除却命令と代執行の流れと費用・不服申立の全手順

除却命令から代執行の全手順と費用・不服申立の実務

行政代執行を前提に業者に見積もらせると、自主解体の2倍以上の金額が提示されるのが通例で、所有者はその全額を強制徴収されます。

この記事の3つのポイント
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除却命令までの段階的な流れ

特定空家認定 → 助言・指導 → 勧告 → 除却命令(措置命令)という段階を踏むが、著しく危険な場合は勧告をスキップして即命令も可能。

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代執行費用は自主解体の2倍以上

行政代執行を前提とした見積もりは、自主解体の2倍以上が通例。費用は全額所有者に請求され、1,000万円超になるケースもある。未払い時は財産差し押さえが行われる。

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2023年改正で「緊急代執行」が新設

2023年12月施行の改正空家法により、命令を経ずに即代執行できる「緊急代執行制度」が創設。不服申立の期間は命令を知った日の翌日から3か月以内。


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除却命令の法的根拠と特定空家への認定プロセス

除却命令とは、行政(特定行政庁や市町村長)が建物の所有者・管理者・占有者に対して「建物を取り壊しなさい」と命じる行政処分です。その根拠は主に建築基準法第9条・第10条および空家等対策の推進に関する特別措置法空家特措法)第22条に置かれています。

不動産の実務において重要なのは、除却命令が「ある日突然届く」ものではなく、段階的な行政手続きの中で発令されるという点です。その起点となるのが「特定空家等」への認定です。特定空家等とは、放置すれば倒壊する危険があるもの、衛生上有害になるおそれがあるもの、周辺住民の生活環境を著しく損なうものなどを指します。

認定されると市区町村は次のプロセスを踏みます。

段階 内容 法的拘束力
①助言・指導 書面や口頭で改善を促す なし
②勧告 正式な行政指導(固定資産税の住宅用地特例が外れる) なし(ただし税負担増)
③措置命令(除却命令等) 法的拘束力を持つ行政処分 あり
④代執行 行政が強制的に措置を実行し費用請求 強制執行

注意すべき点が一つあります。建築基準法第10条3項では、著しく保安上危険・衛生上有害と認められる場合は、事前の勧告を経ずに直接措置命令を発令できると定めています。つまり「勧告の段階はいつもある」という認識は正しくないのです。

【弁護士解説】空家解体と行政代執行の制度整理(空家問題・措置命令・略式代執行)

所有者や管理者と関わる不動産従事者にとって、特定空家認定の初期段階で対応を促せるかどうかが、その後の費用リスクを大きく左右します。これが基本です。

除却命令後の代執行の流れと「戒告」の重要性

除却命令を所有者が期限内に履行しない場合、行政は代執行手続きに進みます。代執行とは、行政代執行法第2条に基づき、行政が所有者に代わって措置を実行する制度です。ただし、代執行には一定の要件が必要で、「他の手段で履行を確保することが困難」であること、「不履行を放置することが著しく公益に反する」ことの両方が満たされる必要があります。

代執行の具体的な手順は以下のとおりです。

  • 🔔 戒告(代執行令書の前段階):所有者に対して「期限内に履行しない場合は代執行する」と文書で警告する。
  • 📄 代執行令書の通知:代執行の実施日時・内容・費用見積もりを記載した書面を所有者へ送付。
  • 📢 公告:近隣住民や関係者に対して代執行実施を周知する。
  • 🏗️ 代執行の実行:行政が手配した業者が建物を解体・除却。
  • 💴 費用の納付命令・徴収:かかった費用の全額を所有者へ請求。未払い時は強制徴収(差し押さえ)。

「戒告」は法的に重要なステップです。行政代執行法第3条1項が根拠で、戒告を経ずに代執行令書を送付することは原則できません。ただし、緊急の場合はこの手続きを省略できる特例があります(2023年改正空家法第22条11項の緊急代執行)。

代執行の費用は行政代執行法第5条・第6条によって定められており、「代執行に要した費用の額及びその納付期日を定め、義務者に文書でもって納付を命じなければならない」とされています。費用は国税滞納処分の例による強制徴収が可能で、給与・預貯金・不動産・車なども差し押さえ対象になります。

つまり放置が続くほどリスクは拡大します。

行政代執行法(e-Gov法令検索):代執行の要件・手続・費用徴収の全条文

代執行費用の実態:自主解体と比べて2倍以上になる理由

不動産従事者が所有者にアドバイスをする上で見落としがちな点が、代執行費用の高騰です。

公益財団法人日本地域開発センターの資料では「行政代執行を前提として業者に見積もらせれば、自主解体の2倍以上の提示がされるのが通例」と明記されています。なぜこのような価格差が生まれるのでしょうか。

代執行を前提とした見積もりでは、通常の解体工事費に加え、以下の費用が上乗せされます。

  • 🧾 事前調査費・設計費:行政が適正に手続きするための書類作成・測量費用
  • 🚮 廃棄物処理費:建築廃材や残置物(家財道具など)の処分費用
  • 📋 事務手続き費:行政書士・弁護士等の専門家報酬、公告費用
  • 🔐 動産の保管費:残置物を一定期間保管する際の倉庫代

木造一戸建て(約30坪)の自主解体であれば市場相場は120〜180万円程度ですが、代執行になると300〜400万円規模になるケースも珍しくありません。さらに物件規模や状況によっては1,000万円を超える事例も報告されています。これは痛いですね。

支払いが滞ると、税金の滞納と同等の扱いとなり、財産が強制差し押さえされます。逃げ道はありません。

所有者が自主解体に踏み切れない理由の一つに「費用が準備できない」があります。こうした場合、自治体の空き家解体補助金制度や解体ローンの活用を早期に案内することで、代執行そのものを回避できる可能性があります。「補助金情報を確認する」という一アクションが、最終的に数百万円の差につながります。

公益財団法人日本地域開発センター「空家法実施における論点と改正動向」:代執行費用が自主解体の2倍以上になる実態の記述あり

2023年改正空家法で変わった除却命令・代執行の要点

2023年12月13日に施行された改正空家等対策特別措置法は、不動産実務に直結する重要な変更をもたらしました。

最も注目される改正点の一つが「緊急代執行制度の創設」です。改正前は、除却命令 → 戒告 → 代執行令書という手順を踏まなければ代執行できませんでした。しかし改正後は、台風など自然災害で緊急に建物を除却しなければ周辺に重大な危険が及ぶ場合、命令や戒告を経ずに即時代執行が行えるようになりました(空家法第22条11項)。

もう一つが「管理不全空家等」の新設です。特定空家よりも一段階早い状態として認定されるカテゴリで、認定されると勧告が出され、固定資産税の住宅用地特例(最大1/6軽減)が外れます。いきなり特定空家に指定される前に対応できる一方、「まだ大丈夫」と思っていた物件が管理不全空家に認定されて税負担が急増するリスクも高まりました。

改正のポイントを整理すると以下のとおりです。

改正内容 改正前 改正後(2023年12月〜)
緊急代執行 不可(必ず命令・戒告が必要) 可能(緊急時は命令なしで即時実行)
管理不全空家 区分なし 新設(固定資産税特例外れる)
略式代執行の費用徴収 所有者不明時に費用回収が困難 徴収手続きが円滑化
相続放棄後の扱い 費用請求が困難なケースあり 相続財産清算人等を通じた徴収を整備

結論は「以前より行政側が動きやすくなった」です。所有者への早期の情報提供と働きかけが、不動産従事者の重要な役割になっています。

全日本不動産協会「改正空家措置法の変更点と対応解説」:不動産業者向けに改正ポイントをわかりやすく整理

除却命令・代執行に対する不服申立と取消訴訟の実務ポイント

除却命令は行政処分であるため、所有者には不服申立の権利があります。実務でアドバイスを求められた際に押さえておくべきポイントを整理します。

不服申立には大きく2つのルートがあります。一つは「審査請求」(行政不服審査法第2条・第18条に基づく)で、もう一つは「取消訴訟」(行政事件訴訟法に基づく)です。

審査請求の期間は、処分があったことを知った日の翌日から起算して3か月以内です。取消訴訟は処分を知った日から6か月以内が出訴期間の目安となります(行政事件訴訟法第14条)。これには期限があります。

ただし、審査請求・取消訴訟を行っても、代執行の執行停止が認められなければ実際の除却工事は止まりません。執行停止の申立てを同時に行うことが、建物保全の観点から必須となります。審査請求と並行して弁護士への相談が不可欠です。

さらに知られていない落とし穴として、「勧告」の段階で処分性が生じているケースがあります。空家法における勧告は固定資産税特例の剥奪という実質的な不利益処分を伴うため、取消訴訟の対象になり得るという法律論が学説でも議論されています。これは意外ですね。

所有者が「どうせ争っても無駄」と諦める前に、命令書に記載された「審査請求先」と「出訴期間」を必ず確認するよう案内することが重要です。命令書には行政手続法第46条第1項に基づき、取消訴訟の被告・出訴期間が記載されている義務があります。見落とさないようにが原則です。

岐阜県「管理不全空家等及び特定空家等対応マニュアル」:命令書に審査請求先と出訴期間を記載する義務の根拠条文が確認できる

不動産従事者が「略式代執行」で知っておくべき独自視点

通常の行政代執行は「所有者が判明している場合」を前提としますが、実務ではそうでないケースが多発しています。所有者が不明・所在不明のときに適用されるのが「略式代執行」です。空家法第22条10項が根拠条文で、「過失がなく措置を命ずべき者を確知できない場合」に行政が直接措置を実行します。

ここで不動産従事者として知っておくべき独自視点があります。略式代執行後に所有者が判明した場合、費用は遡って請求されるという点です。「所在が分からなかったから自分には関係ない」と思っていた相続人に、代執行完了後に高額請求が届くという事態が実際に起きています。

また、相続放棄をしていても安心はできません。民法第940条(2023年4月改正)では、相続放棄をした時点で財産を「現に占有していた者」は、次の管理者に引き渡すまで保存義務が残ると定めています。占有状態のある相続放棄者が空き家を放置して略式代執行になった場合、費用請求の対象になりえます。

  • ⚠️ 略式代執行の費用は「行政がいったん負担」→ 後日所有者判明で全額請求
  • ⚠️ 相続放棄後でも「現に占有していた者」は保存義務あり
  • ⚠️ 相続人全員が放棄した場合は相続財産清算人の選任が必要(予納金100万円以上になるケースも)

不動産取引・相続案件を扱う際に「所有者不明の空き家があるか」を早期に確認し、略式代執行リスクをクライアントに説明しておくことが、後のトラブル防止につながります。これは使えそうです。

2023年改正により略式代執行の費用徴収手続きも円滑化されており、行政が費用回収をあきらめるケースは今後さらに減ると予想されます。所有者不明物件を抱えるクライアントへの早期アドバイスが、より一層重要になっています。

空き家の行政代執行とは?請求される費用や相続放棄後の管理責任の解説:相続放棄後も管理義務が残るメカニズムを詳しく解説