標準管理規約改正のポイントと不動産実務への影響

標準管理規約の改正ポイントと2026年施行の実務対応

古い規約のまま総会を開くと、その決議が法的に無効になる可能性があります。

📋 この記事の3つのポイント
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改正区分所有法が2026年4月施行

2025年10月に標準管理規約が改正。改正法に抵触する既存規約の条項は自動的に無効となるため、各マンションでの規約見直しが急務となっています。

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特別決議要件が「出席者ベース」に緩和

従来は全区分所有者の3/4以上の賛成が必要だった特別決議が、出席者の3/4以上の賛成で可決可能に。無関心・所在不明者による意思決定ブロックが解消されます。

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マンション再生の選択肢が4つに拡大

建替えに加え、一棟リノベーション・建物敷地売却・取壊しが正式な再生手法として規定。耐震性不足など客観的事由がある場合は要件が3/4にまで緩和されます。


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標準管理規約の改正が必要になった背景と区分所有法との関係

 

2025年5月、「老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るためのマンション関係法」が国会で成立し、区分所有法が大幅に改正されました。この改正区分所有法は2026年4月1日から施行されます。それに先立ち、国土交通省は同年10月17日に「マンション標準管理規約」を改正・公表しました。

標準管理規約とは、各マンションが自前の管理規約を作成する際の「お手本」となる国のひな形です。法的な拘束力はないものの、2024年末時点で713万戸に達している国内マンションの大多数が、この標準管理規約を参考にして運営ルールを策定しています。

今回の改正が特に重要なのは、規約と法律の優先関係にあります。結論はシンプルです。改正後の区分所有法に抵触する既存規約の条項は、規約を書き換えていなくても2026年4月1日以降は自動的に無効となります(マンション関連改正法附則2条3項)。

規約が古いままだと問題ありません、というわけにはいきません。たとえば従来の規約に「特別決議は総区分所有者および総議決権の3/4以上の賛成が必要」と書かれていても、法改正後は新しい決議方式が優先されます。古い規約のまま総会を運営すれば、どの条文が有効でどの条文が無効かが現場では判断できず、総会運営の混乱や決議の有効性をめぐる法的紛争へ発展するリスクが生じます。

不動産業務に携わる方にとって、この「規約の整合性」は仲介・管理の両面で実務に直結します。改正の背景として認識しておきたいのが、管理組合を取り巻く「2つの老い」という問題です。建物の老朽化(全国で築40年超のマンションが137万戸、今後20年で約3.4倍に増加見込み)と、居住者の高齢化による役員担い手不足が同時に進行しており、従来の意思決定の仕組みでは立ち行かなくなってきたことが今回の大改正の根本的な動機です。

国土交通省|マンション標準管理規約(令和7年10月17日改正)最新版の全文・資料を確認できます

標準管理規約の改正ポイント①:総会決議の多数決要件の見直し

今回の改正でもっとも実務的なインパクトが大きいのが、総会決議の要件変更です。これは「決議ができない」という長年の停滞を解消するための抜本的な見直しです。

従来、規約変更や共用部分の大規模変更など「特別決議」が必要な議案は、区分所有者総数および議決権総数の各3/4以上の賛成が必要でした。100戸のマンションなら75戸以上の賛成が必要ということです。ところが実際の総会出席率は50%前後にとどまるケースも多く、委任状を含めてかき集めてもなかなか3/4に届かない——という状況が全国で続いていました。

改正後は、まず定足数として「組合員総数および議決権総数の各過半数が出席」している総会であれば成立し、その出席者の3/4以上の賛成で特別決議が可決できるようになります。つまり出席しなかった組合員は分母に入らない設計です。

100戸のマンションで具体的に考えると、過半数にあたる51戸が出席すれば総会は成立し、そのうちの3/4である39戸が賛成すれば特別決議が通ります。改正前は75戸の賛成が必要だったところが、実質39戸で可決できる可能性が出てくるわけです。これは使えそうです。

加えて、普通決議の定足数も「議決権総数の半数以上」から「過半数」へ整理されました。バリアフリー化や耐震補強など安全に直結する共用部分の変更については、さらに緩和されて「出席者の2/3以上」の賛成で可決できるよう改められています(従来は3/4)。

もう一つ押さえておきたいのが、総会招集時の通知事項の変更です。改正前は一部の重要議案のみ「議案の要領」を事前通知する義務がありましたが、改正後はすべての議案について要領の記載が必要になります。また、緊急総会の招集通知発送からの最短期間が従来の「5日間」から「1週間」に延長されました。準備が必要です。

決議の種類 改正前 改正後
普通決議(定足数) 議決権総数の半数以上 議決権総数の過半数
特別決議(定足数) 規定なし 組合員数・議決権の各過半数
特別決議(可決要件) 全体の3/4以上 出席者の3/4以上
バリアフリー等変更 全体の3/4以上 出席者の2/3以上

MLC片岡マンション管理士事務所|2026年4月施行改正の実務対応について、「必須変更事項」と「推奨変更事項」に整理した詳細解説があります

標準管理規約の改正ポイント②:マンション再生手法の拡充と修繕積立金の使途明確化

「建て替え」か「何もしない」かの二択から、マンション再生の選択肢が実質4つへと拡大されたことも今回の重要な改正点です。

従来の区分所有法では、老朽化マンションの対処手段として「建替え」と「マンション敷地売却」が主な選択肢でした。建替え決議には区分所有者および議決権の各5/4以上という非常に高い壁があり、実現が極めて難しいのが実情でした。今回の改正では以下の4つの再生手法が正式に位置づけられています。

  • 🏢 建物の建替え(従来からの手法)
  • 🔨 一棟リノベーション(建物の更新):大規模改修で新築同様に再生
  • 💰 建物と敷地の一括売却:住民全員で売却してリセット
  • 🏚️ 建物取壊し・敷地売却:更地にして売却

原則の多数決要件は区分所有者および議決権の各5/4以上の賛成ですが、耐震性不足・外壁剥落の恐れ・給排水管の腐食・バリアフリー基準未達などの「客観的な問題がある場合」は3/4に緩和されます。大規模災害で被災した場合にはさらに2/3まで緩和されます。

つまり3段階の要件設定です。マンションの状態に応じて最適な再生手法と多数決要件の組み合わせを検討することが、今後の実務では重要になります。

修繕積立金の使途も合わせて明確化されました。改正前は「修繕工事」に使途が限定されがちな運用でしたが、改正後はマンション再生(更新・売却・取壊し)に向けた「調査・設計費用」や、建物の性能を新築時の水準から向上させる「改良工事」にも修繕積立金を充当できることが明記されています。将来の再生に備えた戦略的な積立金活用が制度上可能になった点は、不動産実務の観点から見逃せません。

エースマンション管理士事務所|再生手法の拡充や修繕積立金の使途変更など、管理組合の実務視点での解説が充実しています

標準管理規約の改正ポイント③:所在不明区分所有者への対策と国内管理人制度

管理組合の現場で深刻化している「連絡が取れない区分所有者」問題に対して、今回の改正は具体的な制度的解決策を用意しました。

まず、所在不明区分所有者の「決議からの除外制度」が創設されています。従来は連絡がつかない所有者であっても総会決議の母数に含まれ、事実上「反対票」として機能していました。改正後は、一定の手続きを踏んで裁判所の決定を得ることで、その区分所有者を総会決議の分母から除外できるようになります(標準管理規約67条の3)。

次に、管理不全専有部分への対応制度も整備されました。ゴミ屋敷化した部屋や設備の腐食を放置している部屋、水漏れの原因になっている部屋に対して、管理組合が裁判所へ申し立てることで専門の管理人(弁護士・司法書士・マンション管理士など)を選任してもらう仕組みが創設されました(67条の4・67条の5)。これが原則です。

もう一つ特筆すべきが「国内管理人制度」の創設です(区分所有法6条の2第1項・標準管理規約31条の3)。近年、外国人投資家や在外邦人が国内マンションを取得するケースが増えており、連絡が取れないことによる管理費滞納や総会通知の不達が問題となっていました。改正では、海外居住の区分所有者に対して国内の連絡窓口となる「国内管理人」を選任させる制度が導入されています。法律上は任意ですが、規約で義務化することも可能です。

これは宅建業者に直接関係します。国外居住者が買主となるマンション売買の仲介業務では、①国内管理人制度の説明、②そのマンションの規約における国内管理人の定めの調査・説明、③規約で義務化されている場合はその旨の告知——という3つの対応が実務上求められます。説明義務の範囲が広がったという認識が必要です。

全日本不動産協会「月刊不動産」|宅建業者が理解すべき国内管理人制度の実務対応を、弁護士が解説しています

標準管理規約の改正ポイント④:なりすまし対策・役員規定・防災業務の見直し

2026年4月施行の区分所有法改正への対応だけでなく、今回の標準管理規約改正には「最新の社会情勢への対応」という柱も含まれています。実務に直結する変更点が3つあります。

1点目は、役員・専門委員へのなりすまし対策です。2025年、首都圏のマンションで大規模修繕工事会社の社員が区分所有者になりすまして修繕委員会に潜り込み、自社に有利な方向へ議論を誘導しようとした事件が発覚し、住居侵入の疑いで逮捕される事態が起きました。神奈川・千葉でも類似事案が複数確認されています。大規模修繕工事は安くても数千万円、規模によっては億単位の費用が動くため、悪意ある業者がコンペ誘導を目的に侵入を試みるケースです。

今回の改正でコメント(規約の解説・運用指針)に「役員・専門委員の就任時に本人確認を適切に実施することが有効である」という文言が追加されました(35条・55条関係コメント)。法的な義務ではないものの、国交省がこの問題を公式に認識して対策を推奨しているという点に重みがあります。

2点目は役員規定の見直しです。理事が出席できない場合に「職務代行者」を定めて理事会に出席させる仕組み(家族・族が理事本人に代わって出席)についての考え方が新たにコメントに追加されました(18条関係コメント)。役員の担い手不足が深刻な小規模マンションでは、運用の幅が広がります。また、役員の欠格条項も会社法・一般社団法人法等を参考に整備されています。

3点目は防災業務の明確化です。管理組合が取り組むべき防災業務の内容がコメントに追加されたほか、消防法上で設置が求められる防火管理者に関する規定例も加えられました。マンション管理業務の中で防災体制の整備が今後より重視されるようになる方向性が示されています。

4点目として、喫煙ルールについても今回の改正でコメントに明記されました。たばこが健康に悪影響を与えることが科学的に明白であるにもかかわらず、マンション内での喫煙対策は個々の規約に委ねられている実態があります。今後、入居者への説明や規約への喫煙ルール反映を促すケースが増えることが予想されます(18条関係コメント)。

商工法務グループ|電磁的方法の拡大、役員規定の整備など、標準管理規約の新旧対照表をもとに変更箇所を整理した詳細資料として参照できます

標準管理規約の改正への実務対応と規約見直しのスケジュール管理

標準管理規約が改正されても、各マンションの管理規約が自動的に書き換わるわけではありません。各管理組合が自前の規約を見直して総会で決議するまでは、古い規約が並存し続けます。この点が不動産実務上の落とし穴です。

規約改正の手続きは、2026年4月1日を境に2つのルートに分かれます。

2026年3月31日以前に総会の招集手続を開始する場合は、現行規約の規定に則って決議しますが、「改正する規約の内容について2026年4月1日以降に効力を発する」旨を併せて決議する必要があります。手続きのタイミングが重要です。

2026年4月1日以降に招集手続を開始する場合は、現行規約における総会の成立要件(定足数)や決議要件が無効となっているため、改正法の規定に則った新しい要件で決議を進める必要があります。旧規約の定足数要件で招集してしまうとトラブルの元です。

全面的な管理規約改正の費用については、専門家(マンション管理士等)に依頼した場合、おおよそ17万円(税抜)程度が一つの相場として示されています。もちろん管理組合の規模や規約の複雑さによって変わりますが、これを高いとみるか安いとみるかは、対応しないことで生じる法的リスクの大きさ次第といえます。

不動産実務に携わる方が管理組合や理事会と接する場面では、以下の確認点を持っておくと有用です。

  • ✅ そのマンションの管理規約は今回の法改正に対応した見直しを行っているか、または予定しているか
  • ✅ 総会の招集通知の様式に「議案の要領」が適切に記載されているか
  • ✅ 海外居住の区分所有者がいる場合、国内管理人の設置義務を規約で定めているか
  • ✅ 修繕委員会や専門委員会への就任時に本人確認プロセスがあるか

規約の見直しが未着手の管理組合に対しては、専門家への相談を早期に勧めることが、仲介業者・管理業者ともに適切なサポートになります。国土交通省から「管理規約の改正を行う場合の手続の留意点」が公表されていますので、実務の参考資料として活用できます。

国土交通省|令和7年改正マンション標準管理規約を踏まえた管理規約の改正を行う場合の手続の留意点(PDF)。2026年3月31日以前・以後の招集手続の違いが具体的に記載されています

令和8年度版 新選マンション管理基本六法