マネーロンダリング対策とPayPayの関係を宅建業者が知るべき理由

マネーロンダリング対策とPayPayを宅建業者が正しく理解する

PayPayで受け取った賃料は、宅建業者にも「疑わしい取引の届出」義務が生じることがあります。

📋 この記事の3つのポイント
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宅建業者は特定事業者として義務がある

犯収法により、宅建業者には本人確認・確認記録の作成・疑わしい取引の届出の4つの義務が課されており、未対応の場合は2年以下の懲役または300万円以下の罰金に処される可能性があります。

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PayPayもマネロン対策の対象事業者

PayPayは犯収法に基づく資金移動業者として独自のマネロン対策方針を定めており、宅建業者はPayPayを介した取引でも支払原資や取引目的の確認が求められます。

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2027年4月には本人確認がさらに厳格化

2027年(令和9年)4月1日施行の改正犯収法施行規則により、画像・写しによる本人確認が禁止されるなど、実務に大きな影響が出ます。令和8年度末までに体制整備の完了が求められています。

マネーロンダリング対策で宅建業者が「特定事業者」に指定される理由

 

かつてマネーロンダリング(以下、マネロン)対策といえば、銀行や信用金庫などの金融機関だけの話だと思われていた時代がありました。しかし現在は全く違います。宅地建物取引業者も「犯罪収益移転防止法(以下、犯収法)」における「特定事業者」として位置付けられており、金融機関と同等の義務を担っています。

この背景には、国際的な政府間会合であるFATF(Financial Action Task Force:金融活動作業部会)の動向があります。FATFは1989年に設立され、現在38か国・地域が加盟するマネロン対策の国際標準機関です。金融機関の本人確認が強化されるにつれ、犯罪者はより監視の薄い不動産取引を狙うようになりました。これを受け、2003年にFATFは「40の勧告」を改訂し、宅地建物取引業者も義務の対象に含めることになったのです。

日本では2007年に犯収法が成立・公布され、2008年3月から全面施行されました。

宅建業者が担う義務は4つです。

  • 取引時確認(本人特定事項・取引目的・職業/事業内容・実質的支配者などの確認)
  • 確認記録の作成・保存(確認した内容を書面で7年間保存)
  • 取引記録の作成・保存(売買・仲介の記録を7年間保存)
  • 疑わしい取引の届出(疑いが生じた場合は国土交通省を通じて国家公安委員会へ届出)

対象となる取引は「特定取引」と呼ばれ、宅地・建物の売買契約の締結またはその代理・媒介が対象です。なお、賃貸借の代理・媒介は犯収法上の特定取引には含まれていない点は、あまり知られていません。ただし、賃貸取引の相手方が犯罪収益に関与している疑いがあれば、自主的に記録を残し届出することが望ましいとされています。

これは義務ではなく業務上の心構えが問われる部分です。

令和6年(2024年)の警察庁の年次報告書によると、宅地建物取引業者からの疑わしい取引の届出件数は25件(令和6年)と、金融機関の791,440件と比べても圧倒的に少ない状況です。国は宅建業者の届出を強く促しており、この件数を増加させることが政府全体の課題とされています。

国土交通省不動産業課「犯罪収益移転防止法の概要と宅建業者が留意すべき事項」(2025年11月)

マネーロンダリング対策においてPayPayが担う役割と宅建業者との関係

PayPayはQRコード決済サービスとして広く普及しており、2026年現在ではスーパーやコンビニだけでなく、賃貸物件の家賃支払いや管理費の徴収に活用する不動産管理会社も増えてきました。では、このPayPayとマネロン対策はどのような関係があるのでしょうか。

PayPayはキャッシュレス決済サービスとして「資金移動業者」に該当し、犯収法上の「特定事業者」でもあります。PayPay株式会社は自社のウェブサイトで「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策に係る基本方針」を明文化しており、以下の対策を経営の重要課題として取り組んでいます。

  • 顧客管理(取引時確認の実施・顧客受入方針の策定)
  • リスク評価(リスクに見合った低減措置)
  • 疑わしい取引のモニタリングと金融庁への届出
  • 全役職員を対象とした定期的な研修

PayPayは2026年6月以降、本人確認(eKYC)を完了していないユーザーに対してポイント付与などの機能を制限するなど、マネロン対策の強化に動き出しています。これは犯収法の要求に応えるためのものです。

宅建業者にとって重要なのは、PayPayを用いた取引でもマネロンリスクへの意識を持つことです。たとえば、支払原資が不明な場合や、複数の匿名ユーザーからPayPayで分割払いを受けるケースなどは、「取引形態が不自然」として疑わしい取引に該当する可能性があります。PayPayはあくまで決済の手段であり、宅建業者には「その資金がどこから来たのか」を確認する視点が必要です。

つまり、PayPayだから安全という認識は誤りです。

PayPay株式会社「マネー・ローンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策に係る基本方針」

マネーロンダリング対策で見落としがちな「疑わしい取引の届出」の実務ポイント

「疑わしい取引の届出」は、宅建業者が最も見落としやすい義務のひとつです。多くの業者が「問題のある取引はしていない」と判断しがちですが、届出の対象は実際に犯罪が確認された取引ではなく、「疑いが生じた取引」です。確信がなくても届出は義務なのです。

国土交通省が示している「不動産売買における疑わしい取引の参考事例(宅地建物取引業者)」では、以下のような取引が注意すべきものとして挙げられています。

カテゴリ 具体的な事例
💴 現金の使用形態 多額の現金での購入、収入に見合わない高額物件の購入
🎭 真の契約者の隠匿 架空・借名での契約、法人の実体がない疑いがある場合
🔀 取引の特異性 短期間で複数売買、市場価格を大きく下回る価格での売却
📝 契約後の事情 合理的理由なく決済期日の延期を申し入れた場合
👤 その他 収入に見合わない公務員・会社員の高額取引、届出をしないよう依頼・強要された場合

特に注意したいのが「支払い原資が不透明な取引」です。PayPayや電子マネーを複数回に分けて支払う行為、送金元が毎回異なる場合なども、この観点からリスクを評価する必要があります。

また、見落とされがちなポイントがあります。売買契約の締結前のやりとりで申し込みが撤回された場合や、契約締結後に解約となった場合でも、疑わしい事情があれば届出の対象となります。「成立した取引だけが対象」という思い込みは間違いです。

届出をすることが宅建業法の守秘義務に違反することはなく、届出者の情報も保護されます。届出を躊躇する必要はありません。

三井住友トラスト不動産「不動産売買に関して留意すべきこと~疑わしい取引の届出」

マネーロンダリング対策で宅建業者が問われる罰則と2026年以降の立入検査リスク

「知らなかった」では済まされません。犯収法に基づく義務を履行しなかった場合、行政庁から指導・是正命令が下され、さらにその是正命令にも従わなかった場合は刑事罰の対象となります。

罰則の内容を整理すると以下の通りです。

違反行為 罰則
⛔ 是正命令違反 2年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可)
📋 報告徴収・立入検査の忌避 1年以下の懲役または300万円以下の罰金(併科も可)
🪪 本人特定事項の虚偽申告 1年以下の懲役または100万円以下の罰金(併科も可)
🏦 預貯金通帳等の不正譲渡・譲受(業として) 3年以下の懲役または500万円以下の罰金(併科も可)

なお、これらは個人への罰則に加え、両罰規定により法人にも科されます。法人の場合、罰金の上限は個人のものと同じですが、組織的な義務違反として社会的信用の損失も伴います。

さらに重要なのが、令和8年(2026年)度以降の動向です。国土交通省は「リスク評価書の作成」および「体制整備の状況」について、立入検査や書面審査等を通じて確認していくと明言しています。未着手の宅建業者は令和8年度末までに対応を完了させるよう強く求められています。2028年(令和10年)8月に控えるFATF第5次対日相互審査に向け、政府の監視の目が確実に強まっています。厳しいところですね。

リスク評価書を作成していない事務所は今すぐ着手が必要です。

国土交通省「令和8年2月19日付 事務連絡:犯罪収益移転防止等に関する措置の徹底について」

マネーロンダリング対策で宅建業者が今すぐ実践すべき本人確認の見直しポイント

現場で多くの宅建業者が「免許証を見れば本人確認は完了」と思っています。しかし現行法でも、すでにその認識では不十分な場合があります。2027年4月1日の改正施行規則では、さらに大きな変化が予定されています。

現時点で実践すべき本人確認の見直しポイントをまとめます。

① 運転免許証の確認

対面取引では「提示のみ」で足りますが、偽造されていないかの目視確認は必須です。2027年4月1日以降、非対面(オンライン)取引では、免許証の画像・写しによる確認が廃止されます。マイナンバーカードのICチップ情報の読み取りが主流になることが予想されます。

② マイナンバーカードの活用

デジタル庁が無料で提供している「マイナンバーカード対面確認アプリ」を活用すると、券面情報とICチップに格納された情報の一致性を確認できます。暗証番号の入力は不要で、氏名・住所・生年月日・性別・有効期限が表示されます。自社のスマートフォンにダウンロードして日常業務に組み込むことを検討してください。

③ パスポートの扱い

令和3年(2021年)2月4日以降に発行されたパスポートには住所記入欄がないため、提示だけでは本人確認が完了しません。公共料金の領収書や他の顔写真付き証明書など、補完的な書類の提示が追加で必要です。

④ 健康保険証・年金手帳の取り扱い

国民年金手帳と各種健康保険被保険者証は、根拠法令の改正により新規発行が停止されており、犯収法上の本人確認書類から削除されています。以前から使用していた確認書類のリストを新する必要があります。

⑤ 法人取引の際の実質的支配者確認

令和4年(2022年)1月から「実質的支配者リスト制度」の運用が始まっています。法人と取引する際は、法務局に実質的支配者の情報が登録されていないか確認しましょう。写しの交付費用は無料です。

現在使用している本人確認のフローが古くなっていないか、今一度確認が必要です。

不動産業者向け解説「犯収法施行規則の改正と本人確認方法の見直しポイント」(2026年1月)

マネーロンダリング対策のリスク評価書・体制整備を小規模事務所がどう進めるか【独自視点】

大手不動産会社であれば専任の法務部門や研修体制があり、マネロン対策の内部整備はすでに進んでいるでしょう。問題は、社員数名の中小・個人事務所です。宅建業者の多くは小規模事業者であり、「リスク評価書の作成」と言われても何から手をつければよいかわからないという声が多く聞かれます。

まず「リスク評価書」とは何かを理解することが出発点です。これは、自社の取引においてマネロンに利用されるリスクを洗い出し、そのリスクの大きさを評価・文書化したものです。内容は大きく4つのカテゴリで整理します。

  • 🏠 商品・サービスのリスク:売買仲介か賃貸仲介か、あるいは代理か
  • 👥 顧客属性のリスク:外国人・外国法人か、非居住者か、反社会的勢力と繋がりがないか
  • 🔄 取引形態のリスク:非対面取引か、多額の現金取引か、支払原資が不明か
  • 🌏 国・地域のリスク:北朝鮮・イラン・ミャンマーに関連した取引か

小規模事業者でも取り組みやすいのは、全宅連・全日本不動産協会が提供しているひな形や「宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック第5版」(2026年1月公表)を参照して、自社の取引パターンに合わせて記入することです。ゼロから独自に作成する必要はありません。

体制整備については「組織的に取り組むこと」が求められています。代表者が中心となり関与し、従業員に研修を実施することが必要です。一人事務所であっても、代表者自身が内容を理解していることが求められます。

PayPayなどのキャッシュレス決済の普及により、支払方法が多様化している現在、「現金以外だから安全」という意識は誤りです。PayPayを経由した不自然な分割払いや、送金元が頻繁に変わるケースなども、リスク評価の視点から注意を払うことが現実的な対応です。

形だけ整えれば問題ない、という姿勢では不十分です。

立入検査で確認されるのは「リスク評価書が存在するかどうか」だけでなく、「その内容が実態に即しているかどうか」です。形式的な書類を作成しても、実際の業務に反映されていなければ意味をなしません。2028年のFATF第5次対日相互審査に向けた国全体の取り組みの中で、宅建業者が「マネロンリスクを理解していない」と評価されることは、業者個人にとっても業界全体にとっても大きなリスクとなります。

全宅連「不動産業における犯罪収益移転防止(マネーロンダリング)対策について」(2025年11月)

マネーロンダリング 橘玲/著