信託の登記と登録免許税の税率・計算・軽減措置完全ガイド

信託の登記と登録免許税:税率・計算・軽減措置のポイント

信託終了時の契約書に一文書き忘れると、登録免許税が5倍の2%になります。

この記事の3つのポイント
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信託設定時の所有権移転登記は非課税

信託財産の所有権移転は「形式的な移転」として扱われるため、登録免許税法7条1項1号により登録免許税は課税されません。かかるのは信託登記分(土地0.3%・建物0.4%)のみです。

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信託終了時は契約書の記載内容で税率が変わる

帰属権利者が委託者の相続人であっても、信託契約書に「委託者の地位の承継」に関する適切な記載がなければ、0.4%ではなく2%の登録免許税が課される危険があります。

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土地の信託登記の軽減措置は令和11年3月31日まで延長

土地の所有権信託登記に係る登録免許税は本則0.4%ですが、令和8年度税制改正により令和11年(2029年)3月31日まで0.3%に軽減されることが決定しました。

信託の登記とは何か:登録免許税が課される仕組みの基本

 

不動産を信託財産とする場合、受託者へ所有権が形式的に移転するため、登記手続きが必要になります。信託法14条および34条は、不動産を信託財産とする際に登記による公示を義務付けており、これを怠ると委託者の債権者から差押えを受けるリスクがあります。

登記には「所有権移転登記」と「信託登記」の2種類があります。大切なのは、これら2つで登録免許税の取り扱いがまったく異なるという点です。

信託を原因とする所有権移転登記については、登録免許税が非課税となります(登録免許税法7条1項1号)。理由は、受託者への所有権移転があくまで財産管理上の「形式的な移転」であり、実質的な経済的権利は受益者のもとに残るからです。売買で所有権が移転する通常の取引とは本質的に性質が異なります。

一方、信託登記(信託目録への記載)については課税対象となります。これが登録免許税の計算において核心となる部分です。

税率は以下のとおりです。

登記の種類 課税標準 税率
信託設定時:所有権移転登記 非課税
信託設定時:信託登記(土地 固定資産税評価額 0.3%(※軽減措置)
信託設定時:信託登記(建物) 固定資産税評価額 0.4%
受益者変・契約変更:変更登記 不動産1個につき1,000円
受託者変更:所有権移転登記 非課税
信託不動産の売却:所有権移転登記 固定資産税評価額 土地1.5%・建物2%
信託登記抹消 不動産1個につき1,000円
信託終了:所有権移転登記(原則) 固定資産税評価額 2%
信託終了:所有権移転登記(特例) 固定資産税評価額 0.4%

宅建事業従事者として顧客に説明を行う際、「信託登記をするには所有権移転分も含めてすべて課税される」と誤って案内してしまうケースがあります。設定時の所有権移転登記は非課税という点は、必ず正確に把握しておきましょう。

土地の信託登記における0.3%の軽減措置は租税特別措置法72条に基づく時限措置であり、令和8年度税制改正により令和11年(2029年)3月31日まで3年間延長されることになりました(金融庁令和8年度税制改正要望より)。期限が近づいたタイミングで顧客へ案内できると、信頼性が高まります。

参考リンク(土地の信託登記における登録免許税の軽減措置の期限・法令根拠)。

法務局:土地の所有権の信託の登記に係る登録免許税の軽減措置について

信託の登記における登録免許税の具体的な計算方法

計算の仕組み自体はシンプルですが、土地と建物で税率が異なる点を混同しないことが重要です。

登録免許税の計算式は次のとおりです。

  • 課税標準額=固定資産税評価額(1,000円未満切り捨て)
  • 登録免許税額=課税標準額 × 税率(100円未満切り捨て)

具体例で見てみましょう。

【例①:信託設定時】固定資産税評価額:土地5,000万円・建物1,000万円の場合

  • 所有権移転登記:非課税(0円)
  • 信託登記(土地):5,000万円 × 0.3%=15万円
  • 信託登記(建物):1,000万円 × 0.4%=4万円
  • 合計:19万円

イメージとして、都内の一般的な戸建て(土地5,000万円・建物1,000万円)を信託財産にした場合、登録免許税だけで約19万円かかるということです。これに司法書士報酬(10万〜20万円が相場)が加わるため、初期費用として合計で30万円超を見込んでおく必要があります。

【例②:信託された不動産の売却時】固定資産税評価額4,000万円の土地を売却する場合

  • 所有権移転登記(土地):4,000万円 × 1.5%(軽減措置適用)=60万円
  • 信託登記抹消:1,000円
  • 合計:60万1,000円

設定時の19万円に対し、売却時には60万円超になります。信託中に不動産を売却する場面がある場合は、この差を顧客に事前説明しておく必要があります。

また、信託登記の抹消については少し注意が必要です。不動産1個につき1,000円ですが、同一の申請書で20個を超える不動産の抹消を申請する場合は1件の申請につき上限2万円となります(登録免許税法別表第一1号(15))。収益物件を多数信託財産に組み入れているケースでは、この上限ルールが逆に有利に働くことがあります。これは意外と知られていない実務上のポイントです。

参考リンク(登録免許税の計算方法・国税庁の解説)。

国税庁:No.7191 登録免許税の税額表

信託終了時の登録免許税:0.4%になるか2%になるかの分岐点

信託終了時の登録免許税は、条件次第で「固定資産税評価額の0.4%」と「2%」の2パターンに分かれます。この差は非常に大きく、たとえば固定資産税評価額3,000万円の不動産であれば、0.4%なら12万円、2%なら60万円と、5倍近い差が生じます。

原則は2%です。信託終了によって帰属権利者に権利が移転する場合、通常の権利移転と同じ税率が適用されます。

ただし、登録免許税法7条2項に基づく特例が使えるケースでは、相続による所有権移転登記と同様に0.4%が適用されます。この特例の要件は3つです。

  • ① 帰属権利者が受益者であること(信託法183条6項により、帰属権利者は清算中は受益者とみなされます)
  • ② 信託の効力が生じた時から引き続き、委託者のみが信託財産の元本の受益者であること
  • ③ 帰属権利者(受益者)が、信託効力発生時の委託者の相続人であること

問題は②の要件です。委託者の死亡によって信託が終了する典型的な家族信託スキーム(父:委託者兼受益者、子:受託者、子:帰属権利者)では、信託契約書の記載内容によって②の充足状況が左右されます。

具体的には、信託契約書に「委託者の地位は、残余財産の帰属権利者のみに承継される」旨の規定を明記しておくことで、要件②を満たせると名古屋国税局が文書回答(平成30年12月18日)で示しています。

この記載がなくても軽減措置が受けられないとは限りませんが、より確実に0.4%の軽減措置を得るには、契約書段階で専門家に適切な条項を盛り込んでもらうことが不可欠です。信託終了後に「記載が不十分だった」と気づいても、過納分の還付は認められません。この点は顧客へのリスク説明として極めて重要です。

参考リンク(信託終了時の登録免許税7条2項に関する国税庁の回答事例)。

国税庁(名古屋国税局):信託の終了に伴う所有権移転登記と登録免許税7条2項の適用について

信託期間中に登録免許税が変化する場面:受益者・受託者変更の扱い

信託設定後も、さまざまな場面で追加の登記・登録免許税が発生します。見落としやすいのが信託期間中のコストです。

まず、受益者が変わった場合は変更登記が必要となります。これは、信託目録の記載内容を更新する手続きです。登録免許税は不動産1個につき1,000円と低額で済みます。通常の相続では固定資産税評価額の0.4%が課される場面と比べると格段に安く、節税スキームとして活用されることもあります。

一方、受託者が変わった場合はどうでしょうか? 受託者の死亡や辞任によって所有権者が変わるため、所有権移転登記が必要です。しかし新受託者も「形式的な所有権者」に過ぎないため、この所有権移転登記に係る登録免許税は非課税です(登録免許税法7条1項3号)。受益者変更と受託者変更とで、登記の種類も税の扱いも異なる点を整理しておく必要があります。

また、信託契約の内容(信託目録の記載事項)を変更した際も変更登記が必要で、登録免許税は不動産1個につき1,000円です。

整理するとこうなります。

  • 受益者変更 → 変更登記:1,000円/個
  • 受託者変更 → 所有権移転登記:非課税
  • 契約内容変更 → 変更登記:1,000円/個

これは理解すれば簡単です。受益者・契約内容の変更は目録上の記載変更であり、受託者の変更は所有権の名義変更ですが実質は変わらないため非課税、という整理です。

信託財産に複数の不動産が含まれている場合、変更のたびに1,000円 × 不動産の個数がかかります。たとえば5戸のアパート(土地と建物でそれぞれカウント)を信託財産にしている場合は、受益者変更1回で5,000円以上が発生するため、複数物件を扱う宅建事業者にとっては実務的なコスト管理の観点から把握しておく価値があります。

参考リンク(家族信託の登記にかかる費用の全体像)。

あかりテラス:家族信託の登記にかかる費用|不動産信託の登録免許税について

宅建事業従事者が押さえておくべき信託登記の実務的な注意点

信託登記が入っている不動産の取引は、通常の取引とは手続きが異なる部分があります。宅建事業従事者として現場で関わる機会も増えているため、実務上の注意点を整理しておきましょう。

まず、信託登記が入っている不動産を売却する際には、売主は受託者(形式的な所有者)となり、委託者本人ではありません。売買契約の当事者確認、必要書類の整理、そして抹消すべき登記の種類と登録免許税の計算、それぞれを正確に把握する必要があります。

売却時に必要な登記とそれぞれの登録免許税は次の通りです。

  • 所有権移転登記(買主へ):土地1.5%(軽減適用)・建物2%
  • 信託登記抹消:1,000円/個

信託登記の抹消を忘れると、買主が取得した後も登記簿上に信託の記録が残ってしまい、後々のトラブルになり得ます。抹消を漏らさず申請することが重要です。

次に、信託設定の段階でアドバイスを求められるケースもあります。宅建業者自身が信託契約書を作成することはできませんが、費用の概算や専門家紹介の観点から、登録免許税の目安を説明できると顧客の信頼につながります。特に、設定時の所有権移転登記が非課税である点は、「売買よりコストが低い」という印象を与えられる重要なポイントです。

さらに、信託財産を組み込んだ不動産について重要事項説明を行う際は、「信託登記が入っている」という登記簿の記録内容を正確に読み解き、誰が実質的な権利者であるか(受益者)を確認することが求められます。登記簿上の所有者(受託者)と実質的な権利者(受益者)が異なるという構造は、信託を知らない担当者には混乱を招くことがあります。

また、宅建業においてよく出会うシーンとして、高齢のが所有する収益不動産を子が受託者となる家族信託に組み込むケースがあります。このとき、信託後に不動産を売却する可能性があるなら、売却時の登録免許税が設定時より高くなることも事前に説明しておくのが誠実な対応です。

参考リンク(信託登記が入っている不動産の売却時の実務チェックリスト)。

穴道グループ:信託登記が入っている不動産の売却時チェックリスト

基礎からわかる 不動産信託受益権取引の実務