貸家の評価と賃貸割合の関係を正しく理解する
空室が1室でもあれば、賃貸割合は100%にならず、評価減が縮小して相続税が数十万円単位で増えることがあります。
貸家の評価額の計算式と借家権割合の基本
貸家の相続税評価額は、次の計算式で求めます。
貸家の評価額 = 固定資産税評価額 × (1 − 借家権割合 × 賃貸割合)
借家権割合は全国一律30%と定められており、国税庁の財産評価基本通達93条に根拠があります。つまり、賃貸割合が100%(全室入居中)の場合、固定資産税評価額から最大30%を差し引いた金額が相続税評価額になります。これが原則です。
たとえば、固定資産税評価額が2,000万円の貸家で全室満室の場合、評価額は次のように計算されます。
2,000万円 × (1 − 0.30 × 1.00) = 2,000万円 × 0.70 = 1,400万円
この600万円の評価減は、相続税率が30%のケースなら税額で約180万円の差になります。金額として大きいですね。
一方、賃貸割合が50%に下がった場合は次のとおりです。
2,000万円 × (1 − 0.30 × 0.50) = 2,000万円 × 0.85 = 1,700万円
賃貸割合が100%から50%に下がっただけで、評価額が300万円も変わります。賃貸割合は数字で見ると地味に見えますが、納税額への影響は侮れません。
固定資産税評価額は市区町村が算定するため、相続発生時の直近の評価証明書や名寄帳で確認するのが実務の基本です。評価証明書の取得は市区町村窓口または委任状があれば代理取得も可能で、手数料は1通300円程度です。
参考:国税庁「財産評価基本通達 第93条(貸家の評価)」
賃貸割合の計算方法と空室の取り扱い
賃貸割合は「課税時期に実際に賃貸されている部分の割合」として定義されています。計算式は次のとおりです。
賃貸割合 = 課税時期に賃貸されている各独立部分の床面積の合計 ÷ その家屋の各独立部分の床面積の合計
ここで重要なのは「床面積」を基準にしている点です。部屋数ではありません。たとえば10室のアパートで、1Kが8室・2LDKが2室の場合、2LDKの1室が空室になると、単純に「1/10=10%の空室」とはなりません。実際の床面積で計算するため、広い部屋が空室になるほど賃貸割合は大きく下がります。これは意外ですね。
空室の扱いについては、財産評価基本通達26条の注書きが根拠になります。「課税時期において一時的に空室となっているにすぎないと認められる部分」については、賃貸中として扱えるとされています。一時的空室として認められるおおよその目安は以下の3要件がすべて満たされる場合とされています。
- 空室期間がおおむね1ヶ月以内であること
- 課税時期の前後を通じて賃貸していた実績があること
- 課税時期後に相当期間内に新たな賃貸借契約を締結していること
つまり空室期間が短くても、前後に賃貸実績がなければ認められません。
税務調査の現場では、この「一時的空室」の認定が否認されるケースが少なくありません。賃借人の退去日・次の入居日・仲介依頼の履歴などを書類で残しておくことが実務上は必須です。証拠書類が原則です。
賃貸借契約書・仲介業者への依頼書・募集広告の写しなどを一式まとめて保管することで、税務調査への備えとなります。特に相続発生前1〜2年以内の入退去記録は重点的に保管してください。
参考:国税庁「貸家の賃貸割合に係る一時的空室の判断について(質疑応答事例)」
貸家建付地との評価の違いと賃貸割合が与える影響
貸家の評価と混同されやすいのが「貸家建付地」の評価です。貸家建付地とは、自己所有の土地に自己が所有する貸家が建っている場合の、その土地の評価のことです。
貸家建付地の評価式は次のとおりです。
貸家建付地の評価額 = 自用地としての価額 × (1 − 借地権割合 × 借家権割合 × 賃貸割合)
借地権割合は地域によって30〜90%まで異なり、路線価図・評価倍率表に記載されています。東京都の商業地では60〜70%が多く、地方郊外では30〜40%前後のケースも多いです。
ここで重要なのは、貸家の評価と貸家建付地の評価は「同じ賃貸割合」を用いるという点です。賃貸割合の数値が下がれば、建物と土地の両方で評価減が縮小します。これが合わせ技で影響する理由です。
たとえば、路線価に基づく自用地評価が5,000万円・借地権割合60%・借家権割合30%・賃貸割合100%の場合、貸家建付地の評価額は次のとおりです。
5,000万円 × (1 − 0.60 × 0.30 × 1.00) = 5,000万円 × 0.82 = 4,100万円
これが賃貸割合50%になると、以下のように変わります。
5,000万円 × (1 − 0.60 × 0.30 × 0.50) = 5,000万円 × 0.91 = 4,550万円
土地だけで450万円の評価額の差が生じます。建物の評価減と合算すると、その差はさらに大きくなります。賃貸割合の管理が、土地・建物の両評価に連動して影響することを理解しておけばOKです。
宅建事業に従事している方が相続案件に関わる際、この「建物と土地の評価が連動している」という視点は、税理士との連携においても非常に役立ちます。担当税理士が貸家建付地の評価を見落とすケースもごくまれに発生するため、基本的な知識として知っておくと実務で差がつきます。
参考:国税庁「財産評価基本通達 第26条(貸家建付地の評価)」
賃貸割合が100%でも評価が下がらないケースと実務上の注意点
「満室なら賃貸割合100%で問題ない」と考えている宅建事業従事者は少なくありません。しかし実務では、形式上は満室でも賃貸割合が認められないケースがあります。要注意です。
代表的なのが「相続税対策を目的として相続直前に賃貸借契約を締結した場合」です。国税庁の質疑応答事例では、相続開始直前に親族へ無償または著しく低廉な賃料で貸し付けたケースや、実態のない形式的な賃貸借契約については、賃貸割合に算入しない方向で判断されると示されています。
特に問題になるのは次のようなケースです。
- 相続開始前の直近数ヶ月内に突然入居した賃借人が、被相続人の近親者である
- 家賃が周辺相場の50%以下など、明らかに低廉な賃料設定になっている
- 賃貸借契約書はあるが、実際の家賃の受け渡しや入金履歴が確認できない
いわゆる「駆け込み入居」と呼ばれるケースです。このような形式的な賃貸借は、税務調査で賃貸割合の算入が否認されるだけでなく、重加算税(35〜40%)の対象になりうるため、法的リスクが非常に大きいです。厳しいところですね。
また、使用貸借(無償で貸している場合)については、そもそも借家権が発生しないため、賃貸割合への算入は認められません。この点は借地権・借家権の基礎知識として整理しておく必要があります。
実務上は、賃貸借契約書に加えて「通帳に実際の家賃入金が記録されているか」「入居時に敷金や礼金の授受があるか」「入居者が第三者(赤の他人)であるか」の3点を確認することで、賃貸割合の正当性を事前に検証できます。これが条件です。
相続税の節税効果を最大化するための賃貸割合の管理と実務戦略
賃貸割合は相続発生の「時点」で判断されるため、日常的な空室管理と入居促進が、そのまま相続税の節税効果に直結します。この視点は、多くの賃貸オーナーが見落としている盲点でもあります。
賃貸管理の品質が高い物件ほど、空室リスクが下がり、賃貸割合が安定的に100%に近い状態を保てます。つまり、日々の管理業務と相続対策は切り離せない関係です。
実務で取り組める具体的な賃貸割合管理の方法としては、次のような点が挙げられます。
- 退去が発生した際は、速やかに仲介依頼の記録を残す(依頼書・メールの写し)
- 空室期間中も募集活動の記録(不動産情報サイトへの掲載状況)を保存する
- 入退去のスケジュール管理表を物件ごとに整備しておく
- 家賃は必ず口座振込にし、入金履歴が通帳で証明できる状態にする
これらは税務調査への備えであると同時に、オーナーへの説明資料としても活用できます。これは使えそうです。
さらに、相続発生が近い状況では、相続税の試算を行う段階で現在の賃貸割合を事前に確定させておくことが重要です。空室がある場合には、一時的空室として扱えるかどうかを税理士に事前確認しておくと、申告後の修正リスクを大幅に下げられます。
宅建業者が相続コンサルに関わる場面が増えている昨今、賃貸割合の知識は土地活用提案や賃貸管理業務の質を直接高めるものです。賃貸管理ソフトや資産管理ツールの中には、入退去記録・契約状況・稼働率を一元管理できるものもあり、物件規模が大きくなるほど活用価値が高まります。空室の「見える化」を日常業務に組み込むことが、長期的な節税管理の基盤になります。
賃貸割合の知識は計算式を覚えるだけでは不十分です。空室の証拠保全・形式的賃貸の回避・建物と土地の評価の連動まで含めて理解してはじめて、実務で使える知識になります。税理士・不動産業者・オーナーが連携して取り組むことで、評価圧縮の効果を最大限に引き出せるというのが、賃貸割合管理の本質です。
参考:国税庁「相続税の申告のためのチェックシート(貸付不動産関係)」
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/pdf/0022010-052.pdf

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