実質的支配者の確認と司法書士の役割・宅建業者の実務対応

実質的支配者の確認と司法書士の役割・宅建業者が知る実務対応

実は、法人との不動産売買に媒介で関与した宅建業者も、司法書士とは別に実質的支配者の確認義務を負います。

この記事の3つのポイント
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令和6年4月施行の改正犯収法で義務が拡大

法人顧客の実質的支配者(議決権25%超を保有する自然人)の氏名・住居・生年月日の確認が義務化。司法書士だけでなく宅建業者にも直接関係します。

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代表者≠実質的支配者のケースが多い

社長が確認書類を持参しても、50%超の大株主が別にいれば、その株主こそが実質的支配者です。株主名簿か法人税申告書別表2での確認が必要になります。

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実質的支配者リスト(BOリスト)が解決策に

法務局が発行する実質的支配者リストは手数料無料で取得可能。登記官の認証文付きで信頼性が高く、決済当日の書類トラブルを防ぐ切り札になります。

実質的支配者の確認とは何か:犯収法改正で宅建業者も無関係ではない理由

「実質的支配者の確認は司法書士の仕事でしょ」と思っている方は多いかもしれません。ところが、令和6年(2024年)4月1日施行の改正犯罪収益移転防止法(犯収法)によって、この確認義務は宅建業者にも直接関わる話になりました。

「実質的支配者(Beneficial Owner=BO)」とは、法人の議決権の総数の25%を超える議決権を直接または間接に保有する自然人のことを指します。一般的なイメージでいうと、法人を実質的に動かしている陰の主です。株式会社の代表取締役が誰であるかは登記簿で公開されていますが、その会社を支配する大株主の情報は登記簿からは読み取れません。ここが確認作業を難しくしている根本原因です。

犯収法は2008年に全面施行されましたが、改正を重ね、実質的支配者の確認義務は2016年10月から導入されています。そして令和6年改正では、法人顧客と不動産売買に関わる際に、司法書士に加えて宅建業者も「法人の事業内容」「実質的支配者の本人特定事項」を確認する義務が追加されました。つまり義務は重複しています。

宅建業者が対象となる特定取引は「宅地または建物の売買・その代理・媒介」です。賃貸借や交換は対象外です。この点は重要です。法人が買主または売主として関与する不動産売買に媒介として関わる場合、その法人の実質的支配者を確認し、記録を作成して7年間保存する義務が生じます。怠った場合、是正命令を受け、それに違反すれば2年以下の懲役または300万円以下の罰金という罰則が定められています(犯収法第26条)。

決済当日になってはじめて「実質的支配者を教えてください」と伝えると、依頼者が「なんでそんな情報を言わなければならないんですか」と激怒するケースも実際に起きています。事前の案内と準備が必須です。

参考:改正犯収法の宅建業者への影響について

国土交通省|犯罪収益移転防止法の改正について(不動産業向け)

実質的支配者の確認方法:司法書士が使う株主名簿・別表2の実務

司法書士が実際の業務で実質的支配者を確認する方法は、法律によってシンプルに決まっています。確認方法は原則として「代表者等からの申告を受ける方法」です(犯収法施行規則第11条第1項)。口頭で申告を受けるだけでは証拠能力に欠けるため、実務では書類による裏付けが求められます。

確認に使える書類は主に3種類です。

  • 株主名簿の写し:最もシンプルで直接的な書類ですが、日頃からきちんと整備している中小企業はほとんどありません。
  • 法人税申告書の別表2「同族会社等の判定に関する明細書」:株主の氏名と持株割合が記載されており、実務で最も多く使われます。決算が終わっていれば必ず存在する書類です。
  • 実質的支配者リスト(法務局発行のBOリスト):令和4年1月31日から制度が開始。信頼性が最も高い確認資料です。

別表2が使われる理由は明確です。株主名簿を整備していない中小企業でも、確定申告書は毎年必ず作成しているからです。ただし、別表2は直前事業年度のものが求められるため、「期末から時間が経ちすぎている」「株主構成が変わった」といったケースでは注意が必要です。

実質的支配者の特定においては、まず50%超の議決権を持つ株主がいるかどうかを確認します。いる場合はその人が実質的支配者です。いない場合は25%超を持つ株主が対象になり、複数人いれば全員が実質的支配者となります。50%超の株主も25%超の株主も存在しない場合には、代表取締役が実質的支配者とみなされます。これが基本の判定ルールです。

確認後は記録の作成が必要です。実質的支配者の氏名・住居・生年月日を記録し、契約終了日から7年間保存しなければなりません。宅建業法の帳簿は5年保存が義務ですが、犯収法の確認記録は7年保存です。期間が異なる点に注意が必要です。

参考:司法書士による実質的支配者確認の詳細

長野県司法書士会|実質的支配者の確認について(依頼者が法人の場合)

実質的支配者リスト(BOリスト)の取得手順と宅建業者が活用すべき理由

「法務局が発行する書類なのに手数料が無料」というのは意外に思われるかもしれません。実質的支配者リスト(BOリスト)は、法務局の手数料は0円です。これは知っておくと大きなメリットになります。

令和4年1月31日にスタートしたこの制度は、株式会社(特例有限会社含む)が管轄の法務局に申出を行うことで、登記官の認証文付きの実質的支配者情報一覧を取得できる仕組みです。注意点として、制度を利用できるのは株式会社と特例有限会社のみです。合同会社・合名会社・合資会社や一般社団法人は対象外となります。

申出の流れは次のとおりです。

  1. 実質的支配者リスト(直接保有・間接保有それぞれのひな形)を作成
  2. 株主名簿の写し・法人税申告書別表2・公証人発行の認証証明書のいずれかを添付書面として準備
  3. 申出書を作成し、本店所在地を管轄する法務局に提出(郵送・窓口・オンライン申請が可能)
  4. 登記官が内容を確認・保管し、認証文付き写しが交付される

費用の内訳を整理すると、法務局への手数料は無料ですが、司法書士に代行を依頼した場合は10,000円〜20,000円程度の報酬が発生します。書類の準備が複雑な場合や、間接保有が絡む場合は専門家に依頼するほうが確実です。

宅建業者がこのリストを活用すべき理由は、決済の円滑化です。リストを取得しておけば、銀行口座の開設・融資審査・不動産決済の場で司法書士へ提出できます。信頼性の高い書面として扱われるため、その場で慌てて株主名簿を探す必要がなくなります。一度取得しておけばよいということですね。

ただし、重要な注意点があります。実質的支配者リストはあくまで「申出時点の実質的支配者」しか証明しません。株主構成に変動があった場合は、リストの内容が現況と異なる可能性があります。古いリストをそのまま使い回すと、情報の正確性が担保できない点に気をつけてください。

参考:法務局公式の制度詳細

法務省|実質的支配者リスト制度の創設(令和4年1月31日運用開始)

上場会社・子会社・相続が絡む場合:実質的支配者確認の落とし穴

実質的支配者の確認において、「社長が一番偉いから社長が実質的支配者」という判断は誤りです。確認作業が複雑になる3つのケースを整理します。

① 上場会社・その子会社が顧客の場合

上場会社およびその子会社は、犯収法上「自然人とみなす」という特例があります(犯収法第4条第5項・施行規則第11条第4項)。つまり、上場会社の子会社が顧客の場合は、その親会社である上場会社が「自然人」扱いとなります。自然人まで遡って株主を調べ続ける必要はありません。これは実務上、大幅な手間の削減につながります。

同様に、国・地方公共団体・独立行政法人・国立大学法人・公益法人・年金基金なども自然人とみなされる対象に含まれます。原則として実質的支配者の申告は不要です。

② 法人が株主の場合(間接保有)

顧客法人Aの株主に法人Bがいる場合、そのまま止まらず、法人Bの株主を自然人まで遡って確認する必要があります。これを「間接保有」と呼びます。実質的支配者リストの書式も直接保有と間接保有で様式が異なります。遡りの途中に上場会社が挟まる場合はそこで終了です。

③ 株主に相続が発生しているケース

これが最も頭を悩ませるケースです。ある司法書士事務所が実際に経験した事例では、議決権51%を持つ筆頭株主Xがすでに死亡しており、複数の相続人がいるものの遺産分割協議が未了の状態でした。この場合、相続人は株式を共有しており、会社に対して株主権行使代表者の通知も株主名簿書換請求も行っていない状態でした。

法務局に照会した結果、「次順位の26%株主Yを実質的支配者として記録することで差し支えない」という見解が示されました。ただし、これはあくまで形式審査の範囲内の回答であり、実質的支配者の確認は司法書士の職責であることが前提です。法令・学説上も見解が確立できていないグレーゾーンが残る点は、知っておく価値があります。

厳しいところですね。しかし、こうした複雑なケースを事前に把握しておくことで、決済直前に混乱するリスクを大幅に下げることができます。

参考:複雑なケースの実務対応

マッスル司法書士事務所|実質的支配者はだれ?〜株主に相続が発生している場合

宅建業者が決済前にやるべき実務フローと司法書士との連携ポイント

実質的支配者の確認は、決済当日に「急に言われた」と感じると、依頼者がトラブルになるリスクがあります。これが最大の実務上のリスクです。以下に、宅建業者として動くべきタイミングと内容を整理します。

売買契約前〜媒介契約時

法人顧客との媒介契約を締結した段階で、取引時確認の対象になることを確認します。そのうえで、「売買契約の締結時または契約前に、実質的支配者の確認書類をご用意いただく必要があります」と事前に案内します。案内が早ければ早いほど、当日のスムーズさにつながります。

確認が必要な書類は次のとおりです。

確認事項 必要書類の例
法人の本人特定事項 登記事項証明書印鑑証明書
取引を行う目的 チェックシートへの記入
事業内容 定款、登記事項証明書
実質的支配者の特定 株主名簿または法人税申告書別表2
実質的支配者の本人特定事項 実質的支配者本人の運転免許証等

決済当日の流れ

決済の場では、司法書士も独自に実質的支配者の確認を行います。宅建業者と司法書士の確認義務は別個であり、「司法書士がやったから宅建業者は省略できる」という扱いにはなりません。義務が重複しています。

司法書士があらかじめチェックシートを仲介業者に渡し、依頼者に事前記入してもらうという流れが推奨されています。宅建業者としては、このチェックシートの準備と事前説明を仲介担当者として担うことで、決済当日の混乱を防ぐことができます。

実質的支配者リストを使った効率化

法人顧客が実質的支配者リスト(BOリスト)を事前に取得している場合、その写しを受領することで確認作業の大部分をカバーできます。「銀行の融資審査でもBOリストが求められているから、どうせ取るなら先に取っておく」という流れが、今後の標準になっていく可能性があります。

この確認フローを社内マニュアルに落とし込んでおくことが、今後の法人顧客対応の質を左右します。一度整備してしまえば、あとはルーティンです。

参考:宅建業者向けの実務解説

相畑司法書士事務所|不動産業者の皆様、4月から決済時の司法書士による本人確認の内容が変わりました

参考:全宅連による犯収法の取引時確認解説

公益社団法人全日本不動産協会|犯罪による収益の移転防止に関する法律上の取引時確認