一団地認定と建て替えの手続き・注意点・最新制度
一団地認定を受けた団地なら建て替えも特例でスムーズに進む、と思っていませんか?実は逆で、一団地認定を受けた物件の建て替えは通常のマンションより合意形成の壁が高く、取消し手続きを一つ間違えると事業がまるごと止まることもあります。
一団地認定とは何か・建て替えとの関係
建築基準法の原則は「一敷地一建築物」です。1つの敷地には原則として1棟の建物しか建てられないとされています。しかし団地やニュータウンのように複数の棟を計画的に配置する場合、この原則をそのまま適用すると事業が成り立ちません。
そこで生まれたのが、建築基準法第86条第1項に定める一団地の総合的設計制度(いわゆる一団地認定)です。複数の敷地をひとつの敷地とみなすことで、容積率・建ぺい率・斜線制限などを一体的に適用できるようになります。この制度は昭和25年の建築基準法制定時から存在しており、高度成長期に大量供給されたほとんどの団地・公団住宅は、この86条認定を利用して建築されています。
つまり条件です。一団地認定を受けているかどうかは、その物件の建て替え計画に決定的な影響を与えます。
一団地認定の主な特例対象規定としては、容積率(法第52条)、建ぺい率(法第53条)、道路斜線・隣地斜線・北側斜線(法第56条)、日影規制(法第56条の2)などが挙げられます。これらの制限を複数敷地にまたがって一体計算できるため、単独の敷地では建てられないような大規模建築物の配置が可能になっています。
宅建事業従事者として注意したいのは、一団地認定は「登記」に直接反映されるものではない点です。重要事項説明書や建築概要書、行政の公告・縦覧で確認する必要があります。物件資料に「建築基準法第86条認定」の記載があれば、一団地認定が適用されているサインと考えてください。これは必須です。
参考:国土交通省「一団地の総合的設計制度等の解説(令和5年6月)」では、制度の変遷・手続き・活用ケースが詳しくまとめられています。
一団地認定の建て替えが通常マンションより難しい理由
「一団地認定を受けているなら、まとめて建て替えればいい」と考えるのが一般的な感覚かもしれません。しかし実際には、一団地認定を受けた物件の建て替えは、認定を受けていない通常の分譲マンションよりもハードルが高くなります。意外ですね。
その核心となるのが、認定取消しの「全員同意」要件です。
建て替えにあたって一団地認定の対象区域を変更したり、区域内の敷地を一部売却したりする場合は、建築基準法第86条の5に基づいて一団地認定の取消しまたは区域変更の申請が必要になります。この申請には、対象区域内にある土地の所有権または借地権を有する者全員の合意が条件です。
たとえば100戸の団地があれば、100名の区分所有者全員から実印と印鑑証明書付きの同意書を集めなければなりません。実際の団地建替えプロジェクトでは、この全員同意の取得に数年を要したり、1名の反対で手続きが止まったりした事例が報告されています。
| 比較項目 | 通常の分譲マンション | 一団地認定を受けた団地 |
|---|---|---|
| 建替え決議要件 | 区分所有者・議決権の各5分の4以上 | 全体5分の4 + 各棟3分の2(2段階) |
| 敷地変更・売却 | 区分所有者の共有持分管理に準じる | 土地所有者・借地権者の全員同意が必要 |
| 認定取消し申請 | 不要 | 取消しには全員同意が原則 |
| 行政との協議 | 任意(要除却認定等) | 特定行政庁との協議が必須 |
加えて、都市計画法上の「一団地の住宅施設」に指定されている場合はさらに複雑です。容積率が周辺地域に比べて極端に低く抑えられているケースがあり、建て替え後の計画を成立させるには都市計画の変更や廃止手続きまで必要になります。旭化成の事例では、東京都調布市・国領住宅の容積率が周辺200%に対してわずか70%に制限されており、解除手続きが「前例のない困難」と表現されています。
宅建事業従事者が団地物件を取り扱う際には、「一団地認定の有無」と「都市計画法上の一団地の住宅施設指定の有無」という2点を必ず事前確認することが求められます。これだけ覚えておけばOKです。
参考:マンション建替えにかかる法規制の概要(集団規定)を整理した資料として以下が参考になります。
マンション再生協議会:マンション再生(改修・建替え)にあたっての法規制(集団規定)の理解(PDF)
建て替えのための手続き・職権取消しの活用
一団地認定の取消しには「全員同意」が原則です。しかし現実には1名の反対者がいるだけで手続きが凍結されるため、国土交通省は平成30年に「職権取消しガイドライン」を策定・公表しています。
職権取消しとは、土地所有者等の全員同意がない場合でも、特定行政庁が職権(行政権限)で一団地認定を取り消せる仕組みです。ただし、職権取消しが適用されるのは以下のような事情が生じた場合に限られます。
- 🏚️ 公告区域内の建築物が全て除却された場合
- 🔄 市街地再開発事業などで新たな都市計画規制(地区計画等)が適用された場合
- 📉 当初の認定の前提となった状況が大幅に変化し、認定の存続が著しく不合理と判断される場合
- 🏗️ 建築物の除却・建替えにより認定を存続させることが妥当でないと判断される場合
職権取消しのプロセスでは、特定行政庁が関係権利者への説明・通知を行い、意見聴取の機会を設けたうえで判断します。手続きの透明性を確保するため、令和2年の施行規則改正で手続き規定が明確化されました。宅建事業従事者が管理組合等の相談に乗る際には、「職権取消しという選択肢もある」と情報提供できることが重要です。
実際の建て替えの手続きの流れをまとめると、以下のようになります。
| ステップ | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| ①事前調査 | 一団地認定の有無・区域・内容の確認、都市計画の確認 | 行政窓口・建築概要書 |
| ②行政協議 | 特定行政庁(市区町村等)と建替え計画について事前協議 | 建基法第86条 |
| ③合意形成 | 区分所有者への説明会・建替え推進決議 | 区分所有法第62条等 |
| ④認定取消し申請 | 全員同意または職権取消しによる一団地認定の取消し・区域変更 | 建基法第86条の5 |
| ⑤建替え決議 | 区分所有者・議決権の各5/4以上(団地の場合は各棟3/2も必要) | 区分所有法第70条等 |
| ⑥新規認定申請 | 新たな建築計画で一団地認定(または連担建築物設計制度等)を取得 | 建基法第86条 |
なお、建替え後に再度一団地認定を取得する場合、旧認定の内容に縛られることなく新たな設計基準で申請できます。工区区分型一団地認定制度(建基法第86条第7項)を活用すれば、一団地を複数の工区に分けて段階的に建替えを進めることも可能です。これは使えそうです。
参考:横浜市の一団地認定・連担建築物設計制度のページでは手続きフロー(PDF)を公表しています。
横浜市:一団地認定・連担建築物設計制度(建築基準法第86条)について
区分所有法の決議要件と2026年改正の影響
建て替えを進めるうえで、建築基準法だけでなく区分所有法の決議要件も正確に理解しておくことが欠かせません。
現行の区分所有法における団地の建替え決議には2種類があります。
【70条:団地一括建替え決議】
団地内の全棟をまとめて建て替える場合に適用されます。成立要件は「団地全体の区分所有者および議決権の各5分の4以上の賛成」と「各棟の区分所有者および議決権の各3分の2以上の賛成」の両方を同時に満たすことが必要です。区分所有法70条が適用できるのは、①団地内の全建物が区分所有建物、②敷地が団地全体の区分所有者の共有、という2条件を満たす場合に限られます。団地内に区分所有建物でない建物(管理棟・店舗等)がある場合は一括建替え決議を実施できません。厳しいところですね。
【69条:建替え承認決議】
団地内の特定の棟だけを建て替える場合は、団地管理組合の集会で「建替え承認決議」が必要です。成立要件は団地建物所有者の議決権の4分の3以上の賛成です。ただし、その建替えが他の棟に「特別の影響」を及ぼす場合は、影響を受ける棟の区分所有者の議決権の4分の3以上の賛成も必要となります。
2026年4月に施行された改正区分所有法では、建替え関連の要件に重要な変更が加わっています。耐震性不足・火災安全性不足・外壁等剥落危険性などの一定の事由がある場合、団地建物所有者の議決権の4分の3以上の多数と特定建物の区分所有者・議決権の各5分の4以上の多数で決することが可能になりました。つまり、今まで単純な5分の4という高いハードルだった建替え決議が、条件によって緩和される方向に動いています。
宅建事業従事者として現在の判断基準が2026年の改正後のものか確認することが急務です。顧客や管理組合からの相談に対して古い要件で回答すると、重大な説明不足につながりかねません。
参考:区分所有法の改正内容と2026年以降の建替え決議要件について。
2026年の区分所有法改正で何が変わる?改正の背景や影響を徹底解説
マンション建替円滑化法・要除却認定との連携で活路を開く
一団地認定を受けた団地の建て替えは困難を極めることもあります。しかしマンション建替円滑化法と要除却認定制度を組み合わせることで、合意形成のハードルを大きく下げられる場面があります。これは原則として知っておきたいポイントです。
要除却認定とは、マンション建替円滑化法第102条に基づき、特定行政庁が「除却する必要がある」と認定する制度です。認定の要件は次の5種類に分かれています。
- 🔴 ①耐震性の不足(Is値0.6未満など)→ 特定要除却認定
- 🔴 ②火災に対する安全性の不足 → 特定要除却認定
- 🔴 ③外壁等の剥落による周辺への危害のおそれ → 特定要除却認定
- 🟡 ④給排水管の腐食等による衛生上の有害のおそれ → 要除却認定
- 🟡 ⑤バリアフリー基準への不適合 → 要除却認定
①〜③の「特定要除却認定」を受けると、いくつかの強力なメリットが得られます。
まず容積率の緩和特例です。要除却認定マンションの建替えにより新たに建築されるマンションが一定の敷地面積を有し、市街地環境の整備・改善に資するものと特定行政庁が認めた場合、容積率制限が緩和されます。一定の敷地面積は用途地域によって異なり、第一種低層住居専用地域等では1,000㎡、第一種中高層住居専用地域等では500㎡、近隣商業地域・商業地域では300㎡と規定されています。
次に団地の敷地分割制度の活用です。団地内に特定要除却認定を受けたマンションが存在する場合、特定団地建物所有者および議決権の5分の4以上の同意によって敷地分割の決議が可能になります。通常、民法上の敷地分割には全員同意が必要なため、これは大きな緩和措置です。
なお、一団地認定が適用されている団地で敷地分割制度を利用する場合、敷地分割事業によって一団地認定の公告認定対象区域が自動的に変更されるわけではありません。別途、特定行政庁への認定変更・取消し手続きが必要になる点に注意が必要です。
| 活用できる制度 | 要除却認定 | 特定要除却認定 |
|---|---|---|
| 容積率の緩和特例 | ✅ | ✅ |
| マンション敷地売却制度 | ❌ | ✅ |
| 団地の敷地分割制度 | ❌ | ✅ |
団地の建替えにおいて、まず耐震診断を実施し要除却認定の取得可能性を確認することが、現実的な出口戦略の第一歩になります。耐震診断は一級建築士等の有資格者が実施し、既存建築物耐震診断・改修等推進全国ネットワーク委員会に登録された団体による判定書が必要です。
参考:要除却認定の申請要件・活用できる制度の詳細については宮城県のまとめページが体系的に整理されています。