)」があり、それぞれ目的が異なります。

  • 第17条(計画認定):これから耐震改修を行う建築物の計画を認定。建築基準法の規制緩和を受けられる。
  • 第22条(安全性認定):既に耐震基準を満たしている建築物の安全性を対外的に示す認定。広告等への表示が可能。
  • 第25条(必要性認定):耐震改修が必要な区分所有建築物であることを認定。マンションの議決要件が緩和される。

不動産従事者が特に深く理解しておくべきなのは第17条の計画認定です。この認定があるかどうかで、同じ改修工事でも得られる恩恵がまったく異なってきます。認定を受けるには、第三者機関による技術評定(有料)が原則として必要ですが、行政への申請手数料自体は多くの自治体で無料となっています。

つまり計画認定が基本です。

参考:横浜市「建築物の耐震改修の計画の認定について」

横浜市|耐震改修計画の認定制度の概要・申請様式・手数料(無料)について詳しく解説

耐震改修計画の認定で既存不適格の制限が緩和される仕組み

不動産実務の現場で頻繁に問題になるのが、「既存不適格建築物」です。既存不適格建築物とは、建築当時は適法だったものの、その後の法改正や都市計画の変更によって現行基準に適合しなくなった建物を指します。こうした物件では、大規模な増築や改修工事を行う際に、現行の建築基準法の規定すべてを遡及適用(さかのぼって適用)しなければならないケースが出てきます。これが工事の大きな障壁になることが珍しくありません。

耐震改修計画の認定を受けると、この遡及適用が免除されます。具体的には、耐震改修促進法第17条第3項第1号・第2号・第3号に掲げる基準に適合した計画として認定された場合、増築・改築・大規模の修繕・大規模の模様替えの際に、耐震関係規定以外の既存不適格事項の遡及適用を受けなくなります。

これは使えそうです。

たとえば、昭和50年代に建てられた旧耐震基準の事務所ビルがあるとします。当時は適法でしたが、その後の容積率変更によって現在は既存不適格になっているとします。このビルで大規模改修を行おうとすると、本来なら現行の容積率規定も満たさなければなりません。しかし計画認定を受ければ、耐震以外の既存不適格部分はそのまま据え置きで工事が進められます。オーナーや施工側にとって、工事コストや設計の制約が大幅に減る点が実務上の大きなメリットです。

さらに、建築確認を必要とする改修工事については、計画認定をもって「確認済証の交付があったものとみなす」という特例もあります。別途、確認申請の手続きを経なくてもよいということですね。これにより手続きの二重負担が解消され、工期の短縮にもつながります。

参考:宮崎市「建築物の耐震改修の促進に関する法律に基づく認定制度について」

宮崎市|耐震改修計画認定の3種類の区別・既存不適格緩和・確認申請不要の特例を網羅的に解説

耐震改修計画の認定で容積率・建ぺい率の制限も緩和される

計画認定のメリットは既存不適格の緩和だけではありません。容積率と建ぺい率の制限も、条件を満たせば緩和の対象となります。これが不動産活用において非常に重要なポイントです。

容積率に係る制限の緩和は、耐震改修促進法第17条第3項第1号・第2号・第5号に掲げる基準に適合した計画として認定を受けた場合、増築の際に容積率の建築基準法上の規定が適用されません。同様に、第1号・第2号・第6号に適合した計画として認定を受ければ、建ぺい率についても増築時の規制が適用外になります。

容積率が緩和されるということですね。

具体的なイメージを持ってもらうために例を挙げます。もし容積率200%の地域にある建物が、すでに容積率の上限いっぱいで建てられているとします。通常であれば増築は一切できません。しかし耐震改修計画の認定を活用して耐震工事を行う場合、その増築部分については容積率の上限規定が緩和されます。耐震補強に伴って生じた増築スペースを有効活用できるということです。

これは不動産オーナーや投資家にとって、単なる「安全性の向上」を超えた「資産価値の向上」として捉えられる重要な要素になります。改修前と後で賃貸可能面積が増える可能性もあるため、収益性向上の観点からも提案価値が高い制度です。

また、耐火建築物に係る制限の緩和(第17条第3項第1号・第2号・第4号)も見逃せません。耐火建築物の耐震工事で柱や壁を新設する際に、本来なら耐火建築物に係る建築基準法の規定が適用されるところ、計画認定を受けていればその規定が免除されます。補強工事の選択肢が広がるということです。

参考:横浜市「認定によるメリット(容積率・建ぺい率の緩和)」

横浜市|容積率・建ぺい率・耐火建築物に係る制限緩和の具体的な条文番号と申請フローを掲載

耐震改修計画の認定で受けられる税制優遇・固定資産税の減額措置

建築基準法上の規制緩和だけでなく、税制面でのメリットも計画認定の大きな魅力です。不動産従事者として顧客に伝えるべき情報として、特に固定資産税の減額措置と所得税の特別控除は必須の知識といえます。

まず固定資産税の減額措置です。昭和57年1月1日以前から所在する家屋に対して、現行の耐震基準に適合させる耐震改修工事を行った場合、翌年度分の固定資産税が家屋の120㎡相当分まで2分の1に減額されます。工事費用が50万円を超えていることが要件のひとつです。2分の1というのは非常に大きな減額で、仮に年間の固定資産税が30万円なら翌年は15万円になる計算です。

痛いですね(払わなくていい分を見逃すのは)。

なお、対象の建物が「通行障害既存耐震不適格建築物」(道路上に倒壊する恐れがある建物として指定されたもの)に該当していた場合は、翌年度と翌々年度の2年分が2分の1に減額されます。これはさらにお得な条件です。

次に所得税の住宅耐震改修特別控除について整理します。個人が昭和56年5月31日以前に建築された自己居住用の家屋について住宅耐震改修工事を行った場合、令和7年12月31日までを期限として所得税から一定額を控除できます。令和4年1月1日以降に工事した場合の控除対象限度額は250万円で、その10%(最大25万円)が所得税から差し引かれます。確定申告の際に「増改築等工事証明書」または「住宅耐震改修証明書」の添付が必要です。

これら税制優遇措置は、計画認定の取得と直接連動するわけではない部分もありますが、計画認定を受けて正式な耐震改修工事として記録することで、証明書の発行がスムーズになります。顧客への提案時に「認定+税制優遇」をセットで説明できると、行動に移してもらいやすくなります。

参考:国税庁「No.1222 耐震改修工事をした場合(住宅耐震改修特別控除)」

国税庁|住宅耐震改修特別控除の要件・控除額の計算方法・申告に必要な書類を公式解説

参考:国土交通省「耐震改修に係る固定資産税の減額措置」

国土交通省|固定資産税1/2減額の対象要件・通行障害建築物の場合の2年間適用について公式資料

耐震改修計画の認定がマンション管理・区分所有に与える独自メリット

一般的にはあまり知られていませんが、計画認定はマンションの区分所有に関する実務にも大きく影響します。この点を押さえておくと、マンション管理組合や区分所有者への提案が一段と深みを持ちます。

区分所有建築物の耐震改修に関わる認定(耐震改修促進法第25条)を受けると、建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)第17条第1項に規定する「共用部分の変更」に該当する耐震改修を行うときに必要な議決要件が、通常の「4分の3以上」から「2分の1超(過半数)」に緩和されます。

これは意外ですね。

マンションの耐震工事は「共用部分の変更」に当たるため、通常は区分所有者の4分の3以上の賛成が必要です。100戸のマンションで言えば75戸以上の同意が求められます。これが過半数(51戸以上)に下がるだけで、合意形成のハードルは格段に下がります。高齢化が進んだ建物や、区分所有者が多くて意見がまとまりにくいマンションでは、この緩和が耐震化推進の決め手になることもあります。

さらに、管理組合が耐震改修計画を立てる際に低利融資を活用できる制度も存在します。住宅金融支援機構の「マンション共用部分リフォーム融資」では融資限度額1,500万円(住宅部分の工事費が上限)、10年以内の償還期間での低金利融資が提供されています。計画認定を受けることで、こうした公的支援制度の申請がより確実に通りやすくなります。

不動産従事者として管理組合や投資家と関わる場面では、「認定を取ることで管理組合の賛成集めが楽になる」という視点を持っておくと、実務上の相談役として信頼を得やすくなります。認定を取れば過半数で決議できるということが条件です。

参考:三鷹市「耐震改修促進法に基づく認定制度」

三鷹市|区分所有建築物の耐震改修必要性認定(第25条)の議決要件緩和(3/4→1/2超)を解説

参考:国土交通省「住宅・建築物の耐震改修の支援策(令和7年度)」

国土交通省|マンション共用部分リフォーム融資の融資限度額・金利・対象工事を掲載した公式資料

耐震改修計画の認定を取得するまでの流れと不動産実務での活用ポイント

計画認定のメリットを知っていても、実際に申請するまでの流れが分からなければ顧客に自信を持って説明できません。ここでは認定取得の基本的なステップと、不動産実務で活かすための考え方を整理します。

認定取得の大まかな流れは次の通りです。

ステップ 内容 費用の目安
① 事前相談 所管行政庁の窓口へ事前協議票を提出 無料
耐震診断 建築士や専門機関による診断 建物規模による(数十万円〜)
③ 第三者評定 技術評定機関による計画の妥当性確認 有料(機関により異なる)
④ 認定申請 行政庁への正式申請(申請手数料は多くの自治体で無料) 書類作成費用のみ
⑤ 認定取得 計画認定書の交付
⑥ 工事実施 認定計画に基づく耐震改修工事

認定申請自体の手数料は無料です。

行政窓口への事前相談は早めに行うことが重要です。自治体ごとに必要書類の種類や様式が異なるため、事前協議の段階で「どの基準を満たす認定を目指すか」をしっかり確認しておかないと、後から書類の差し替えや修正が発生してしまいます。特に容積率緩和や建ぺい率緩和を目的とする場合は、適合が必要な条文番号(第5号・第6号)が変わる点を事前に確認しておくべきです。

不動産実務での活用場面としては、主に次の3つが想定されます。第一に、既存不適格物件の売買仲介で計画認定を取得することで物件価値を向上させる提案。第二に、収益物件オーナーへの改修提案の際に容積率緩和・税制優遇をセットで説明して意思決定を後押しする場面。第三に、マンション管理組合からの耐震化相談で議決要件の緩和という具体的な解決策を提示する場面です。

これら全てがビジネス機会につながります。

既存不適格のまま売りに出されている物件に対して「計画認定を取れば容積率規制が緩和されて増床できる」という情報を仲介業者が知っているかどうかで、顧客への提案力は大きく変わってきます。制度を知っているだけで差別化できる、それが計画認定制度の実務的な価値です。認定の活用で顧客満足度が上がるということですね。

参考:大阪府「建築物の耐震改修の促進に関する法律に基づく認定について」

大阪府|計画認定・安全性認定・必要性認定の3種類と各制度のメリット・適用条件を一覧で解説