特定盛土等規制法とは何か:不動産従事者が押さえる全知識
許可なしで盛土した土地を仲介すると、あなたも懲役刑の対象になります。
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特定盛土等規制法が生まれた背景:熱海土石流が変えた法制度
2021年7月3日、静岡県熱海市伊豆山で大規模な土石流が発生しました。死者・行方不明者28人、損壊家屋136棟という甚大な被害です。映像は全国に衝撃を与えましたが、問題はその原因でした。
崩落の引き金となった盛土は、旧「宅地造成等規制法」の規制対象外でした。当時の法律は「宅地造成のための盛土」しか規制しておらず、農地や森林、あるいは宅地でも指定区域外の土地では、どれだけ危険な盛土をしても許可不要だったのです。
つまり「法の盲点」が災害を生んだということですね。
この教訓を受け、国は旧法を抜本的に見直しました。2022年5月に「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称:盛土規制法)が公布され、2023年5月26日に全面施行されました。正式名称に「特定盛土等」という言葉が加わったのは、宅地造成以外の盛土行為まで規制対象に取り込んだことを明確にするためです。
旧法との本質的な違いは、「土地の用途を問わない」点にあります。宅地であろうと農地であろうと森林であろうと、危険な盛土なら等しく規制する。これが新法の核心です。
なお本法は、国土交通省と農林水産省(林野庁)による共管法とされており、行政の縦割りを超えた包括的な規制体制が組まれています。
全日本不動産協会 法律相談より|宅建業者向けに盛土規制法制定の経緯と業務への影響をわかりやすく解説
特定盛土等規制法の規制区域:2種類の区域と全国指定の実態
盛土規制法が定める規制区域には、性格の異なる2種類があります。どちらの区域に当たるかで、必要な手続きが変わります。これが基本です。
1つ目は「宅地造成等工事規制区域(宅造区域)」です。市街地や集落、およびその周辺など、人家が密集していて盛土の崩落が直接周辺住宅に被害を及ぼしうるエリアが対象です。旧法で指定されていた地域はほぼこちらに引き継がれており、都市部の斜面地が典型です。宅造区域では、一定規模以上のあらゆる盛土・切土・土石の堆積に都道府県知事等の許可が必要になります。
2つ目は「特定盛土等規制区域(特盛区域)」です。こちらは市街地から離れた山間部・農村部・上流域の斜面地などが対象です。普段は人家が少ない場所でも、盛土が崩落して土砂流となり、下方の集落を直撃するケースを想定しています。特盛区域では、工事規模が小さければ許可ではなく「事前届出(工事着手の30日前)」で対応できる場合もあります。
重要なのは、2025年度時点で多くの自治体が市域のほぼ全域をどちらかの区域に指定し終えていることです。例えば愛知県(政令市除く)では、各市のほぼ全域が宅造区域または特盛区域に指定されています。「うちの物件は関係ない」は通用しません。
| 比較項目 | 宅地造成等工事規制区域 | 特定盛土等規制区域 |
|---|---|---|
| 主な対象エリア | 市街地・集落周辺の斜面地 | 市街地から離れた山間部・農村部 |
| 想定リスク | 盛土の表層崩壊による近隣住宅への直接被害 | 盛土崩落が土石流化して下方集落に流入 |
| 小規模工事の手続き | 原則として許可が必要 | 小規模なら届出のみで可 |
| 大規模工事の手続き | 知事等の許可(工事着手前) |
規制区域の確認は、各都道府県・市町村のウェブサイトに掲載されている規制区域図で行えます。地番や住所を入力すれば区域の種類が確認できることが多く、まず公式図面を確認してから担当課に照会するのが確実です。
国土交通省|宅地造成及び特定盛土等規制法(通称「盛土規制法」)について|規制区域の指定に関する考え方を公式解説
特定盛土等規制法の許可基準と対象となる工事規模
規制区域内で盛土等を行う場合、すべての工事が許可対象になるわけではありません。一定の「規模基準」があります。
許可申請が必要になる主なケースは次のとおりです。
- 盛土によって高さ1mを超える崖(傾斜30度以上)が生じる工事
- 切土によって高さ2mを超える崖が生じる工事
- 切土と盛土を組み合わせて高さ2mを超える段差が生じる工事
- 崖を生じない盛土であっても、盛土の高さが2mを超える工事
- 造成面積が500㎡(約151坪)を超える工事
「高さ1~2m超の崖か、500㎡超の造成」が基本的な許可ラインです。500㎡は東京ドームのグラウンド(約13,000㎡)の約26分の1程度の面積で、住宅1棟分の敷地(約200㎡)よりずっと広い範囲です。宅地分譲用に数区画まとめて造成するケースは、ほぼ確実に対象に入ると考えてください。
許可を申請する際には、工事の技術的基準への適合だけでなく、「工事主の資力・信用基準」と「工事施工者の工事能力基準」の審査を受け、さらに土地の所有者全員の同意と周辺住民への周知も義務付けられています。
許可が下りると、工事現場には許可を受けたことを示す標識(看板)を掲示しなければなりません。工事中は施工状況の定期報告と中間検査が義務付けられ、完了後には完了検査で検査済証が交付されます。この検査済証は、将来の不動産取引で確認を求められる重要な書類となります。
厳しいところですね。ただ、これは安全確認の証拠でもあります。
なお、適用除外として、道路・河川などの公共事業での造成や、農地での通常の耕耘(高さ30cm以内の整地)などは許可不要です。しかし除外規定に当たるかどうかの判断は慎重に行う必要があり、不明な場合は必ず担当行政機関に確認してください。
特定盛土等規制法の罰則と不動産従事者に直結するリスク
盛土規制法の罰則規定は、旧法から大幅に引き上げられています。旧宅地造成等規制法の条例上限が「懲役2年以下または100万円以下の罰金」程度だったのに対し、新法では個人への罰則が「懲役3年以下または罰金1,000万円以下」、法人への罰則が「3億円以下の罰金」と、ほぼ10倍以上に跳ね上がりました。
これが条件です。無許可工事を行った事業者や、是正命令に従わない土地所有者が対象になります。
注意が必要なのは、罰則の対象が「工事をした業者だけ」ではないという点です。造成主・土地所有者・設計者・施工業者など関係者全員が刑事罰の対象になりえます。不動産業者が自ら造成した宅地を販売する場合はもちろん、無許可造成があると知りながら仲介した場合も法的リスクが生じる可能性があります。
具体的にどんな事態が起きうるでしょうか?
行政が無許可の盛土を把握すると、まず土地所有者・工事主に是正命令を発します。是正命令に従わなかった場合、行政は検察に告発します。告発されれば刑事手続きが始まり、起訴・有罪となれば前科がつきます。法人の場合は3億円以下の罰金という巨額の制裁を受けることになります。
痛いですね。前科・罰金はキャリアと経営の両方に致命的なダメージを与えます。
さらに、盛土規制法は「既存の危険な盛土」に対しても遡及的に是正命令を出せる仕組みになっています。旧法施行前に行われた盛土であっても、現在危険と判断されれば今の土地所有者に是正命令が届きます。つまり「昔の話だから関係ない」も通らないのです。
取引する物件の造成履歴を確認すること、そして必要な許可が取得されているかを必ずチェックすること。これが不動産従事者に求められる最低限のリスク管理です。
三井住友トラスト不動産|盛土規制法案について|個人・法人それぞれの罰則水準と宅建業者への影響を解説
特定盛土等規制法と重要事項説明:宅建業者の義務と具体的な説明項目
不動産取引の実務において、盛土規制法は重要事項説明の対象に明確に位置付けられています。宅建業法施行令3条1項27号に基づき、宅建業者は売買契約前に買主へ説明する義務があります。これは必須です。
説明が必要な主な内容は次のとおりです。
- 対象物件が「宅地造成等工事規制区域」内か「特定盛土等規制区域」内かの別
- 規制区域内で盛土等を行う場合の許可または届出の要否
- 既に造成工事が行われている場合、知事等の許可を受けているか、検査済証が交付されているか
- 物件が「造成宅地防災区域」内に指定されているか否か
また、宅建業法33条により、宅地造成工事の完了前に広告を打つ際は「盛土規制法による許可を受けた後」でなければならないことも覚えておく必要があります(宅建業法施行令2条の5第23号)。許可前の分譲予告広告は法律違反になります。
重要事項説明の実務でよくある落とし穴として、「旧法の規制区域は確認していたが、新たに指定された区域については未確認だった」というケースがあります。2023年施行後も各自治体で順次区域の指定・更新が行われているため、調査のタイミングによっては最新の区域図と食い違うことがあります。
取引する物件について、契約直前に改めて最新の区域図を確認する習慣をつけることが大切です。また、特に造成済み宅地では「造成工事の許可書」や「検査済証」が手元にあるか売主に確認し、なければ役所で閲覧できるか調べておく必要があります。
これは使えそうです。許可書・検査済証の有無を調査チェックリストに組み込んでおくだけで、説明漏れによるトラブルを防ぐことができます。
LIFULL HOME’S Business|盛土規制法とは?主な規制内容と重要事項で説明すべき項目を解説|宅建業者向けに説明義務の具体的内容を整理
不動産従事者だけが知る:特定盛土等規制法の「意外な実務インパクト」
ここからは、法律の条文には書かれていないが、実務の現場で見落とされがちな盛土規制法の影響について整理します。
まず「許可取得済みの盛土地でも、竣工後の維持管理は土地所有者の責任」という点です。盛土規制法3条は土地所有者等の保全責務を明確に定めており、工事が完了して引き渡された後も、擁壁・排水施設を適切に維持管理する義務が土地所有者に課されます。売主から買主へと所有権が移転した瞬間、その維持管理責務も引き継がれます。購入後に擁壁に亀裂が入り是正命令が届いても、「買ったときからそうだった」は言い訳になりません。
次に、広告規制との関係です。宅地造成工事の許可前に「区画整理完成予定地」として広告を打つことは、宅建業法33条違反になります。開発事業者として土地を造成・販売する事業者にとっては、許可取得スケジュールを広告計画に反映させることが必要になります。
また「太陽光発電設備設置のための盛土」も対象です。再生可能エネルギー事業のために山間部の農地や森林に盛土をするケースが増えていますが、こうした「建物ではなく工作物のための盛土」も規制対象に含まれます。不動産業者が太陽光発電事業者向けに土地を紹介する場合も、規制区域の確認が必要です。
さらに、「一時的な土石の堆積」も規制対象という点は盲点になりやすいです。例えば、建設現場で一時的に掘削土を敷地内に積み上げておくような行為も、規模によっては許可または届出が必要になります。「仮置きだから関係ない」は通りません。
最後に、融資・担保評価への影響もあります。金融機関は無許可造成や地盤安全性が確認されていない土地を担保評価に組み込むことを嫌います。不法な盛土が明らかになった物件では、融資審査が厳しくなったり、融資額が大幅に抑えられたりするケースが現実に起きています。実務として、造成履歴の確認は金融機関への担保申請前に済ませておくのが安全です。
- 🔍 竣工後の維持管理義務は所有権移転と同時に買主に引き継がれる
- 📢 盛土工事の許可前に広告を打つと宅建業法33条違反になる
- ☀️ 太陽光発電設備のための盛土も規制対象に含まれる
- 🚛 仮置き目的の土石の一時的堆積も、規模によっては許可・届出が必要
- 🏦 無許可造成のある土地は融資審査が厳しくなるリスクがある
盛土規制法に関連した実務上の不明点や調査方法については、国土交通省が公開している事業者向けパンフレットが実践的な情報源として役立ちます。各都道府県・市町村の担当課(宅地指導課・開発指導課など)への事前照会も、トラブル防止の有効な手段です。