金銭の貸借のあっせん35条で業務停止になる落とし穴

金銭の貸借のあっせんと35条書面で確認すべき実務の要点

「実行時」という2文字だけで、業務停止14日間を食らった業者がいます。

この記事の3つのポイント
📋

金銭の貸借のあっせんとは何か

宅建業者が住宅ローンを紹介・斡旋する場合に、35条書面(重要事項説明書)へ記載が義務付けられる項目です。「あっせん有」と「あっせん無」で義務の範囲が変わります。

⚠️

記載漏れ・記載不備が招く行政処分

金融機関名・融資額・金利・返済方法・保証料・ローン事務手数料の記載が義務です。「実行時」「法定手数料」のような曖昧な表現だけでは35条違反となり、業務停止処分の対象になります。

🔍

ローン特約との関係と非あっせんローンの扱い

あっせん「無」のローンは法律上の記載義務がありませんが、融資利用の特約を適用する場合は記載・説明が必要です。あっせん「有」・「無」にかかわらず特約が付くケースが現在の実務では主流です。

金銭の貸借のあっせんとは何か:35条書面における定義と位置づけ

 

宅地建物取引業法第35条第1項第12号は、「代金又は交換差金に関する金銭の貸借のあっせんの内容及び当該あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」を重要事項として説明することを宅建業者に義務付けています。

この「あっせん(斡旋)」という言葉は、宅建業者が金融機関との間に入り、買主の住宅ローン申込みから資金実行・抵当権設定まで一連のプロセスを主体的にコーディネートする行為を指します。単に「銀行を紹介した」だけでは通常あっせんにはなりません。重要なのは、宅建業者と金融機関の間に書面による提携関係(約定書)があるかどうかという点です。

提携関係が書面で結ばれており、宅建業者が申込みから資金実行・抵当権設定までを保証・サポートするものを「提携ローン」と呼び、これが「あっせん有」の状態です。一方、買主が自ら取引金融機関を選んで申し込む銀行の一般商品ローン、勤務先の社内融資、共済融資などは「あっせん無」(非あっせんローン)になります。

実務でよく誤解されるのが、「買主と一緒に銀行のローンセンターに同行した」「ローン申込みに必要な書類をまとめてあげた」というケースです。これらは切な対応に見えますが、書面による提携関係がない限り「非あっせんローン」の扱いになります。あっせんかどうかは書面の有無で判断する、という点を業務上の基準として押さえておきましょう。

なお、この12号の説明義務は売買・交換の取引に適用されるものです。賃貸借(貸借)の重要事項説明には、この項目は含まれません。売買と賃貸の両方を扱う事業者は、ここを混同しないよう注意が必要です。

ローンの種類 あっせん区分 35条説明義務
提携ローン(書面による提携関係あり) あっせん有 ✅ 義務あり(内容・不成立時の措置)
一般の銀行ローン(個人申込み) あっせん無 ❌ 法律上の義務なし
社内融資・共済融資 あっせん無 ❌ 法律上の義務なし
非あっせんだが融資利用の特約を適用するもの あっせん無 ⚠️ 実務上は記載・説明が必要

金銭の貸借のあっせん35条書面の必要記載事項:金利の「実行時」だけはNG

35条書面に「金銭の貸借のあっせん」の記載が必要になった場合、何を書けば十分なのか。これが実務で最もトラブルが起きやすい部分です。

国土交通省の「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」(いわゆる解釈・運用通知)では、記載すべき内容として「金銭の貸借のあっせんの有無又は貸借の条件(融資を受けるための資格、金利、返済回数、金利の計算方式等)」と明記されています。現場の重要事項説明書書式(FRK・宅建協会・全日・全住協)では、以下の項目が記入欄として設けられています。

  • 融資取扱金融機関名(銀行名・支店名)
  • 融資金額
  • 金利(種類・利率)
  • 借入期間
  • 返済方法(元利均等など)
  • 保証料
  • ローン事務手数料(消費税込みの金額)

大阪府の行政処分事例では、金利の欄に「実行時」とだけ記載した業者が業法第35条第1項違反で業務停止14日間の処分を受けました。「実行時」という記載では、買主が融資条件を判断する目安にならないためです。変動する場合がある旨を断った上で、具体的な数字を記載することが求められます。

ローン事務手数料についても注意が必要です。ローン事務手数料には、①宅建業者側の手数料と②金融機関側の手数料の2種類がある場合があります。この両方を合算した額を記載しなければなりません。「法定手数料」という記載だけではなく、具体的な金額(例:「金○○円(消費税込み)」)を書く必要があります。これを記載しないと、第35条第1項第7号(代金以外に授受される金銭)違反にもなりえます。

💡 大阪府宅地建物取引士センターの処分事例より:「金融機関名、保証料及び利率を具体的に記載していない」という理由で業法35条第1項違反が認定されました。

あっせんの内容だけでなく、「あっせんに係る金銭の貸借が成立しないときの措置」についても説明が必要です。これがいわゆるローン特約(融資利用の特約)の説明に相当し、融資が否認された場合の解除条件・手続き・違約金の有無などを説明します。記載漏れは許されません。この2つはセットで覚えておきましょう。

参考:大阪府宅地建物取引士センターによる実際の行政処分事例(業務停止14日間)

業法第35条第1項違反 – 一般財団法人大阪府宅地建物取引士センター

あっせん「有」と「無」の違い:ローン特約との関係を正確に理解する

「あっせん有と無で、買主の保護に大きな差が出る」と考えている人は多いかもしれません。しかし現在の実務では、この差は以前ほど大きくありません。

原則を整理しておきます。宅建業法上の説明義務が生じるのは「あっせん有」のローン、すなわち宅建業者がお膳立てした提携ローンに限られます。「あっせん無」(非あっせンローン)については、法律上は説明義務がありません。

これが問題になるのは、ローン特約(融資利用の特約)との関係です。あっせんのないローンが否認された場合、もともとローン特約の設定がなければ「手付解除もしくは違約解除」となり、買主は手付金を失うことになります。買主にとって非常に不利な状況です。

ところが、現在の重要事項説明書の書式(FRK等)では、「あっせん無」のローンに対しても「融資利用の特約」を適用する方式が広く運用されています。書式上は「あっせん無」と記載しつつも、融資の承認が得られない場合には無条件解除ができる特約を設ける形です。そのため、「あっせん有」と「あっせん無」でも、契約の解除条件という面では実質的に同じ保護が得られる場合がほとんどです。

ただし、非あっせんローンのうち社内融資や共済融資のような場合は、宅建業者が融資条件の詳細を把握しにくいという実情もあります。これらについては、買主や取扱先へのヒアリングで条件を確認し、特約を適用するか否かを慎重に判断する必要があります。

「あっせん無だから特約なし」という判断は、現在の実務では通用しません。どのローンに融資利用の特約を適用するかを、契約書と重要事項説明書で整合させることが大切です。

参考:あっせん有・無の詳しい解説と実務での書式記入方法

「金銭の貸借のあっせん」とはなにか – イクラ不動産

ローン特約(融資利用の特約)と売買契約書との整合性チェック

35条書面の「金銭の貸借のあっせん」欄の記載内容と、売買契約書に記載するローン特約の内容は、必ず一致していなければなりません。ここがズレると、トラブルの火種になります。

特に確認が必要なのは次の2点です。

融資承認取得期日とは、「この日までにローンの承認が得られなければ契約を解除できる」という期限です。重要事項説明書と売買契約書でこの日付が異なっていると、「どちらが有効か」という解釈上の問題が発生します。

融資の全部または一部について承認が得られない・否認された(減額を含む)場合、買主には無条件解除権が発生し、売主は受領済みの手付金などを無利息で返還しなければなりません。この仕組みを「融資利用の特約(ローン特約)」と呼びます。

最近では売買価格を超える「諸費用ローン」を利用する買主もいます。融資額が売買代金を上回る場合は、売主に対して「何の費用に充当するためにこの金額のローンを借りるのか」を説明した上で特約を適用するべきとされています。これはトラブル防止の観点から、実務上の慣行としても重要です。

また、仮審査(事前審査)での仮承認をもって売買契約を締結するケースが一般的ですが、仮承認後であっても本審査で否認されることは現実にあります。病気・事故による収入変動、他のローン残高の判明など、契約から決済までの間に状況が変わることは珍しくありません。これもローン特約が果たす役割の大切さを示しています。

契約日に重要事項説明書と売買契約書を並べて、各日付・各条件が整合しているか確認する習慣を持つことが、業務停止リスクを防ぐ一番シンプルな方法です。

非あっせんローンで見落としがちなリスク:35条違反の盲点と実務対応

宅建業従事者の中には、「うちは非あっせんローンしか扱っていないから、この項目は関係ない」と思っている人もいるかもしれません。これは大きな誤解です。

確かに、法律上の記載義務は「あっせん有」の場合に限られます(宅建業法35条1項12号)。しかし、実務上は非あっせんローンであっても「融資利用の特約」を適用する場合は、該当ローンの金融機関名・融資金額・金利・借入期間を記載・説明することが現在の書式で求められています。この「事実上の説明義務」を軽視すると、後から紛争に発展するリスクがあります。

もうひとつ注意すべきは「複数融資機関が絡むケース」です。過去の宅建試験(平成9年問40)でも出題されましたが、「融資機関が複数あったため融資条件の説明はしなかった」という行為は宅建業法違反です。融資機関が複数であっても、あっせんに係る金銭の貸借の内容(条件)と、不成立時の措置は必ず説明しなければなりません。

また、非あっせんローンの融資が承認されなかった場合に、どういう扱いになるかを確認しておくことも重要です。ローン特約が適用されていれば無条件解除が可能ですが、特約がない場合は手付解除・違約解除扱いとなり、手付金は戻りません。買主が「聞いていなかった」とクレームを言い出すのはこのタイミングです。説明義務の有無にかかわらず、買主が理解できる形での説明が業務品質として求められます。

リスク管理の面では、融資利用の特約を付ける全てのローンについて、35条書面の記載欄を活用して金融機関名と融資条件を書いておくことが実際の紛争予防になります。記載義務がない情報でも、書いておくことでトラブルを未然に防ぐ効果があります。

参考:国土交通省による宅建業法の解釈・運用の考え方(35条第1項12号関係の解説を含む)

重要事項説明・書面交付制度の概要 – 国土交通省

独自視点:金銭の貸借のあっせんと個人情報保護の関係、現場で起きている新たな問題

「個人情報の関係でローンのあっせんはできない」という声が実務の現場で聞かれることがあります。これは本当に正しい判断なのでしょうか。

全日本不動産近畿流通センターへの事業者向けQ&Aには、「個人情報保護を理由に金融機関側から情報が取れず、あっせん内容を記載できない」というケースが寄せられています。回答では、「個人情報の問題は主として金融機関とその顧客(買主)との間の問題であり、宅建業者が当事者間の仲立ちをする場合は、個人情報保護法の適用が直接あっせん業務を妨げるわけではない」と整理されています。法律上は、宅建業者として必要な説明義務を果たすことが優先されます。

ただし、現実には社内融資や共済融資のように、融資条件の詳細を宅建業者が把握しにくいケースも確かに存在します。そうした場合は、買主本人や勤務先・共済組合に直接ヒアリングを行い、説明書に記載できる範囲の情報を確認する努力が求められます。努力をせずに「情報がないから書けない」とするのは、行政処分のリスクを高めます。

もう一つ、近年増えているのが「フィンテック系ローン・ノンバンク系ローン」を利用する買主への対応です。これらは従来の銀行商品とは仕組みが異なり、提携関係の書面が存在するケースとしないケースが混在します。あっせんに該当するかどうかの判断自体が難しくなっており、「不動産表示に関する公正競争規約」における提携ローンの定義(書面化された提携関係の有無)を参照し、慎重に判断することが必要です。

業務フローとしては、新規の金融機関と取引を開始するたびに「書面による提携関係があるか」を確認し、社内でリスト化して管理することが、あっせん有・無の判断ミスを防ぐ現実的な対策になります。判断に迷う案件は、所属する宅建協会・全日本不動産協会等の無料相談窓口を利用するのも一つの方法です。

参考:事業者向けの実務相談(金銭の貸借のあっせんと個人情報の関係について)

事業者向けの相談|不動産Q&A – 全日本不動産近畿流通センター

図解即戦力 契約書の読み方と作成がこれ1冊でしっかりわかる本