信託会社と信託銀行の違いを不動産従事者向けに徹底解説
信託会社に「預金」を頼むと、法律上お断りされます。
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信託会社と信託銀行の設立根拠法の違い
「信託銀行も信託会社も、同じ金融庁の監督下にあるから実質的に同じだろう」と思っている不動産従事者の方は少なくありません。しかし、両者の違いはまず「何の法律に基づいて設立されているか」という根本的な部分から始まります。
信託銀行は、銀行法によって設立された金融機関です。銀行としての機能を持ちながら、「金融機関の信託業務の兼営等に関する法律(兼営法)」に基づく認可を取得することで、信託業務も兼営しています。つまり「銀行がプラスアルファで信託をやっている」という構造です。
一方、信託会社は信託業法によって設立された会社です。信託業務そのものを主業務として行うために生まれた会社であり、銀行ではありません。銀行業務(預金・融資・為替)を一切扱わないのが原則です。
つまり根本が違います。
この違いは、監督官庁は同じ金融庁でも、適用される法律の体系が異なるという点で、実務上も重要な意味を持ちます。不動産取引で関係する機関がどちらであるかによって、できることとできないことが変わってきます。頭の片隅に入れておくと、取引の際に混乱しなくて済みます。
また、信託会社には商号規制があります。信託業法第14条によって、信託会社はその商号中に必ず「信託」の文字を使用しなければなりません。逆に、信託会社でない者が商号に「信託」の文字を使用することも禁止されています。信託銀行には「信託」の名称を義務づける規定はないため、「○○銀行」という商号であっても信託業務を兼営している銀行(信託兼営金融機関)が存在します。これは意外ですね。
参考:信託の利用方法と信託銀行・信託会社の違いについて(信託協会公式)
信託を利用するには? | 信託について|一般社団法人信託協会
信託会社と信託銀行の業務範囲の比較
設立根拠法の違いは、そのまま業務範囲の違いに直結します。整理すると以下の3点です。
| 業務区分 | 信託銀行 | 信託会社 |
|---|---|---|
| 銀行業務(預金・融資・為替) | ✅ 可能 | ❌ 不可 |
| 信託業務(財産の管理・運用) | ✅ 可能 | |
| 併営業務(相続・遺言・証券代行) | ✅ 可能(免許取得済の場合) | ⚠️ 兼業業務として一部可能 |
| 不動産仲介業務 | ✅ みなし宅建業者として可能 | ✅ 届出のみで可能(運用型免許の場合) |
信託銀行は「銀行業務」「信託業務」「併営業務」という3本柱の業務ができます。
銀行業務は、私たちが日常的に使う預金口座・住宅ローン・振込といった業務です。一方で信託業務は、金銭・不動産・有価証券などの財産を預かり、受益者のために管理・運用する業務です。さらに併営業務とは、遺言書の保管・遺言執行などの相続関連業務、株主名簿の管理を行う証券代行業務、不動産売買の仲介などが含まれます。この「併営業務」は信託銀行にのみ認められた業務であることが重要なポイントです。
信託会社の業務は信託業務が中心です。
信託会社は「信託業務に支障を及ぼさず、かつ信託業務に関連する範囲」で行う「兼業業務」も認められています。ただし、銀行業務(預金・融資・為替)はできません。顧客の資産を預金という形で預かることができないため、不動産オーナーがローンの相談を持ち込んでも対応できない点は理解しておく必要があります。
これが原則です。
参考:信託銀行の業務内容について詳しく解説(信託協会)
信託会社の2種類(運用型・管理型)と不動産業務の関係
信託会社と一口にいっても、実は2種類あります。これを知らないと、取引相手の信託会社がどこまでのことをできるか見誤ることになります。
運用型信託会社は、受託者が自らの裁量で信託財産の形を変えたり、運用・処分を行う会社です。内閣総理大臣の「免許」を取得することで設立・運営できます。財産価値を増やす可能性がある分、受託者の能力によって増減するリスクも伴います。
管理型信託会社は、受託者が自らの裁量で信託財産を処分せず、通常の用法に従って保存・維持・利用のみを行うか、委託者の指図に従ってのみ処分を行う会社です。こちらは「登録」で設立できるため、参入ハードルが低い分、運用の自由度は制限されます。
不動産業者にとってポイントになるのは宅建業の扱いです。
不動産業者が信託銀行や運用型免許を受けた信託会社と取引する場合、相手方はいわゆる「みなし宅建業者」に該当することがあります。信託業法3条の免許を受けた信託会社は、宅建業の免許を受ける必要はなく、国土交通大臣への届出のみで宅建業務を営むことが可能です。信託銀行(信託兼営金融機関)も同様の扱いになります。
つまり「免許証の確認だけで信頼を判断するのはNG」ということです。
不動産業者の立場からすると、相手方が信託会社または信託銀行の場合、宅建業免許番号ではなく信託業に関する監督官庁(金融庁・財務局)への届出の有無を確認するのが適切な対応です。実務でこの確認を怠るとトラブルのもとになります。
参考:信託業法に基づく免許・登録制度の概要(金融庁)
アクセスFSA 第26号 運用型信託会社と管理型信託会社の違い|金融庁
不動産信託受益権と信託銀行・信託会社の役割の違い
不動産業務に深く関わってくる場面として「不動産信託受益権」の取引があります。これは、不動産従事者が知っておくと現場で活きる知識です。
不動産信託受益権とは、不動産を信託銀行や信託会社(受託者)に預けることで生まれる「収益を受け取る権利」のことです。不動産の所有権そのものを売買するのではなく、この受益権を取引するのが「不動産信託受益権売買」です。
信託銀行と信託会社のどちらも受託者になれます。
実務上は、大型の収益不動産・オフィスビル・商業施設などを対象とした証券化スキームで、信託銀行が受託者となるケースが多く見られます。一方、信託会社(特に大和リビング信託などの不動産管理専門の管理型信託会社)では、賃貸マンション・アパートなど個人オーナーの収益不動産を対象とした管理信託を扱うケースが増えています。
不動産信託受益権の売買仲介には、第二種金融商品取引業の登録が必要です。一般の宅建業者は宅建業免許だけでは信託受益権そのものの売買仲介を行えません。受益権を解除して実物不動産に戻してから仲介する場合は宅建業の範囲に収まりますが、受益権のまま仲介する場合は別の資格が必要になります。これは知っておけばOKです。
また、不動産を信託した場合の税務面でも覚えておくべき点があります。不動産そのものを譲渡すると不動産取得税が発生しますが、信託受益権は金融商品として扱われるため、受益権の移転時には不動産取得税が発生しません。これを活用することで、実物不動産の取引より税コストを抑えられるケースがあります。
参考:不動産信託受益権の仕組みと仲介業務について(三井住友トラスト不動産)
不動産信託受益権及びその売買について|三井住友トラスト不動産
不動産オーナーが信託会社・信託銀行を選ぶ際の注意点と独自視点
不動産従事者が顧客から「信託会社と信託銀行、どっちに相談すればいいですか?」と聞かれたとき、適切にアドバイスできる準備はできているでしょうか。実際の現場では、この違いを正確に説明できる担当者はまだ多くありません。
まず、顧客のニーズによって選び先が変わります。
顧客が「相続対策として遺言書の作成・保管・執行まで任せたい」という場合、遺言信託(併営業務)を扱えるのは信託銀行のみです。信託会社は信託業法上この業務の範囲が制限されており、信託銀行のような「遺言→保管→執行」のワンストップサービスは基本的に提供できません。ただし注意が必要です。
信託銀行の遺言信託は費用が高額です。
例えば三菱UFJ信託銀行の遺言信託では、保管開始時に110万円(消費税込)の取扱手数料がかかり、遺言執行報酬は相続財産の規模に応じてさらに別途発生します。みずほ信託銀行では遺言書管理信託の基本手数料が公正証書で33万円から、遺言執行引受予諾業務では100万円プランも用意されています。総額では100万円を超えることが一般的です。
これは痛いですね。
一方、不動産管理に特化した信託会社(大和リビング信託など)を選ぶ場合、銀行業務はないものの賃貸不動産の管理・承継に特化したサービスを受けられます。また、信託会社は信託銀行と比べて商品設計の柔軟性が高く、顧客のニーズに合わせたオーダーメイド型の信託スキームを構築しやすいという特徴があります。
もう一つ、現場で見落とされがちな点があります。信託銀行の中には「○○銀行」という商号のまま信託業務を兼営しているケースがあります。商号に「信託」が入っていなくても信託業務を扱っているケースがあるということです。逆に信託会社は必ず商号に「信託」の文字が入っているため、社名で識別しやすい特徴があります。
顧客への対応でこの知識は必須です。
信託会社・信託銀行の見極め方として、金融庁が公開している「信託会社一覧(免許・登録)」で確認することが最も確実です。取引前や顧客への説明前に一度確認しておくことで、トラブル防止と信頼構築の両方に役立ちます。
- 🔍 金融庁の「信託会社一覧(免許・登録)」で相手方の認可状況を確認する
- 📄 信託銀行が相手方の場合は宅建業免許番号ではなく信託業の兼営認可を確認する
- 💬 顧客に対しては「目的(相続・資産運用・管理委託)」で選ぶよう案内すると親切
- 💰 信託銀行の遺言信託は総額100万円超も想定し、顧客に事前コスト説明を行う
参考:信託銀行・信託会社の認可情報一覧(金融庁)
信託受益権販売業者一覧|金融庁

具体例と法令条文で理解する 信託の仕組みと信託税制のポイント-不動産を中心とする民事信託からのアプローチ-
