石綿使用調査結果の記録の有無と重要事項説明の正しい対応

石綿使用調査結果の記録の有無を確認せずに「無」と書いた重説は、後から数百万円のトラブルを招くことがある。

この記事の3つのポイント
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「無」はアスベスト不使用を意味しない

重要事項説明書の「石綿使用調査結果の記録の有無:無」は「調査記録が存在しない」という意味。アスベストが使われていないという保証ではないため、買主への誤解を防ぐ追記が重要です。

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宅建業者に調査の実施義務はない

宅建業者に義務付けられているのは「記録の有無の照会と説明」のみ。売主・管理組合・施工会社へ照会し、存在が確認できなければその照会をもって義務完了となります。

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2006年9月以前の建物は要注意

2006年9月以降の着工建物はアスベスト含有リスクが極めて低いですが、それ以前の建物は含有建材が使用されている可能性があり、解体・改修時に多額の追加費用が生じる可能性があります。


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石綿使用調査結果の記録の有無とは何を意味するのか

 

重要事項説明書の中に「石綿(アスベスト)の使用の有無の調査結果の記録:有 / 無」という欄があります。多くの不動産取引でこの欄に「無」と記載されますが、この「無」の意味を正確に把握できている担当者は意外と少ないのが実情です。

この「無」は「アスベストが使用されていない」という意味ではありません。あくまでも「石綿の使用の有無に関する調査を実施した記録が存在しない」ことを示しているのです。

つまり「無」が記載されていても、その建物に実際にアスベストが含まれているかどうかは、誰も確認していないことになります。根拠となる法律は宅地建物取引業施行規則第16条の4の2第2号で、2006年(平成18年)4月24日施行の改正によって追加された説明義務です。建物の売買・交換・賃貸借のすべてに適用されます。この点が耐震診断旧耐震基準の建物に限定)とは異なるため、注意が必要です。

記録の「無」が「アスベスト不使用」と誤解されやすいのは、表記がシンプルすぎるからです。RETIO(不動産適正取引推進機構)の解説でも「この『無』は調査結果の記録が『無』なのであり、『石綿が使用されていない』と誤解されないように説明しておかなければならない」と明記されています。

実務での対応として重要なのは、記録が「無」の場合も、単純に「無」とチェックして済ませるのではなく、買主が誤解しないよう補足説明を添えることです。これが後々のトラブル防止につながります。

不動産適正取引推進機構(RETIO)「宅建業法の改正と重要事項説明書の作成」─ アスベストに関する記載例と注意点が詳細に掲載されています

石綿使用調査結果の記録の有無を確認する正しい手順

宅建業者に課せられているのは「石綿の使用の有無の調査の実施」ではなく、「調査の記録が存在するかどうかの照会と、その内容の説明」です。これは重要なポイントです。調査そのものを宅建業者が自ら行う義務はありません。

では、記録の有無をどのように確認すればよいのでしょうか?

国土交通省のガイドライン(宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方)では、以下の手順が示されています。

物件種別 照会先
戸建住宅 ①売主・所有者 ②施工会社
区分所有建物(マンション等) ①売主・所有者 ②施工会社 ③管理組合 ④管理業者

これらの照会先に問い合わせた結果、記録が存在しないことが確認された場合、または存在が判明しない場合は、その照会をもって調査義務を果たしたことになります。これが原則です。

調会した事実を重要事項説明書に明記することも求められます。単に「無」にチェックを入れるだけでなく、「売主・管理組合・施工業者に当該調査の有無について照会しましたが、調査は実施していない旨の回答を得ました」といった文言を記載しておくことが、後々の紛争防止にもつながります。

また、物件状況報告書(告知書)の活用も有効です。売主が知っている情報を書面で告知してもらい、それを買主に渡すことで、「言った・言わない」のトラブルを防ぐ効果があります。

照会先の施工会社が倒産等により存在しない場合は、その旨も重要事項説明書に記載しておくと、より丁寧な対応になります。

全日本不動産協会「アスベストや耐震診断の重要事項説明」─ 照会義務の範囲と説明すべき項目が整理されています

石綿使用調査結果の記録が「有」の場合に説明すべき具体的内容

調査結果の記録が存在する場合、ただ「有」にチェックを入れるだけでは説明義務を果たしたことになりません。記録の内容を正確に説明する必要があります。

説明が必要な項目は以下の通りです。

説明項目 内容
調査の実施機関 調査を行った会社名・機関名
調査の範囲 建物全体か、一部に限定されているか
調査年月日 いつ実施されたか
石綿の使用の有無 使用されていたか否か
石綿の使用箇所 どこに使用されていたか

記録から上記のいずれかが判明しない場合は、売主に補足情報の告知を求めます。それでもわからない場合は「判明しない旨」を説明すれば足ります。

特に注意が必要なのは「調査した範囲の明示」です。調査が建物の一部に限定されている場合、そのことを明確に伝えなければなりません。たとえば「駐車場のみ調査済み」「共用部分のみ」といった限定があるにもかかわらず、建物全体の調査として誤解させてしまうことは、将来的なトラブルの原因になります。

もう一点、記録の提出者についても明示が必要です。売主が提供した調査結果であれば「売主の依頼・責任のもとで実施された調査である」ことを明らかにしなければなりません。これはガイドラインで明示されているルールです。

調査記録の確認が容易で、石綿の使用の有無がその記録から明確にわかる場合は、記録を別添資料として添付する方法でも差し支えありません。これで詳細な記載の手間を省くことができます。

こくえい不動産調査「不動産を売買するときに石綿(アスベスト)の調査と説明はどうするの?」─ 実務における記録の確認方法と説明内容が具体的にまとめられています

石綿使用調査結果の記録がない建物の解体・改修リスクと費用の実態

石綿使用調査の記録がない古い建物を取引する際、不動産担当者として買主に伝えておくべき重要な情報があります。それは「将来の解体・改修コスト」です。

2006年9月以降、アスベストを0.1重量%を超えて含有する製品の製造・使用は全面禁止されました。裏を返せば、2006年9月以前に着工された建物は、アスベスト含有建材が使用されている可能性を否定できません。現在流通している中古住宅には、この年代に建てられた建物が数多く含まれています。

具体的なコストを見てみましょう。アスベスト含有建材がある状態で建物を解体する場合、通常の木造住宅の解体費用(坪単価3万円〜5万円程度)に加えて、含有レベルによって大きな追加費用が発生します。

  • 🔴 レベル1(吹付け石綿など、最も危険度が高い):1㎡あたり1.5万円〜8.5万円の除去費用
  • 🟡 レベル2(保温材・耐火被覆材など):1㎡あたり1万円〜6万円の除去費用
  • 🟢 レベル3(成型板など):1㎡あたり3千円〜2万円の除去費用

30坪の木造住宅の場合、アスベスト含有なしであれば解体費用の目安は90万円〜150万円程度ですが、アスベスト対策が加わると120万円〜240万円以上になることも珍しくありません。大阪の事例では「通常の解体費150万円+アスベスト対策費120万円=合計270万円」という見積もりが「適正価格」として提示されるケースも報告されています。これは購入後に判明するため、「知らなかった」では済まされない出費です。

なお、解体・改修工事を行う際は、2021年4月以降、すべての工事について着工前のアスベスト事前調査が義務化されています(2023年10月以降は有資格者による実施が必須)。延床面積80㎡以上の建物解体または請負金額100万円以上の工事では、調査結果の都道府県への報告も義務です。違反した場合は罰則の対象となるため、この情報は買主にとって重要な事前知識になります。

青木工業「アスベスト解体費用の目安と相場|レベル別単価と調査費用・補助金」─ レベル別の具体的な費用相場と費用削減方法が解説されています

石綿使用調査結果の記録の有無をめぐる見落としやすい実務リスク

ここまで基本的な制度と手順を確認してきました。最後に、実務で特に見落とされやすいリスクポイントを整理しておきます。

① 耐震診断との対象建物の違いを混同してしまう

アスベストに関する重要事項説明は、建物の年代を問わずすべての建物が対象です。一方、耐震診断は「旧耐震基準(昭和56年5月31日以前に建築確認済証が交付された建物)」に限定されます。新しい建物だからアスベスト関連の説明は不要と思い込んでしまうのは誤りです。2006年9月以降着工の建物は含有リスクが極めて低いですが、「調査記録の有無を確認・説明する義務」は依然として存在します。

② 賃貸取引でも義務があることを忘れてしまう

宅地建物取引業法施行規則の規定は、建物の売買・交換だけでなく、賃貸借の媒介・代理にも適用されます。賃貸の現場では見落とされがちですが、法的義務があることに変わりはありません。

③ 記録がある場合に「調査対象範囲」を見落としてしまう

調査記録が存在する場合でも、それが建物全体を対象としているとは限りません。「1階部分のみ」「共用廊下を除く専有部のみ」といった限定があるにもかかわらず、それを明示せずに説明してしまうと、後に「聞いていない」というトラブルに発展するリスクがあります。

④ 「不明」という状態への対応

照会の結果が「記録がない」と確認できた場合は「無」ですが、照会への回答が得られない、または記録の存在自体が不明な場合は「不明」として扱います。この「無」と「不明」の使い分けも、重要事項説明書の正確な記載に関わる部分です。知らずに「無」と書いてしまうと、事実と異なる説明をしたことになりかねません。

これらのポイントは宅建試験でも問われる内容であり(令和元年問28など)、実務においても理解が求められる部分です。

不動産取引では、アスベストに関して故意に情報を隠して売却した場合、契約適合責任(旧:瑕疵担保責任)を問われ、損害賠償契約解除のリスクが生じます。記録の有無を丁寧に確認し、正確に伝えることが、業者・売主・買主すべての利益を守ることにつながります。

都分析「アスベスト住宅の売買における注意点|重要事項説明とリスク回避について」─ 売主・買主双方の立場からのリスクと法的責任が整理されています
三井住友トラスト不動産「不動産売買のときに気をつけること〜石綿(アスベスト)」─ 国土交通省ガイドラインの解説と実務上の注意点が掲載されています

【ユニット】石綿標識 石綿等使用有無の事前調査結果 [品番:324-66]