航空法による高さ制限、見直しで建設が可能となった仕組みと実務
空港から24kmも離れた物件でも、航空法の高さ制限が重説に必要なことがあります。
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航空法による高さ制限の基本と不動産への影響
航空法は1952年(昭和27年)に制定された法律で、航空機の安全な離着陸を確保するため、空港周辺に「制限表面」と呼ばれる空間を設けています。この制限表面の上に出る高さの建造物や植物を設置することは原則として禁止されています。不動産従事者にとって最初に押さえるべき基本です。
制限表面の種類は全部で6つあります。
| 制限表面の種類 | 概要 | 対象範囲の目安 |
|---|---|---|
| 進入表面 | 滑走路の延長線上に設定される傾斜面 | 滑走路端から3,000m先まで |
| 転移表面 | 進入表面と着陸帯の長辺から外側へ広がる傾斜面 | 着陸帯両側の外側 |
| 水平表面 | 空港標点の45m上を含む水平面 | 空港中心から半径4,000m |
| 延長進入表面 | 進入表面のさらに外側の傾斜面 | 進入表面から15,000m先まで |
| 円錐表面 | 水平表面の外縁から外側へ広がる傾斜面 | 空港中心から半径16,500m |
| 外側水平表面 | 円錐表面の上縁を含む広い水平面 | 空港中心から半径24,000m |
つまり最大24kmという広大な範囲が制限の対象です。
「空港の近くだけが制限を受ける」という思い込みは危険です。外側水平表面の制限は空港から24km離れた地点にまで及ぶケースがあり、例えば羽田空港の外側水平表面の範囲は中野区や板橋区など都心部にまで重なっています。普通の住宅地と思って取引していた物件が、実は航空法の制限区域内だったというケースは珍しくありません。
重要なのは、一般的な木造2階建て住宅(高さ7m程度)であれば実質的な影響はほぼないという点です。問題になるのは、空港や滑走路に近い土地でビルや高層マンションを建てようとする場合や、標高の高い場所にある土地で再建築計画がある場合です。
<参考:国土交通省 東京航空局「空港周辺における建物等設置の制限(制限表面)」各制限表面の法的定義と照会窓口の一覧>
https://www.cab.mlit.go.jp/tcab/restriction/02.html
航空法による高さ制限の見直しで建設が可能となった背景
航空法の高さ制限が見直されたきっかけは、2003年の規制改革会議にまで遡ります。「飛行ルートに応じた規制にするべき」という議論が起こり、当時都心上空を実際には飛んでいないエリアに対して、空港周辺と同じ厳しい制限をかけることの妥当性が問われ始めました。
2005年には航空法の高さ制限が合理化され、飛行ルートに応じた規制の考え方が導入されました。これにより、実際には航空機が飛ばないエリアの一部について制限が緩和され、それまで建設できなかった超高層ビルの建設が可能になったのです。これが都心部の再開発の火付け役となりました。
さらに大きな転機は、2014年の国家戦略特区制度の導入です。国家戦略特区では、エリア単位で航空法の高さ制限の特例承認を受けることが可能になりました。個別の物件ごとに申請するのではなく、地区全体として一括して審査が行われるため、開発スピードが格段に速くなりました。これは使えそうです。
制限緩和の主な流れをまとめると以下のとおりです。
- 2003年 規制改革会議にて「飛行ルートに応じた規制」の考え方が提唱される
- 2005年 航空法の高さ制限が合理化・緩和され、都心部での超高層建築が解禁
- 2014年 国家戦略特区制度により福岡・天神エリアの高さ制限を緩和(約67m→約76m)
- 2017年 天神エリアの高さ制限がさらに最大約115mまで段階的に拡大
- 現在 全国複数のエリアで特例承認の取り組みが進行中
注意が必要なのは、高さ制限の緩和はあくまで「特定のエリア」「特定の条件下」での話という点です。緩和後のエリアであっても、建設にあたっては改めて航空法の確認と申請手続きが必要になります。「緩和されたから何でも建てられる」という考え方は間違いです。
<参考:福岡地域戦略推進協議会「航空法の高さ制限の緩和(国家戦略特区)」国家戦略特区を活用した制限緩和の経緯と効果>
https://www.fukuoka-dc.jpn.com/project_detail/aeronautics-law/
天神ビッグバンに見る建設可能エリアの拡大と不動産価値への影響
航空法の高さ制限の見直しが不動産価値に与えたインパクトを、最もわかりやすく示す事例が福岡市の「天神ビッグバン」プロジェクトです。
福岡市は空港が都心に近いという地理的特性から、航空法による建物の高さ制限が特に厳しいエリアでした。天神エリアでは従来、建物の高さが約67mまでという制限があり、これが老朽ビルの建て替えを妨げる大きな障壁でした。現在の基準で建て替えると、航空法の高さ制限があるために従前の床面積を確保できない「既存不適格」状態に陥るケースが多く、建て替えが進まないという問題が発生していたのです。
2014年の国家戦略特区への認定以降、この制限が段階的に緩和されました。天神明治通り地区では約76mに、旧大名小学校跡地では約115mへと引き上げられ、超高層ビルの建設が可能になりました。
この規制緩和の結果は数字に如実に表れています。
- 建築確認申請数:93棟(2025年3月末時点)
- 竣工棟数:74棟(2025年3月末時点)
- 当初目標「2026年末までに30棟」を大幅に超過達成
- 天神エリアの容積率を最大1,400%程度まで緩和するインセンティブも付加
地価への影響も明確です。2025年度の基準地価では、福岡市商業地が前年比プラス10.2%、住宅地がプラス7.2%と、政令指定都市の中でトップクラスの上昇率を記録しました。これは都市整備として東京ドーム約8,000個分に相当する天神エリア全体が生まれ変わったことの効果といえます。
不動産従事者の目線で見れば、規制緩和エリアでは収益性の高いビル開発が動き、地価上昇による売却益も期待できるという状況です。制限緩和情報の早期把握が、そのまま商機に直結することを示した好例といえます。
<参考:えんfunding「【2026年最新】天神ビッグバン進捗レポート」建替え進捗の最新数値と地価・投資価値への影響を詳解>
航空法による高さ制限の重要事項説明における実務対応
不動産仲介業務において、航空法の高さ制限に関する重要事項説明は法的義務です。宅地建物取引業法第35条第1項第2号および宅地建物取引業法施行令第3条第1項第53号により、売買や交換の契約(貸借は除く)において航空法に基づく制限の説明義務が定められています。
説明しなければならない項目は次の2つの条文に基づく制限です。
- 航空法第49条第1項:進入表面・転移表面・水平表面に関する高さ制限(水平表面は空港中心から半径4km以内)
- 航空法第56条の3第1項:延長進入表面・円錐表面・外側水平表面に関する高さ制限(外側水平表面は空港中心から半径24km以内)
重要事項説明書への記載方法としては、「本物件の上空は、航空法に基づく〇〇空港の〇〇表面に該当します。航空法の定めにより、海抜高約〇〇mを超える建造物、植物その他の物件を設置し、植栽し、又は留置することはできません。」という形式が一般的です。空港名・制限表面の種類・制限高(海抜高)の3点を明記するのが基本です。
実務上の調査方法として、各空港の「高さ制限回答システム」をネット上で利用するのが最も手軽です。
- 東京国際空港(羽田):東京国際空港高さ制限回答システム(東京空港事務所)
- 大阪国際空港(伊丹):大阪国際空港高さ制限回答システム(関西エアポート)
- 福岡空港:福岡空港高さ制限回答システム
住所や座標を入力すると、制限表面の種類と制限高が確認できます。複雑な物件や初めて扱うエリアでは、空港管理事務所への直接照会が確実です。
違反した場合のペナルティは明確です。航空法の規定に違反して建造物等を設置した者は、同法第150条により50万円以下の罰金に処される可能性があります。また、設置者に対して除去を求められることもあります。重説記載漏れは宅建業法違反にも繋がります。プロとして「知らなかった」では済まされません。
<参考:にっぽんの不動産研究会「重要事項説明における航空法の説明」条文・記載例・制限表面の一覧を詳しく解説>
https://nippon-fudousan.com/laws/takken/koukuuhou/
航空法による高さ制限の見直し後に生じる既存不適格問題と不動産戦略
航空法の高さ制限の見直しには、緩和だけでなく「強化」方向のケースもあるという点は、あまり知られていません。これが不動産取引において大きな落とし穴になることがあります。
例えば、2005年の規制合理化では都心部の一部で制限が緩和されたのとは逆に、新たに低空飛行ルートが設定されたエリアでは、それ以降に新たな高さ制限が追加される可能性があります。制限が強化されると、従来は適法だった建物が「既存不適格建物」になるケースが生じます。これは建て替えを検討する際に非常に大きな問題です。
既存不適格の問題が深刻なのは、建て替え時に現在の床面積を確保できない可能性があるためです。例えば、現在10階建ての賃貸ビルが航空法の高さ制限の適用エリアに入ることで、建て替え後は8階建てまでしか建てられなくなる、というケースが実際に起きています。床面積が減るということは、そのまま収益力の低下につながります。これは痛いですね。
逆に、緩和エリアでは次のような不動産戦略が考えられます。
- 高さ制限が緩和されたエリアでの土地の仕入れ:床面積を増やせる分、建物の収益性向上が期待できる
- 老朽化した低層ビルの高層化建て替え:天神ビッグバンのように、床面積を1.5〜1.7倍に拡大した事例も
- 容積率ボーナスの活用:天神エリアのように最大1,400%まで緩和されるインセンティブが付与されているケースでは、開発利益がさらに大きくなる
制限緩和の情報を先取りすることが条件です。エリアが緩和された後に土地を買いに行くと、すでに地価が上昇した後で利幅が薄くなります。国家戦略特区の会議資料や地方自治体の都市計画審議会の議事録などを定期的にウォッチする習慣をつけることが、不動産プロとしての情報力の差につながります。
一方、普段から扱う住宅や小規模商業物件でも、標高の高い土地や空港・自衛隊飛行場に近い土地では、樹木が制限表面を超えることがあり得ます。静岡空港が開港した際には、滑走路端に隣接する民有地の立木が制限表面を超えているとして、土地所有者とのトラブルになった事例があります。売買や賃借の仲介時には、土地の標高と近隣の飛行施設の確認を欠かさないことが肝要です。
<参考:内閣府「航空法の高さ制限のエリア単位での特例承認」国家戦略特区による承認手続きの迅速化の仕組みを解説>
https://www.chisou.go.jp/tiiki/kokusentoc/pdf/punch/t1-5.pdf

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