複合用途型マンション標準管理規約の構造と実務ポイント
店舗部分の区分所有者は、住宅用エレベーターを「一切使えない」規約でも、全体修繕積立金の負担義務からは逃れられません。
複合用途型マンション標準管理規約とは何か:単棟型との根本的な違い
「住宅と店舗が入っているマンション=複合用途型」というのは、半分しか正しくありません。国土交通省が公表している標準管理規約(複合用途型)のコメント全般関係では、対象を「住居・店舗が混在し、かつ一部共用部分が存在する単棟マンション」と明確に絞り込んでいます。つまり、店舗が数区画入っていても住宅一部共用部分・店舗一部共用部分が存在しない場合は、単棟型または団地型の標準管理規約を参考にするよう国交省コメントは促しています(コメント④)。
これが実務で混乱を招きやすいポイントです。宅建事業者が仲介や重要事項説明を行う際、「低層に店舗があるだけ」という先入観で単棟型の規約をベースに説明してしまうケースがあります。一部共用部分の有無を確認しないまま進めると、管理費・修繕積立金の説明内容が実態と食い違い、後日クレームや損害賠償トラブルにつながりかねません。確認が先決です。
複合用途型が対象とする具体的なマンション形態は、「低層階に店舗、上階に住宅という形で住宅が主体のもの」です。大規模再開発型のタワーマンション(住宅500戸以上+店舗30戸以上といった規模)は本来の対象外ですが、他に適切なモデル規約がないため、実際にはそうした物件でも複合用途型が活用されています。一部調査(大和ライフネクスト)では、一部共用部分を持つ55件のマンションのうち、100戸以上の物件が全体の約49%を占めており、標準規約が想定外の大規模物件にも広く使われている実態が明らかになっています。
| 規約の種類 | 対象マンション | 一部共用部分の有無 |
|---|---|---|
| 単棟型 | 1棟・住宅のみ | なし |
| 団地型 | 複数棟・同一敷地 | 棟ごとに設定可 |
| 複合用途型 | 1棟・住宅+店舗 | あり(必須要件) |
マンション標準管理規約(複合用途型)の原文は国土交通省の公式ページで確認できます。規約の全文と同コメントが無償公開されており、実務の一次資料として活用できます。
国土交通省|マンション標準管理規約(令和7年10月17日改正・単棟型・団地型・複合用途型)
複合用途型マンション標準管理規約の共用部分:3区分の構造を正確に把握する
複合用途型の最大の特徴は、共用部分が3つに区分されている点です。具体的には、全体共用部分・住宅一部共用部分・店舗一部共用部分の3種類であり、それぞれ「誰が所有するか」が標準管理規約第8条・第9条で明確に定められています。全体共用部分と敷地は区分所有者全員の共有ですが、住宅一部共用部分は住戸部分の区分所有者のみの共有、店舗一部共用部分は店舗部分の区分所有者のみの共有です。
実際にどの設備が一部共用部分に設定されているかというと、調査によればエレベーターや機械式駐車場が多い傾向にあります。店舗利用者が使わない住宅用エレベーターを「住宅一部共用部分」に設定することで、費用負担の不公平感を解消する狙いがあります。ゴミ置場については、店舗側が産業廃棄物として独自処理が必要なため、店舗一部共用部分に設定されることも多い状況です。
ここで宅建事業者が注意すべき点があります。「一部共用部分はその区分所有者だけの問題」と安易に片付けるのは危険です。標準管理規約は、一部共用部分を含めて「全体で一元的に管理する」という方針を取っています(コメント⑤)。一部管理組合は設置せず、全体の管理組合が一括管理するのが原則です。したがって、店舗区分所有者も全体総会の組合員として議決権を持ち、住宅側の修繕議案にも関わることになります。利害関係が複雑になりやすく、重要事項説明で触れておく必要があります。
一部共用部分に関する規約変更については、標準管理規約第51条8項で別途条件が設けられています。全体の利害に関係しない変更の場合、当該一部共用部分を共用すべき組合員の4分の1を超える反対がある場合には決議できないという特別な要件があります。単棟型にはない複雑さです。
大和ライフネクスト・マンションみらい価値研究所|「複合用途型マンションとはどのようなマンションか」一部共用部分の実態調査(2020年)
複合用途型マンション標準管理規約の区分経理:管理費・修繕積立金は最大6口座で管理される
区分経理は複合用途型の実務でもっとも理解が浅くなりがちな部分です。標準管理規約(複合用途型)第32条では、費用を以下の6つに分けて経理することが義務付けられています。
- 全体管理費会計
- 住宅一部管理費会計
- 店舗一部管理費会計
- 全体修繕積立金会計
- 住宅一部修繕積立金会計
- 店舗一部修繕積立金会計
単棟型の「管理費と修繕積立金の2口座」という感覚で複合用途型を扱うと、会計区分の説明を誤るリスクがあります。実際の試験(管理業務主任者令和元年問32改題)でも「4つに区分経理する」という誤りを誘う選択肢が出題されており、理解が浅いと引っかかります。6区分が原則です。
費用の按分方法については、標準管理規約第25条2項に「住戸部分のために必要となる費用と店舗部分のために必要となる費用をあらかじめ按分した上で負担額を決定する」と定められています。ただし、按分の基準は明確に法定されているわけではなく、費用項目ごとに発生原因を勘案して振り分けることとされています。これが管理組合内での住宅側・店舗側のトラブルになりやすい部分でもあります。
収支決算で余剰が生じた場合、その余剰は「全体・住宅一部・店舗一部それぞれ翌年度の対応する費用に充当する」というルールも定められています(標準管理規約複合用途型第66条相当)。余剰分を全体管理費会計から住宅側に流用するような会計操作は規約違反になります。
修繕積立金は取り崩し目的も規約で制限されます。全体修繕積立金は全体共用部分の計画修繕、住宅一部修繕積立金は住宅一部共用部分の計画修繕と、それぞれ用途が分けられています。令和7年改正では、建替えや敷地売却だけでなく「更新・除却」などの新たなマンション再生手法の調査・設計費にも修繕積立金を充当できる旨が明確化されました。活用の幅が広がっています。
note|マンション標準管理規約(複合用途型)第32条(区分経理)の解説
複合用途型マンション標準管理規約の住宅部会・店舗部会:独立管理組合との決定的な違い
複合用途型の規約を初めて扱う宅建事業者が混同しやすいのが、「部会」と「管理組合」の関係です。標準管理規約(複合用途型)第60条では、管理組合の内部機関として住宅部会と店舗部会を設置することが定められています。しかしこれはあくまで管理組合内の「部会」であり、独立した管理組合ではありません。
部会の役割は、住宅一部共用部分または店舗一部共用部分に係る管理の執行や費用負担に関して、各部の意見を集約し総会に諮ることです。つまり部会単独では最終決定ができず、重要事項は全体総会の決議が必要になります。部会の運営については部会運営細則で別途定めることが標準管理規約第60条2項で定められています。
ただし実態は規約の建前通りに進まないことも少なくありません。大規模タワーマンションの事例(東京都・住宅500戸以上・店舗30戸以上)では、住宅部会総会・店舗部会総会での議案数が全体総会より多く、日常の管理運営は各部会でほぼ完結しているケースも報告されています。全体総会は決算報告程度で終了するケースもあります。標準規約の想定を超えた運用が現場では進んでいます。
一方、標準管理規約が制定される以前に建てられた古いマンションでは「住宅のみで管理組合を組成し、店舗側は管理組合に含まれていない」という事例も存在します。この場合、建物全体の修繕が必要になったとき、住宅管理組合が各店舗所有者と個別に交渉して費用負担を求めるしかなく、合意形成が非常に困難になります。仲介対象物件の管理形態確認は必須です。
複合用途型マンション標準管理規約の令和7年改正:宅建事業者が押さえるべき3つの変更点
2025年10月17日、国土交通省は令和7年改正版のマンション標準管理規約を公表しました。2025年5月に成立した改正区分所有法(2026年4月1日施行)に合わせた大規模な見直しです。複合用途型にも直接影響が及ぶ改正ポイントが含まれています。
第一の変更点は、総会決議の多数決要件の緩和です。これまで「特別決議」には議決権総数の3/4以上の賛成が必要でしたが、改正後は「出席者の多数決による特別決議」が可能になりました。また、バリアフリー化に係る共用部分変更の決議要件は3/4から2/3へと引き下げられています。複合用途型では住宅・店舗間の利害が錯綜しやすく、従来は合意形成に難航していた議案も通りやすくなる見込みです。
第二の変更点は、建替え等の再生手法の多様化です。従来の「建替え・敷地売却」に加え、「更新・除却・取壊し」という新たな再生手法が創設されました。老朽化した複合用途型マンションで建替えが難しい場合に、新たな出口戦略として活用できます。この再生局面での修繕積立金の使途も明確化されており、「調査・設計段階の費用」にも積立金を充当できるようになっています。
第三の変更点は、所在不明区分所有者の取り扱いです。所在や連絡先が不明な区分所有者を総会決議の計算から除外できる手続きが新設されました。複合用途型では店舗区分所有者が法人の場合も多く、法人解散等で連絡が取れなくなるケースがあります。この制度を活用することで、そうした不明区分所有者に阻まれた議決の停滞を解消できます。
なお、2026年3月31日までに招集手続を開始した総会で規約変更を行う場合は、改正法施行日(2026年4月1日)以降に効力を発するという旨を決議に含める必要があります。日程管理に注意が必要です。
複合用途型マンション標準管理規約の独自視点:建替え・再生局面での合意形成リスクを早期に把握する
宅建事業者向けに、検索上位の記事ではあまり触れられていない視点を提示します。複合用途型マンションが将来直面する最大のリスクは、「建替えや敷地売却の局面で住宅・店舗間の合意が取れない」という問題です。
単棟型マンションでは区分所有者全員が一体として判断しますが、複合用途型では住宅側と店舗側で将来の展望や資産価値への考え方が根本的に異なることがあります。住宅区分所有者は「建替えによる資産価値の維持」を優先しがちですが、店舗区分所有者にとっては立退きや業態変更の強制に直結するため、反対インセンティブが強く働きます。
重要なのは、複合用途型には団地型のような「各棟ごとに異なる判断をする」という仕組みがない点です。建替えや敷地売却は全体の一つの決議で判断しなければなりません。住宅部会・店舗部会それぞれで承認し、さらに全体総会でも可決する必要があります。調査データでは、大規模複合用途型マンションの管理費会計の収支比率が住宅・店舗で大きく異なるケースも確認されており、その構造的な利害の違いは将来にわたって残ります。
令和7年改正で建替え等の多数決要件が「4/5→3/4」に緩和されたことは、こうしたデッドロック状態を打開する助けになります。ただし、店舗区分所有者の反対が多数を占めるケースでは、依然として合意形成が難航する可能性が残ります。
宅建事業者として、複合用途型マンションを扱う際には「将来の建替え等の局面でどういう利害構造があるか」を購入希望者に丁寧に説明することが求められます。特に投資目的で店舗区画を取得しようとする顧客に対しては、全体の意思決定プロセスにどのように参加できるかを含めて説明することが、後々のトラブル防止につながります。購入前に確認すべき事項の一つです。
管理規約の内容確認には、国土交通省が公開している「マンション管理情報サービス」も活用できます。標準管理規約の最新版が無償でダウンロード可能です。