連担建築物設計制度の事例と制度活用の全貌
隣地の権利者が1人でも反対すると、どれだけ計画を練っても認定がゼロになります。
<% index %>
連担建築物設計制度の事例を理解するための基本的な仕組み
連担建築物設計制度とは、建築基準法第86条第2項に規定された制度で、すでに建物が存在する複数の隣接敷地を「一つの敷地」とみなすことで、容積率・接道義務・建蔽率・斜線制限・日影規制などを一体的に緩和できる仕組みです。つまり原則です。
「連担(れんたん)」とは「それぞれが拡大し、相互に連なり融合すること」を意味する言葉で、この制度の性格をよく表しています。単独では建替えや有効活用が難しかった敷地も、隣地と連携することで新たな選択肢が生まれます。
同じく複数敷地を一体化する「一団地の総合的設計制度(第1項)」と混同されやすいのですが、両者には明確な違いがあります。一団地制度が基本的に更地から複数建物を同時建築する場面に使われるのに対し、連担建築物設計制度は既存建物の存在を前提として、その建物との関係を調整しながら新しい建物を順次建設していく点が特徴です。
この制度を使うと、区域内の建物を一度に建て替える必要がありません。個々の建物は任意の時期に建替えや増改築が可能で、地権者それぞれのタイミングを尊重しながら段階的な更新が実現できます。これは使えそうです。
認定を行うのは特定行政庁であり、「安全上、防火上、衛生上支障がない」と認められた案件に限り適用されます。緩和される規定は主に①接道義務、②容積率・建蔽率制限、③斜線制限・日影規制、④隣接建物間の距離基準の4点です。なお、適用には区域内の全権利者(所有権または借地権を有する者)の全員合意が必須条件となります。
参考リンク(制度の根拠・国土交通省の公式説明)。
連担建築物設計制度の事例① 都心大規模再開発への活用(再開発型)
連担建築物設計制度の事例のなかで最も規模が大きいのが、東京都心部の大規模再開発における活用です。品川グランドコモンズ、飯田町南街区、丸の内1丁目1番街区(現・丸の内オアゾ)、虎の門5丁目開発計画などがその代表例として挙げられています。
丸の内1丁目1番街区の事例は「隣地斜線緩和型」の典型です。区域面積は23,767㎡、延べ面積は約334,695㎡に達し、容積率は1,272.7%という大規模開発でした。この計画では、既存建物から新規開発部分へ約9,612㎡の床面積が移転されています。連担建築物設計制度と「業務商業育成型等総合設計」を組み合わせることで、容積率をさらに1,000%から1,273%へ引き上げることも実現しました。
連担制度を適用することで、通常の隣地斜線規制に縛られると計画の選択肢が大幅に狭まります。隣地斜線緩和によって、ビルを特定の一棟に集中させず、複数のビルが程よい隣棟間隔を保ちながら建ち並ぶ空間が生まれます。西新宿のような「高い建物が点在する閑散とした雰囲気」ではなく、街に密度感と連続性が生まれる点が都市景観上のメリットです。
虎の門5丁目開発計画は「容積移転型」の代表事例です。東京都水道局の芝給水所が持っていた未消化容積を隣接する森ビルの開発予定地へ移転させた事例で、区域面積は22,285㎡、移転された床面積は基準容積率の50%(東京都基準の上限値)に相当する約8,300㎡でした。都水道局はその対価として権利床を取得し、年間約1億9,300万円の賃料収入を見込む形で事業収益を確保しています。
東京都の認定基準では、23区内は延べ面積10,000㎡以上、区域面積は原則500㎡以上が対象となっており、主に民間デベロッパーによる大規模案件が中心です。申請者の多くはデベロッパーです。区域の外周の1/4ないし1/6以上が4m以上の道路に接することなど、いくつかの条件を満たす必要があります。
参考リンク(東京都の一団地・連担建築物設計の認定と適用例)。
連担建築物設計制度の事例② 大阪・法善寺横丁の景観保全と密集市街地の防災強化
連担建築物設計制度の事例として、不動産実務者が特に注目すべきユニークな活用が、大阪市中央区の法善寺横丁における取り組みです。2003年に火災で大部分が焼失した法善寺横丁では、まちなみの再現・防災性の向上・路地景観の保全という3つの目的のもとに連担建築物設計制度が適用されました。
通常、連担建築物設計制度は「無接道敷地の建替えを可能にする」か「容積率を有効活用する」ために使われることが大半です。法善寺横丁の事例が画期的だったのは、幅員2m未満の路地(横丁の通路)を廃道した上で制度を適用し、路地の「雰囲気と風情」を守りながら防災性を高めたという点にあります。意外ですね。
廃道とはその道路を法定道路でなくすることを意味しますが、法善寺横丁では逆にこの廃道を戦略的に活用し、路地を「通路」として敷地面積に算入することで、延床面積を確保しつつ建替えを実現しています。この手法は全国的にも珍しいケースで、連担建築物設計制度の活用幅の広さを示す事例として、国土技術政策総合研究所の報告書でも紹介されています。
密集市街地の防災強化という観点でも重要です。老朽木造建物が密集する路地裏で、全権利者が協調して準耐火建築物に建て替えることが制度上の要件となるため、地区全体の耐火水準が一気に向上します。不動産業者の立場から言えば、こうした制度を知っているか知らないかで、物件の「不燃化・建替えの可能性」に関する提案力が大きく変わります。
参考リンク(法善寺横丁の連担建築物設計制度適用事例の詳細)。
連担建築物設計制度の事例③ 京都市の袋路再生と名古屋市の密集市街地建替え
密集市街地での活用事例として、京都市と名古屋市の取り組みを詳しく見ていきます。京都市の袋路再生事業が条件です。
京都市には、都心部を中心に行き止まりの路地「袋路」が約4,000ヶ所存在します。袋路に面した敷地は建築基準法上の道路に接していない無接道敷地であることが多く、老朽化した木造住宅が密集して防災上の問題を抱えていました。平成11年(1999年)に連担建築物設計制度の認定基準が施行されたのと同時に、京都市は「連担建築物設計制度<袋路再生>取扱要領」を制定し、独自の認定基準を整備しました。
この制度下での事例を見ると、山科区御陵別所町の事例では、第1種低層住居専用地域(容積率50%・建蔽率80%)において区域内3敷地・敷地面積463㎡の区域で建替えが実現しています。通路部分を敷地面積に算入できるため、実質的な容積率・建蔽率が増加し、元の無接道敷地でも一定の床面積を確保できます。区域面積の平均は約541㎡と、東京都の再開発型(10,000㎡以上)と比べると非常に小規模なのが特徴です。
申請手数料は、京都市では1棟の場合78,000円(超える建築物1棟ごとに28,000円を加算)です。東京都では1棟82,000円(2棟以上は1棟ごとに29,000円加算)となっており、費用面だけ見れば参入障壁は低いとも言えます。むしろ費用より合意形成の難しさが壁です。
名古屋市の事例では、平成15年7月に連担建築物設計制度の認定基準が整備され、市内で密集市街地型の認定が2件実現しています。いずれも路地奥の建て主からの相談をきっかけに、隣接2軒での制度活用に発展したケースです。名古屋市では通路延長70m未満(行き止まりの場合は35m未満)、通路幅員2.0m以上、用途・階数は原則2階以下の戸建て住宅といった認定基準が設けられています。
参考リンク(名古屋市の連担建築物設計制度の認定基準と事例)。
国土技術政策総合研究所|事例14:名古屋市連担建築物設計制度(PDF)
参考リンク(京都市の袋路再生取扱要領と申請手数料)。
連担建築物設計制度の活用を阻む「合意形成」と「認定基準の地域差」という現実
連担建築物設計制度の活用を検討する際に、不動産実務者として必ず把握しておくべきなのが「合意形成の難しさ」と「特定行政庁ごとの認定基準の多様性」という2つの現実的な障壁です。合意形成が条件です。
まず、制度を適用するには区域内の全権利者の合意が必須です。これが最大のハードルになっています。東京大学の研究(2002年度)によると、京都市の袋路再生事例では、実現件数のおよそ3倍もの案件が合意形成の途中で断念しています。合意形成に要する期間もおよそ半年以上が一般的で、合意が得られないまま時間と費用だけが消費されるリスクがあります。痛いですね。
「喉元敷地(のどもとしきち)」の扱いも、合意形成の難所です。喉元敷地とは、区域の入口にある道路に接した敷地のことで、この敷地の所有者は接道義務を既に満たしているため、連担制度に参加するメリットを感じにくい立場にあります。制度に参加すると、将来の建替えに関して区域計画への縛りが生まれるため、敬遠されるケースが多いのです。
次に、認定基準の地域差という問題があります。連担建築物設計制度は、特定行政庁ごとに認定基準の内容が大きく異なります。東京都のように面積下限を500㎡以上と定めるところもあれば、埼玉県や京都市のように面積要件を定めないところもあります。東京23区内では延べ面積10,000㎡以上の大規模案件のみが東京都の管轄となり、それ以下は各特別区の管轄です。
| 行政庁 | 面積要件 | 主な用途想定 | 認定方式の特徴 |
|---|---|---|---|
| 東京都(23区・大規模) | 原則500㎡以上・延床10,000㎡以上 | 大規模再開発 | 容積率は基準の1.5倍以下 |
| 荒川区 | 上限設定(500㎡未満) | 密集市街地 | 防災重点整備地域対象 |
| 京都市 | 面積要件なし | 袋路・低層住宅 | 通路幅2m以上が要件 |
| 名古屋市 | 通路延長70m未満 | 密集住宅(2階建て以下) | 階数制限・耐火要件あり |
| 横浜市・川崎市 | 面積下限あり | 標準型・公営住宅 | 一団地基準と併用 |
認定手続きに入る前の「事前相談」は必須です。特定行政庁との事前協議を省略して申請を進めようとすると、申請のやり直しや計画の大幅な変更を迫られることがあります。不動産仲介や売買提案の段階から「この物件は連担制度の活用余地があるか」を見抜くには、担当行政庁の基準を事前に確認する習慣が欠かせません。
参考リンク(東京都の申請手数料・認定基準の詳細)。
東京都都市整備局|建築基準法関係申請手数料(連担建築物設計含む)
不動産実務者が連担建築物設計制度の事例から学ぶべき独自視点:「43条ただし書」との使い分け
連担建築物設計制度を語る際、現場でよく混同されるのが「建築基準法第43条第2項(旧ただし書き許可)」との使い分けです。つまり、どちらも無接道敷地の建替えを可能にする制度という点では共通しています。しかし、性質と実務上の選択肢は大きく異なります。
第43条第2項の許可(いわゆる43条ただし書き)は、個々の敷地単位で特定行政庁の許可または認定を受けることで、無接道敷地での建替えを可能にします。連担建築物設計制度が複数地権者の合意を前提とした「エリア一体型」の制度であるのに対し、43条ただし書きは「個別敷地単位」での対応です。名古屋市の事例では、平成27年に43条ただし書き規定が緩和されたことで(現況幅員0.9m以上の通路も対象化)、「連担制度でなくても対応可能」な案件が増え、今後は連担建築物設計制度の活用件数が減る可能性があることも指摘されています。
実務上の使い分けの基準として、以下の点を参考にしてください。
- 43条ただし書き向き:地権者が1〜2名で合意形成が容易、建替えを急いでいる、周辺との共同計画に抵抗がある、小規模(60㎡未満の狭小敷地等)の場合。
- 連担建築物設計制度向き:複数敷地で容積率の有効活用を狙いたい、密集市街地で複数地権者が協力できる見込みがある、計画の自由度(延床面積の最大化)を求める場合。
連担建築物設計制度を活用した場合、区域内の通路部分を敷地面積に算入できること、道路斜線制限が適用されないこと、区域内の隣地間で容積率等の移転が可能になることなど、43条ただし書きには期待できない複合的な恩恵を受けられます。結論は「目的と条件に応じた使い分け」です。
また、連担建築物設計制度は「総合設計制度」との併用が可能な点も重要です。前述の丸の内オアゾのように、連担制度と総合設計制度を組み合わせることで、容積率の割増効果を更に引き出した実績があります。不動産開発の収益計算においては、この2制度の組み合わせが大きな差を生むこともあります。これは使えそうです。
無接道・狭小・密集敷地の売買・活用提案をする際には、連担建築物設計制度の適用可能性を「物件のポテンシャル」として評価軸に加えておくことで、単純な再建築不可物件との価値差を明確に説明できるようになります。不動産実務者として知っておくべき、制度知識の差が直接的な提案力の差につながる領域と言えます。
参考リンク(連担建築物設計制度と43条ただし書きの関係・活用手順の詳細)。