管理不全土地管理命令と共有持分の正しい知識と実務対応

管理不全土地管理命令と共有持分の関係を正しく理解する

共有土地でも管理命令は「持分ごと」には出ない、これを知らないと商談で大きな判断ミスをします。

この記事の3つのポイント
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命令は土地全体に及ぶ

管理不全土地管理命令は共有持分単位ではなく、土地・建物全体を対象として発令される。所有者不明土地管理命令との最大の違いの一つ。

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処分には所有者の同意が必須

管理人が売却などの処分行為を行うには、裁判所の許可に加えて所有者の同意が必要。所有者不明土地管理命令とは異なる重要な制限。

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登記は行われない

管理不全土地管理命令が発令されても登記簿には記録されない。登記確認だけでは命令の有無を把握できないため、調査上の盲点になりやすい。

管理不全土地管理命令の概要と宅建実務での位置づけ

 

2023年(令和5年)4月1日の民法改正によって、「管理不全土地管理命令」および「管理不全建物管理命令」という制度が新設されました。これは、所有者による土地や建物の管理が不適当であることにより、他人の権利または法律上保護される利益が侵害され、もしくは侵害されるおそれがある場合に、利害関係人の請求を受けた裁判所が管理人を選任して管理を命じる制度です(民法第264条の9)。

この制度が生まれた背景には、人口減少・少子高齢化・都市への人口集中という社会構造の変化があります。管理の担い手が減少し、放置された土地や建物が全国的に急増していることが深刻な問題となっていました。従来の制度では、近隣の土地所有者等は、管理不全土地の所有者を訴えて勝訴したうえで強制執行するしかなく、機動的な対応が難しかったのです。

宅建事業従事者にとってこの制度が重要なのは、取引対象物件の隣地や周辺地に管理不全土地が存在する場合、または売買の対象物件そのものが管理不全状態にある場合に、制度の知識が直接的に取引の判断に影響するからです。つまり、制度を知っているかどうかが、顧客への適切な情報提供にかかわります。

制度の申立権者は「利害関係人」に限られています。具体的には、管理不全土地の隣地所有者や、臭気・害虫等の被害を受けている者などが該当します。宅建業者が「利害関係人」として直接申し立てるケースは通常想定されませんが、顧客への説明責任を果たすうえで、手続きの流れや要件を正確に把握しておく必要があります。

申立ては、対象不動産の所在地を管轄する地方裁判所に対して行います。申立手数料は不動産1個につき収入印紙1,000円分と、郵便切手(大阪地裁の例では6,150円分)が必要です。加えて、管理費用や管理人報酬の原資となる「予納金」の納付が求められます。予納金の額は事案ごとに裁判所が判断しますが、不在者財産管理制度では20〜100万円が相場とされており、案件の規模によって大きく変わります。

参考として、国土交通省が公表している所有者不明土地対応ガイドブックには、この制度の適用場面と手続きの全体像が整理されています。

国土交通省「所有者不明土地ガイドブック」(管理不全土地・建物管理命令の手続き・費用・管理人の権限について詳述)

管理不全土地管理命令と共有持分の関係:「持分単位では発令されない」という核心

ここが実務上で最も混乱しやすいポイントです。

管理不全土地管理命令は、対象となる土地が複数人の共有に属する場合であっても、共有持分単位では発令されず、土地全体を対象として発令されます(民法第264条の9第2項)。これは「所有者不明土地管理命令」と決定的に異なる点です。

所有者不明土地管理命令(民法第264条の2第1項)の場合、共有者のうち所在不明の者の持分だけを対象として命令が発令されることがあります。たとえば、共有者A(所在確認済み)・共有者B(所在不明)という土地であれば、Bの共有持分のみを対象に管理命令が出ることがあります。これが「持分単位の管理」です。

一方、管理不全土地管理命令はそのような持分単位の細分化が認められません。土地全体について一つの管理命令が発令され、選任された管理人は全共有持分権者のために「誠実かつ公平に」権限を行使する義務を負います(民法第264条の11第2項)。つまり、管理人は特定の共有者だけを利する行動をとることは許されません。

この違いは実務上の判断に影響します。たとえば共有者が3人いる土地で、そのうち1人が適切な管理をしていないために隣地に害虫被害が出ているとします。この場合に管理不全土地管理命令が発令されれば、残り2人の共有者の権利も含む土地全体に管理命令の効力が及ぶことになります。全共有持分が命令の対象です。

また、管理不全土地管理命令の効力は、その土地に存在する動産にも及びます。ただし、効力が及ぶのは「その土地の所有者または共有持分権者が所有する動産」に限られます(民法第264条の10第1項)。第三者が置いた荷物などには原則として命令の効力は及ばない点にも注意が必要です。

比較項目 所有者不明土地管理命令 管理不全土地管理命令
所有者の状況 所有者が不明・所在不明 所有者は判明しているが管理不適切
命令の単位 共有持分単位での発令が可能 土地・建物全体に発令(持分単位は不可)
命令の登記 あり(登記簿に記録される) なし(登記されない)
処分時の所有者同意 不要(裁判所の許可のみで可) 必要(裁判所の許可+所有者の同意)
所有者の意見聴取 原則不要 原則必要(緊急時は例外あり)
訴訟の当事者 管理人が当事者になれる 管理人は当事者にならない(所有者が当事者)

上記の比較表を一度確認しておけば、現場での混乱が防げます。

TMI総合法律事務所「財産管理制度(2)管理不全土地・建物管理制度」(所有者不明管理命令との比較・手続の流れ・管理人の権限義務を詳しく解説)

管理人の権限と共有土地での処分行為:「所有者の同意」が必要な場面

管理不全土地管理命令の発令後、選任された管理人はどこまでの行為ができるのでしょうか?

管理人が裁判所の許可なしに単独で実施できる行為は、以下の範囲です。

  • 🔧 保存行為:土地・建物の現状を維持するための行為(ゴミの撤去、害虫駆除、破損箇所の補修など)
  • 🌱 利用行為:土地・建物の性質を変えない範囲での賃貸等
  • 📐 改良行為:土地・建物の価値を高める行為(ただし性質を変えない範囲内)

これらを超える行為、たとえば土地の大規模な造成工事(変更行為)や、土地・建物の売却・建物の取壊し(処分行為)を行う場合は、裁判所の許可が必要になります。重要なのは、処分行為については裁判所の許可に加えて「所有者の同意」が必要とされている点です(民法第264条の10第3項)。

たとえば、共有の管理不全土地を管理人が売却しようとする場合、裁判所への許可申請だけでは足りず、全共有者から同意を取得しなければなりません。これは所有者不明土地管理命令の場合(裁判所の許可だけで処分が可能)と大きく異なります。

一方、「変更行為」どまりの場合、たとえば田畑を宅地に造成する工事などは所有者の同意なしに裁判所が許可を出せる場合があります。処分行為と変更行為の線引きが実務上の分岐点です。

共有土地の場合、誠実公平義務も働くため、管理人は特定の共有者に有利な処分を行うことはできません。結果、売却を進めようとしても、反対する共有者が1人でもいれば実質的に手が止まるということです。厳しいところですね。

なお、管理不全土地管理命令が発令されても、土地の所有者が変わるわけではありません。あくまで管理人が管理・処分の権限を持つだけです。また、所有者は命令に対して不服申立(即時抗告)を行うことができます(非訟事件手続法第91条第8項)。

登記されない命令と宅建実務上の盲点:調査で見落とすリスク

宅建業者にとって実務上もっとも注意が必要な点の一つが、「管理不全土地管理命令は登記されない」という事実です。

所有者不明土地管理命令の場合は、命令が発令されると登記簿に管理命令の旨が記録されます。これにより、不動産調査の際に登記簿を確認することで命令の存在を把握することが可能です。ところが管理不全土地管理命令は、発令されても登記簿への記録が行われません。

これが何を意味するかというと、登記簿謄本をいくら確認しても、対象不動産や隣接地に管理不全土地管理命令が発令されているかどうか、登記上では判断できないということです。これは調査の盲点です。

取引に先立ち、特に以下の状況では管理不全土地管理命令の存在を疑う必要があります。

  • 🏚️ 隣地が荒廃状態にあり、ゴミの放置・異臭・害虫発生が見られる
  • 🌿 対象物件または隣地の擁壁・建物に明らかな破損・傾斜がある
  • 📮 対象地の郵便受けや外観から長期間管理されていない様子が見てとれる

こうした場合は、当該地方裁判所(非訟事件担当部)への照会、または法務局での相談を通じて命令の有無を確認するアプローチが考えられます。裁判所の担当部門は非訟事件を担当しており、大阪地裁では第4民事部が管轄しています。

また、管理不全土地管理命令が発令されている土地において管理人が土地を処分した後、その代金は供託所に供託されます。この供託については公告がなされますが、登記とは異なる公示方法であるため、通常の登記確認では把握できません。不動産取引に際しては、可能であれば現地確認と周辺聞き取りを組み合わせた調査が重要です。

区分所有建物(マンション等)については、管理不全建物管理命令の適用が除外されている点も覚えておく必要があります(区分所有法第6条第4項)。マンションの専有部分や共用部分に対してこの命令を申し立てることはできません。連棟式建物(棟割長屋)が区分所有建物に該当するケースもあるため、物件の形態を正確に把握することが調査の前提になります。

大阪地方裁判所第4民事部「管理不全土地・建物管理命令申立てについてのQ&A(令和6年10月改訂)」(申立費用・必要書類・手続の流れ・マンション適用除外などを詳述)

宅建事業従事者が押さえる独自視点:「管理不全+所在不明」が重なるケースの選択判断

現場では、一つの不動産が「所有者が不明」かつ「管理が不全」という両方の状態を満たすケースが少なくありません。この場合、申立権者は所有者不明土地管理命令と管理不全土地管理命令のどちらを選んで申し立てるべきか、という判断が生じます。これは宅建士の試験や一般的な解説記事ではあまり触れられていない、実務ならではの論点です。

両方の要件を満たす場合、どちらを申し立てるかは申立人の判断に委ねられています。ただし、二つの命令には機能上の差があります。

まず、所有者不明土地管理命令の場合、管理人に対象不動産の管理処分権が専属します。そのため、裁判所の許可さえ得れば、所有者の同意なしに売却・取壊しなどの処分行為を進めることができます。

対して管理不全土地管理命令の場合は、先述の通り処分行為には所有者の同意が必要です。所有者が不明の場合に同意を取得することは現実的に難しく、処分が事実上困難になる可能性があります。

つまり、最終的に土地を売却・清算したいという目的がある場合は、両要件を満たすなら所有者不明土地管理命令を選ぶほうが、管理人の権限が広く、柔軟な対応が可能です。これは実務上の重要な判断指針です。

一方、緊急の管理(擁壁の崩壊防止工事・ゴミ撤去など)だけを目的とする場合は、管理不全土地管理命令のほうが所有者への意見聴取を経るため、所有者の関与を引き出せる余地があります。緊急性が高い場合には、意見聴取を省略して命令を発令できる例外規定も用意されています(非訟事件手続法第91条第3項ただし書)。

なお、共有土地において所有者不明者の持分だけが問題の場合は、民法第262条の2に基づく「所在等不明共有者の持分取得制度」の活用も検討に値します。裁判所への申立てを通じて、残りの共有者が不明共有者の持分を取得または第三者に譲渡できる制度で、こちらは持分単位での処理が可能です。状況に応じた制度の使い分けが、宅建事業従事者としての高い専門性を示します。

目的・状況 推奨する制度・手続 理由
緊急の安全確保(擁壁修繕・ゴミ撤去)のみが目的 管理不全土地管理命令 所有者が判明しているなら所有者の関与を引き出しやすい
土地全体の売却・清算まで進めたい 所有者不明土地管理命令(両要件を満たす場合) 処分行為に所有者同意不要、管理人の権限が広い
共有者の一人だけが不明で持分処理をしたい 所在等不明共有者の持分取得制度(民法第262条の2) 持分単位での処理が可能。土地全体に影響しない

複数の制度が選択肢にある場合でも、判断の軸は「何を最終的に達成したいか」です。それが条件です。

制度間の選択に迷う場面では、弁護士・司法書士など法律専門職への相談が判断精度を高めます。法務省が公表している改正民法・不動産登記法の解説資料も、制度の背景理解に役立ちます。

法務省民事局「令和3年民法・不動産登記法改正、相続土地国庫帰属法のポイント」(所有者不明・管理不全土地管理制度の比較・選択の考え方を収録)

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