修補請求と追完請求の違いと不動産取引での使い方
「修補請求と追完請求は同じ」と説明してしまうと、買主に数十万円の損害を与えるリスクがあります。
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修補請求と追完請求の違い:基本的な概念整理
不動産業務に携わっていると、「修補請求」と「追完請求」という言葉を日常的に使う機会があります。この2つを「同じもの」として扱っているケースが現場では少なくありませんが、法的には明確な上下関係があります。
追完請求とは、引き渡された目的物が「種類・品質・数量」のいずれかにおいて契約内容に適合しない場合に、買主が売主に対して契約どおりの状態に修正してもらう権利です。民法562条1項に規定されており、2020年4月施行の改正民法によって明文化されました。
追完の方法は法律上3種類あります。
- 目的物の修補:物件の欠陥箇所を補修・修繕すること
- 代替物の引渡し:欠陥のある目的物に代えて、契約に適合した別の物を引き渡すこと
- 不足分の引渡し:数量が不足している場合に、不足分を追加で引き渡すこと
つまり、修補請求とは追完請求の「3つの方法のうちの1つ」に過ぎないということですね。修補請求は追完請求の一種です。
ただし、不動産取引では代替物の提供や数量の追加という方法が現実的に難しい場面がほとんどです。なぜなら、土地・建物は特定物であり、同じ物が存在しないためです。そのため不動産実務における追完請求は、実質的に修補請求が中心となります。
改正前の民法では、この修補請求権が明文化されておらず、実際に東京地裁平成19年5月29日の判決では「中古建物の売買で雨漏りがあっても修補請求を認めない」とした事例もあります。改正民法の施行によって買主の権利が大きく拡充されたことは、不動産従事者として押さえるべき重要な変化です。これは大きいですね。
公益社団法人 全日本不動産協会:買主の追完請求権(改正民法と修補請求の関係をわかりやすく解説)
追完請求で不動産売買に関する契約不適合責任の仕組みを理解する
2020年4月1日の改正民法施行以降、不動産売買における売主の責任は「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」へと変わりました。この転換は単なる名称変更ではなく、買主が行使できる権利の種類そのものが変わっています。
改正前の瑕疵担保責任では、買主に認められていた権利は「損害賠償請求」と「契約解除」の2種類だけでした。改正後の契約不適合責任では、これに加えて「追完請求(修補請求を含む)」と「代金減額請求」が新たに認められています。
| 比較項目 | 改正前(瑕疵担保責任) | 改正後(契約不適合責任) |
|---|---|---|
| 買主の権利 | 損害賠償・契約解除の2種類 | 追完請求・代金減額・損害賠償・契約解除の4種類 |
| 売主の帰責事由 | 追完請求・代金減額は規定なし | 追完・代金減額は帰責事由不要 |
| 損害賠償の範囲 | 信頼利益まで | 履行利益まで(拡大) |
| 対象の定義 | 「隠れた瑕疵」 | 「契約の内容に適合しない状態」 |
特に重要なのは、売主に帰責事由(つまりミスや故意)がなくても、追完請求と代金減額請求は行使できるという点です。これは厳しいところですね。売主側に立って仲介する場合でも、この点を事前に丁寧に説明しておくことが、後のトラブル防止につながります。
また、改正前では「隠れた瑕疵」がなければ責任を問えませんでしたが、改正後は買主が契約時に知っていた不具合についても、契約内容との不一致があれば責任を問えるようになっています。契約書への記載内容が、これまで以上に責任の範囲を左右する点は見落としてはいけません。
東京都住宅政策本部:引渡し後に不具合・欠陥が発覚した場合の対応(改正前後の比較表つき)
追完請求の期間制限:1年通知ルールと数量不適合の例外
追完請求をはじめとする契約不適合責任の追及には、明確な期間制限があります。ここを理解していないと、買主が権利を失うリスクがあります。
民法566条の規定によれば、目的物の「種類・品質」に関する契約不適合の場合、買主は不適合を知った日から1年以内に売主に対してその旨を通知しなければなりません。この通知を期間内に行わない場合、追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約解除のすべての権利が失われます。
1年以内の「通知」が必要です。通知さえすれば、実際に追完や損害賠償を請求するのは1年を超えた後でも構いません。この点を誤解して「1年以内に請求まで完了しなければならない」と思い込んでいる方がいますが、1年以内は「通知」だけです。
ただし意外な落とし穴として、通知期間について「数量の不適合」には1年以内の通知義務が適用されません。数量の不適合については、別途、権利行使できる時から5年または引渡しから10年という一般的な時効規定が適用されます。つまり種類・品質と数量では期間ルールが異なります。
また、例外として「売主が引渡し時にその不適合を知っていた、または重大な過失によって知らなかった場合」は、買主の通知期間は問われません。売主の知・不知が重要な判断ポイントになるということですね。
不動産仲介の現場では引渡し後の雨漏りなどが最も多い紛争事例ですが、買主への「1年以内通知」の説明は重要事項説明や引渡し時に必ず確認しておくことを習慣にしましょう。
Business Lawyers:契約不適合責任とは?追及手段や期間制限などわかりやすく解説(2024年8月更新)
修補請求が通らないケース:売主の追完方法変更権と買主帰責事由
追完請求・修補請求は買主の強力な権利ですが、すべての場面で必ずしも買主の望む形で通るわけではありません。知らないと損するポイントが2つあります。
①売主は「別の方法」で追完できる(民法562条1項ただし書)
買主が「修補(修繕)」を選んで請求した場合でも、売主は「買主に不相当な負担を課するものでないとき」は、異なる方法で追完することができます。これは条文上明記されている例外です。
具体的には、買主が「この建物の雨漏りを修繕してほしい」と修補請求した場合、売主が「代替建物の引渡し」ではなく「雨漏り箇所の修理」で対応する、あるいは逆に買主が代替物を望んでいても売主が「修補で対応する」と決めることができます。つまり追完の最終的な方法は、売主側にも選択の余地があります。
ただし、この売主の選択権が認められるのはあくまでも「買主に不相当な負担を課さない場合」に限られます。買主側の生活に大きな支障が出るような方法を押しつけることは認められません。
②買主に帰責事由がある場合は追完請求できない
民法562条2項によれば、「不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、追完請求をすることができない」と定められています。
例えば買主が引渡し後に自分でリフォームを行い、その施工不良によって雨漏りが発生した場合や、買主自身が床材を傷つけて欠陥を生じさせた場合などは、追完請求が認められません。買主帰責が条件です。
代金減額請求も同様に、買主帰責事由がある場合は請求できないとされています(民法563条3項)。一方、損害賠償請求は「売主の帰責事由」が必要です。条件主体が逆になっている点は、特に混乱しやすい部分なので注意が必要です。
不動産実務での活用:追完請求・修補請求をめぐるトラブル防止と対応策(独自視点)
法律の規定を把握した上で、実際の不動産取引の現場でどのように活用するかが実務家の腕の見せどころです。追完請求・修補請求をめぐるトラブルは、「知らなかった」から起きるより「見落とした」「曖昧にした」ことで起きるケースが多いです。
売主が講じておくべき最も効果的な対策のひとつが、引渡し前の「建物状況調査(インスペクション)」の実施です。第三者の建築士が行うこの調査により、構造体の劣化や雨漏り、配管の状態などを事前に把握できます。発見された不具合を事前に修繕するか、または買主へ正確に告知した上で価格交渉することで、引渡し後のトラブルを大幅に減らせます。
インスペクションの費用は5万円前後が相場で、後から発生する修繕費用や損害賠償リスクと比べれば小さいコストです。これは使えそうです。
買主側の実務対応:通知は「1年以内」かつ「書面で」
不具合に気づいたらすぐに書面(内容証明郵便が理想)で売主に通知することが最重要です。通知の遅れが権利喪失に直結します。口頭や電話だけでは後に「通知した事実の証明」ができなくなるリスクがあります。
通知書には「契約日・物件所在地・不適合の内容・発見日時・追完(修補)を求める旨」を明記します。この通知を発信した段階で、権利の消滅は止まると解釈されています。
仲介業者が担うべき役割:重要事項説明での丁寧な案内
仲介業者は、売主と買主の双方に対して契約不適合責任の仕組みを丁寧に説明する義務があります。特に「追完請求の存在」「1年以内通知ルール」「宅建業者が売主の場合の特則(引渡しから2年以上の特約が必要)」については、重要事項説明書の中で見落とされがちな箇所です。
なお、宅建業法上、宅建業者が売主となる場合には、契約不適合責任の担保期間について「引渡しから2年以上」とする特約を設ける場合を除き、民法より買主に不利な特約を結ぶことが禁じられています(宅建業法40条)。例えば「引渡しから1年以内」とする特約は無効です。これが原則です。
一方、売主が個人(一般消費者)の場合には、契約不適合責任を免除する「免責特約」を設けることも可能です。ただし、売主が不具合を知りながら告げなかった場合は、免責特約があっても責任を免れることができません(民法572条)。
| 売主の属性 | 免責特約 | 宅建業法の制限 |
|---|---|---|
| 宅建業者 | 原則として民法より買主に不利な特約は無効 | 引渡しから2年以上の特約が必要 |
| 個人(一般消費者) | 免責特約の設定が可能 | 適用なし(消費者契約法の制約あり) |
不動産取引において追完請求・修補請求のルールを正確に把握しておくことは、売主・買主双方の利益を守るための基礎知識です。2020年の改正民法施行から既に数年が経過していますが、現場での理解不足から生じるトラブルは今も後を絶ちません。買主が知った日から1年という期限は、あっという間に到来します。通知期限だけは見逃さないことが肝心です。
一般社団法人 不動産適正取引推進機構:瑕疵担保責任から契約不適合責任への転換と実務対応(改正前後の買主権利比較表)

補訂新版 不動産登記申請memo 権利登記編