取得費加算の特例を株式売却の具体例でわかりやすく解説

取得費加算の特例を株式売却の具体例で徹底解説

相続した株式を売る前に税理士へ相談しないと、払わなくてよかった税金を数十万円単位で損するケースがあります。

📋 この記事のポイント3つ
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取得費加算の特例とは?

相続税として払った金額の一部を「株式の取得費」に上乗せできる制度。課税される譲渡所得を合法的に圧縮できます。

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具体的な計算例で理解できる

相続税額・株式の評価額・売却額を使った実際の計算式を、数字を当てはめてステップごとに解説します。

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適用要件と申告の注意点

3年10か月以内という期限や確定申告の手続きなど、見落としがちな要件をまとめて確認できます。

取得費加算の特例とは何か:株式売却における基本的な仕組み

 

取得費加算の特例とは、相続や遺贈によって取得した財産(式を含む)を一定期間内に譲渡した場合に、支払った相続税額の一部を譲渡所得の計算上の「取得費」に加算できる制度です。根拠条文は租税特別措置法第39条に定められており、確定申告の際に適用を受けることができます。

株式を売却したときの譲渡所得は「売却価格 — 取得費 — 譲渡費用」で計算されます。この「取得費」が大きければ大きいほど、課税対象となる利益が小さくなります。取得費加算の特例はまさにこの原理を利用したものです。

被相続人が長年保有していた株式は、取得時の価格が今より大幅に低いケースが多く、何も対策しないと莫大な譲渡所得税が発生します。それが条件です。特例を使うことで、負担した相続税額をそのコストとして計上できるため、二重課税の緩和策という性格を持っています。

相続財産の中に株式が含まれているケースは宅建事業従事者にとっても珍しくなく、顧客への説明義務や税務上の連携のためにも正確な理解が求められます。

参考リンク(租税特別措置法第39条の条文と解説)。

国税庁タックスアンサー No.3267 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例

取得費加算の特例を株式に適用するための3つの要件

特例を受けるには、以下の3つの要件をすべて満たす必要があります。これが原則です。

まず1つ目は、「相続または遺贈によって取得した財産であること」です。贈与や売買で取得した株式には適用されません。この点を混同しているケースが実務では少なくないため、資産の取得経緯を最初に確認する習慣が重要です。

2つ目は、「相続税の申告期限の翌日から3年10か月以内に譲渡すること」という期限要件です。期限には期限があります。相続税の申告期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内ですから、相続開始日からカウントすると実質4年8か月程度が目安となります。ただし厳密には「申告期限の翌日から3年10か月」なので、日付の管理には注意が必要です。

3つ目は、「その財産について相続税が課税されていること」です。相続税が基礎控除以下でゼロ申告となった場合には、特例の適用はできません。意外ですね。相続税を1円も払っていないのに取得費を加算するのは理論上矛盾するため、この制限は合理的といえます。

確定申告の際には「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」(国税庁様式)を添付する必要があります。この明細書の記入が複雑になりがちなため、税理士との連携は必須です。

取得費加算の特例で加算できる相続税額の計算方法と株式の具体例

加算できる相続税額は、全財産に対して課税された相続税のうち、売却した株式に対応する割合分だけです。全額を加算できるわけではありません。計算式は次のとおりです。

加算できる相続税額 = その相続人が納付した相続税額 × (譲渡した株式の相続税評価額 ÷ その相続人が取得した全相続財産の相続税評価額の合計)

具体的な数字で見てみましょう。

  • 相続人Aが取得した全相続財産の相続税評価額の合計:8,000万円
  • そのうち上場株式の相続税評価額:2,000万円
  • Aが納付した相続税額:1,200万円
  • 株式の売却価格:3,500万円
  • 株式の取得費(被相続人の取得原価):500万円

この場合、加算できる相続税額は次のように計算されます。

1,200万円 × (2,000万円 ÷ 8,000万円)= 1,200万円 × 0.25 = 300万円

取得費に加算できる金額は300万円です。つまりこういうことですね。

譲渡所得の計算は以下のようになります。

  • 売却価格:3,500万円
  • 取得費:500万円(元の取得原価) + 300万円(特例加算額) = 800万円
  • 譲渡所得:3,500万円 — 800万円 = 2,700万円

特例を使わなかった場合は「3,500万円 — 500万円 = 3,000万円」が課税対象でした。300万円の所得圧縮により、上場株式の税率20.315%で計算すると、節税額は約60万円になります。これは使えそうです。

項目 特例なし 特例あり
売却価格 3,500万円 3,500万円
取得費 500万円 800万円
課税譲渡所得 3,000万円 2,700万円
税額(約20.315%) 約609万円 約549万円
差額(節税効果) 約60万円の節税

参考リンク(加算額の計算明細書の記載方法)。

国税庁「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」(PDF)

取得費加算の特例を株式に適用する際に見落としやすい3つの落とし穴

実務でよく見られるミスを3点に絞って解説します。知らないと損するポイントです。

① 非上場株式にも適用できることを知らない

「取得費加算の特例は上場株式だけ」と思い込んでいるケースがあります。実際には非上場株式にも適用可能です。ただし非上場株式の相続税評価額は純資産価額方式や類似業種比準方式で算定されるため、評価額の算定自体が複雑になります。非上場株式を相続した場合は税理士への早期相談が欠かせません。

② 株式の一部だけ売却した場合の計算ミス

相続した株式のうち一部だけを売却した場合、加算できる相続税額は「売却した株式に対応する部分」だけになります。「相続した株式全体の評価額のうち、売却分が占める割合」でさらに按分する必要があります。この二段階の按分計算を省略してしまうと、過大な節税申告となり税務調査のリスクが高まります。

③ 相続税申告と売却タイミングのズレ

相続税の申告期限(相続開始から10か月)を過ぎてから、改めて「3年10か月以内」のカウントが始まります。株式の売却が早すぎると特例が使えない場合があります。それは例外です。相続税申告前に株式を売却してしまうケース、つまり相続税申告期限前に売却した場合でも特例は適用できますが、相続税額が確定していないと計算できないため、売却後に修正申告が必要になることもあります。売却のタイミングは税理士と事前に必ず確認しましょう。

参考リンク(非上場株式の評価方法について)。

国税庁タックスアンサー No.4638 取引相場のない株式の評価

宅建事業従事者が知っておくべき取得費加算の特例と相続不動産の関係性

宅建事業従事者にとってこの特例は「株式だけの話」ではありません。独自の視点で整理します。

相続財産には不動産と株式の両方が含まれることが多く、相続人が「どちらを先に売るか」という判断をする場面があります。このとき、相続税評価額の構成比によって加算できる相続税額の大小が変わるため、売却の順序が税負担に直接影響します。不動産先売りか株式先売りかで節税額が数十万円から数百万円変わることもあります。痛いですね。

また、宅建業者が相続物件の売却を受託する際、顧客(相続人)が取得費加算の特例を知らないまま株式を先に売り切ってしまっているケースがあります。この場合、不動産の売却で特例を使おうとしても、すでに3年10か月の期限が迫っていることがあります。期限には注意が必要です。

顧客への適切なアドバイスとして「相続財産全体の税務戦略を税理士に相談してから個々の資産の売却順序を決める」ことを促す情報提供が、宅建事業従事者としての信頼性を高める行動につながります。具体的には、顧客から相続物件の売却依頼を受けた際に「他に相続財産(株式など)はありますか?税理士への相談はお済みですか?」という一言を添えるだけで、顧客保護の観点から高く評価されます。

宅建業では直接的な税務相談は税理士法の観点から行えませんが、「税理士への相談をお勧めする」という情報提供は問題なく行えます。越権行為にならない範囲での知識共有が原則です。

取得費加算の特例を株式売却で活用するための確定申告の手順

特例の適用を受けるには、確定申告が必要です。申告しなければ特例は自動で適用されません。手続きは以下の流れで進めます。

ステップ1:相続税申告書の控えを準備する

加算できる相続税額の計算には、相続税申告書の第1表(相続税の総額)と第11表(相続財産の明細)の数値が必要です。申告書の控えが手元にない場合は、税務署への開示請求または税理士への問い合わせで取得できます。

ステップ2:「計算明細書」を作成する

国税庁のウェブサイトからダウンロードできる「相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書」に必要事項を記入します。計算自体はシンプルですが、「全財産の評価額合計」「売却した株式の評価額」「自分が払った相続税額」の3つの数字を正確に埋める必要があります。

ステップ3:確定申告書(第三表)に転記する

計算明細書で算出した「加算される相続税額」を、譲渡所得の申告に使う確定申告書の「取得費」欄に加算して記入します。上場株式の場合は「株式等に係る譲渡所得等の金額の計算明細書」にも記入が必要です。

ステップ4:添付書類をそろえて申告する

申告書と計算明細書のほか、株式の売却に関する証明書(証券会社発行の年間取引報告書)と相続税申告書の写しを添付します。添付書類の不備が指摘の原因になることが多いため、提出前に税理士に確認してもらうのが確実です。

確定申告期限は原則として翌年の3月15日です。株式の売却が12月末に完了した場合でも、3か月以内に手続きを終える必要があります。早めに準備することが大切です。

特例の申告手続きを自分で行うことも可能ですが、計算ミスや添付書類の漏れがあると税務署から問い合わせが来るリスクがあります。特例を使う金額が大きいほど税理士費用を払っても十分にペイするため、専門家への依頼を検討する価値があります。

参考リンク(確定申告における株式譲渡所得の申告方法)。

国税庁タックスアンサー No.3161 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税)

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