被災マンション法改正で宅建実務が変わる全知識

被災マンション法の改正で変わる区分所有再生の実務

政令指定がなければ、被災マンション法はどの大地震でも適用されません。

🔑 この記事の3つのポイント
📅

令和8年4月1日施行

令和7年5月成立の改正法が2026年4月から施行。被災区分所有法の多数決要件・決議可能期間が大幅に変わります。

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多数決要件が「3分の2」に緩和

従来「5分の4」だった被災マンションの建替え・敷地売却等の決議要件が、一律「3分の2」に引き下げられます。

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決議可能期間が1年→3年に延長

被災後の敷地売却・取壊し決議ができる期間が、従来の「1年」から「3年」へ延長。再延長規定も新設されました。

被災マンション法の改正が必要になった背景と宅建実務への関係

 

被災マンション法(正式名称:被災区分所有建物の再建等に関する特別措置法)は、1995年の阪神・淡路大震災を受けて制定された法律です。その後、東日本大震災を契機に2013年に改正され、今回の令和7年改正(令和8年4月1日施行)で再び大きく見直されました。

宅建事業従事者にとって、この法律は「被災後の特殊な場面に使う法律」として認識されがちです。しかし、被災マンションの取引や敷地売却後の土地仲介、さらには平常時における耐震性不足マンションの売買仲介においても、この法律の正確な理解が求められる場面があります。

今回の改正の背景には、「2つの老い」と呼ばれる深刻な問題があります。建物の老朽化と居住者の高齢化が同時進行し、全国のマンションストックは2024年末時点で713万戸に達しています。国土交通省の試算では、築40年超のマンションが今後20年で約425万戸に急増する見込みです。東京ドームのグラウンド面積(約1.3万㎡)に換算するとおよそ33万個分の建物面積に相当するスケールで、老朽化問題が社会インフラに影響を与え始めています。

つまり結論は、被災マンション法の改正は「大地震が起きたときだけの話」ではないということです。

参考情報:法務省による改正概要の公式ページ(令和7年法律第47号の詳細)

法務省:老朽化マンション等の管理及び再生の円滑化等を図るための建物の区分所有等に関する法律等の一部を改正する法律について

被災マンション法の適用対象となる条件を正しく理解する

被災マンション法が適用されるには、まず「政令で定める災害」である必要があります。どんな大きな地震や水害でも、政令指定がなければこの法律は機能しません。これは宅建事業従事者が最初に押さえるべき大前提です。

適用対象となるのは次の2つのケースです。

  • 全部滅失マンション:建物が全て失われた場合。この場合、区分所有法は適用できず、敷地共有者の関係のみが残ります。
  • 大規模一部滅失マンション:建物価格の「2分の1を超える」部分が滅失した場合。ここでいう「2分の1超」というのは、マンション1棟全体の評価額の半分以上が失われた状態を指します。

全部滅失の場合は区分所有法が適用できないため、通常は敷地共有者「全員の同意」がなければ再建も売却もできません。被災マンション法があることで、5分の4(改正後は3分の2)の多数決で動けるようになる、それが最大のポイントです。

大規模一部滅失の場合は区分所有法が適用できますが、区分所有法には「復旧」と「建替え」の規定しかありません。被災マンション法が適用されることで、「敷地の売却」「建物取壊し後の敷地売却」「建物の取壊し」という3つの選択肢が加わります。これは実務上かなり重要です。

この情報を得た読者がメリットを得やすいポイントとしては、被災後の取引相談を受けた際に「今どの段階にあるか」を素早く判断するフローを把握しておくことが挙げられます。政令指定の有無→全部滅失か一部滅失か→適用法律の確認、この3ステップで整理すると判断ミスを防ぎやすいです。

被災状況 適用法 主な意思決定手段
全部滅失(政令指定あり) 被災マンション法のみ 敷地共有者集会(改正後:3/2以上)
大規模一部滅失(政令指定あり) 区分所有法+被災マンション法 管理組合集会(選択肢が拡大)
小規模一部滅失 区分所有法のみ 通常の管理組合集会
政令指定なし 区分所有法のみ 通常の管理組合集会

参考:旭化成マンション建替え研究所による被災マンション法の基礎解説

被災マンション法とは?法律の内容や被災マンション再生への効果を解説(旭化成マンション建替え研究所)

令和7年改正の核心:多数決要件が「5分の4」から「3分の2」に緩和された意味

今回の改正でもっとも注目すべき変更点が、多数決要件の緩和です。改正前は、被災マンションの建替え・敷地売却等の決議に「5分の4以上」の賛成が必要でした。これが改正後は「3分の2以上」に引き下げられています。

数字で比較すると、たとえば100戸のマンションで考えてみましょう。改正前は80戸以上の賛成が必要でしたが、改正後は67戸以上で足ります。反対できる人数が最大20人から33人に増えたとも言えますが、裏を返せば「多数派形成のハードルが下がった」ということです。被災後の混乱した状況下で、所有者の約3分の2の合意を得るのと、5分の4の合意を得るのでは、実務上の難易度がまったく違います。

厳しいところですね。被災後の連絡不能・所在不明問題も考えると、従来の5分の4要件は現実的に機能しにくい面がありました。

改正後の具体的な多数決要件をまとめると次のとおりです。

  • 🏗️ 建替え決議:3分の2以上(改正前:5分の4以上)
  • 🏚️ 敷地売却決議:3分の2以上(改正前:5分の4以上)
  • 🔨 建物取壊し敷地売却決議:3分の2以上(改正前:5分の4以上)
  • 🧱 取壊し決議:3分の2以上(改正前:5分の4以上)
  • 🔧 変決議等:3分の2以上(改正前:4分の3以上)

さらに改正により、「所在不明の区分所有者を決議の分母から除外できる制度」も導入されました。裁判所の決定を経ることが条件ですが、これにより連絡が取れない所有者が事実上の拒否権を持つ状況が解消されます。宅建事業従事者としては、被災マンションの再建・売却手続きが進みやすくなったことで、関連する取引機会も増加すると考えられます。

参考:区分所有法改正の詳細解説(不動産売買の法律アドバイス)

区分所有法の改正について|不動産売買の法律アドバイス(三井不動産レジデンシャルサービス)

決議可能期間が「1年」から「3年」へ:宅建業者が見落としやすい期限リスク

もうひとつの重要な改正が、決議可能期間の延長です。つまり3年が基本です。

改正前は、被災後の敷地売却決議・建物取壊し敷地売却決議・取壊し決議ができる期間が「政令施行日から1年以内」に限定されていました。実はこの1年という制約が、実務上もっとも問題視されていた部分です。

被災後を想像してください。がれきの撤去、仮住まいの確保、生活の立て直し——そうした混乱の中でわずか1年以内に法律上の決議を完了させるのは、現実的に非常に困難です。東日本大震災の際にも、この期間の短さが被災地の復興を遅らせる一因になったとされています。

改正後は、決議可能期間が以下のように変わります。

  • ⏱️ 基本期間:政令施行日から3年以内(改正前:1年以内)
  • 🔄 再延長:状況に応じて再延長も可能(改正前:規定なし)

宅建事業従事者にとっての実務的影響は、「被災後3年間は敷地売却等の決議が動く可能性がある」という点を念頭に置いた、中長期的な物件・顧客対応の必要性です。

敷地売却決議が成立すれば、その後は「マンション敷地売却事業」として、不動産会社が買受人となる手続きが始まります。宅建業者が買受けの一端を担う場面もあり得るため、改正後のスケジュール感を把握しておくことが、商機の見逃しを防ぐことにもつながります。

また期限に関しては、招集通知のルールも注意が必要です。敷地売却・取壊し・建物取壊し敷地売却の各決議を目的とする集会を開くには、集会の日の2か月前までに区分所有者に招集の通知を送らなければなりません。通常の総会と比べても通知期間が長いため、期限から逆算して早期に行動する必要があります。

宅建事業従事者が今すぐ確認すべき実務チェックポイント

令和8年4月1日の施行を前に、宅建事業従事者として具体的に何を確認・準備すべきかを整理します。

① 所管物件・担当物件の被災リスクを棚卸する

管理している物件や仲介中の物件が「耐震性不足」「築40年超」に該当する場合、今後の災害時には改正被災マンション法が適用される可能性があります。特定行政庁による要除却認定を受けたマンションでは、耐震性不足として建替え決議要件の緩和(4分の3以上)が適用されるため、平常時でも影響が出てくる点を把握しておきましょう。

重要事項説明書の確認事項を更新する

改正区分所有法施行後、既存の重要事項説明の記載が改正内容に対応しているか確認が必要です。マンション管理適正化法の改正に伴い、管理業者管理者方式が導入されている場合は購入希望者への説明が新たに義務化されています。

③ 管理規約との整合性チェック

令和7年10月に改正されたマンション標準管理規約に準じた管理規約かどうかも確認が必要です。改正区分所有法施行後、区分所有法と抵触する管理規約の定めは無効になります(マンション関連改正法附則2条3項)。いいことですね——というわけにはいかず、規約が無効になれば管理組合の意思決定が混乱するリスクがあります。

団地型マンションの場合は特に注意

改正法では団地型マンションの再生決議要件も見直されています。団地全体の一括建替え決議において、従来は全体要件が「区分所有者及び議決権の5分の4以上」かつ「各棟で3分の2以上」でしたが、改正後は全体要件が「3分の2以上」に緩和され、各棟要件は「3分の1超の反対がない場合に一括建替え可」という仕組みになりました。これは条文の読み替えが必要な部分なので、解釈ミスに注意が必要です。

解釈が複雑な場合は、早めに管理士や弁護士など専門家に確認を取ることが、重要事項説明でのトラブル回避につながります。

参考:TMI総合法律事務所による改正区分所有法・被災区分所有法の詳細解説

改正区分所有法~区分所有建物の再生の円滑化~(TMI総合法律事務所)

【独自視点】被災マンション法の改正が「平常時の取引」にも影響する理由

被災マンション法の改正は「災害が起きたときの話」と思われがちですが、実は平常時の宅建実務にも無視できない影響があります。これは検索上位の解説記事ではあまり触れられていない観点です。

耐震性不足マンションの売買仲介への影響

区分所有法の改正により、耐震性不足・外壁剥落リスク・給排水管腐食などに該当するマンションでは、建替え等の決議要件が緩和(5分の4→4分の3)されます。これは平常時に適用される区分所有法の話です。

売買仲介において、該当するマンションの区分所有権を取得する買主に対し、「建替え決議が通りやすくなっている可能性」を伝えることは、重要事項として求められる場面が増えるでしょう。知らずに説明を省略すると、後日のクレームや損害賠償リスクにつながりかねません。

取壊し・一棟リノベーション決議制度の新設による市場の変化

改正により、「建物取壊し後の土地売却」や「一棟リノベーション(全面更新)」を多数決で実施できる新制度が創設されました。これまで全員同意が必要だったために事実上不可能だった「古い区分所有建物の更地化・一括リノベ」が、5分の4(耐震等要件該当時は4分の3)の賛成で実現できるようになります。

これは地場の宅建業者にとっては、大きな商機になる可能性があります。周辺エリアに老朽マンションが多い場合、取壊し後の土地や一棟リノベ後の物件を扱う機会が今後増える可能性があります。

国内管理人制度の創設と説明義務の追加

改正法により、国外居住の区分所有者は国内に連絡窓口(国内管理人)を置く仕組みが新設されました。外国人投資家や在外邦人が区分所有権を取得する際、宅建業者には「国内管理人制度の内容」と「管理規約上の義務の有無」を説明する業務が加わります。海外投資家を顧客に持つ仲介業者にとっては、見落としやすい義務追加です。

つまり「被災マンション法改正=災害時の話」という思い込みが、実務上のリスクの見逃しにつながります。この改正法はマンション関連法を一括改正するもので、平常時の仲介実務にも直結する改正内容が多数含まれています。

参考:全日本不動産協会の月刊誌による「改正マンション標準管理規約」のポイント解説(宅建業者向け実務情報)

月刊不動産 2026年1月号:「改正マンション標準管理規約」ポイント解説(全日本不動産協会)

一問一答 被災借地借家法・改正被災マンション法 (一問一答シリーズ)