地籍調査の工程と不動産実務への影響を徹底解説
立会いを1回サボると、あなたの土地が売れなくなります。
地籍調査とは何か:宅建業務における基礎知識
地籍調査とは、国土調査法に基づき、土地の一筆ごとに所有者・地番・地目・境界・面積を調査・測量し、その成果を地籍図と地籍簿にまとめる作業です。主に市町村が主体となって実施し、完了した成果は法務局(登記所)に送付されて登記簿が書き改められます。
宅建業者にとって重要なのは、地籍調査の完了した土地とそうでない土地では、取引時のリスクが大きく異なる点です。調査が完了している土地では、境界・面積が正確な数値データで確定しており、登記簿の情報も信頼度が高い状態です。一方で未調査の土地は、かつての古い測量結果や手書き公図をもとに登記されているケースが多く、実測値と登記面積にズレが生じやすい状況にあります。
これは実際の取引で問題になることがあります。たとえば、登記簿上は100㎡と記載されていた土地が、確定測量を行ったら実際には93㎡しかなかった、というケースは珍しくありません。この差額分は価格交渉や売買契約の見直しにつながるため、仲介業者としては事前に地籍調査の実施状況を確認しておく必要があります。
地籍調査は昭和26年から開始されており、70年以上が経過しています。令和6年度末時点での全国進捗率は53%です。「国土の戸籍」とも呼ばれるほど重要な調査ですが、半分近くの土地が未調査のままであるというのが現実です。
地籍調査の実施状況は国土交通省の「地籍調査Webサイト」から確認できます。地区ごとの進捗マップも公開されており、担当物件の調査状況を調べる際に役立ちます。
国土交通省 地籍調査Webサイト「地籍調査の流れ」(工程の全体像を図解付きで解説)
地籍調査の工程一覧:A工程からH工程まで
地籍調査の作業工程は、A工程からH工程まで複数の段階に分かれています。各工程の役割を正確に把握しておくと、取引対象の土地がどの段階にあるのかを判断しやすくなります。
まず、A工程(事業計画・事務手続)では、市町村が関係機関と調整を行い、どの地域をいつ調査するかの計画を策定・公示します。住民への周知はこの段階から始まります。
B工程(準備)では、実施組織の確立や推進委員会の設置、補助申請などを行います。作業班の編成や、住民向けの説明会もこの工程に含まれます。
C工程(地籍図根三角測量)とD工程(地籍図根多角測量)は、地籍測量の基礎となる図根点(基準点)を設置する工程です。C工程では広域の三角点を、D工程ではより細かい多角点を設置します。なお、電子基準点の整備が進んだ現在では、D工程を省略できるケースもあります。
E工程(一筆地調査)が、宅建業者にとって最も影響が大きい工程です。土地所有者が現地に立ち会い、公図をもとに自分の土地の境界を確認する作業です。所有者・地番・地目も同時に確認されます。この立会いで双方が合意した境界に杭(境界標)を打ち込みます。
E工程はE1(資料収集・素図作成)とE2(現地立会)の2段階に分かれており、国交省も「地籍調査工程のボトルネック」と明言しています。理由は、隣接する土地所有者双方の合意が必要なため、どちらか一方が不参加でも進められないからです。
F工程(地籍細部測量)では、F1工程で細部図根点の測量を、F2工程(一筆地測量)で各筆界点の測量を行い、地籍図原図を作成します。
G工程(地積測定)では、測量で得た筆界点の座標値をもとに、一筆ごとの面積を正確に計算します。
H工程(地籍図・地籍簿の作成)では、調査結果をまとめた地籍簿案と地籍図案を作成し、土地所有者向けに20日間の閲覧期間を設けます。閲覧が終わると、都道府県知事への認証請求を経て、法務局へ成果が送付されます。
1地区の完了まで概ね3〜5年かかるとされており(坂井市FAQ参照)、都市部では筆数が多く権利関係も複雑なため、さらに時間がかかるケースがあります。工程が長い分、調査途中の土地も多く存在します。つまり、未完了地区では工程の途中段階の情報しか存在しない点に注意が必要です。
| 工程 | 名称 | 主な内容 |
|---|---|---|
| A工程 | 事業計画・事務手続 | 関係機関調整、計画策定・公示 |
| B工程 | 準備 | 推進委員会設置、説明会 |
| C工程 | 地籍図根三角測量 | 広域基準点(三角点)の設置 |
| D工程 | 地籍図根多角測量 | 中程度密度の基準点(多角点)設置 |
| E工程 | 一筆地調査 | 土地所有者の現地立会・境界確認 |
| F工程 | 地籍細部測量 | 筆界点の測量、地籍図原図の作成 |
| G工程 | 地積測定 | 一筆ごとの面積の計算 |
| H工程 | 地籍図・地籍簿の作成 | 閲覧(20日間)・認証・法務局送付 |
E工程(一筆地調査)の立会いが不動産実務に直結する理由
宅建業者が特に注意すべき工程が、E工程の一筆地調査です。ここでの立会い参加・不参加が、その後の不動産取引を大きく左右します。
国交省が「地籍調査のボトルネック」と位置づけているこの工程では、隣接する土地所有者が双方とも現地に立ち会い、境界について合意する必要があります。仮に自分が立ち会ったとしても、隣地の所有者が参加しなかった場合、その接する境界は「筆界未定」として処理されます。
筆界未定になると、その土地には以下のような重大な制限がかかります。
- 🚫 分筆・合筆ができない(相続や売却のために土地を分けたい場合に不可)
- 🚫 地積更正登記ができない(実測と登記面積の差を訂正できない)
- 🚫 地目変更が難しくなる(農地転用などで支障が出るケースがある)
- 🚫 抵当権の設定や売買が困難になる(金融機関が担保評価を敬遠する)
これは「立会いをしなかっただけ」で発生します。意図せず立会い通知を見逃した、あるいは引越しで通知が届かなかったというケースも実際に報告されています。筆界未定の解消には、隣接所有者全員の同意を改めて得るか、法務局の筆界特定制度を利用するか、最悪の場合は裁判所への申立てが必要になる場合もあり、時間と費用の両方で大きな損失になります。
筆界特定制度とは、土地の所有者が申請することで法務局の登記官が筆界を特定する制度です。費用は土地の規模によりますが、申請手数料だけでも数万円以上かかることがあり、解決まで数ヶ月を要します。筆界未定に注意すれば大丈夫です。
宅建業者としては、取引対象土地について「地籍調査の実施状況」「筆界未定地であるかどうか」を事前に確認し、重要事項説明にも適切に反映させる必要があります。法務局備付けの地図が地籍図か従来の公図かを確認することが、実務上のスタート地点です。
国土交通省「土地境界のみなし確認制度(無反応土地所有者への対応)の創設」(立会い不参加と筆界未定の関係が詳述されています)
H工程「閲覧20日間」を見逃すと起きること
H工程での閲覧は、地籍調査の最終確認の場です。地籍簿案と地籍図案が完成すると、市町村役場で20日間の閲覧期間が設けられます。この期間に誤りを申し出ることで修正が可能ですが、期間終了後は原則として訂正の申し出ができなくなります。
見落としがちなのは、この閲覧が終わると成果が都道府県知事の認証を経て法務局に送付され、登記簿が書き改められる点です。つまり、面積・地目・境界線のいずれかに誤りがあっても、20日間の閲覧で気づかなければ、誤った情報が正式な登記として確定してしまいます。
実際にある事例として、「立会い時は問題ないと思っていたが、地籍図を見たら境界線が想定より数十センチずれていた」というケースがあります。こうした差異は坪単価が高い都市部では数十万円から百万円以上の資産価値に影響することがあります。これは痛いですね。
宅建業者としての実務的な対処法は次のとおりです。
- 📌 担当物件近くで地籍調査が進行中であれば、土地所有者クライアントに閲覧日程を事前に知らせる
- 📌 閲覧期間中は地番・面積・地目・境界線を地籍図と照合するよう促す
- 📌 閲覧後に登記情報が書き換わるタイミングを把握し、取引スケジュールと照合する
なお、地籍調査で変更できる登記情報は、地番・面積・地目・所有者の住所氏名(婚姻等による変更に限る)の原則5項目です。所有権そのものは変更できません。この点を誤解しているクライアントへの説明も、宅建業者の役割のひとつです。
国土交通省「地籍調査をしないとこんな困ったことに」(境界未確定による土地取引リスクや都市再生への支障事例を解説)
都市部の進捗率が低いことが宅建業者に与える独自リスク
一般的に「地籍調査は農村部や山間部の話」と思われがちですが、実際には都市部こそが最も深刻な未実施地域です。これは宅建業者の日常業務に直接関係します。
令和6年度末時点で全国の地籍調査進捗率は53%ですが、都市部(DID:人口集中地区)に限定すると進捗率は大幅に低くなります。国土交通省のデータでは、都市部を有する825市区町村のうち、地籍調査が完了している市区町村の割合はわずか16%(135市区町村)にとどまり、41%にあたる340市区町村では都市部が未実施という状況です。
なぜ都市部の進捗が遅れるのか。理由は複合的です。①1筆あたりの土地が狭く筆数が多い、②権利関係が複雑な土地が多い、③所有者が遠方に居住しているケースが多く立会いが取りにくい、という3点が主な要因です。
宅建業者の日常業務への影響は具体的です。都市部で仲介・開発業務を行う場合、取引対象の土地が「地籍調査未実施」の可能性が高く、境界・面積の正確性に疑義が生じやすい状況にあります。特に古くから宅地化が進んでいる地域では、もとの農地・山林の測量精度が低いまま登記されているケースがあり、実測をしてみると登記面積と大きく異なることがあります。
不動産取引において、こうした「面積相違リスク」を抱えたまま売買契約を締結すると、引渡し後にトラブルが発生するリスクがあります。境界について何らの説明もなく取引を行い、買主に損害が生じた場合、仲介業者が損害賠償を求められた事例も実際にあります(全国宅地建物取引業協会の研修資料より)。
こうした場面では、事前の確定測量の実施や、土地家屋調査士との連携が有効な対策となります。特に都市部の一筆地調査が未実施の土地を取り扱う際には、測量業者や土地家屋調査士に確認を依頼し、境界確認書の取得を検討するとよいでしょう。都市部での未調査土地は慎重に対処するのが原則です。
国土交通省「地籍調査の概要等」PDF(都市部の進捗状況データ・市区町村別の実施状況を確認できます)
地籍調査が完了した土地を取引するメリットと確認方法
地籍調査が完了した土地には、未調査地と比べて明確な実務上のメリットがあります。これは売主・買主双方にとって有益な情報であり、宅建業者が説明できると信頼性が上がります。
まず、境界・面積が数値データとして確定しているため、取引時の確定測量が不要になる場合があります。確定測量は隣接所有者全員の立会いが必要で、完了まで数ヶ月、費用は30万〜60万円程度かかることが多いです。地籍調査が完了していれば、このコストを節約または大幅に削減できます。これは使えそうです。
次に、法務局備付地図として精度の高い地籍図が活用でき、地番・地目・面積が正確な状態に整備されています。これにより、相続・分筆・合筆・農地転用などの各種登記手続きが円滑に進みます。
地籍調査の完了状況は以下の方法で確認できます。
- 🔍 法務局で地図を確認する:備付地図が「地籍図(14条地図)」であれば完了済み。「公図(旧土地台帳附属地図)」であれば未調査または精度が低い可能性がある
- 🔍 市町村の担当課に問い合わせる:地籍調査担当部署に地区名を告げれば、実施済みかどうかを教えてもらえる
- 🔍 国土交通省の地籍調査Webサイトで確認する:都道府県別の進捗マップが公開されており、地区単位での実施状況が把握できる
また、地籍調査の成果は市町村役場でも閲覧・複写が可能です(国土調査法第21条)。不動産調査の一環として、法務局の地図確認と合わせて市町村の地籍調査成果を照合する習慣を持つと、取引リスクの早期発見につながります。
地籍調査が完了していない土地を取引する場合は、土地家屋調査士による確定測量の実施を売買条件に組み込むか、少なくとも現況測量を実施して面積の概算を把握しておくことが、リスクマネジメントの基本です。確定測量の実施と地籍調査の完了状況確認が条件です。
国土交通省「全国の地籍調査実施状況」(令和6年度末の都道府県別・地帯別の進捗率データ)

美濃商会 土地家屋調査士 調査・測量報告書用 レターファイル 白 A4 5910
