特例容積率適用地区はどこで何ができる制度か

特例容積率適用地区はどこにあり何ができる地区か

特例容積率適用地区の指定地区は全国でたった1か所しかなく、あなたの担当エリアでは重要事項説明の対象外になる可能性が高いです。

📋 この記事の3ポイントまとめ
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指定地区は全国で1か所のみ

特例容積率適用地区として都市計画決定されているのは、東京都千代田区・中央区にまたがる「大手町・丸の内・有楽町地区(約116.7ha)」のみです。制度創設から20年以上が経過した現在も、新たな指定事例は生まれていません。

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隣接不要で容積率を移転できる

通常は隣接する敷地間でしか容積率の移転は認められませんが、この地区内では敷地が離れていても容積率(空中権)を移転できます。東京駅はこの制度を使い、工事費約500億円を空中権売却で賄いました。

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指定できる用途地域には制限がある

第1種・第2種低層住居専用地域、田園住居地域、工業専用地域は指定対象外です。これら4つの用途地域に所在する土地では、この制度を利用した容積率の移転は一切できません。


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特例容積率適用地区とは何か:制度の基本的な仕組み

特例容積率適用地区とは、都心部の土地を高度に活用することを目的として、ある敷地で使われていない余剰容積率を、同じ地区内の別の敷地へ移転して使えるようにする制度です。法的根拠は都市計画法第9条第16項および建築基準法第57条の2に定められており、地域地区のひとつとして都市計画に組み込まれます。

不動産業務でよく耳にする「容積率の移転」という概念は、通常は隣接する敷地の間でしか認められていません。しかし特例容積率適用地区ではその縛りが外れ、地区内であれば離れた場所にある敷地間でも容積率を融通し合うことが可能になります。これが本制度の最大の特徴です。

具体的な仕組みを整理しておきましょう。

項目 内容
根拠法 都市計画法第9条16項、建築基準法第57条の2・57条の4
制度の目的 未利用容積率の活用促進・土地の高度利用
容積移転の範囲 同一特例容積率適用地区内(隣接不要)
手続きの流れ ①都市計画で地区指定 → ②権利者が特定行政庁へ申請 → ③特定行政庁が特例容積率を指定・公告
指定される敷地 特例敷地(2以上の敷地が対象。道路・線路・公園は対象外

手続き上のポイントとして、都市計画で地区が指定されるだけでは容積の移転は自動的に発生しません。実際の容積移転を行うには、土地所有者等の権利者が特定行政庁に申請し、審査を通過した上で特例容積率の限度が指定・公告される、という二段階の手続きを踏む必要があります。これが基本です。

また、いくら未利用の容積率があっても、道路・線路・公園といった公共施設の用地は「特例敷地」にはなれません。公共施設の用地は恒久的に使途が固定されているため、民間の容積売買には乗せられないのです。この点は重要事項説明においても正確に把握しておく必要があります。

なお制度の名称の変遷についても確認しておきましょう。2000年(平成12年)の建築基準法・都市計画法改正で創設された当初は「特例容積率適用区域」という名称で、対象は商業地域のみでした。その後2004年(平成16年)の法改正によって対象用途地域が大幅に拡大され、同時に名称も「特例容積率適用地区」へ変されています。

参考:特例容積率適用地区の制度の根拠・概要について(国土交通省)

建築基準法の特例制度一覧(国土交通省 住宅局)

特例容積率適用地区はどこに指定されているか:全国唯一の事例

結論から言えば、現時点で特例容積率適用地区として都市計画決定されているのは、全国でただ1か所だけです。

それが「大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用地区」です。東京都千代田区および中央区にまたがるエリアで、面積はおよそ116.7haにのぼります。指定されたのは2002年(平成14年)のことで、以降20年以上が経過した現在も、新たに指定された地区は全国に存在しません。

国土交通省も当該制度の積極的な活用を奨励していますが、特例容積率適用地区の指定には都市計画決定を経る必要があり、多くのステークホルダーの合意を要するため、実際には新しい指定事例が生まれにくい構造になっています。

項目 内容
指定地区名 大手町・丸の内・有楽町地区特例容積率適用地区
所在地 東京都千代田区・中央区
指定年 2002年(平成14年)
面積 約116.7ha(東京ドーム約25個分)
指定容積率 1,300%(建築基準法上の上限値)

この地区で活用された最も有名な事例が、東京駅丸の内駅舎の復元工事です。戦災によって3階建から2階建へ縮小されたまま使われていた東京駅を、創業当時の赤レンガの姿に復元する工事が2012年10月に完了しました。この工事には約500億円という巨額の費用がかかりましたが、公費はほぼ使わずに賄われています。

その方法が空中権の売却です。東京駅周辺の指定容積率は1,300%ですが、3階建の東京駅が使っているのはそのうち約600%程度で、残り700%前後が未利用のまま「空中権」として存在していました。この余剰分を、丸の内パークビルディング・三菱一号館・新丸ビル・東京ビルディング・グラントウキョウサウスタワーなど、周辺6棟のビルに売却することで、約500億円もの工事費を捻出したのです。

六本木や新宿のビルには東京駅の空中権は移転できません。あくまでも「大手町・丸の内・有楽町地区」という特例容積率適用地区の内部でしか移転できないからです。つまり地区の外側では、この制度は一切機能しないということです。

参考:東京駅復元と空中権売却の詳細事例

特例容積率適用地区に指定できる用途地域と指定できない用途地域

特例容積率適用地区は、すべての用途地域で指定できるわけではありません。指定対象から除外されている用途地域が4種類あります。これは宅建試験でも頻出のポイントで、実務においても正確に覚えておく必要があります。

  • 第1種低層住居専用地域:低層住宅の良好な住環境を守るため除外
  • 第2種低層住居専用地域:同上の理由で除外
  • 田園住居地域:農業と住居の調和を守るため除外
  • 工業専用地域:工業専用の土地利用のため除外

逆に言えば、以下の9つの用途地域では特例容積率適用地区を設定することが可能です。

第1・第2種低層住居専用地域が除外されている理由は、これらの地域が低層住宅の良好な住環境を保護するために設けられた地域であり、高度利用を促進するという特例容積率適用地区の趣旨と相容れないからです。低層住居専用地域には高さ制限が厳格に定められており、容積率を移転しても大きなビルを建てることは元々できません。指定対象から外れているのは当然とも言えます。

田園住居地域が除外されているのも同様の考え方です。この用途地域は農業と住居が共存する環境を守ることを目的としており、土地の高度利用を図るという発想とは方向性が真逆になります。

用途地域の区分を把握した上で重要事項説明に臨むことが基本です。特に近隣商業地域や商業地域など、大型開発が行われやすい地域を取り扱う際には、特例容積率適用地区に該当するかどうかの確認を行うことが、将来的なトラブル防止にもつながります。

参考:都市計画法 e-Gov(用途地域の定義を条文で確認できます)

都市計画法 第9条(e-Gov 法令検索)

特例容積率適用地区と空中権売買:不動産従事者が押さえるべき実務知識

特例容積率適用地区における容積率の移転は、一般に「空中権売買」とも呼ばれます。「空中権」という言葉は都市計画法や建築基準法の条文には登場しませんが、未利用の容積率を売買・移転する権利を指す実務上の通称として広く使われています。

空中権の仕組みを数字で理解しておきましょう。仮に指定容積率が500%で、面積100㎡の2つの敷地A・Bがあるとします。Aが容積率の100%しか使っていなければ、余剰は400%です。この400%分をBに移転すると、Bは元の500%に400%が上乗せされ、900%まで活用できるようになります。東京ドーム(延床面積約12万㎡)で例えると、容積率500%の土地に建てられる建物の床面積が500㎡から900㎡相当まで増える感覚です。つまり大規模開発においては、移転容積率1%が数億円規模の価値を持つこともあります。

不動産鑑定の観点から見ると、空中権の価値は「容積率移転前後の土地の価値の差分」をもとに算定されます。ただし、容積率を譲り受ける権利は土地の所有権等と比べて弱かったり、永続性が保証されないケースもあることから、一定の減価を考慮するのが通例です。これは実務です。

また、空中権の取引には税務上の論点も存在します。容積率の売却によって得た対価は課税所得として取り扱われる場合があり、税務申告においても慎重な検討が求められます。不動産取引においてこうした複雑な論点が絡む場面では、税理士や不動産鑑定士との連携が不可欠になります。

さらに重要な点として、空中権(容積率の移転)の主な手法は特例容積率適用地区制度だけではありません。以下の4つの制度が存在します。

  • 🏗️ 特例容積率適用地区制度:地区内であれば非隣接敷地間でも移転可能。ただし全国で1地区のみ
  • 🏗️ 特定街区制度:同一街区または隣接街区内で移転可能。都市計画決定が必要で手続きのハードルが高い
  • 🏗️ 一団地の総合設計制度:複数敷地を一敷地とみなすことで容積移転が可能。特定行政庁の認定が必要
  • 🏗️ 連担建築物設計制度:既存建物が所在する隣接敷地も含めて一敷地とみなす。隣接敷地間に限定される

このうち「一団地の総合設計制度」と「連担建築物設計制度」は、都市計画決定を必要とせず特定行政庁の認定だけで利用できるため、特例容積率適用地区制度と比べると適用のハードルは相対的に低いと言えます。ただし移転できるのは隣接敷地間に限られます。容積移転の手法を検討する際は、この使い分けが原則です。

参考:容積移転が可能な4つの制度について(JLL)

空中権とは?容積移転が可能な4つの制度を解説(JLL Japan)

特例容積率適用地区の今後:老朽マンション問題や首都高地下化との関係

制度創設から20年以上が経過した現在も、特例容積率適用地区の指定は全国1か所にとどまっています。意外ですね。では今後の展開はどうなるのでしょうか?

近年、この制度が注目を集める文脈が2つ出てきています。ひとつは老朽マンションの建替え問題、もうひとつは首都高速道路の地下化計画です。

まず老朽マンションの問題から整理します。国土交通省の推計によると、2023年12月末時点のマンションストック総数は約704万3,000戸で、このうち旧耐震基準(1981年以前)で建設されたものが約103万戸に上ります。東京ドーム約87個分に相当する規模の老朽マンションストックが存在しているわけです。しかし2024年4月時点までに実際に建て替えられた件数は297件にとどまっており、老朽化の進行速度に建替えが追いついていない状況です。

建替えが進まない最大の理由は採算性です。容積率をギリギリまで使い切って建てられたマンションの場合、建て替えをしても新たな住戸を増やすことができず、工事費を売却益で回収できません。厳しいところです。

この問題を解決する手段のひとつとして、特例容積率適用地区制度の応用が検討されています。周辺の寺社仏閣・学校・歴史的建造物などが持つ未利用容積率を老朽マンションの建替え敷地へ移転できれば、容積率不足の問題が解消され、建替えの採算が取れるようになる可能性があります。これは使えそうです。

もうひとつの文脈が、東京・日本橋川の真上を通る首都高速道路の地下化計画です。報道によれば、地下化工事の膨大な費用を賄うために、地上部分の空中権を隣接地に売却するという構想が浮上しています。こちらも特例容積率適用地区制度に近い発想です。

ただしいずれの場合も、実現のためには都市計画決定という高いハードルを越える必要があります。多くの権利者・自治体・国の合意が必要であり、一朝一夕には進みません。不動産従事者としては、この制度が今後どのエリアで議論されているかをアンテナを張って追っておくことが、将来の大型案件に備える上で意義を持ちます。

参考:国土交通省によるマンションストック総数の公式データ

令和5年末時点のマンションストック戸数について(国土交通省)