書面による議決権行使と定款・管理規約の正しい関係
書面で議決権を行使すれば、管理規約がなくても「出席扱い」になると思っていませんか?
書面による議決権行使とは何か:区分所有法39条の基本構造
「書面による議決権行使」という言葉は、宅建試験の頻出テーマでもあり、実務でも頻繁に登場するテーマです。しかし、その法的な根拠や仕組みを正確に理解している宅建事業従事者は、意外と少ないのが現実です。
まず、根拠法令から確認しましょう。
区分所有法39条2項には「議決権は、書面で、又は代理人によって行使することができる。」と定められています。これは区分所有者の権利を直接認めた規定であり、管理規約に特別な定めがなくても行使できます。つまり、規約が存在しない管理組合でも、組合員は書面を提出して総会(集会)の議決権を行使できるということです。
ここが非常に重要なポイントです。
「書面による議決権行使=管理規約(定款)への規定が必要」と勘違いしているケースが実務現場では後を絶ちません。しかし法律上は、規約がなくても書面行使は可能です。それどころか、この権利は「規約をもってしても否定することができない」強行規定とされています(前出・法律事務所見解)。管理規約で「書面による議決権行使を禁止する」と定めても、その規定は無効です。強行規定が原則です。
整理すると次のようになります。
| 議決権の行使方法 | 管理規約(定款)の定めの要否 |
|---|---|
| 書面による行使 | 不要(区分所有法39条2項で直接認められる) |
| 代理人による行使 | 不要(同上、ただし代理人の資格制限は規約で可) |
| 電磁的方法による行使 | 必要(規約または集会の決議が別途必要) |
書面行使は「規約の定めなし」で可能、が原則です。
一方で、マンション標準管理規約(単棟型)46条4項では「組合員は、書面又は代理人によって議決権を行使することができる。」とわざわざ明記しています。これは区分所有法の規定と同趣旨の確認的規定であり、新たな義務や条件を付け加えているわけではありません。実務上は、この標準管理規約の条文を根拠に書面行使を運用しているマンションがほとんどですが、それは「規約がなければ書面行使できない」という意味ではありません。
宅建業者として重要事項説明を行う際、管理規約の内容を誤って解釈し購入予定者に「書面での議決権行使は管理規約で認められている場合のみ可能」と説明してしまうと、説明義務の履行として不十分になりかねません。区分所有法の正確な理解が土台として求められます。
区分所有法39条の詳細解説(書面・電磁的方法・代理人による議決権行使について)
書面による議決権行使と電磁的方法の違い:定款・規約が必要になる場面
書面行使と電磁的方法による行使は「似て非なるもの」です。意外ですね。
区分所有法39条2項で認められているのは、あくまで「書面」と「代理人」による行使の2種類です。メールやウェブシステムなどを用いた「電磁的方法」による議決権行使は、同条3項に定めがあり、「規約または集会の決議」による別途の根拠が必要とされています。管理規約にも集会決議にも定めがなければ、電磁的方法での議決権行使は認められません。
これは実務上、大きな違いをもたらします。
たとえば、マンション管理組合がコロナ禍を経て「今後は総会の書面投票に加えてメール投票も認めたい」と考えた場合、書面投票はそのまま継続できますが、メール投票を認めるためには必ず管理規約の改正または総会決議が必要になります。メール投票だけで十分だと思い込み、書面投票の仕組みを廃止してしまうと、規約が改正されるまでの間は電磁的方法での行使が法的に無効になるリスクがあります。
電磁的方法が必要な場面は次のとおりです。
- 総会への参加を紙の議決権行使書ではなくメールやウェブフォームで受け付けたい場合
- 管理組合法人がオンラインで組合員の意思を集約したい場合
- IT総会(WEB会議システム等を活用した総会)に合わせて電磁的方法を導入したい場合
なお、2025年10月に改正・公表されたマンション標準管理規約(令和7年改正版)でも、電磁的方法が「利用可能な場合」と「利用可能ではない場合」の2種類の規定例が用意されています。電磁的方法を利用するためには規約にその旨を明示することが前提とされており、国土交通省もこの区別を重視していることがわかります。
宅建業者として売買仲介の際に重要事項説明を行うときは、「対象マンションの管理規約が電磁的方法による議決権行使を認めているかどうか」を事前に確認することが一つの実務チェックポイントになります。
マンション管理における書面又は代理人による議決権の行使について(弁護士解説)
書面による議決権行使が「出席みなし」になる条件:定足数への影響を正確に把握する
書面で議決権を行使すれば、必ず「出席扱い」になるわけではありません。これは多くの宅建事業従事者が見落としがちなポイントです。
「出席みなし」になるかどうかは、管理規約の定め方によります。
マンション標準管理規約(単棟型)47条6項では、「書面または代理人によって議決権を行使する者は出席組合員とみなす」と明記されています。この規定があることで、書面投票者も総会の定足数にカウントされます。標準管理規約に準拠しているマンションであれば問題ありませんが、それ以外の独自規約を持つマンションでは要注意です。
具体的なリスクを考えてみましょう。
たとえば独自規約を持つ管理組合が「集会は区分所有者の半数以上が本人または代理人によって出席しなければならない」と定めている場合、書面投票者は「本人出席」でも「代理人出席」でもないため、定足数のカウントに含まれない可能性があります。この場合、書面投票を多数集めても、実際の出席者が半数に届かなければ総会自体が不成立となり、決議が無効になります。
つまり、書面投票を集めただけでは定足数を満たせないケースがあります。
これは総会運営実務において非常に深刻な問題です。仮に大規模修繕工事の承認を得るための総会で、書面投票を大量に集めたにもかかわらず定足数不足で総会が流会となれば、工事契約のスケジュールに大きな支障をきたします。
宅建業者が分譲マンションの重要事項説明を行う際は、管理規約に「書面投票者を出席とみなす規定があるかどうか」を確認したうえで、管理組合の総会運営上の注意点として買主に情報提供できると、より質の高い説明ができます。
2025年10月に改正されたマンション標準管理規約では、普通決議の定足数が「議決権総数の半数以上」から「過半数」に見直されました。また特別決議でも新たに出席要件が設けられました。2026年4月施行の改正区分所有法に合わせた内容ですので、最新の改正点を把握しておくことが宅建業者には求められます。
令和7年マンション標準管理規約の主な改正点(定足数・特別決議要件の変更を含む詳細)
代理人による議決権行使と管理規約の定め方:書面行使との比較でわかる実務の落とし穴
書面による議決権行使と並んでよく混同されるのが「代理人による議決権行使」です。
区分所有法は、代理人の資格について制限を設けていません。法律の条文のみで考えれば、誰でも代理人になれることになります。しかし、実際には管理規約で代理人の資格を制限することが一般的です。これは「規約で禁止できない書面行使」と「規約で制限できる代理人行使」という非対称な関係として理解しておくことが重要です。
マンション標準管理規約46条5項では、代理人になれる者の範囲を次の3者に限定しています。
- その組合員の配偶者または一親等の親族(事実婚を含む)
- その組合員の住戸に同居する親族
- 他の組合員
この制限の趣旨は、総会の運営が外部者によって攪乱(かくらん)されることを防ぎ、区分所有者全員の利益が不当に害されるのを防止することにあります。実務上は、管理会社や不動産会社のスタッフが代理人として総会に参加しようとするケースもあり、管理規約を確認せずに出席した場合は代理権が無効と判断されることもあります。
一方、書面による議決権行使には「誰が書面を提出できるか」という制限はなく、あくまでも区分所有者本人が賛否を記載した書面を提出する仕組みです。代理人行使では「代理人が当日の判断で賛否を決める」のに対し、書面行使では「区分所有者本人が事前に賛否を決めて提出する」という点でも、実質的な意思決定プロセスが異なります。
書面行使と代理人行使の違いは次のように整理できます。
| 項目 | 書面による行使 | 代理人による行使 |
|---|---|---|
| 賛否の決定者 | 区分所有者本人 | 代理人(本人から委任された範囲内) |
| 管理規約の定め | 不要(法律で直接保障) | 不要(ただし資格制限は規約で可) |
| 提出のタイミング | 総会前に事前提出 | 当日出席 |
| 規約による禁止 | 不可(強行規定) | 資格制限は可能 |
この違いを把握しておくと、買主から「管理組合の総会に出られない場合はどうすればいいですか?」と聞かれたときに、書面行使と委任状(代理人行使)の違いを的確に説明できます。知っていると買主からの信頼が格段に上がります。
宅建業者が押さえる実務チェックリスト:書面による議決権行使と管理規約の確認ポイント
宅建業者として分譲マンションの売買仲介を行う際には、書面による議決権行使に関連するいくつかの確認事項があります。これは独自視点ですが、重要事項説明の「品質」に直結する内容です。
多くの宅建業者は管理規約の「管理費・修繕積立金」や「ペット規定」には注意を払いますが、「総会の議決権行使の方法」については見落としがちです。しかしこの部分は、買主が将来の管理組合運営に参加するうえで直接関係する重要な事項です。
確認すべき主なポイントは次の5点です。
① 書面行使を「出席みなし」とする規定があるか
管理規約46条4項・47条6項に相当する規定がある場合、書面投票者も定足数に算入されます。この規定の有無は総会成立のしやすさに直結します。
② 電磁的方法による議決権行使が認められているか
メールやウェブでの投票が認められているかどうかを確認します。特に近年リモートワーク世帯や在外邦人が区分所有者となるケースが増えており、電磁的方法の有無は実用性に大きく影響します。
③ 代理人の資格制限の内容
「他の組合員のみ」「配偶者・同居親族・他の組合員」など、制限の内容はマンションによって異なります。勤務先が遠方の場合など、代理人の選定に制約が生じることがあります。
④ 最新の管理規約改正年月
2025年10月に標準管理規約が大幅改正されており、2026年4月の区分所有法改正施行に対応した内容かどうかを確認します。古い規約のままでは改正区分所有法と矛盾する条項が残る可能性があります。
⑤ 国内管理人の定めの有無
2026年4月施行の改正区分所有法で新設された「国内管理人制度」(法6条の2)に関する規定が管理規約に盛り込まれているかどうかも確認が必要です。外国人・在外邦人の区分所有者がいる場合は特に重要になります(月刊不動産2026年1月号より)。
総会の定足数は、議決権総数の半数以上から「過半数」に改正されました。これは決して「ゆるくなった」のではなく、「半数以上=50%以上」から「過半数=50%超」への厳格化ともいえます。
管理規約のチェックは、単に記載内容を読むだけでなく、「その規定が何を意味するのか」を法律の根拠と合わせて理解することが重要です。特に書面による議決権行使は、区分所有法39条2項で直接保障された権利であるため、管理規約に記載がなくても行使可能という大前提を常に念頭に置いておくことが、宅建業者としての正確な知識につながります。
全日本不動産協会「月刊不動産」:本年4月施行!改正マンション標準管理規約ポイント解説(宅建業者向け実務解説)
国土交通省:令和7年マンション標準管理規約の見直しに関する検討資料(PDF)

不動産登記の実務と書式: 書面申請・本人確認・登記原因証明情報
