防災街区整備事業一覧と権利変換・補助制度の完全ガイド
施行地区内の土地は、自分名義でも知事の許可なしに建物を建てると違法になります。
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防災街区整備事業の概要と創設の背景
防災街区整備事業は、「密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律」(以下、密集市街地整備法)を根拠とする事業です。この法律は、1995年の阪神・淡路大震災で木造密集地域が大規模火災の温床となり、甚大な被害をもたらしたことを教訓に、1997年(平成9年)に制定されました。さらに事業制度としての「防災街区整備事業」は2003年(平成15年)の法改正によって正式に創設されています。
「密集市街地」とは、老朽化した木造建築物が密集しているにもかかわらず、道路や公園といった公共施設が不十分で、延焼・避難困難のリスクが高い市街地のことです。消防車が通れない幅員4m未満の路地が今なお多く存在するエリアが対象となります。東京都でいえば、山手線外周部の「木密地域(木造住宅密集地域)」が代表的な対象エリアです。
事業の目的は大きく2つあります。ひとつは「特定防災機能」の確保、つまり延焼を防ぐ機能と避難経路を確保する機能です。もうひとつは、細分化された土地の合理的・健全な利用です。つまり防火・耐震上の問題解消と土地の有効活用を同時に実現する、非常にパワフルな事業制度といえます。
市街地再開発事業(都市計画法第12条)と並ぶ「市街地開発事業」のひとつです。基本的な仕組みは第1種市街地再開発事業と共通しており、権利変換手法を活用して土地・建物の権利を新しい防災施設建築物の床や敷地持分へ転換します。ただし防災街区整備事業には、「土地から土地への個別権利変換」という柔軟な手法が認められている点が大きな特徴です。これが権利関係の複雑な密集市街地でも合意形成を進めやすくしています。
参考:密集市街地整備法の条文を確認するなら国のデータベースで一次情報を確認できます。
密集市街地における防災街区の整備の促進に関する法律(e-Gov法令検索)
防災街区整備事業一覧:東京都の施行地区と進捗状況
全国的に防災街区整備事業の施行地区は決して多くなく、令和4年3月末時点で16地区(全国)にとどまります。その多くが東京都内に集中しており、東京都都市整備局が認可・補助を担当する形で進められています。令和7年(2025年)11月時点では東京都内で16地区が都市計画決定・事業認可の段階に達しています。
以下が東京都内の事業実施地区の一覧です。
| No. | 区市 | 地区名 | 施行者 | 施行地区面積 | 都市計画決定年月 | 進捗状況 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 板橋区 | 板橋三丁目 | 組合 | 0.4ha | 平成18年11月 | 平成23年完了 |
| 2 | 足立区 | 関原一丁目中央 | 個人 | 0.4ha | 平成19年9月 | 平成25年完了 |
| 3 | 墨田区 | 京島三丁目 | 都市再生機構 | 0.2ha | 平成21年11月 | 平成25年完了 |
| 4 | 品川区 | 荏原町駅前 | 組合 | 0.1ha | 平成24年10月 | 平成28年完了 |
| 5 | 目黒区 | 目黒本町五丁目24番 | 組合 | 0.06ha | 平成25年12月 | 平成29年完了 |
| 6 | 品川区 | 中延二丁目旧同潤会 | 組合 | 0.7ha | 平成27年4月 | 令和元年完了 |
| 7 | 新宿区 | 西新宿五丁目北 | 組合 | 2.4ha | 平成27年8月 | 事業中(工事完了) |
| 8 | 北区 | 志茂三丁目9番 | 組合 | 2.4ha | 平成30年11月 | 令和3年完了 |
| 9 | 北区 | 上十条一丁目4番 | 組合 | 0.2ha | 令和元年8月 | 令和5年完了 |
| 10 | 目黒区 | 原町一丁目7番・8番 | 組合 | 0.4ha | 令和元年10月 | 事業中(工事完了) |
| 11 | 豊島区 | 池袋本町三丁目20・21番南 | 組合 | 0.2ha | 令和2年1月 | 令和5年完了 |
| 12 | 品川区 | 東中延一丁目11番 | 組合 | 0.2ha | 令和4年3月 | 事業中 |
| 13 | 墨田区 | 東向島二丁目22番 | 組合 | 0.2ha | 令和4年4月 | 事業中 |
| 14 | 中野区 | 弥生町二丁目19番 | 組合 | 0.2ha | 令和5年8月 | 事業中 |
| 15 | 豊島区 | 池袋本町四丁目1・2番 | 組合 | 0.2ha | 令和6年12月 | 事業中 |
| 16 | 目黒区 | 原町一丁目3番 | 組合 | 0.1ha | 令和7年3月 | 事業中 |
(出典:東京都都市整備局 不燃化推進特定整備地区情報サイト、2025年11月更新)
この表から読み取れるポイントがいくつかあります。施行者の内訳を見ると、16地区中14地区が「事業組合」方式で、個人施行は1地区、都市再生機構(UR)施行は1地区です。会社施行はゼロです。また規模は最小で0.06ha(東京ドームの約130分の1)、最大でも2.4ha(東京ドームの約半分)と、市街地再開発事業と比べると小規模な事業が多い傾向があります。つまり地権者数が少ない「ポイント的な整備」に向いている事業制度といえます。
参考:東京都の最新施行地区一覧は都の公式サイトで随時更新されています。
防災街区整備事業 | 東京都都市整備局(不燃化推進情報サイト)
防災街区整備事業の要件と権利変換の仕組み
防災街区整備事業を施行できる地区には、法律上明確な要件が設けられています。要件を満たさなければ事業認可が得られないため、対象地区かどうかの確認が最初のステップとなります。
主な要件を整理すると次のとおりです。まず「特定防災街区整備地区」または「防災街区整備地区計画のうち一定の制限が定められた区域内」であることが前提です。次に耐火建築物または準耐火建築物の合計延べ床面積が、全建築物の合計延べ床面積の「概ね3分の1以下」であること、そして建築基準法の規定に適合しない建築物の数または建築面積が全体の「2分の1以上」であることが求められます。さらに、公共施設が不十分で土地利用が細分化されているなど土地利用状況が不健全であること、当該地区を防災街区として整備することが特定防災機能の効果的確保に貢献することも必要です。
この要件は厳しく設定されています。実際に耐火建築物が全体の3分の1超になった途端に要件を満たさなくなるため、地区内で建替えが進みすぎると事業認可のハードルが上がるという皮肉な側面もあります。
権利変換の仕組みが核心です。現在の土地・建物に対する権利(所有権・借地権など)を、新たに建設される「防災施設建築物」の床または敷地持分に変換します。例えば50㎡の木造住宅の土地・建物を所有していた場合、権利変換によって新しいマンションの50㎡相当の専有部分(または敷地持分)を取得する形になります。権利変換期日以降、工事完了まではたとえ所有者であっても当該土地・建物の「使用・収益」が停止されます(密集市街地整備法第230条)。つまり賃料収入が止まる可能性があることも覚えておく必要があります。
権利変換が基本ですが、新しい建物に入りたくない地権者は「金銭補償」で転出することも可能です。この柔軟性が市街地再開発事業との大きな違いのひとつです。
参考:権利変換の仕組みや密集市街地整備法の制度概要については国土交通省の公式ページで確認できます。
補助制度と税制優遇:不動産従事者が知っておくべき支援メニュー
防災街区整備事業は、補助金・融資・税制の三本柱で支援されています。これが事業推進のカギとなります。
補助制度の柱は「社会資本整備総合交付金」で、国費率は原則「3分の1」です。対象となる費用は大きく4つのカテゴリに分かれます。まず調査設計計画費(測量、権利調査、地盤調査、建築設計費など)、次に土地整備費(建物除却費、補償費など)、そして共同施設整備費(廊下・エレベーターなど共用部分、集会所、子育て支援施設、広場・児童遊園整備費など)、最後に防災性能強化に関する費用です。なお道路事業については国費率2分の1が適用されます。
ただし交付金には条件があります。「住宅市街地総合整備事業(密集住宅市街地整備型)の整備地区内の事業」または「防災都市施設を整備する事業」に該当する場合に交付される点に注意が必要です。すべての防災街区整備事業が自動的に補助対象になるわけではありません。補助要件を満たすかどうかの確認が重要です。
融資制度も活用できます。住宅金融支援機構の「まちづくり融資」が利用でき、建設工事費・土地取得費への融資が受けられます。また公益社団法人全国市街地再開発協会では、計画準備段階および建設段階の民間金融機関からの融資について「債務保証制度」を提供しています。
税制優遇も見逃せません。施行者、地権者(権利変換で床を取得する者)、床取得者、地区外転出者のそれぞれに対し、所得税・法人税・不動産取得税などの特例措置が設けられています。例えば権利変換による床の取得は、一定の条件のもとで不動産取得税が非課税となる場合があります。権利変換で取得した床を売却する場合も、課税の繰延べ特例が使えるケースがあるため、地権者向けの提案時に税理士との連携を検討するとよいでしょう。
参考:補助制度の詳細や融資制度については全国市街地再開発協会の資料が参考になります。
防災街区整備事業って・・・?(公益社団法人 全国市街地再開発協会)
防災街区整備事業と重要事項説明:不動産取引で絶対に見落とせないポイント
不動産従事者として最も重要なのは、取引対象物件が防災街区整備事業や関連法規制の対象エリアに含まれるかどうかを正確に把握し、重要事項説明書(重説)に漏れなく記載することです。見落とすと買主に対して重大な損害を与えるリスクがあります。
重説で問題になる制限は主に2種類あります。1つ目は「防災街区整備地区計画」の区域内の制限(密集市街地整備法第33条)です。この区域では、土地の区画形質の変更、建築物の新築・改築・増築などを行う際に、着手の「30日前」までに市町村長へ届出が必要です。届出義務の違反はそれ自体が違法となるため、取引後に買主が気づかず違反行為をしてしまうリスクがあります。
2つ目は「防災街区整備事業」の施行地区内での制限(同法第197条)で、こちらが特に重要です。施行地区内では、土地の形質変更・建築物の新築・改築・増築・重量5トンを超える物件の設置・堆積のいずれも「都道府県知事等の許可」が必要です。地区計画区域の「届出」とは違い、「許可」がなければ工事自体ができません。事実上の建築禁止です。これを説明せずに仲介してしまうと、買主から「建て替えができない土地を売られた」という重大なクレームに発展します。
また施行地区内では、権利変換期日以降に使用収益の停止(同法第230条)が生じることも説明義務の対象となります。投資目的で購入しようとしている買主なら、賃料収入が止まるリスクを事前に把握することが不可欠です。
実務上の確認手順としては、まず都市計画図や固定資産税課税明細書で対象区域内かどうかを確認し、次に該当区の都市計画課・まちづくり課に照会するのが確実です。東京都内であれば都の不燃化推進情報サイトや各区のウェブサイトに施行地区の情報が掲載されています。
参考:重要事項説明における法令制限の一覧は国土交通省の案内で確認できます。
重要事項説明における各法令に基づく制限等についての概要一覧 | 国土交通省
防災街区整備事業と市街地再開発事業の違い:独自視点で徹底比較
不動産実務では「防災街区整備事業」と「第1種市街地再開発事業」を混同したり、同一視したりするケースが見られます。両者は確かに権利変換という共通の手法を採用していますが、目的・施行要件・地理的特性・スケールが根本的に異なります。この違いを理解しておくことで、物件調査や顧客提案の質が大きく向上します。
最大の違いは「事業目的」です。市街地再開発事業の目的は「土地の高度利用・都市機能更新」、いわゆる再開発によるエリア価値の向上が主軸です。一方、防災街区整備事業の目的は「防災機能の確保」、つまり延焼防止と避難路確保を最優先に据えています。事業を推進する動機がまったく違います。
スケールの違いも顕著です。下記の比較表を参照してください。
| 比較項目 | 防災街区整備事業 | 第1種市街地再開発事業 |
|---|---|---|
| 根拠法 | 密集市街地整備法 | 都市再開発法 |
| 主な目的 | 防災機能確保・老朽建物除却 | 土地の高度利用・都市機能更新 |
| 施行地区規模 | 小規模(0.06〜2.4ha程度) | 中〜大規模 |
| 土地への権利変換 | 可(個別利用区の設定で可能) | 原則、床のみ |
| 都市計画決定 | 不要(個人施行の場合) | 原則必要 |
| 主な施行者 | 組合・個人・URなど | 組合・会社・公共 |
| 補助率の基本 | 国1/3等 | 国1/3等 |
個人施行では都市計画決定が不要という点は特筆に値します。市街地再開発事業と比べてスモールスタートが可能で、地権者が少ない路地裏の小街区でも活用しやすい制度設計になっています。
また「個別利用区」の設定によって土地から土地への権利変換が認められる点も実務上重要です。例えば2人の地権者がいる場合、一方は新しいマンションの床を取得し、もう一方は土地を取り直すという混合型の権利変換が可能です。この柔軟性が、合意形成が難しい密集市街地での事業推進を支えています。
参考:第1種市街地再開発事業との比較や事業制度の全体像は以下の解説記事でも確認できます。
密集市街地整備法とは?「防災街区」の建築制限と届出を解説 | オッティモ不動産

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