遺言による相続登記の必要書類と申請の流れ
遺言書があっても、検認せずに開封すると5万円以下の過料を取られます。
遺言による相続登記の必要書類:基本の一覧と取得先
遺言による相続登記に必要な書類は、通常の法定相続登記よりも少ない点が大きな特徴です。法定相続では相続人全員を確定させるために、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本をすべて揃える必要があります。しかし遺言書がある場合は「誰がその不動産を相続するか」がすでに明確なため、出生にさかのぼる戸籍謄本は原則不要です。これを知っているだけで、書類収集の手間を大幅に省けます。
必要書類は以下の通りです。
| 書類名 | 取得先 | 備考 |
|---|---|---|
| 登記申請書 | 法務局HPよりダウンロード | 自作・記入 |
| 被相続人の死亡時の戸籍謄本(除籍謄本) | 本籍地の市区町村役場 | 死亡の事実を証明 |
| 被相続人の住民票除票(または戸籍の附票) | 住所地の市区町村役場 | 登記上の住所との同一性確認 |
| 不動産を取得する相続人の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村役場 | 相続人であることの証明 |
| 不動産を取得する相続人の住民票 | 住所地の市区町村役場 | マイナンバー記載なしのもの |
| 固定資産評価証明書 | 不動産所在地の市区町村役場(東京23区は都税事務所) | 登録免許税の計算に使用 |
| 遺言書(原本) | 保管場所(自宅・公証役場・法務局) | 種類によって追加書類あり |
つまり、相続人1人分の書類を揃えれば足りるということです。
注意したいのは、固定資産評価証明書は「登記申請をする日の属する年度のもの」が必要な点です。4月以降に申請する場合、古い年度の証明書では法務局に受理されません。書類を揃え始める時期によっては年度をまたぐケースもあるので、取得のタイミングに気をつけましょう。
また、遺言書ありの場合は遺産分割協議書も相続人全員の印鑑証明書も原則不要です。書類の準備が軽くなる分、手続きをスムーズに進められます。
参考リンク(法務省が公開する相続登記申請の必要書類一覧)。
遺言による相続登記の必要書類:自筆証書遺言と公正証書遺言の違い
遺言の種類によって、必要書類と手続きの負担がまったく変わります。宅建事業者として取引を進める際、相続登記が完了しているかを確認する場面では、この違いを把握しておくことが重要です。
まず、自筆証書遺言は遺言者が全文を自分で手書きした遺言書です。費用はかかりませんが、相続登記の際にそのまま添付書類として使うことができません。法務局が保管していない自筆証書遺言には、家庭裁判所での「検認」手続きが必須です。検認は、遺言書の存在と内容を相続人全員に知らせ、偽造・変造を防ぐための手続きです。
検認が完了すると遺言書に「検認済証明書」が付き、相続登記の添付書類として使えるようになります。申立てから期日の指定まで、通常1〜2ヶ月程度かかるのが一般的です。急いで売却したい不動産取引では、この期間がネックになることもあります。注意が必要です。
一方、公正証書遺言は公証役場で公証人が作成し、原本が公証役場に保管されます。偽造変造のリスクがないため、検認手続きは不要です。公正証書遺言の正本または謄本を添付書類として提出するだけで、すぐに相続登記の申請ができます。これは使えそうです。
| 項目 | 自筆証書遺言 | 公正証書遺言 |
|---|---|---|
| 検認の要否 | 必要(法務局保管制度を利用した場合は不要) | 不要 |
| 追加書類 | 検認済証明書 | 公正証書遺言の正本または謄本 |
| 手続きのスピード | 検認に1〜2ヶ月 | 即座に手続き開始可能 |
| 無効リスク | 方式不備で無効になる可能性あり | 方式不備はほぼなし |
ここで重要な例外を押さえてください。令和2年(2020年)7月10日から始まった「自筆証書遺言書保管制度」を利用している場合、法務局に遺言書が保管されているため、検認は不要になります。保管手数料は1通あたり3,900円(収入印紙での支払い)で、法務局の保管官が方式の確認を行うため、形式上の不備でいきなり無効になるリスクも回避できます。
自筆証書遺言保管制度は2020年以降に急速に普及しており、相続手続きで「自筆証書遺言だが検認なしで進めた」というケースが増えています。この制度を利用しているかどうかの確認が、今後ますます重要になります。
参考リンク(法務省による自筆証書遺言書保管制度の公式案内)。
遺言による相続登記の必要書類:遺贈の場合は追加書類に注意
遺言書の内容が「相続人への相続」ではなく「相続人以外への遺贈」である場合、必要書類は大幅に増えます。遺贈とは、相続人以外の第三者(友人・法人・団体など)に財産を無償で贈ることを遺言によって行う手続きです。相続人への遺言とは、根本的に登記手続きの構造が異なります。
遺贈の場合の追加書類は次の通りです。
- ✅ 被相続人の出生から死亡までの全戸籍謄本(除籍謄本・改製原戸籍を含む)
- ✅ 相続人全員の戸籍謄本(遺言執行者がいる場合は不要)
- ✅ 相続人全員の印鑑証明書(遺言執行者がいる場合は遺言執行者の印鑑証明書)
- ✅ 被相続人の登記済権利証または登記識別情報通知
これだけ書類が増える理由は、通常の相続が「単独申請」で足りるのに対し、遺贈の場合は「共同申請」が原則だからです。共同申請とは、受遺者(財産を受け取る側)と遺言執行者または相続人全員が共同で登記を申請しなければならない手続きです。
共同申請が条件です。
さらに、遺贈には登録免許税の面でも大きな違いがあります。通常の相続登記の登録免許税は固定資産評価額の0.4%ですが、相続人以外への遺贈の場合は2%と、実に5倍の税率になります。たとえば固定資産評価額が2,000万円の不動産であれば、相続(0.4%)だと8万円、遺贈(2%)だと40万円と、32万円もの差が生じます。この差は見過ごせません。
ただし、遺贈の受遺者が相続人である場合(例:子への特定遺贈)は、相続人であることを証明する戸籍謄本等を添付することで0.4%の税率が適用されます。誰に対する遺贈かによって税負担がまったく変わるため、取引前に必ず確認しましょう。
参考リンク(遺贈と相続の登録免許税の違いを詳解)。
相続登記の登録免許税の計算・免税措置を解説(チェスター税理士法人)
遺言による相続登記の必要書類:遺言執行者がいる場合の手続き変化
遺言書に「遺言執行者」が指定されている場合、相続登記の手続きは大きく変わります。これは宅建事業に携わる方がとくに見落としやすいポイントの一つです。
遺言執行者とは、遺言の内容を確実に実現するために指定された人物です。相続人が就くこともあれば、司法書士や弁護士などの専門家が指定される場合もあります。2019年7月1日の民法改正により、遺言執行者には相続登記を「単独申請」できる権限が明確に与えられました。
具体的には、遺言書に「〇〇に○○不動産を相続させる」と明記されている特定財産承継遺言の場合、遺言執行者は相続人の代理ではなく、自らの固有の権限として登記申請を行えます。この場合、相続人の関与なしに登記が完了するケースもあります。
遺言執行者が登記申請をする際の必要書類は次の通りです。
- 📌 遺言書(遺言執行者が指定されているもの)または遺言執行者選任審判書謄本
- 📌 遺言執行者の印鑑証明書
- 📌 被相続人の死亡が記載された戸籍謄本(除籍謄本)
- 📌 被相続人の住民票除票または戸籍の附票
- 📌 不動産を取得する相続人の戸籍謄本
- 📌 不動産を取得する相続人の住民票
遺言執行者がいれば問題ありません。相続人全員の印鑑証明書の収集や遺産分割協議書の作成が不要になり、手続きの窓口も一本化されます。
注意すべき点は、改正民法の適用が「2019年7月1日以降に開始した相続」であることです。施行日後に相続が開始した場合でも、遺言書の作成日が施行日前(2019年7月1日より前)であれば改正法は適用されません。遺言書の作成日を確認する習慣をつけておくと、手続きの見通しが立てやすくなります。
遺言による相続登記の必要書類:2024年義務化で宅建事業者が知るべき期限と過料リスク
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。これにより、不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記申請をしなければならなくなっています。遺言がある場合も例外ではなく、遺言書の内容に基づいて取得した不動産についても、この3年ルールが適用されます。
3年以内に登記しないと、正当な理由がない限り10万円以下の過料が科される可能性があります。過料は行政上の制裁であり、裁判所から支払いを命じられます。宅建事業者として売買物件の相続状況を確認する際に、「遺言はあるが登記がまだ」という状態の不動産を扱うリスクを正確に把握しておく必要があります。
さらに重要なのが遡及適用です。義務化以前(2024年4月1日より前)に相続した不動産も対象になっています。この場合の期限は「施行日(2024年4月1日)から3年以内」、すなわち2027年3月31日です。現時点(2026年3月)で残り約1年しかありません。過去の相続登記が未了の案件を抱えた顧客がいれば、今すぐ対応を促すことが必要です。
登記が難しい事情がある場合、「相続人申告登記」という簡易手続きを利用することで期限内の義務を一時的に果たすことができます。この制度では、相続人であることを法務局に申告するだけでよく、遺産分割協議が整う前でも活用できます。ただし、正式な相続登記は別途必要になります。
| ケース | 登記期限 | 違反時のリスク |
|---|---|---|
| 2024年4月1日以降に相続開始 | 相続を知った日から3年以内 | 10万円以下の過料 |
| 2024年4月1日以前の過去の相続(未登記) | 2027年3月31日まで | 10万円以下の過料 |
登記義務化は宅建事業者にとって、重要事項説明や取引の安全性確保の観点からも直接影響します。相続を原因とする所有権移転の登記がされているか、されていないならいつ完了見込みかを確認するフローを社内で整えておくと、取引上のトラブルを未然に防ぐことができます。登記完了が条件です。
参考リンク(法務省による相続登記義務化のQ&A・公式情報)。

