IT重説対応物件とは・条件・流れを理解して業務効率化を実現する
内見済みの物件でも、貸主が同意していなければIT重説はできません。
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IT重説対応物件とは何か・賃貸と売買での違い
IT重説対応物件とは、宅地建物取引業法第35条に定められた重要事項説明(重説)を、パソコンやスマートフォンなどを使ったオンライン形式で対面と同様に実施できる取引対象の物件を指します。国土交通省はテレビ会議などのITツールを活用した重要事項説明について、一定の条件を満たす場合に限り「対面と同等の効力がある」と正式に認めています。
つまり対応物件とは、物件そのものに特別な設備が必要なわけではなく、「IT重説を実施できる環境と手続きが揃っている取引」を指すということです。
賃貸取引と売買取引では、IT重説の解禁時期が異なります。賃貸借契約については、国土交通省が2015年から社会実験を開始し、2017年10月に本格運用が始まりました。売買取引は2015年の法人間実験を経て、2021年3月30日に本格運用が解禁されています。実験段階では免許行政庁等へのトラブル相談が0件という結果が出たことが、本格運用拡大の後押しとなりました。
その後、2022年5月の宅地建物取引業法改正により重要事項説明書や契約書の電子交付も解禁され、IT重説と電子契約を組み合わせることで取引全体をオンラインで完結させることが可能になっています。これは不動産取引のデジタル化において大きな転換点でした。
国土交通省の調査(令和7年1月)によると、IT重説の実績がある事業者は全体の13%、実績はないが導入済みまで含めると33%という状況です。2024年時点では全契約のうちIT重説を実施している割合が3〜4割という事業者が最多となり、2022年時点の「1割未満が最多」から大幅に普及が進んでいます。
参考:国土交通省 不動産分野におけるDXの推進について(令和7年)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001864124.pdf
IT重説対応物件になるための4つの条件と同意取得の注意点
IT重説対応物件として取引を進めるには、国土交通省のガイドラインで定められた条件をすべて満たす必要があります。特別な登録や免許の取得は不要ですが、運用ルールの遵守は厳格に求められます。
条件を整理すると以下の4点です。
- ✅ 双方向でやりとりできる通信環境の整備(映像・音声ともに確認できること)
- ✅ 宅地建物取引士が記名した重要事項説明書の事前送付(説明当日までに手元に届いていること)
- ✅ 宅地建物取引士証の画面上での提示と、相手方による視認確認
- ✅ 貸主または売主からIT重説実施の同意取得(記録が残る形で行うことが推奨)
同意取得はすべての条件の中で特に見落とされやすいポイントです。不動産会社側のIT環境が整っていても、貸主から同意が得られていない物件はIT重説対応物件とは言えません。これが冒頭で触れた「内見済みでもIT重説できない物件がある」理由です。
同意書については法令上の形式は定められていませんが、後日のトラブル防止という観点から、書面または電子メールなど記録が残る方法で取得・保管することが強く推奨されています。
貸主の同意が条件、という点が原則です。
また、宅地建物取引士本人が説明を行う必要があり、代理による説明は認められていません。説明者の代行や、別の担当者が内容を読み上げるだけの形式では法的効力が認められないため、注意が必要です。
機器トラブルが発生した場合の対処手順も、事前に共有しておく必要があります。国土交通省のマニュアルでは、中断・中止の基準と代替手段を顧客に伝えることが求められており、現場で慌てないためにも事前のフロー整備が欠かせません。
参考:国土交通省「ITを活用した重要事項説明の実施マニュアル」
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/content/001479770.pdf
IT重説を導入するメリット・不動産業務への具体的な効果
IT重説対応物件の対応を進めることで、不動産会社にとっては複数の業務上のメリットが生まれます。単純な「オンライン対応」以上の価値があることを、数字も踏まえて確認しておきましょう。
最も大きいのは、遠隔地の顧客への対応力が飛躍的に高まることです。従来は地方から上京する新入生や転勤者が、重要事項説明のためだけに来店する必要がありました。往復の交通費が数千円〜数万円かかるケースも珍しくなく、顧客にとっての負担は決して小さくありませんでした。IT重説があれば、その時間と費用を丸ごと削減できます。
日程調整の柔軟性も大きな効果です。繁忙期の3〜4月は物件案内・契約手続きが集中し、重説の日時調整だけで数日〜1週間のロスが生じることがあります。IT重説を使えば夜間や週末など双方にとって都合の良い時間帯を選べるため、契約完了までのリードタイムを大幅に短縮できます。
録画・録音が記録として残せる点も、実はとても使える機能です。
顧客の同意のもとで実施した録画データは、「説明したのにクレームが来た」「そんな話は聞いていない」といった後日トラブルの際に客観的証拠として活用できます。対面では残しにくかったこの記録が、IT重説では比較的容易に取得できます。
国土交通省の調査(令和4年)では、IT重説の利用経験者が挙げるメリットの上位は「移動の時間・費用の負担軽減(23%)」「コロナ等感染症対策(22%)」「来店困難な顧客への対応(21%)」の順でした。業務効率化の観点から導入したい事業者にとって、これらは十分に説得力のある根拠となります。
IT重説のデメリットと、現場で実際に起きるトラブルの内訳
IT重説には便利な側面が多い一方で、現場では一定の割合でトラブルが発生しています。「実際どの程度のリスクがあるのか」を数字で把握しておくことが、適切な対策につながります。
国土交通省の調査(令和4年)によれば、過去にIT重説を実施した事業者の約70%が何らかのトラブルを経験しています。そのうち、音声が聞こえない・映像が乱れるなど機器・回線に起因するトラブルが約8割を占めていました。これはWi-Fiの接続不安定や速度制限など、顧客側の通信環境に依存する問題です。
厳しいところですね。
ただし、発生したトラブルのうち約9割はその場で対処できており、対面の重説に切り替えを余儀なくされたのは約1割程度という結果でした。つまり「トラブルが多い=使えない」ではなく、「事前の準備でほぼ防げる」という理解が正確です。
対策として押さえておきたいのは3点です。
- 🔌 実施前の接続テスト:映像・音声の品質確認に加え、スマートフォン利用時は速度制限の有無も確認する
- 📋 代替手段の事前共有:接続が途絶えた場合の電話番号・再接続手順を顧客に事前に案内しておく
- 👥 ITリテラシーへの配慮:特に高齢の顧客には操作方法のマニュアルを送付し、テスト通話の日時を別途設けると安心
もう一つ見落とされがちなデメリットとして、「内容の軽視リスク」があります。自宅などリラックスした環境で説明を受ける顧客は、対面時に比べて集中力が落ちやすく、重要な内容を聞き流すケースがあります。これは後日クレームの原因になりやすいため、節目ごとに「ここまでで不明な点はありますか」と積極的に確認を入れることが重要です。
IT重説はIT環境の問題さえ把握しておけば大丈夫です。
参考:国土交通省「IT重説等の実施状況と今後の対応について」(令和4年2月)
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/content/001463828.pdf
IT重説対応物件の実施フロー・当日までに何を準備すべきか
IT重説対応物件として取引を進める際は、当日に向けて複数のステップを順番に踏む必要があります。準備不足のまま当日を迎えると、説明を中断せざるを得ない事態になりかねません。流れを標準化して、チェックリストとして使えるようにしておくことが現場での安心につながります。
【ステップ1】顧客のIT環境確認(実施日の1週間前まで)
顧客が使用する端末にカメラ・マイク・スピーカーが搭載されているかを確認します。Web会議システム(ZoomやTeamsなど)が動作するかも確認し、フリーWi-Fiなどセキュリティリスクの高い環境の使用は避けるよう案内します。OSやブラウザのバージョンによって接続できない場合があるため、推奨環境を事前に提示しておくと安心です。
【ステップ2】重要事項説明書の事前送付(実施日の前日まで)
宅地建物取引士が記名した重要事項説明書と添付書類一式を、実施日前日までに顧客の手元に届くよう送付します。書類が届いていない状態ではIT重説を開始することができません。郵送または電子データ(電子交付に同意がある場合)で送付し、受領確認をメール等の記録が残る方法で取得しておきます。
【ステップ3】接続テスト(実施日の数日前)
映像・音声の品質、説明資料の画面共有が問題なく行えるかをテストします。スマートフォン利用の顧客には画面の見えやすさも確認します。スマートフォンはパソコンやタブレットより画面が小さく、建築図面などの細かい図面が見えにくい場合があるため、必要に応じてタブレットやパソコンへの切り替えを提案します。
【ステップ4】当日の開始前確認
宅地建物取引士証を画面上で提示し、顧客が名前・顔写真を確認できたかを口頭で確認します。顧客側にも運転免許証などの本人確認書類を提示してもらいます。録画・録音を行う場合は、この時点で同意を取得してから開始します。
【ステップ5】重要事項説明の実施と署名・返送
説明中は資料のページ番号を声に出しながら進め、説明箇所を画面共有で示すと顧客の理解度が上がります。説明終了後は質問時間を十分に設け、終了後に署名・捺印または電子署名を求めます。紙書類の場合は返送期限と方法を明示し、返送完了後に鍵の発送や引き渡し手続きへ進みます。
つまり、準備は「前日」ではなく「1週間前」から始めることが基本です。
内見未了物件へのIT重説適用がトラブルになる理由・現場の独自視点
IT重説対応物件の話題で、一般的な解説記事ではあまり触れられない現場リスクがあります。それは、「内見していない物件に対してIT重説を実施し、契約後にトラブルが発生する」というケースです。
IT重説は場所を問わず実施できるため、「内見の前にまずオンラインで重説を済ませておく」という流れが現場で起きることがあります。しかし、重要事項説明書に記載された内容と実際の物件の状況は完全に一致していないことがあります。特に築年数が経過した物件では、設備の劣化状況や実際の広さの感覚など、書面からは伝わりにくい要素が多く存在します。
内見前のIT重説は避けるのが原則です。
顧客が実際に物件を確認しないまま契約を進めた場合、入居後に「思っていたのと違う」「こんな状態とは聞いていない」といったクレームが発生するリスクが高まります。こうしたクレームは、重要事項説明の内容に問題がなかったとしても、「説明義務の範囲外だった情報について不動産会社が責任を問われる」ケースに発展する場合があります。
では、内見が物理的に難しい遠隔地の顧客にはどう対応すればよいでしょうか。
現実的な対策として有効なのが、360度カメラを使ったバーチャル内見やYouTubeライブを活用したリアルタイム物件案内との組み合わせです。内見の代替として動画・VRを活用し、顧客が十分な情報を得た状態でIT重説に臨む流れを作ることで、クレームリスクを大幅に下げることができます。
| 状況 | IT重説の推奨度 | 理由 |
|---|---|---|
| 内見済みの物件 | ✅ 推奨 | 顧客が物件状況を確認済みのためトラブルリスクが低い |
| 動画・VR内見済みの物件 | 🔶 条件付き推奨 | 視覚的情報が補完されているため一定のリスク低減が可能 |
| 内見未了・動画なしの物件 | ❌ 非推奨 | 入居後のクレーム・トラブルリスクが高い |
また、もう一つ現場でよく見落とされる点として「繁忙期の書類郵送コスト」の問題があります。IT重説では事前に書類を送付する必要があるため、通常の対面重説より郵送費が発生します。国土交通省の調査でも、デメリットのひとつとして「書類郵送経費の負担が増える」という意見が複数の事業者から挙がっています。電子交付(電子書面)の活用と組み合わせることで、このコスト負担を解消することができます。
これは使えそうです。
電子書面による重要事項説明書の交付は2022年5月の法改正で解禁されており、顧客の同意があればPDFメール添付や専用システム経由での送付が可能です。IT重説と電子書面交付を組み合わせることで、郵送コストをゼロにしながらオンラインで取引を完結できる体制が整います。不動産業務システム(各社SaaS型プロダクト)の導入を検討している場合は、IT重説と電子書面交付の両方に対応しているか確認することをおすすめします。