立木補償の考え方・種類・算定方法を徹底解説
移植補償を選べば、必ず補償額が高くなるわけではありません。
<% index %>
立木補償の考え方・基本的な枠組みと根拠法令
立木補償は、公共事業に伴う用地取得の際に、取得する土地に生育する立木(庭木・用材林・果樹など)に対して行われる損失補償です。根拠となるのは「公共用地の取得に伴う損失補償基準」(用対連基準)であり、国土交通省が中心となって整備した全国共通のルールです。この基準は昭和37年に制定され、平成11年に大幅改正、令和2年にも改正されています。
用地買収の実務では、土地の補償だけに目が行きがちです。しかし、土地上に生育する立木も独立した財産権として補償対象になります。これが基本中の基本です。
補償方法は大きく3つに分かれます。
| 補償方法 | 内容 | 財産権の移転 |
|---|---|---|
| 移植補償(第38条) | 別の場所へ移植するための費用を補償 | 移転しない(所有者に残る) |
| 伐採補償(第39〜42条の2) | 伐採による損失を補償 | 移転しない(所有者が伐採) |
| 取得補償(第17条) | 立木の財産権ごと買い取る | 起業者へ移転する |
この3つのどれを適用するかは、事業の必要性・立木の樹齢・効用・用途・移植の可否・建物等の移転工法などを「総合的に勘案」して決定されます。担当者の一存で決まるものではなく、客観的な調査結果に基づいて判断する必要があります。
公共用地の取得に伴う損失補償基準(国土交通省・用対連基準全文)
通常のケースでいえば、庭木は移植補償が原則、スギ・ヒノキ等の用材林は伐採補償が原則となっています。ただし、これはあくまで「原則」であり、以下のH3で詳述するとおり、様々な例外・条件分岐が存在します。
立木補償の考え方・庭木等の移植補償と伐採補償の判断基準
庭木等(観賞樹・利用樹・風致木・地被類・芝類・ツル性類)の補償は、まず「移植が相当か、伐採が相当か」の判断から始まります。この判断を誤ると補償額が大きく変わるため、最も注意が必要な部分です。
移植補償が相当とされるケース:
- 移植しても枯れるリスクが低い(易〜中程度)樹種である
- 残地に移植先が確保できる
- 移植費用と枯損損失の合計が伐採補償額を下回る
伐採補償が相当とされるケース(公共用地の取得に伴う損失補償基準細則・第25条の2):
- 樹齢・樹種・移植時期等に鑑み移植が困難と認められる
- 土地の一部取得等により移植先が物理的に確保できない
- 移植補償額が伐採補償額を上回る場合でも、伐採相当と判断されればそちらが適用される
この最後のポイントが盲点になりやすいです。「移植補償額<伐採補償額」でも、移植先がなければ伐採補償が適用されます。つまり、補償額の大小だけでは判断できないということです。
移植補償の計算式は次のとおりです。
$$\text{移植補償額} = \text{移植費} + (\text{樹価} \times \text{枯損率})$$
ここでの樹価は以下のように算出されます。
$$\text{樹価} = \text{正常な取引価格(市場価格+植栽費)} \times \text{管理程度補正率} \times (1 + \text{諸経費率})$$
管理程度補正率は年2回以上の専門家による剪定がある場合は1.2、年1回程度なら1.0、それ以外は0.8です。手入れをしていても「専門家以外による剪定」は回数にかかわらず評価が下がることがあります。注意が必要なところです。
伐採補償の計算式はこちらです。
$$\text{伐採補償額} = \text{樹価} + \text{伐採除却費} – \text{発生材価格}$$
移植適期以外(たとえば真夏や真冬)に移植工事が行われる場合は、枯損率に10%が加算されます。移植適期に工事を合わせられない場合は補償額が上がるため、起業者側もスケジュール調整の検討が求められます。
枯損率は樹木の移植難易度によって以下のように定められています。
| 移植の難易 | 枯損率 |
|---|---|
| 易 | 10% |
| 中 | 20% |
| やや難 | 30% |
| 難 | 40% |
枯損率が高い樹種(例:松・けやき等の大木)は、移植補償額が大きくなるケースがあります。これが意外に補償全体の金額を押し上げる要因になることがあります。
国土交通省近畿地方整備局・立竹木調査算定要領(管理程度補正率・枯損率表など詳細収録)
立木補償の考え方・用材林の伐採補償と取得補償の適用区分
用材林(スギ・ヒノキ・カラマツ等)の立木補償は、庭木等とは全く異なる計算ロジックが用いられます。用材林の補償の原則は「伐採補償」です。つまり、財産権は所有者のまま残り、起業者が伐採・除却費用に相当する損失を補償するのが基本の考え方です。
ただし、一定条件を満たす場合は「取得補償(財産権ごと買い取る)」が認められます。その条件は次の4つです(基準第17条第2項)。
- ㋐ 事業に立木が直接必要な場合(公園事業等)
- ㋑ 土砂の流出・崩壊防止のため工事着手まで立木を残存させる必要がある場合
- ㋒ 工事着手まで相当期間があり、早期に伐採・除却すると維持管理費が著しく嵩む場合
- ㋓ 用材林・薪炭林(天然生林除く)で管理が適正に行われていない場合
このうち㋓の「管理が適正でない場合」は、10年以上間伐等が実施されておらず、1ヘクタール当たりの植栽本数が適正本数を超えている状態が一つの目安です。東京ドームのグラウンド(約1.3ha)を思い浮かべると、広い面積で長年放置された人工林が対象になるイメージです。
用材林の伐採補償額の計算式は、林木の成長段階によって異なります。
| 状態 | 計算式 |
|---|---|
| 伐期未到達・市場価格なし | 林木費用価(Hkm)+伐採除却費-発生材価格 |
| 伐期未到達・市場価格あり | 林木費用価(Hkm)-山元立木価格+第37条第2項の損失額 |
| 伐期到達後 | 第37条第2項の損失額 |
「林木費用価(Hkm)」とは、植栽時から現在までに投下した育成経費(地価・管理費・造林費)の後価合計額から、これまでの間伐収入の後価合計額を差し引いた値です。簡単にいえば「今まで木にかけてきたコストの総計」です。
取得補償の場合は、伐期の山元立木価格を基準とした「林木期望価(Hem)」が計算の中心になります。林木期望価は、将来の伐採収入を現在価値に割り引いた金額に相当します。つまり、将来の収益見込みをもとに今の価値を算出するという考え方です。
管理が適正でない用材林の場合は、取得補償額に「管理程度補正率」が乗じられ、補償額が減額されます。これが原則です。放置林だからといって高い補償が得られるわけではなく、むしろ減額されるという点は実務上よく見落とされます。
国立国会図書館デジタルコレクション・立木の取得補償について(新潟県農地建設課)
立木補償の考え方・果樹等の収穫樹に対する補償の特殊性
果樹等の収穫樹(りんご・みかん・なし・もも・柿・ぶどうなど)の補償は、通常の庭木や用材林とは異なる考え方が適用されます。収穫樹は「果実を継続的に収穫する」ことに経済的価値があるため、移植か伐採かによって補償の内容が大きく変わります。
移植補償の場合(基準第38条・第41条準用):
$$\text{移植補償額} = \text{移植費} + \text{枯損損失額} + \text{移植後の減収補償額}$$
果樹の移植補償では「移植後の減収補償額」が加算されます。これは、移植直後は収量が落ちるため、通常収量に回復するまでの損失を補てんするものです。
減収率は樹種によって異なります。たとえばりんごの場合、移植後1年目は収量の90%が失われ、2年目は50%、3年目は30%、4年目は10%の割合で損失が発生します(立竹木調査算定要領・表9より)。これは通常の農作物で「1年で元通り」と思っていると大きく計算が狂うケースです。
伐採補償の場合(基準第41条):
$$\text{伐採補償額} = \text{正常な取引価格} + \text{伐採除却費} – \text{発生材価格}$$
果樹の「正常な取引価格」は、市場での取引価格ではなく「将来の収益を資本還元した価格」、いわゆる収益還元価格が基準になります。これが通常の庭木の樹価計算と根本的に異なる点です。果樹は実を売ることで価値が生まれるため、「育てるためにかかったコスト」よりも「これから生み出す利益」のほうが評価の軸になります。
管理状態の補正率は収穫樹特有のものが使われています。
| 管理程度 | 補正率 |
|---|---|
| 優る(通常より樹姿・樹勢が良好) | 1.2 |
| 普通 | 1.0 |
| 劣る(肥培管理が不十分) | 0.8 |
| 散在樹(宅地や畦畔などに点在) | 0.5 |
散在樹(庭先に1本だけある柿の木など)は補正率が0.5と、通常管理の果樹の半額になります。これは知っておかないと大きな見積もり差になります。
なお、果樹の移植補償を適用するかどうかの判断には「移植補償額が伐採補償(営業補償)を上回らない」という条件も加味されます。単純に「移植できるなら移植補償」とはならない点が、果樹補償の難しいところです。
立木補償の考え方・見落としがちな竹林補償と生垣の取り扱い
立木補償の中でも、竹林と生垣・ツル性類は特殊な取り扱いが定められており、現場での見落としが起こりやすい区分です。
竹林の補償(基準第42条)
竹林の補償は、移植補償と伐採補償の双方が認められています。ただし、竹林の「正常な取引価格」は「当該竹林の平均年間純収益を資本還元した額」です。つまり、竹材や筍の年間収益を基に算定します。
$$\text{竹林の正常な取引価格} = \frac{\text{平均年間純収益}}{\text{資本還元率}}$$
現在の低金利時代には資本還元率が低めに設定されるため、同じ収益の竹林でも補償額が以前より高くなる傾向があります。これは意外と大きなポイントです。
生垣の補償
生垣は「移植になじまない」と明示されており、移植補償の対象外です。必ず伐採補償が適用されます。ただし、伐採補償の計算では通常の樹価ではなく「生垣新設費」をもって補償額が算定される点が特殊です。
$$\text{生垣の伐採補償額} = \text{生垣新設費} + \text{伐採除却費} – \text{発生材価格}$$
同じ高さ・長さの生垣でも、植栽の密度や樹種によって新設費が変わります。生垣を「ただの植木の列」と思って調査を省略すると、補償額の算定が不十分になる可能性があります。
ツル性類の補償
フジ棚やアイビーなどのツル性類は「移植になじまない」として伐採補償のみが対象です。ただし、伐採する必要がないと認められる場合は「樹価のみ」の補償となります。つまり、伐採費を計上する必要がないのに計上してしまうケースには注意が必要です。
防風・防雪効用がある立木の特例(代替工作物補償)
防風・防雪・目隠しなどの機能を持つ庭木等を伐採補償する場合で、その効用を維持・再現する特別の事情があるときは、代替工作物(フェンス・防風ネット等)の設置費用を補償できます。
$$\text{代替工作物適用時の伐採補償額} = \text{代替工作物の設置費用} + \text{伐採除却費} – \text{発生材価格}$$
この規定が適用できる場面は限られていますが、北海道や東北など積雪地帯の防雪林、沿岸部の防風林などで活用されるケースがあります。防風・防雪機能を見落として通常の伐採補償額のみで提示すると、後から交渉をやり直すことになりかねません。
福島県・補償のいろいろ(立木・竹林の補償内容をわかりやすく解説)
用地担当者が現場調査をする際は、対象土地に竹林・生垣・ツル性類が混在していないかを事前に確認することが重要です。区分ミスは補償額の過少・過大どちらの方向にも影響します。実務上、補償算定前の現地確認を丁寧に行うことが最大のリスク回避策です。