信託の登記と登録免許税の計算・軽減税率の適用条件

信託の登記と登録免許税の関係・軽減税率の適用条件

自益信託でも、設定の仕方次第で登録免許税が2倍以上かかることがあります。

📋 この記事の3ポイント要約
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信託登記の登録免許税は「所有権移転」と別に課税される

信託を原因とする所有権移転登記と、信託の登記は別々に登録免許税が課されます。二重に税がかかる構造を理解しておくことが重要です。

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自益信託には登録免許税の軽減措置がある

委託者=受益者となる自益信託では、土地の所有権移転登記の税率が通常2.0%のところ、一定要件を満たせば0.4%(または0.3%)に軽減される場合があります。

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他益信託・信託終了時には注意が必要

他益信託や信託終了時の帰属権利者への移転登記では、軽減税率が適用されないケースがあります。宅建事業での信託活用時は事前確認が必須です。

信託の登記とは何か・登録免許税が二重にかかる仕組み

 

不動産を信託する際、登記手続きは「所有権移転登記」と「信託の登記」の2種類をセットで行う必要があります。これは登記実務上の原則であり、どちらか一方だけを入れることはできません。

所有権移転登記は、委託者から受託者へ不動産の名義が移ることを公示するものです。信託の登記は、その不動産が信託財産であることを第三者に対して対抗するために必要な登記です。つまり2つの登記はセットです。

問題は、それぞれに登録免許税が課される点です。「所有権移転登記には税金がかかるのは知っていたが、信託の登記にも別途かかるとは思わなかった」というケースは実務でも少なくありません。二重課税の構造を知らないと、資金計画に狂いが生じます。

信託の登記自体にかかる登録免許税は、不動産の価額(固定資産税評価額)の0.4%(土地・建物いずれも)が原則です。一方、信託を原因とする所有権移転登記の税率は、自益信託か他益信託かによって大きく異なります。この区別が実務の核心です。

なお、登録免許税の課税標準となる「不動産の価額」は固定資産税評価額が基準です。市場価格ではありません。

登記の種類 税率(原則) 備考
信託を原因とする所有権移転(自益信託・土地) 0.4%(軽減) 租税特別措置法による
信託を原因とする所有権移転(他益信託・土地) 2.0% 軽減措置なし
信託を原因とする所有権移転(建物) 0.4% 自益・他益問わず
信託の登記(土地・建物共通) 0.4% 別途課税

つまり土地の他益信託では、所有権移転登記2.0%+信託の登記0.4%=合計2.4%が課税される計算です。評価額が1億円の土地であれば、登録免許税だけで240万円になります。これは痛いですね。

自益信託と他益信託の違い・登録免許税の税率差を正しく把握する

自益信託とは、委託者と受益者が同一人物である信託です。たとえば土地の所有者Aが受託者Bに土地を信託し、Aが受益者として受益権を持ち続けるケースが該当します。自益信託が基本です。

他益信託とは、委託者と受益者が異なる信託です。Aが土地を信託し、Cを受益者として指定した場合は他益信託になります。この場合、信託設定の段階でAからCへの経済的利益の移転とみなされ、贈与税や相続税の問題が発生することもあります。

登録免許税の観点では、自益信託の土地所有権移転登記に限り、租税特別措置法第72条により税率が2.0%から0.4%に軽減されます。これが大きなポイントです。建物については自益・他益を問わず0.4%です。なぜ土地だけ区別するのかというと、立法趣旨として「信託を活用した資産流動化を促進する」政策的配慮があるためです。

実務でよくある誤解として、「自益信託なら全部0.4%になる」という思い込みがあります。しかし信託の登記(0.4%)は別途かかりますし、受益者変更や帰属権利者への移転時に追加の登録免許税が発生する点を見落とすケースが多いです。

また、信託設定時点では自益信託であっても、途中で受益者変更を行って他益信託化した場合、その変更時点で登録免許税や他の税負担が生じる可能性があります。これは覚えておきたいポイントです。

信託の登記における登録免許税の軽減税率・適用要件と手続き

租税特別措置法に基づく軽減税率(0.4%)が適用されるのは、「委託者が当該信託の受益者である場合の土地の所有権の移転登記」に限定されます。条文上は明確ですが、実務では判断が難しい場面もあります。

軽減を受けるためには、登記申請の際に「信託目録」の内容が軽減の要件を満たしていることを明確に示す必要があります。具体的には、受益者が委託者本人であることを信託目録または申請書類で確認できる状態にしておくことが求められます。

税務署ではなく法務局が登記を管轄しますが、登録免許税の計算誤りは補正や追徴の対象となるため注意が必要です。登記申請書に記載する課税標準額の計算は、固定資産評価証明書の「価格」欄の数値を使います。1,000円未満は切り捨て、税額の100円未満も切り捨てです。計算は慎重に行いましょう。

以下に、軽減税率が適用されるケースと適用外のケースをまとめます。

ケース 税率 軽減の可否
自益信託による土地所有権移転 0.4% ✅ 軽減あり(租特法72条)
他益信託による土地所有権移転 2.0% ❌ 軽減なし
信託による建物所有権移転 0.4% ー(元々低税率)
信託の登記(土地・建物) 0.4% ー(一律)
信託終了・委託者への帰属による所有権移転(土地) 0.4%(※条件あり) ⚠️ 要件確認が必要
信託終了・第三者(帰属権利者)への所有権移転(土地) 2.0% ❌ 軽減なし

軽減税率の適用は「自益信託かどうか」が条件です。信託終了時に受益者だった人物が所有権を取得する場合も0.4%に軽減される場合がありますが、受益者が複数いる場合や受益権割合が複雑な場合は個別判断が必要です。

登録免許税の計算ミスを防ぐため、国税庁の「登録免許税の税率の軽減措置に関する証明書」などの書式も事前に確認しておくとよいでしょう。

国税庁タックスアンサー:信託に関する権利の移転等に係る登録免許税(No.7191)

(信託を原因とする各種登記の登録免許税率について、国税庁の公式解説が確認できます)

信託の登記・登録免許税の具体的な計算例と実務上の落とし穴

具体的な数字で確認しましょう。固定資産税評価額が土地5,000万円・建物1,500万円の不動産を自益信託として設定する場合の登録免許税を試算します。

まず所有権移転登記について、土地は軽減税率0.4%が適用されるため、5,000万円×0.4%=20万円です。建物は0.4%のため、1,500万円×0.4%=6万円です。次に信託の登記について、土地と建物いずれも0.4%のため、(5,000万円+1,500万円)×0.4%=26万円です。合計すると、20万円+6万円+26万円=52万円になります。

同じ不動産を他益信託とした場合、土地の所有権移転登記が2.0%になるため、5,000万円×2.0%=100万円となります。この1項目だけで自益信託の土地部分(20万円)と比べて80万円も差が出ます。これは大きな差です。

実務上の落とし穴として特に注意したいのが、「信託目録の内容と実態のズレ」です。登記申請時に信託目録が正確に作成されていないと、軽減税率の適用が認められないケースがあります。司法書士に依頼する際は、受益者の記載が明確かどうかを必ず確認しましょう。

もう一点、見落とされやすいのが「受益権の譲渡時」です。不動産そのものを売買するのではなく受益権を譲渡する形をとる不動産ファンドや信託受益権取引では、不動産登記は発生しないため登録免許税はかかりません。しかし、この場合は宅地建物取引業法の適用対象外になることも多く、取引スキームの選択に際して法令上の注意が必要です。宅建事業者としての関与範囲を確認することが条件です。

法務局:信託に関する登記の手引き(PDF)

(信託の登記申請の手順や信託目録の記載方法など、登記手続きの実務的な詳細が掲載されています)

信託終了時の所有権移転と登録免許税・宅建事業者が見落としやすいポイント

信託が終了したときにも、所有権移転登記と信託の登記の抹消手続きが必要になります。この信託終了時の登録免許税についても、設定時と同様に注意が必要です。

信託終了による所有権移転登記の税率は、移転先が誰かによって変わります。信託契約の内容として、信託終了時に受益者または委託者(残余財産の帰属権利者)に不動産を引き渡すと定めていた場合、その人物が「受益者」であった場合は0.4%の軽減が適用されます。一方、受益者でも委託者でもない第三者への帰属が定められていた場合は、通常の所有権移転税率(土地2.0%)が適用されます。

信託登記の抹消登記については、不動産1個につき1,000円の登録免許税がかかります。土地と建物で別々に申請が必要なため、1件の信託案件で建物1棟・土地1筆であれば合計2,000円です。金額は小さいですが、複数筆の土地がある場合は筆数分だけ費用が積み上がります。

宅建事業者が信託スキームを活用した案件に関わる場面として、「土地信託」「賃貸管理信託」「流動化スキームの仕組み」などが挙げられます。これらの案件では、信託設定から終了まで複数回にわたって登録免許税が発生するため、トータルコストを試算したうえで顧客に説明する必要があります。

信託期間中の登録免許税コストの全体像を把握するためには、信託設定時・受益者変更時・信託終了時のそれぞれで発生しうる税額を整理したチェックリストを準備しておくと実務が効率化します。これは使えそうです。

信託に関する登録免許税の最新の取り扱いや租税特別措置の適用状況は、税制改正のたびに変動する可能性があります。案件対応の際は、国税庁の最新の通達や法務局の事前照会制度を活用して確認することを推奨します。

法務省:信託登記に関する情報ページ

(信託の登記に関する法務省の公式情報が確認できます。信託目録の様式変など最新情報の確認に活用できます)


図解 いちばん親切な家族信託の本