非上場株式の納税猶予と継続届出書の正しい手続き
継続届出書を1日でも遅れて出すと、猶予された税額の全額+利子税が即日請求されます。
非上場株式の納税猶予とは何か・継続届出書の基本的な位置づけ
非上場株式の納税猶予制度とは、中小企業の事業承継を支援するために設けられた税制優遇です。後継者が先代経営者から非上場株式を相続または贈与によって取得した場合に、その株式に係る相続税・贈与税の全部または一部の納税を猶予する仕組みです。
この制度は「非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の特例」(措置法70条の7の5等)として定められており、中小企業庁の事業承継税制として広く知られています。宅建事業を営む会社のオーナーや、不動産会社を引き継ぐ後継者にも深く関わる制度です。
制度の恩恵を継続的に受けるために必要なのが、継続届出書の提出です。つまり猶予が維持されるかどうかは、この届出書を正しく出し続けられるかにかかっています。
継続届出書とは何かを一言で言えば、「納税猶予の適用を受け続けていますよ」と税務署に報告する書類です。この届出書を提出しないと、猶予されていた税金が取り消されて一括納付を求められます。痛いですね。
宅建事業者の中にも、不動産会社を法人として経営しているオーナーや、親族から事業承継した後継者は少なくありません。そうした立場の方にとって、この制度と継続届出書は他人事ではありません。
非上場株式の納税猶予・継続届出書の提出期限と提出先
継続届出書の提出期限は、適用を受けている措置の種類によって異なります。これが最も重要な知識です。
一般措置(旧来の制度)では、毎年1回、猶予継続のための届出書を提出する必要があります。提出期限は「猶予中相続税額に係る相続の開始日から起算して3年を経過するごとの日以後6ヶ月以内」が基本ですが、実務上は税務署から送付されるお知らせに記載された期限を守ることになります。
特例措置(2018年度税制改正で創設)では、3年に1度の提出で足ります。これは一般措置より手間が少ない点がメリットです。ただし特例承認を受けた場合に限られるため、自分がどちらの措置を利用しているかの確認が先決です。
提出先は、被相続人(贈与者)の住所地を管轄する税務署です。相続人(受贈者)の住所地ではない点に注意が必要です。
| 区分 | 提出頻度 | 主な要件 |
|---|---|---|
| 一般措置(相続税) | 毎年1回 | 筆頭株主要件・雇用確保要件など |
| 一般措置(贈与税) | 毎年1回 | 代表者要件・雇用確保要件など |
| 特例措置(相続税・贈与税) | 3年に1回 | 特例承認・特例計画の提出が前提 |
提出が条件です。提出を怠ると猶予は打ち切られ、猶予税額の全額と利子税(現行年2.5〜7.3%程度)が一括請求されます。数百万円から場合によっては数千万円規模になることもあります。
国税庁タックスアンサー:非上場株式等についての相続税の納税猶予及び免除(法人版事業承継税制)
非上場株式の納税猶予・継続届出書に必要な書類と記載内容
継続届出書に添付が必要な書類は、適用する措置と届出のタイミングによって異なります。ここでは一般的に求められる書類をまとめます。
まず、継続届出書の本体となる様式(相続税・贈与税それぞれ専用の書式が国税庁から公表されています)が必要です。書式は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。これは必須です。
次に添付書類として一般的に求められるのは以下の通りです。
- 📋 会社の定款のコピー(最新のもの)
- 📋 株主名簿のコピー(対象株式の保有状況を証明するもの)
- 📋 登記事項証明書(代表者の就任を確認するため)
- 📋 雇用確保要件の証明書類(一般措置の場合、承継時の雇用の8割を5年間維持する要件がある)
- 📋 申告書等の控えのコピー(法人税申告書など)
雇用確保要件について補足します。一般措置では、承継後5年間の平均で雇用の8割以上を維持することが求められています。例えば承継時に従業員が10人いた場合、毎年平均8人以上を雇用し続ける必要があります。これを下回ると猶予が取り消されるリスクがあります。
特例措置では2020年度税制改正により、雇用確保要件を満たせない場合でも、認定支援機関の確認書を添付すれば猶予が継続できるようになりました。書類が増えますが、猶予が守られるなら対応する価値は十分あります。
記載内容については、届出時点の株式保有状況、会社の経営状況、代表者の状況などを正確に記入する必要があります。不明な点は早めに管轄税務署か税理士に相談するのが確実な対処法です。
国税庁:非上場株式等の贈与税・相続税の納税猶予に関する通達(詳細な手続き規定)
非上場株式の納税猶予の継続届出書・提出を忘れた場合のリスクと対処法
継続届出書の提出を忘れた場合の影響は非常に重大です。結論は全額課税です。
提出期限を過ぎると、猶予されていた相続税または贈与税の全額が取り消され、利子税と合わせて納付を求められます。利子税は猶予期間中ずっと積み上がっているため、長期間猶予を受けていた場合は元の税額を上回るケースもあります。
例えば猶予税額が1,000万円で、猶予期間が10年に及んでいた場合、利子税が年2.5%で計算されると単純に250万円以上が上乗せされます。これは非常に大きな金銭的ダメージです。
では忘れてしまった場合はどうなるか?という疑問はもっともです。実は、提出期限を過ぎてしまった場合でも、税務署との交渉や「宥恕規定(ゆうじょきてい)」が適用される余地がゼロではありません。ただしこれは法定の救済制度ではなく、あくまで個別の事情次第です。
確実に言えることは、気づいた時点で即座に税務署に連絡することが最善であるということです。黙っていても状況は悪化するだけです。
再提出や期限後提出が認められるかどうかは税務署の判断に委ねられます。専門家である税理士に速やかに相談することを強くお勧めします。宅建事業を行う法人のオーナーであれば、顧問税理士がいるケースがほとんどのはずですが、相続専門・事業承継専門の税理士に相談するとより適切なアドバイスが得られます。
こうした事態を未然に防ぐためには、提出期限をカレンダーに登録しておく、顧問税理士にリマインダー管理を依頼するといった、シンプルな管理方法が有効です。
宅建事業者が知っておくべき・非上場株式の納税猶予と事業承継のポイント
宅建事業従事者の中でも、特に不動産会社を経営するオーナー層や事業承継を進める立場の方にとって、非上場株式の納税猶予制度は知らないと損する情報の一つです。
不動産業は他の業種と比較しても、事業用資産や株式の評価額が高くなりやすい傾向があります。都市部の不動産を多く保有する会社では、株式の相続税評価額が数千万円から数億円に及ぶことも珍しくありません。こうした状況において、納税猶予制度を活用しないのは非常にもったいないことです。
一方で、制度の利用には事前準備が必要です。具体的には、「特例承継計画」を都道府県知事に提出し、認定を受けることが特例措置利用の前提条件となっています。この計画の提出期限は2026年3月31日までとされており(2024年度改正で延長済み)、期限内に動き出すことが求められます。
また、宅建業を法人形態で営んでいる場合、宅建業免許の更新や従業者証明書の管理など、日常業務の中で法人の実態を維持することが求められます。これは事業承継税制における「事業継続要件」とも関連しており、普段の業務管理がそのまま税制上のリスク管理につながっています。
特例措置の免除要件(猶予税額がゼロになる条件)は、後継者が死亡した場合、会社が倒産した場合、または2027年12月31日まで猶予が継続された場合などがあります。つまり一定の条件を満たせば、猶予されていた税額が完全に免除されます。これは使えそうです。
事業承継を検討している宅建事業者であれば、早い段階で中小企業診断士や事業承継専門の税理士、または地域の商工会議所が実施する「事業承継・引継ぎ支援センター」に相談してみることをお勧めします。初回相談は無料で受け付けているケースが多いです。
事業承継・引継ぎ支援センター:全国47都道府県に設置された公的相談窓口(無料)
中小企業庁:特例承継計画の提出期限延長に関するお知らせ(2024年度改正情報)

不動産・非上場株式の税務上の時価の考え方と実務への応用 五訂版
