オンライン本人確認できない理由と宅建業者が今すぐ知るべき対応策
スマホで書類を撮影するだけのeKYCは、2027年4月から違法になります。
オンライン本人確認できない状況が宅建業者に生じる背景
不動産取引の非対面化・DX化が急速に進む中、「オンライン本人確認(eKYC)を導入すれば問題ない」と考えている宅建業者は少なくありません。しかし実態は、すべての取引や顧客にオンライン本人確認が適用できるわけではなく、むしろ「できないケース」が想定以上に多く存在します。
宅建業者は犯罪収益移転防止法(犯収法)の特定事業者として位置づけられており、「自らが行う宅地・建物の売買や交換」および「売買・交換・賃貸の代理・媒介」を行う際に、取引時確認(本人確認)が義務付けられています。つまり義務です。
法令違反が発覚した場合、警察庁や国土交通省から業務改善命令・業務停止処分、さらには刑事罰(2年以下の懲役または300万円以下の罰金)が科される可能性があります。これは大きなリスクです。
加えて、本人確認が不十分だったことで地面師などの詐欺グループに利用された場合は、民事上の損害賠償責任を問われるケースもあります。実際に2017年、積水ハウスが地面師グループに約55億円をだまし取られた事件では、本人確認のプロセスの甘さが問題となりました。2025年には大阪で約15億円の地面師被害も発生しています。
こうした背景を理解した上で、なぜオンライン本人確認が「できない」状況が生まれるのかを、具体的なケースとともに整理していきます。
以下は参考になる公式情報です。
不動産業における犯収法の義務と確認方法を詳細に解説したハンドブック(不動産流通推進センター)はこちら。
不動産業における犯罪収益移転防止法等に関する連絡協議会(不動産流通推進センター)
オンライン本人確認できないケース①:2027年4月以降の画像送信廃止
現時点でもっとも注目すべき「オンライン本人確認ができなくなる」理由が、2027年4月1日施行予定の犯収法施行規則改正です。現在の主流であるeKYC「ホ方式」(本人確認書類の画像+本人の顔写真を送信する方式)は、改正後に原則として使えなくなります。
廃止される主な方法をまとめると、以下のとおりです。
- 本人確認書類の画像(写真・スキャン)を送信させる方法
- 本人確認書類のコピーを郵送させる方法
- 顔写真のない本人確認書類(健康保険証に代わる資格確認書なども含む)をオンラインで使う方法
廃止の理由は明確です。スマホで撮影した書類画像は、精巧な偽造書類を見抜けないリスクが高いためです。偽造技術の巧妙化に対応するため、ICチップに格納されたデジタル情報を直接読み取る方式へ一本化が進みます。
改正後に非対面で認められる主な方法は、マイナンバーカードによる公的個人認証サービス(JPKI)を使ったICチップ読み取り方式です。
つまり、ICチップ対応です。
現在スマホアプリ等の画像提出で本人確認フローを構築している宅建業者は、システム改修・運用手順の見直しが必須となります。施行直前になって慌てて対応するケースが多く見込まれますが、ICチップ読み取りにはネイティブアプリが必要なことも多く、開発・テスト期間も含めると早期着手が欠かせません。
2027年4月は、日程的に「1年強」しかありません。これは短いです。
以下は2027年改正の詳細情報です。
【2025年6月施行】&【2027年4月施行】改正犯罪収益移転防止法での本人確認方法の変更(TrustDock)
オンライン本人確認できないケース②:外国籍の顧客・高リスク国への対応
外国籍の顧客とオンラインで取引する場合、日本人顧客と同じ方法では本人確認が「できない」ことがほとんどです。
円安を背景に、外国人投資家による日本国内の不動産購入は近年増加傾向にあります。日本では外国人による不動産購入に原則として制限はなく、宅建業者がその仲介を断る法的根拠もありません。しかし本人確認という点では、状況が大きく異なります。
外国籍の顧客がマイナンバーカードや日本の運転免許証を保有していない場合、ICチップ読み取りによるオンライン確認は事実上不可能です。この場合は、パスポートや外国政府・国際機関発行の証明書類をもとに確認するほかなく、現行法でも対面での厳格な確認が求められます。
外国籍の場合は対面が基本です。
さらに、2027年改正後は「地理的リスク」への対応も強化されます。具体的には、FATF(金融活動作業部会)が強化モニタリング対象に指定している国・地域の国籍保持者との取引は「ハイリスク取引」として扱われ、通常より厳格な確認義務が生じます。資産・収入の状況についても確認が必要になるケースがあります。
| 顧客属性 | オンライン確認の可否 | 必要な対応 |
|---|---|---|
| 日本人・マイナカード保持者 | 可(ICチップ方式) | 2027年以降はICチップ読み取り必須 |
| 日本在住の外国籍・在留カード所持 | 限定的 | 在留カードICチップ確認が必要 |
| 非居住の外国籍(海外在住) | 原則不可 | 対面または転送不要郵便での確認 |
| FATF指定ハイリスク国籍 | 不可に近い | 対面+資産状況確認など厳格対応 |
なお、北朝鮮・イランなど高リスク国に実質的支配者が存在する法人との取引については、最大限の警戒と厳格な確認が必要です。「とりあえず進めてしまった」では済まない状況といえます。
オンライン本人確認できないケース③:マイナンバーカード未所持・暗証番号失念
2027年改正後、非対面の本人確認はマイナンバーカードのICチップ読み取りが事実上の標準となります。しかしここで問題になるのが、「顧客がマイナンバーカードを持っていない」または「持っていても暗証番号を忘れた」というケースです。意外と多いです。
2025年時点のマイナンバーカード普及率はおおむね75〜80%程度とされており、約20〜25%の人は依然としてカードを保有していません。日本の人口(約1億2千万人)で単純計算すると、2,400万人以上がマイナンバーカードを持たない状況です。
また、マイナンバーカードを保有していても、ICチップへのアクセスには4桁の暗証番号が必要な場合があります。これを忘れた場合は市区町村窓口でのリセット手続きが必要となり、即座にオンライン確認ができません。
このような顧客への代替対応として、改正後は以下のような例外的な措置が設けられる見込みです。
- 住民票の写し(原本)+転送不要郵便での書類送付による確認
- 対面での別途確認(ICチップなしの書類でも対面であれば一部認められる可能性)
ただし、これらは手間と時間がかかる方法です。「ICチップ対応できない顧客には別フローを用意する」という2段階の運用体制が必要になることを、今のうちから想定しておくべきでしょう。
現時点で対面確認にすぐ使える無料ツールとして、デジタル庁が提供する「マイナンバーカード対面確認アプリ」があります。券面情報とICチップ情報の整合性を確認でき、暗証番号の入力は不要です。スマートフォンにダウンロードするだけで使えますので、すぐに活用できます。
オンライン本人確認できないケース④:法人取引・実質的支配者の確認
取引相手が法人の場合、個人のeKYCと同じ手順ではオンライン本人確認が「完結しない」ことを認識しておく必要があります。
法人の本人確認では、法人そのものの確認(登記事項証明書や印鑑証明書の確認)に加え、実際に取引に関与する担当者個人の確認も必要です。さらに、その担当者が正当な権限を持っているかどうかの確認も必要となります。
それだけではありません。
2027年改正後は、法人の「実質的支配者(株式25%超保有者や議決権25%超保有者など)」の確認が義務化されます。実質的支配者が外国の高リスク国に存在する場合は、ハイリスク取引として扱われます。
非対面で法人取引の本人確認を行う場合、代表者等が代表権を有する役員として登記されていない場合は、取引関係文書を転送不要郵便として書留送付する追加手続きが必要です。これはオンラインだけでは完結できない手順です。
法人確認は多段階が原則です。
なお、令和4年1月から「実質的支配者リスト制度」が運用開始されており、法務局に申出があった法人については写しを無料で取得できます。法人取引の際は事前にこのリストの存在を確認するとよいでしょう。手順をまとめると以下のとおりです。
- ① 法人の登記事項証明書または印鑑証明書で法人確認
- ② 取引担当者の個人確認(自然人と同様の手順)
- ③ 代表権限の確認(委任状など)
- ④ 実質的支配者の確認(リスト制度の活用も有効)
- ⑤ ハイリスク国関係の場合は資産・収入状況の追加確認
特に④と⑤は見落とされがちな手順です。法人と個人の違いを正確に把握した上で、チェックリスト化して運用することが現実的な対策といえます。
参考情報として、以下の法人確認に関する解説が役立ちます。
犯罪収益移転防止法で定められる「法人の本人確認」とは?(TrustDock)
宅建業者がオンライン本人確認に向けて今すぐ取るべき実務対応
ここまで「オンライン本人確認ができないケース」を整理してきましたが、裏を返せばそれぞれのケースに適切に対処できれば、コンプライアンスリスクを大きく下げられます。これは確実な対策です。
まず現時点で宅建業者が取り組むべきことは、自社の本人確認フローの棚卸しです。現在どの方式(対面・非対面・画像送信など)で何件の取引をしているか、顧客属性(日本人・外国籍・法人など)の内訳はどうかを把握することが出発点となります。
次に、2027年4月の改正に向けたシステム・オペレーションの対応計画を立てることです。ICチップ読み取りに対応したeKYCシステムの導入には、ベンダー選定・契約・テスト運用・スタッフ研修など複数のステップがあり、最低でも半年〜1年程度の準備期間を見込んでおく必要があります。
その上で、対面確認と非対面確認の双方を整備することが重要です。非対面対応だけを強化しても、外国籍顧客やマイナカード未所持者など「オンラインでは対応できない顧客」への対面フローがなければ、取引機会を失うだけです。
不動産取引に特化したオンライン本人確認サービスとして、「レリーズ本人確認」があります。マイナンバーカードのICチップ読み取りに対応しており、確認記録の自動生成・不動産流通推進センターの推奨書式への出力にも対応しています。端末1台で完結するため、現場の業務負担を抑えながら改正対応が可能です。
以下は2027年対応の実務的な内容を詳しく解説したページです。
【本人確認方法の見直しは必須か】犯収法施行規則の改正と宅建業者の対応(不動産業のミカタ)
最後に、2026年1月に公表された「宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック第5版」を必ず確認しておきましょう。本人確認手続編・疑わしい取引の届出編・Q&Aの3冊構成で、実務に直結する内容が網羅されています。これだけで大枠は把握できます。
以下が公式のハンドブック案内ページです。