みなし贈与と非上場株式の評価・税務リスクを徹底解説

みなし贈与と非上場株式の関係・評価・税務対策

著しく低い価額で株式を売った相手に、贈与税の申告義務が突然発生することがあります。

この記事の3つのポイント
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みなし贈与とは何か

非上場株式を「著しく低い価額」で譲渡すると、差額が贈与とみなされ、受け取った側に贈与税が課税される仕組みです。

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非上場株式の評価方法

相続税評価額(財産評価基本通達)をベースに「類似業種比準価額」「純資産価額」などで計算しますが、評価方法の選択ミスが税務リスクにつながります。

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実務での注意点

取引価額と相続税評価額の乖離が大きいと税務調査の対象になりやすく、過少申告加算税や重加算税が課されるリスクがあります。

みなし贈与とは何か:非上場株式の取引で起きる課税の仕組み

 

みなし贈与とは、実際には贈与契約を結んでいないにもかかわらず、税法上「贈与があったとみなして」課税される仕組みです。根拠は相続税法第7条で、「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に適用されます。つまり、売買のつもりでも、価額が低すぎると贈与税が発生するということです。

宅建事業に関わる方が不動産会社の式を族間や関係会社へ譲渡するケースは決して珍しくありません。そうした場面で「適当な値段で売った」「帳簿価額で渡した」という判断が、後の税務調査で問題視されることがあります。これは注意が必要です。

具体的なイメージとしては、相続税評価額が1株あたり10万円の非上場株式を、1株1万円で親族へ売却したとします。差額の9万円×株数分が「みなし贈与」として贈与税の課税対象になりえます。たとえば100株なら900万円が贈与とみなされる計算です。900万円の贈与税額は基礎控除110万円を差し引いた790万円に税率が適用され、最大で177万円超の贈与税が発生する可能性があります。

「売買だから贈与税は関係ない」という認識は誤りです。価額次第で買い手側に贈与税が課税されます。

また、みなし贈与の課税は「受け取った側(買い手)」に発生する点も重要です。売り手側には所得税・住民税の問題が別途生じますが、買い手はそもそも税金を払うつもりがなかった場合が多く、申告漏れになりやすい構造があります。そこが実務上の最大のリスクポイントといえます。

国税庁:財産を低い価額で譲り受けたとき(相続税法第7条)

非上場株式の相続税評価額の算定方法:類似業種比準価額と純資産価額

みなし贈与が発生するかどうかの判断基準は「相続税評価額(時価)と取引価額の乖離」にあります。では、非上場株式の相続税評価額はどう計算するのでしょうか?

財産評価基本通達では、非上場株式の評価方法を会社規模によって使い分けます。大会社は「類似業種比準価額」、小会社は「純資産価額」、中会社はその折衷方式が基本です。会社規模の区分は従業員数・総資産・年間取引金額などで判定されます。

類似業種比準価額は、上場している同業種の株価を参考に、評価対象会社の「配当・利益・純資産」の3要素を比較して算出する方法です。業績が良い会社ほど評価額が高くなりやすい仕組みです。一方、純資産価額方式は会社を清算した場合の実質資産から負債を差し引いた金額を株数で割ったもので、土地などの含み益がある会社は評価が大幅に上がることがあります。宅建事業者にとって、不動産を多く保有する会社はこの点で特に注意です。

評価方法の選択がそのまま税額に直結します。

宅建事業に関係する不動産会社では「土地保有特定会社」「株式保有特定会社」に該当するケースがあり、その場合は原則として純資産価額方式のみで評価しなければなりません。これを知らずに類似業種比準価額方式を使ってしまうと、著しく低い評価額となり、みなし贈与のリスクがさらに高まります。

つまり評価方法の選択ミスが税務リスクを拡大させます。

実務では税理士に評価を依頼する場合でも、「どの方式で評価されているか」「特定会社に該当しないか」を担当者が確認しておくことが重要です。評価額の確認は、国税庁が毎年更新する類似業種比準価額の通達も参考になります。

国税庁:財産評価基本通達(取引相場のない株式の評価)

みなし贈与が認定される「著しく低い価額」の具体的な判断基準

みなし贈与が適用される「著しく低い価額」とはどのラインを指すのでしょうか?実はこの点、税法上は明確な数値基準が定められていません。意外ですね。

不動産の低額譲渡についての判例では「時価の80%未満」が一つの目安とされることがありますが、非上場株式については80%基準が当然には適用されません。個々の事情によって税務署が「著しく低い」と判断するかどうかが変わってくる、というのが現実です。

ただし実務上の目安として、国税OBや税理士の間では「相続税評価額と取引価額の差が20%を超えると調査リスクが高まる」といわれています。例えば相続税評価額1株10万円の株式を8万円未満で売ると、問題視される可能性が出てくるイメージです。これはあくまで実務感覚の目安で、法的根拠のある数値ではありません。

結論は「ゼロリスクを求めるなら相続税評価額通りの価額で売るか、事前に税理士へ相談する」ことです。

また、親族間取引だけでなく、同族会社と株主の間の取引でも「みなし贈与」ではなく「みなし配当」や「経済的利益の供与」として別の課税問題が生じます。取引の当事者が「個人同士」か「法人と個人」かによって適用される条文が変わるため、取引形態の確認が不可欠です。

一方で「高すぎる価額での売買」も問題で、相続税評価額を大幅に上回る価額での取引は、売り手に対して所得税や贈与税の問題が生じる可能性があります。高く売れば常に有利、という単純な話でもないのです。

国税庁:贈与税がかかる場合(みなし贈与の概要)

非上場株式のみなし贈与における税務調査の実態と対策

税務調査でみなし贈与が問題になるケースは、主に相続発生後や、大規模な株式移動があった事業承継の場面で起きます。「生前に低額で株式を移転していた」という事実が、相続税申告の調査の中で発覚するパターンが特に多いとされています。

相続税の税務調査選定率は申告件数の約17〜20%ともいわれており(国税庁統計による)、不動産会社や中小企業オーナー家族への調査はさらに高水準です。非上場株式の移動記録は法人税申告書や株主名簿から容易に追跡できるため、隠すことは事実上困難です。税務調査の対象になりやすい構造です。

問題が発覚した場合は、本税(贈与税)に加えて過少申告加算税(10〜15%)、さらに悪質と判断されると重加算税(35〜40%)が課されます。申告期限から5年以上経過していても、贈与税については時効が成立していないケースもあります。これは痛いですね。

対策として有効なのは次の3点です。

  • 📝 株式移動の都度、相続税評価額の計算書を税理士に作成してもらい、取引価額の根拠を書面で残す
  • 📋 株主総会議事録・株式譲渡承認書などの法的書類を完備し、取引の実態を証明できる状態にする
  • 🔍 事業承継計画がある場合は、税理士・公認会計士・弁護士の三者で「税務・法務・評価」を一体的にチェックする体制を作る

特に宅建事業者が関わる不動産会社では、土地の含み益が大きく、純資産価額が帳簿価額の数倍になることが珍しくありません。「帳簿価額で渡したから大丈夫」という判断は禁物です。

宅建事業者が知っておくべき:みなし贈与と事業承継税制の活用ポイント

ここは検索上位の記事ではほとんど触れられていない独自視点ですが、非常に重要です。非上場株式のみなし贈与リスクを大幅に下げる手段として「事業承継税制(特例措置)」の活用があります。

事業承継税制の特例措置(2027年3月31日までに特例承継計画を提出した場合が対象)では、後継者が非上場株式を贈与・相続で取得した場合、贈与税・相続税の100%を猶予(実質的には免除になる可能性あり)できます。これが条件です。

つまり、低額譲渡によるみなし贈与リスクを取るよりも、正式に事業承継税制を使って贈与・相続の形で株式を移転するほうが、税負担ゼロに近い形で承継できる場合があります。「売買でごまかす」より「正面から贈与して非課税にする」戦略の方が有利になるケースが多いということです。これは使えそうです。

ただし事業承継税制の適用には次のような要件を満たす必要があります。

  • 🏢 中小企業者であること(資本金・従業員数の要件あり)
  • 👤 現経営者が代表者であり、後継者へ代表権を移転すること
  • 📄 都道府県知事の「確認」と税務署への申告が必要
  • ⏰ 一定期間(5年間)は雇用要件などの継続条件あり

宅建事業者が経営する不動産会社では、従業員数や資本金が要件をクリアしているケースが多く、事業承継税制は十分活用の余地があります。まず顧問税理士や中小企業診断士、あるいは都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターへ相談することが第一歩です。

中小企業庁:事業承継税制(特例措置)の概要と申請手続き

事業承継を考えるタイミングが遅くなるほど、選択肢が狭まります。宅建業の免許更新や事業拡大の節目に、株式移転の見直しも併せて行う習慣を持つことが、長期的なリスク管理につながります。

事業承継・引継ぎ支援センター(中小機構):無料の専門家相談窓口

以上のポイントを整理すると、非上場株式のみなし贈与問題は「知っているか知らないか」だけで税負担が数百万円単位で変わる、実務直結のテーマです。特に宅建事業者が関わる不動産会社は土地の含み益によって評価額が跳ね上がりやすく、リスクが高い環境にあります。株式移動の前には必ず評価額を算定し、取引根拠を書面で残すことが最低限の対策です。そして事業承継を視野に入れるなら、みなし贈与のリスクを負う低額譲渡よりも、事業承継税制を活用した正式な移転スキームを検討することを強くお勧めします。


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