私道に関する負担と35条書面の説明義務と注意点

私道に関する負担と35条書面の正しい説明義務と実務上の注意点

私道負担がある土地でも「問題なく説明できた」と思っていると、1年間の業務停止処分を受けるリスクがあります。

この記事の3つのポイント
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35条書面で「私道に関する負担」は建物貸借以外の全取引で必須

宅地売買・宅地賃貸・建物売買のすべてが対象。「建物の賃貸」だけが唯一の除外ケースです。建築基準法上の道路に限らず、通行用の通路も説明対象になる点を押さえておきましょう。

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説明漏れ・記載ミスは業務停止・損害賠償請求の両方に直結する

説明義務違反は宅建業法65条に基づく業務停止処分(最大1年)の対象となるだけでなく、買主から民事上の損害賠償請求を受けるリスクもあります。

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将来の私道負担・掘削承諾も説明対象に含まれる

現時点での負担だけでなく、将来生じることが明らかな負担も35条書面への記載が必要です。令和5年民法改正で掘削権が明文化された後も、実務では承諾書の取り付けが求められるケースが続いています。


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私道に関する負担と35条書面の基本的な定義と位置づけ

 

宅地建物取引業法(宅建業法)第35条は、取引の相手方に対して宅地建物取引士(宅建士)が書面を交付しながら重要事項を説明しなければならないことを定めた条文です。その第1項第3号に、「当該契約が建物の貸借の契約以外のものであるときは、私道に関する負担に関する事項」と明示されています。

つまり、宅地の売買・交換・賃貸、建物の売買・交換においては、必ず私道に関する負担の内容を説明しなければなりません。これが実務における「私道に関する負担等に関する事項」欄の根拠条文です。

では、「私道」とは何を指すのでしょうか?ここで言う私道は、建築基準法42条に規定された道路として認定された私道に限りません。通行用として特定少数の者が利用する私有の通路であっても、「私道に関する負担」として説明する義務が生じる場合があります。たとえば、隣地居住者が日常的に通路として使用している敷地の一部なども対象になり得るのです。

「私道」の定義は広い、と理解するのが原則です。

また、「負担等」の内容も幅広くカバーされます。土地の一部が私道として提供されることによる面積上の負担(建物を建てられない部分が生じる)、負担金の有無、将来生じることが明らかな負担、さらには対象不動産に含まれていない私道を利用することに伴う通行料や承諾料なども含まれます。

取引類型 説明義務
宅地の売買・交換 ✅ 必要
宅地の賃貸借 ✅ 必要
建物の売買・交換 ✅ 必要
建物の賃貸借 ❌ 不要(唯一の除外)

「建物の賃貸だけが除外」という点は実務上のポイントとして重要です。平成7年の宅建業法改正で明文化されたもので、建物の借主は敷地の権利制限について直接の影響を受けないという理由から外されています。しかし、この「除外」を誤って宅地賃貸に当てはめてしまう担当者がいます。宅地の賃貸は除外されていないため、注意が必要です。

参考リンク(私道に関する負担等の基本的な記載方法について)。

「私道に関する負担等に関する事項」とはなにか ─ イクラ不動産(記載例・書式のポイントを詳解)

私道に関する負担の35条書面への具体的な記載方法と実務対応

実務では「私道に関する負担等に関する事項」欄を、大きく2つのブロックに分けて記載します。

① 対象不動産に含まれる私道に関する負担の内容

対象の土地の一部に私道が含まれている場合は、その負担面積と持分、負担金の有無を記入します。面積が確定していないケースでは「約◯㎡」と記載することも認められています。負担金については、現在の有無だけでなく、将来的に発生することが明らかな場合も「有」として金額を記載する必要があります。たとえば「1年後に私道の管理が市に移管されるため、現在の所有者負担で舗装工事を実施する予定」といった場合がこれに当たります。

セットバック部分についても、すでにセットバック済みかどうかにかかわらず、私道負担として説明しなければなりません。セットバックが完了し、地目が「公衆用道路」に変更済みで分筆されている場合は、後退面積欄への記載は不要です。

一方で、見落としがちなのが「敷地の一部が第三者の通行の対象となっている場合」です。隣地居住者のために通路が設けられ、無償通行を認めているケースなどでは、通行権の内容とともに空欄に説明文を記載しなければなりません。

② 対象不動産に含まれない私道に関する事項

前面道路が他人所有の私道であるケースも、35条書面への記載が必要です。その場合、所有者の住所・氏名・通行の根拠(囲繞地通行権、通行地役権、債権的通行権、位置指定道路など)を記入します。

通行の根拠を、4つに整理すると次の通りです。

  • 囲繞地通行権:民法によって袋地に認められた法定の通行権。分割や一部譲渡により袋地が生じた場合に適用されます。
  • 通行地役権:契約・時効取得・黙示などによって設定された権利。登記されているものは第三者対抗力があります。
  • 位置指定道路:建築基準法に基づき特定行政庁が「道路」として指定した私道。一般の通行が可能です。

このうち「債権的通行権」は、特に注意が必要です。売主がこれまで無償で通行できていたとしても、所有権が移転したことを機に、私道の新所有者が買主に対して通行料を請求してくる可能性があります。これまで問題がなかったから、ということは35条書面の記載理由にはなりません。

参考リンク(35条書面への私道に関する負担の詳細な記載パターンについて)。

重要事項説明書で見落としがちなポイント:私道に関する負担等に関する事項 ─ REDS(記載例と実務上の文例を掲載)

私道に関する負担の35条書面への記載で見落とされやすい3つのケース

経験豊富な不動産担当者でも、以下の3つのケースで記載漏れや説明不足が発生しやすい傾向があります。

ケース① 建ぺい率・容積率への影響を説明しない

私道負担がある土地では、その私道部分の面積を建ぺい率・容積率の算定から除外しなければなりません。たとえば100㎡の土地を購入したとしても、そのうち12㎡が私道負担部分であれば、実際の計算上の敷地面積は88㎡になります。この88㎡をベースに建ぺい率・容積率を計算するため、「100㎡の土地として想定していた建物が計画どおりに建てられない」という事態が生じます。

売買価格や建築計画に直結する情報ですが、「私道負担あり・面積◯㎡」と記載するだけで説明を終わらせてしまうケースが見受けられます。建ぺい率・容積率への影響まで含めた説明が必要です。

ケース② 将来の私道負担を記載しない

現在の負担だけでなく、将来生じることが確実または明らかな私道負担も35条書面に記載する義務があります。具体的には、開発分譲地での私道の市道への帰属予定や、将来の舗装工事費用の負担予定などが該当します。これを「まだ確定していないから書かなくていい」と判断するのは誤りです。将来の負担が見えている時点で説明義務が生じます。

ケース③ 通行・掘削承諾書の有無を確認しないまま説明する

前面道路が私道である場合、上下水道やガス管を敷設するには原則として私道所有者の承諾が必要です。令和5年4月施行の改正民法(民法213条の2)により、インフラ引き込みのための掘削権が権利として明文化されましたが、実務では住宅ローン審査や工事施行にあたって今なお掘削承諾書の提出を求める金融機関・工事業者が存在します。

承諾書がない状態で「問題ない」と説明してしまうと、取引後のトラブル発生時に説明義務違反を問われるリスクがあります。掘削承諾書の有無を事前に確認し、ない場合はその旨を丁寧に説明することが重要です。

参考リンク(宅建業法35条の説明義務の全体像について)。

私道の負担に関する事項(建物の貸借以外の場合) ─ 愛知宅建業免許.com(法文の引用と実務解説)

私道に関する負担の35条説明義務違反が招く法的リスクと処分内容

「重要事項説明書に記載したから大丈夫」と思っている担当者は多いかもしれません。しかし、記載したこと=十分な説明をしたこと、にはなりません。

宅建業法35条が定める説明義務に違反した場合、宅建士・宅建業者の双方に対して以下の行政処分が下されます。

対象 処分内容
宅建士 指示処分、1年以内の事務禁止処分、情状が特に重い場合は登録消除
宅建業者 指示処分、1年以内の業務停止処分、情状が特に重い場合または業務停止命令違反の場合は免許取消

業務停止処分は最大1年です。その間、新規の契約締結業務が停止されます。1か月の業務停止でも深刻な損失になり得ますが、最大1年となれば経営に壊滅的な打撃を与えかねません。これが行政上の責任です。

さらに、民事上の責任も発生します。説明義務違反によって損害を被った買主は、宅建業者に対して損害賠償請求を起こすことができます。「知っていれば買わなかった」という主張が認められれば、差額分の損害賠償が命じられるケースもあります。場合によっては契約解除も認められます。

ここで重要なのは、宅建業法35条1項に列挙された項目「だけ」を説明すれば義務を果たしたことになるわけではない、という点です。同項目はあくまで「少なくとも」説明すべき事項を示したものであり、「取引の判断に影響し得る事項であれば、列挙されていなくても説明しなければならない」というのが法律の趣旨です。私道に関連する将来リスクや通行上の懸念も、この範囲に含まれる可能性があります。

説明義務は最低限の免罪符ではない、というのが原則です。

参考リンク(説明義務違反の処分内容と具体的なリスクについて)。

重要事項の説明義務に違反するとどうなる? ─ アクセルサーブ法律事務所(弁護士による詳細解説)

令和5年民法改正後の掘削権と、35条書面実務で押さえるべき変化点

令和5年(2023年)4月に施行された改正民法は、不動産実務の現場に直接影響を与えています。改正の核心は、民法213条の2に「インフラを引き込むために他者の土地を掘削する権利」が権利として明文化された点です。

改正前は、ガスや上下水道などの生活インフラを引き込むために他人の私道を掘削するには、原則として私道所有者の「承諾」と「承諾料」が必要でした。この承諾料は一律の相場がなく、数万円から数十万円、場合によってはそれをはるかに超える金額を請求されることもありました。過去には承諾料が100万円を超えたケースも報告されています。

改正後はどう変わったのでしょうか?

改正により、インフラ引き込みのための掘削は「権利」として位置づけられ、私道所有者の「承諾」は原則として不要になりました。ただし、以下の点は引き続き必要です。

  • 通知が必要:掘削前に私道所有者へ通知しなければなりません。法務省の資料では「2週間~1か月程度」の事前通知が目安とされています。
  • 償金の支払いが必要:掘削による損害に相当する「償金」を支払う義務があります。承諾料とは異なり、実損額が基準になります。
  • 場所・方法は最小限に:私道所有者への損害が最も少ない場所・方法を選ぶ義務があります。

実務への影響は大きいです。従来、私道の掘削承諾書が取れていないことは「取引のボトルネック」でした。

しかし、改正後も以下の実務上の課題は残っています。

  • 住宅ローン審査では、一部の金融機関が引き続き掘削承諾書の提出を求めるケースがある
  • 私道所有者が通知を無視したり、高額の償金を要求して交渉が難航したりするケースがある
  • 所有者が所在不明の場合、公示通知という手続きが必要になる

35条書面の作成にあたっては、承諾書の有無だけでなく、「承諾書がない場合でも通知と償金で対応できる旨」や「実務上なお承諾書が求められるケースがある旨」を買主に伝えることが、トラブル防止の観点から有効です。

参考リンク(改正民法による私道掘削権の明文化と実務対応)。

私道の掘削承諾料の相場は? ─ たきざわ法律事務所(改正民法の内容と実務の流れを弁護士が解説)

私道・境界・日照の法律相談 改訂版