所有者不明土地法ガイドラインと宅建事業者が押さえるべき実務対応
登記簿を確認すれば所有者はすぐわかる、と思っていませんか。実は全国の土地の約23%(面積にして410万ha=九州全体368万haより広い)が、登記だけでは所有者を確認できない「所有者不明土地」です。
所有者不明土地法ガイドラインの全体像と宅建事業者への影響
「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(以下、所有者不明土地法)は平成30年(2018年)に制定されました。その後、施行から3年を経て令和4年(2022年)5月に大幅な改正が行われ、同年11月1日に施行されています。
この施行に合わせて国土交通省・法務省は複数のガイドラインを新規作成または改訂し、公表しました。具体的には次の5つです。
- 所有者不明土地の利用の円滑化及び管理の適正化並びに土地の所有者の効果的な探索に関する基本的な方針(基本方針)の改正
- 地域福利増進事業ガイドライン(改訂)
- 所有者不明土地の管理の適正化のための措置に関するガイドライン(新規)
- 所有者不明土地対策計画作成の手引き(新規)
- 所有者不明土地利用円滑化等推進法人指定の手引き(新規)
これらは「利用の円滑化の促進」「管理の適正化」「推進体制の強化」という3本柱を実務レベルに落とし込んだものです。つまり、行政だけでなく宅建事業者を含む民間専門家が積極的に関与することを前提に設計されています。
宅建事業者の実務に特に直結するのは、地域福利増進事業ガイドラインと推進法人指定の手引きの2つです。いずれも不動産会社が新たな業務領域として関与できる内容が含まれており、要件や手続きの把握が実務上の差別化につながります。これは使えそうです。
参考:国土交通省「人口減少時代における土地政策の推進~所有者不明土地等対策」(各ガイドラインのリンクあり)
所有者不明土地法ガイドラインが示す「地域福利増進事業」の改正ポイント
地域福利増進事業とは、都道府県知事の裁定によって所有者不明土地に「使用権」を設定し、地域住民の福祉や利便の増進に資する施設を整備できる制度です。制定時は使用権の上限が10年とされていましたが、改正によって重要な変化が生じています。
まず対象土地の範囲が拡大されました。制定当初は「更地または簡易な物置等が建っている土地」に限定されていたのですが、改正後は老朽化して利用が困難な空き家等が建っている土地も対象に加わりました。これは地方公共団体から「実際には空き家付きの所有者不明土地が多く、対象に含めてほしい」という声が多数寄せられた結果です。現場感覚と制度設計がようやく一致した形といえます。
次に対象事業も拡充されています。従来の広場・公民館などに加え、備蓄倉庫・非常用電源供給施設といった災害対策施設や、地域住民の共同の福祉に資する再生可能エネルギー発電設備の整備が新たに追加されました。自然災害が激甚化する近年の状況を踏まえた対応です。
そして宅建事業者にとって実務上最も重要な変更点は、使用権の上限期間と縦覧期間の変更です。民間事業者が一定の政令対象事業を整備する場合に限り、使用権の上限が10年から20年に延長されました。また事業計画書等の縦覧期間が従来の6か月から2か月に短縮されています。縦覧が長すぎることが制度活用の妨げになっていた点が解消されたわけで、民間の事業計画立案に具体的な見通しが立てやすくなっています。
なお改正前の制度では、地域福利増進事業の活用実績は法施行以来わずか1件に留まっていました。この「使いにくさ」を解消するための改正という位置づけを理解しておくことが大切です。
参考:RETIO(不動産適正取引推進機構)「改正所有者不明土地法の解説と今後の取組について」(国土交通省 土地政策課による解説)
所有者不明土地の管理の適正化ガイドラインで変わる市町村と宅建事業者の関係
改正によって新たに創設された「管理の適正化」の仕組みは、宅建事業者の周辺業務にも直接影響します。これが原則です。
具体的には、所有者による管理が実施されておらず引き続き管理が見込まれない「管理不全所有者不明土地」について、市町村長が勧告・命令・代執行の権限を持つことになりました。これにより、所有者の全部が不明な土地であっても市町村が強制的に措置を講じられるようになっています。たとえば土砂の崩落リスクがある斜面や、草木が著しく繁茂し害虫発生・道路への越境が生じている空き地などが対象となりえます。
地方公共団体の約6割が近隣住民からの苦情を受けていたというデータがあります。これまで「所有者不明だから手が出せない」と放置されていたケースに、ようやく法的根拠のある対処ができるようになったわけです。
宅建事業者として注目すべき点は、この管理の適正化のための措置でも「土地所有者の探索に必要な公的情報の利用・提供」が可能になった点です。固定資産課税台帳や農地台帳等を活用して住所等の情報を取得できる仕組みが拡充されています。つまり所有者不明土地に関係する業務を行う際、探索のルートが広がったということです。
また民法改正で創設された「管理不全土地管理命令」について、市町村長が利害関係の有無を問わず請求できる特例も設けられています。従来は「利害関係人のみが請求できる」という民法上の制約がありましたが、この特例によって市町村が地域全体のために動けるようになっています。厳しいところですね。
参考:国土交通省「所有者不明土地の管理の適正化のための措置に関するガイドライン」(勧告・命令・代執行の判断基準と手続きを掲載)
所有者不明土地法ガイドラインと相続登記義務化の関係を正確に理解する
ガイドラインの背景を語るうえで、相続登記の義務化は切り離せません。2024年4月1日から不動産登記法の改正により、相続登記が義務化されました。これは所有者不明土地の「発生予防」を目的とした措置であり、所有者不明土地法の管理・利用対策と一体で機能します。
義務の内容は2段階です。①相続によって不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請すること、②住所等の変更が生じた場合は変更日から2年以内に住所変更登記を申請すること、この2点が義務化されました。正当な理由なく怠った場合、①については10万円以下の過料、②については5万円以下の過料が科される可能性があります。過料は行政上のペナルティです。
宅建事業者として重要なのは、「2024年4月1日以前の相続分も義務化の対象」という点です。法施行前に発生した相続であっても、施行日から3年以内(つまり2027年3月31日まで)に申請が必要です。顧客から「昔の相続は関係ない」と思い込まれているケースが実際に起こりえます。売買の仲介に際して、登記名義が古いままの案件では特に確認が必要です。
相続登記が義務化されると、宅建事業者の実務でも影響が生じます。たとえば媒介時の調査段階で登記簿上の所有者と実際の権利者が乖離している物件への対応、重要事項説明における登記状況の説明の精度向上などが求められます。登記状況の確認が原則です。
参考:法務局(東京)「相続登記が義務化されました(令和6年4月1日施行)」(義務化の概要・過料・手続きを掲載)
所有者不明土地利用円滑化等推進法人への参画が宅建事業者にもたらすチャンス
改正所有者不明土地法が新設した「所有者不明土地利用円滑化等推進法人」(推進法人)制度は、宅建事業者にとって独自の視点から評価すべき制度です。一般的には行政補助の公益的な仕組みとして紹介されることが多いのですが、実は一般の不動産会社でも指定を受けられる可能性があります。
推進法人に指定されるための主体要件は、「特定非営利活動法人・一般社団法人・一般財団法人、または所有者不明土地の利用の円滑化等の推進を図る活動を行うことを目的としている会社」とされています。会社形態でも認められる点が重要です。
推進法人として指定されると、次のような業務が可能になります。
- 所有者不明土地等の利活用を希望する人への情報提供・相談対応
- 土地所有者に対する適正管理のための情報提供・相談対応
- 低未利用土地等の利用促進のための事業
- 市町村長への所有者不明土地対策計画の作成提案
- 管理不全土地管理命令等の請求の要請
これらは地元密着型の不動産事業者が強みを活かしやすい領域です。特に低未利用土地の利用促進業務は、空き家・空き地の売却相談や空き家バンクの運営などと組み合わせることで実質的な業務拡張につながります。
指定の審査基準は市町村ごとに定められますが、「当該市町村で活動していること」「必要な人員・組織体制があること」「財務基盤が安定していること」「関係機関と連携して活動できること」などが共通の要件として求められる傾向があります。推進法人の指定を受けなくても、協議会の構成員として関与するルートもあるため、まず地元の市町村担当窓口への問い合わせを一つの入口として検討するとよいでしょう。
国土交通省はこの推進法人制度の普及を積極的に推進しており、令和4年度以降、モデル的な取り組みへの支援や情報提供を継続的に行っています。所有者不明土地対策に関する補助制度(令和4年度予算で約7,100万円を措置)の活用とも連動しています。これは使えそうです。
参考:公益財団法人不動産流通推進センター「改正所有者不明土地関連法の改正について」(宅建業者向けの改正ポイント整理)
所有者不明土地ガイドラインを実務に活かすための宅建事業者の具体的チェックポイント
ガイドラインの内容を理解したうえで、宅建事業者が日常業務にどう落とし込むかを整理しておきましょう。
まず媒介業務における登記確認の精度向上です。相続登記義務化の対象は「2027年3月31日まで」という期限があるため、現在進行中の案件で古い登記名義が残っているものは優先的に状況確認が必要です。所有者が不明または連絡不能な案件では、固定資産課税台帳の情報活用ルートが法的に整備されていることも知っておくと調査の手がかりになります。
次に管理不全土地に隣接する不動産の取り扱いです。市町村が代執行権を持つようになったことで、周辺の管理不全土地に対する行政の動きが今後活発化することが見込まれます。販売・仲介する物件の近隣に管理不全な所有者不明土地がある場合、その状況と行政の対応見通しについて調査・説明しておくことがクレーム防止につながります。管理不全土地に注意すれば大丈夫です。
また地域福利増進事業の改正内容を把握しておくことで、開発計画や土地活用の提案時に「この所有者不明土地はどう活用できるか」という相談に対応できるようになります。縦覧期間が2か月に短縮されたことで、行政・事業者との連携スケジュールが組みやすくなっています。
そして推進法人制度については、自社が指定を受けるかどうかを別にしても、地元市町村が推進法人を指定した場合にどう連携するかを事前に考えておくことが重要です。推進法人と宅建業者が連携することで、所有者不明土地に係る売却相談や利活用提案を一体的に提供する体制が作れます。
| チェック項目 | 対応のポイント | 関連ガイドライン |
|---|---|---|
| 相続登記の状況確認 | 2027年3月31日までに義務化対象分の登記が完了しているか確認 | 基本方針(改正) |
| 隣接管理不全土地の把握 | 市町村の勧告・命令・代執行の可能性を含めた近隣状況の説明 | 管理の適正化ガイドライン |
| 地域福利増進事業の活用検討 | 空き家付き所有者不明土地も対象に。縦覧2か月・使用権20年に対応した事業計画を検討 | 地域福利増進事業ガイドライン |
| 推進法人制度への関与 | 地元市町村の指定状況を確認し、指定申請または協議会への参加を検討 | 推進法人指定の手引き |
| 所有者探索の情報活用 | 固定資産課税台帳・農地台帳等の情報提供制度の要件と手続きを把握 | 基本方針(改正) |
所有者不明土地の問題は、放置すれば不動産取引のリスク要因になる一方、適切に対応すれば新たなビジネス機会を生み出します。ガイドラインを形式的な知識として終わらせず、日々の実務に接続する意識が重要です。
参考:国土交通省「所有者不明土地ガイドブック」(制度の概要をわかりやすくまとめた公式ガイドブック)

これで解決! 所有者不明土地の固定資産税実務Q&A
