従たる事務所の登記しない場合の宅建業法上の全手続き

従たる事務所を登記しないで宅建業を営む全知識

登記なしでも「支店」と名乗れると思ったら、行政庁に申請を差し戻されて開業が2か月遅れます。

この記事の3つのポイント
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登記なしでも宅建業は営める

「継続的に業務を行える施設」かつ「契約締結権限を有する使用人(政令使用人)を置く場所」であれば、商業登記上の支店登記がなくても宅建業法上の事務所として認められます。

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「○○支店」という名称は原則NG

登記をしていない従たる事務所に「支店」という名称を使うと、行政庁から理由書の提出を求められたり、申請が差し戻されるリスクがあります。「○○営業所」や「○○店」が安全です。

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追加の供託・分担金が必ず発生する

従たる事務所を1か所追加するごとに、営業保証金なら500万円、保証協会加入済みなら弁済業務保証金分担金30万円の追加納付が必要です。開業前に資金計画を立て直す必要があります。

従たる事務所の登記をしないとはどういう意味か

宅建業の2店舗目を検討するとき、最初に混乱するのが「登記上の支店」と「宅建業法上の従たる事務所」の区別です。これは別の概念です。

会社法(商業登記)上の「支店」とは、法務局に支店設置の登記を行い、登記簿謄本(履歴事項全部証明書)に住所が記載された事業所のことを指します。一方、宅建業法上の「従たる事務所」とは、本店以外に宅建業を営む事務所全体を指す概念であり、登記の有無は問いません。

つまり、商業登記上の支店登記をしていなくても、宅建業法上の従たる事務所として免許申請ができるということです。これが「登記しない従たる事務所」の意味するところです。

登記しない選択が多い理由は、コストです。支店の登記には登録免許税として本店管轄の法務局に最低6万円、支店所在地が別の法務局管轄であれば追加で9,300円がかかります。登記に加えて支配人(支店長)の登記をする場合は就任・退任それぞれ3万円の登録免許税も発生します。支店長の入れ替えが多い会社では、この費用が積み上がります。

宅建業免許の観点から見ると、登記の有無は手続きの複雑さに直結しません。登記なしの従たる事務所でも、登記ありの支店と同様の書類を用意して行政庁に変更届を出す必要があります。

ただし、名称に関してはルールがあります。登記上の支店でない場合は「○○支店」という名称を使うと審査で問題になることがあります。この点は後述します。

不動産会社が支店の登記をすることの意味 ~メリットとデメリット(takkengyo.net)

支店登記の費用の詳細(登録免許税の具体的な金額)と、宅建業免許との関係について詳しく解説されています。

従たる事務所の登記なし設置に必要な3つの要件

登記なしで従たる事務所を宅建業法上の事務所として認めてもらうには、3つの要件を満たす必要があります。

① 継続的に業務を行える施設であること

物理的・社会通念上、「事務所」と認識できる形態が求められます。テント小屋や簡易な仮設物は該当しません。独立したスペースがあり、接客・執務ができる環境が必要です。他の法人と区切りなく空間を共有している場合や、居住部分を通らなければ事務所に入れない構造(例:自宅の奥の部屋)も認められません。これは新規免許取得時の事務所要件と同じです。

② 契約締結権限を有する使用人(政令使用人)を置くこと

「政令使用人」とは、その事務所において宅建業に係る契約を締結する権限を委任された従業員のことです。一般的には支店長や営業所長がこれにあたります。この人物は行政庁に登録する必要があります。

③ 専任の宅地建物取引士を設置すること

事務所ごとに、業務に従事する者の5人に1人以上の割合で専任の宅建士を置かなければなりません。従たる事務所の専任の宅建士は、本店の専任の宅建士と兼ねることはできません。その事務所に常勤・専従できる人物を新たに確保する必要があります。

なお、政令使用人と専任の宅建士は同一人物が兼任可能です。つまり、宅建士の資格を持つ人物が政令使用人を兼任すれば、最低1名の配置で従たる事務所を設置できます。これがコスト最小化のポイントです。

事務所要件が原則です。開設準備の段階で写真撮影・事務所平面図の作成も必要になるため、内装の状態を整えてから仮受付に臨むようにしましょう。

宅建業免許における「従たる事務所設置」について(genesis-gyousei.com)

政令使用人・専任取引士の要件と、申請の流れ(仮受付→本受付)について詳しく解説されています。

登記しない従たる事務所の名称ルールと「支店」表記の落とし穴

ここは実務上、最もトラブルが起きやすいポイントです。名称ルールに注意が必要です。

登記上の支店として登記されている場合、宅建業免許申請書には「○○支店」と記載できます。一方、登記をしていない従たる事務所の場合、「○○支店」という名称は原則として避けるべきです。

理由は明確で、登記されていないにもかかわらず「支店」という名称を使うと、審査する行政庁から「なぜ登記上は支店でないのに支店という名称を使うのか、責任者の権限や所在の説明を含めた理由書を提出してほしい」と求められることがあります。都道府県によっては申請自体を受け付けてもらえないケースもあります。

推奨される名称は「○○営業所」「○○店」「○○事務所」などです。フランチャイズに加盟している場合は「フランチャイズ名+○○店」も認められる都道府県が多いです(大分県の行政庁の回答例による)。

ただし、「営業所」と「支店」は宅建業法上の役割は同一です。どちらも専任の宅建士・政令使用人の配置、保証金の追加供託が必要です。名称が異なるだけで手続きの重さは変わりません。

また、法人の場合は業者名称を商業登記の内容に合わせる義務があります。個人の場合は屋号を自由に決められますが、消費者が混乱するような名称は変更を指示されることがあります。

「○○営業所」なら問題ありません。名称選びに迷ったら、管轄の行政庁(都道府県庁・地方整備局)に事前確認するのが最も確実です。

宅建業者が新たな支店を開設するとき(takken-support.net)

登記上の支店とする場合・しない場合それぞれの手続きの違いと、名称に関する実務上の注意点が整理されています。

登記なし従たる事務所設置で必ず発生する費用と営業保証金

「登記しないほうが安い」と思われがちですが、宅建業法上の費用は支店登記の有無とは無関係に発生します。痛いところですね。

営業保証金(自己供託)の場合

主たる事務所(本店):1,000万円

従たる事務所1か所追加ごと:500万円

従たる事務所を1か所増やすたびに、最寄りの供託所(法務局)に500万円を積み増すことになります。本店と従たる事務所が1か所の計2事務所体制では、合計1,500万円もの資金が供託所に拘束されます。

保証協会加入済みの場合(弁済業務保証金分担金)

主たる事務所(本店):60万円

従たる事務所1か所追加ごと:30万円

保証協会(全宅連ハトマーク、または全日本不動産協会ウサギマーク)に加入している場合は、営業保証金より大幅に少額で済みます。本店+従たる事務所1か所の合計は90万円です。新規開業時に既に60万円を納付済みであれば、追加は30万円です。

ただし、保証協会加入者が新たに従たる事務所を設置する場合、分担金を追加納付するだけでなく、保証協会での「事務所調査」(実地確認を含む場合あり)が行われます。各地域の保証協会によって審査内容・審査時期が異なるため、設置希望時期の3か月以上前から手続きを開始するのが安全です。

支店登記の費用との比較(登録免許税のみ)

項目 費用
支店登記(本店と同管轄法務局) 6万円
支店登記(別管轄法務局の場合) 6万円+9,300円
支配人登記(就任1回) 3万円

登記なしにすることで節約できるのは上記のコストのみです。宅建業法上の費用(保証金・分担金)は変わらず発生します。つまり弁済業務保証金分担金の30万円が最大の出費で、登記費用の節約額6万円は相対的に小さいということです。

宅建業の開業に当たっての注意事項、備えておくべき標識・書類等(岡山県公式)

営業保証金・弁済業務保証金分担金の金額や供託手続きの概要について公式情報として確認できます。

登記なし従たる事務所の申請手続きと免許換えが必要なケース

従たる事務所を設置する際の手続きは、設置場所によって大きく2パターンに分かれます。これだけ覚えておけばOKです。

パターン①:同一都道府県内に設置する場合

このケースでは、現在の知事免許(または大臣免許)のままで手続きが完了します。管轄の都道府県庁に「変更届出書」を提出します。

手続きの流れは以下のとおりです。

  1. 事務所の準備・必要書類の作成
  2. 都道府県庁への「仮受付」(書面審査・事務所形態の確認)
  3. 保証協会への追加分担金の納付手続き(または供託所への追加供託)
  4. 保証協会による事務所調査
  5. 弁済業務保証金分担金納付書を持参して都道府県庁に「本受付」提出
  6. 本受付が受理された段階で、従たる事務所での営業開始が可能

仮受付から本受付までの期間は、保証協会の審査日程にもよりますが、およそ1か月前後が一般的です。仮受付の段階で事務所が「営業できる状態」にあることが求められます。事務用品や備品がまだ揃っていない状態では受理されないケースもあるため、準備が整った段階で予約を入れるようにしましょう。

法務局への変更登記は、登記なしの場合は不要です。

パターン②:他の都道府県に設置する場合(免許換え

これが盲点です。他県に従たる事務所を設置すると、知事免許では対応できず、「大臣免許への免許換え」が必要になります。登記の有無に関係なく、です。

大臣免許への免許換えは新規免許申請と同程度の書類が必要で、審査期間は申請から3か月以上かかるのが通常です。開業希望日の6か月前には手続きを開始することが強く推奨されています。

他県出店を計画する段階で、免許換えの準備を同時に進めることが条件です。この手続き中は、新たに出す従たる事務所での宅建業の営業は開始できません。

また、別の都道府県内に従たる事務所を出す際は、本店側の保証協会と出店先の保証協会の両方でそれぞれ変更届や入会届の手続きが必要になる場合があります。窓口が複数になる分、スケジュール管理が複雑になります。

宅建業免許における本店と支店と従たる事務所(takken-shien.net)

本店・登記済み支店・登記なし従たる事務所それぞれの宅建業法上の取り扱いが整理されています。また、注意すべき名称の使い方についても記載があります。

独自視点:本店の登記場所が落とし穴になる意外なケース

あまり語られることのない重要な問題があります。それは「登記上の本店所在地が、実際に宅建業を営む場所でない場合」のリスクです。

宅建業法では、法人の登記上の本店は、宅建業を営む・営まないにかかわらず、無条件で宅建業法上の事務所として扱われます。これを「本店の強制的事務所化」と呼ぶ実務家もいます。

たとえば、社長の自宅を便宜上の本店として登記している会社が、別の場所でのみ宅建業を営もうとする場合、自宅本店も宅建業の事務所として扱われてしまいます。そうなると、自宅本店にも専任の宅建士と政令使用人の配置が必要になり、さらに保証金も本店分として1,000万円(または分担金60万円)の供託が必要になります。

自宅の一室を本店として登記しているケースでは、宅建業の事務所要件を満たすための「独立性」が確保できないため、そのままでは免許が取得できないことがほとんどです。

解決策として多くとられるのが、宅建業を実際に行う事務所の所在地に本店登記を移転することです。本店移転には登記費用(同管轄内:3万円、別管轄:6万円の登録免許税)がかかりますが、本店+実態のない従たる事務所の二重コストを回避できます。

もう一つ見落とされがちなのが、従たる事務所を設置するつもりがなくても「登記上の支店」が存在する場合です。たとえばメインの事業が別業種で、支店登記を済ませているが宅建業はそこでは行わないというケースでは、その支店は宅建業の事務所に該当しません。宅建業を「実際に営んでいるかどうか」が判断基準だからです。

このように、登記と宅建業法の事務所の概念は一致しない部分が多く、開業・出店前に現在の登記状況を整理してから申請に臨むことが重要です。迷った場合は専門の行政書士に相談するのが時間的にも費用的にも結果的に安上がりになるケースが多いです。

本店と支店のどこを宅建業免許の事務所とするかのルール(takken919.net)

本店の強制的事務所化の仕組みや、支店登記と宅建業法上の事務所認定の関係についてわかりやすく解説されています。