延焼ライン防火設備が不要になる条件と緩和の全知識

延焼ラインの防火設備が不要になる条件と緩和を完全解説

防火設備を入れていないせいで、確認申請が通らず着工が2ヶ月遅れた事例があります。

この記事の3つのポイント
🔍

防火設備が「不要」になる条件がある

建物の構造(その他建築物)と地域種別(法22条区域など)の組み合わせによっては、延焼ライン内の開口部でも防火設備が義務にならないケースがあります。

🧱

袖壁・防火塀で設置を免除できる

延焼ラインを遮るように防火構造の袖壁や防火塀を設置すれば、開口部そのものを防火設備にしなくてよい緩和規定(施行令第109条第2項)があります。

📐

敷地内の合計500㎡ルールを活用できる

同一敷地内の複数建築物の延べ面積合計が500㎡以内であれば、建物相互間の延焼ラインは発生しません。設計初期段階でこの数値を意識することがコスト削減に直結します。


<% index %>

延焼ラインとは何か・防火設備が必要になる根拠条文

延焼ライン(正式名称:延焼のおそれのある部分)とは、建築基準法第2条第6号に定義された範囲のことです。隣地境界線・道路中心線・同一敷地内の建築物相互の外壁間中心線から、1階では3m以内、2階以上では5m以内にある建築物の部分を指します。
この3mと5mという数値は感覚的に理解するとこういう距離感です。1階の3mは一般的な乗用車の全長とほぼ同じ、2階以上の5mは大型バン1台分程度です。意外と広い範囲が対象になるということが分かります。
なぜこのような規定があるかというと、火災が発生した際に隣家や周辺建物への燃え移りが最も起きやすい範囲を特定し、その部分に防火上の措置を義務付けるためです。特に2階以上が5mと広くなっているのは、火炎が上昇するほど周囲の酸素を巻き込みながら急速に拡大するという物理的性質に基づいています。
防火設備の設置が必要になる根拠条文は主に2つあります。一つは建築基準法第2条第9号の2(耐火建築物の定義)および第9号の3(準耐火建築物の定義)で、耐火・準耐火建築物の要件として「外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に防火設備を有すること」が明記されています。もう一つは建築基準法第61条(防火地域および準防火地域内の建築物)で、これらの地域内の建築物は外壁の開口部で延焼のおそれのある部分に防火設備を設けることが義務付けられています。
つまり防火設備が必要になる条件は次の2軸で整理できます。

条件の種類 該当する建物・地域 根拠条文
建物の構造による 耐火建築物・準耐火建築物 法第2条第9号の2・3
地域指定による 防火地域・準防火地域内の全建築物 法第61条

逆に言えば、この2つの条件のどちらにも当てはまらなければ、延焼ライン内の開口部でも防火設備は不要ということになります。これが「防火設備が不要になる」最も基本的なケースです。
参考リンク(延焼ラインの根拠条文・防火設備の要否判定に関する詳細解説)。
延焼ラインにかかる防火設備の設置基準【告示・大臣認定仕様を選択】|確認申請の学校

延焼ライン内でも防火設備が不要になるケースの全整理

設計実務を行っていると「延焼ラインがかかっているのに、なぜこの開口部は普通のサッシでいいのか?」という疑問に直面することがあります。それには明確な理由があります。
防火設備が不要になる主なパターンは以下のとおりです。

  • 「その他建築物」かつ法22条区域内の場合:法22条区域は、防火地域・準防火地域ではない一般市街地で指定される区域です。この区域内で、かつ耐火・準耐火建築物でない「その他建築物」の場合、開口部への防火設備の設置義務はありません。法22条区域では主に屋根の不燃化が義務であり、開口部の防火設備は不要です。
  • 「その他建築物」かつ防火地域・準防火地域以外の地域(無指定地域)の場合:防火地域でも準防火地域でもなく、かつ耐火・準耐火建築物でもない建物は、そもそも法規上の防火設備の設置義務が発生しません。
  • 防火上有効な空地・水面・線路等に面する部分:建築基準法第2条第6号ただし書きにより、公園・広場・川・水面・線路敷など防火上有効な空地に面する部分は延焼ライン自体から除外されます。その方向の開口部は防火設備が不要です。
  • 袖壁・防火塀で遮られた開口部:建築基準法施行令第109条第2項により、開口部から隣地境界線等までの延焼ラインを防火構造以上の袖壁・塀で完全に遮った場合、その開口部は防火設備とみなされます。つまり開口部自体を防火設備にする必要がなくなります。

この中で特に実務上の活用頻度が高いのは「袖壁・防火塀による緩和」です。木製の玄関ドアや格子状のアルミフェンスなど、防火性能を持たせるのが困難な開口部に対して、周囲を防火塀で囲う形で対応するケースがあります。意外ですね。
「その他建築物」が主語の場合は、法22条区域内でも開口部の防火設備は不要が原則です。
ただしこれは開口部に限った話で、外壁・軒裏に対しては防火構造が求められる場合があるため注意が必要です。

地域区分 建物の種別 開口部の防火設備
防火地域・準防火地域 全建築物(構造問わず) ✅ 必要
防火地域・準防火地域 耐火・準耐火建築物 ✅ 必要(EB認定品等)
法22条区域 耐火・準耐火建築物 ✅ 必要
法22条区域 その他建築物(木造など) ❌ 不要(外壁防火構造は必要)
無指定区域 その他建築物 ❌ 不要

この表を頭に入れておくだけで、防火設備の要否判断ミスをほぼ防ぐことができます。結論は「地域+建物の構造の2軸で判断する」が基本です。

敷地内500㎡ルールで延焼ラインが消える仕組み

建築基準法第2条第6号には、同一敷地内の2以上の建築物相互の外壁間にも延焼ラインが発生するという規定があります。しかし、この条文にはそのまま続けて重要な括弧書きがあります。
「延べ面積の合計が500㎡以内の建築物は、一の建築物とみなす」という一文です。
これが意味することは明確です。同一敷地内に2棟以上の建物があっても、その延べ面積の合計が500㎡以内であれば、建物相互間には延焼ラインが発生しないということです。
500㎡というのは具体的にどのくらいの広さかというと、一般的な2階建て住宅(延べ面積約100〜150㎡程度)が3〜4棟分に相当します。敷地内に母屋と離れ、あるいは本館と附属棟を持つような建物計画では、この数値を意識するかどうかで設計の自由度が大きく変わります。
たとえば、母屋の延べ面積が350㎡で、離れが120㎡のケースを考えてみます。合計470㎡なので500㎡以内に収まります。この場合、建物相互間には延焼ラインが発生しないため、互いの開口部に防火設備を設ける必要はありません。一方、離れを増築して合計が501㎡になった瞬間、外壁間中心線から1階3m・2階以上5mの延焼ラインが生まれ、その範囲にかかる開口部の取り扱いが変わってきます。
この規定は附属建築物にも適用があります。不燃材料で造られた自転車置場・小規模な物置・ごみ置場・受水槽上屋・ポンプ室などは、「防火避難規定の解説」の解釈によれば本体建築物の延焼ラインを発生させないものとして取り扱われます。これは複合用途の建築計画では特に使い勝手の良い知識です。
500㎡ルールが条件です。これを知っているかどうかで、設計段階での選択肢の幅が変わります。
参考リンク(敷地内複数棟の延焼ライン取り扱いに関する解説)。
防火の基本、延焼ライン4つの注意点をあらためてチェック|ArchiLink

防火塀・袖壁を使って開口部の防火設備を免除する方法

延焼ラインにかかる開口部に防火設備を設置することが難しいケースや、コストを削減したい局面では、「防火上有効な袖壁・塀」を活用した緩和が有効な選択肢になります。この緩和の根拠は建築基準法施行令第109条第2項です。
仕組みはシンプルです。開口部から隣地境界線等までの延焼ラインのすべての範囲を、防火構造以上の袖壁または塀で遮ることができれば、その袖壁・塀が防火設備とみなされます。つまり開口部そのものは通常のサッシや木製建具であっても構いません。
平面的に見ると、開口部の端部から隣地境界線まで3mの円弧(1階の場合)を描き、その円弧と隣地境界線が交差する点を結んだ範囲をすべて遮れる位置に塀を計画します。断面方向でも、開口部より高い塀が必要です。2階以上の開口部については半径5mの円弧で同様の検討を行います。
使用する袖壁・塀の構造は、以下のいずれかが必要です。

  • 防火構造(外壁の防火性能:30分間の非損傷性・遮熱性)
  • 準耐火構造(45〜60分間の耐火性能
  • 耐火構造(1〜3時間の耐火性能)

この緩和が特に効果を発揮するのは、木製玄関ドア・アルミ製の格子扉・パイプシャッター式の駐車場入口など、防火設備としての認定品を設置することが意匠上・費用上困難な開口部です。防火設備の認定を受けた建具は一般品より割高になる場合があり、特に特注サイズでは価格差が大きくなります。
防火塀の設置コストと、防火設備建具のコストを比較して判断することが大切です。設計の初期段階で袖壁・防火塀を配置計画に組み込めば、設計変なしに自然な形で緩和を活用できます。後から追加しようとすると、建物の配置との整合が取りにくくなるので注意が必要です。
確認申請への明示方法としては、配置図・平面図に水平方向の延焼ラインと袖壁・塀の位置関係、断面図に垂直方向の遮断状況を記載することが求められます。耐火リストにも袖壁・塀の構造仕様を明記しておきましょう。
参考リンク(袖壁・防火塀による緩和の図解と具体的な計画方法)。
延焼ライン内の防火設備を『袖壁・塀』で緩和する方法【図解あり】|確認申請の学校

防火設備の種別・認定番号の選び方と設計への落とし込み方

防火設備の要否が確定したら、次に考えるのが「どの種別・仕様の防火設備を選ぶか」という問題です。選択を誤ると確認申請の審査で指摘を受け、設計変更が必要になります。これは使えそうです。
防火設備の仕様には大きく分けて2系統があります。
① 告示仕様(建設省告示第1360号)
法定告示に定められた材料・構造基準を満たす建具であれば、大臣認定を取得していなくてもよいというものです。例えば「鉄板の厚み0.8mm以上1.5mm未満」「相じゃくりで隙間がない構造」などの仕様基準が定められており、これに適合する既製品や特注品を使用できます。
② 大臣認定仕様(認定番号EA・EB・ECのいずれか)
メーカーが国土交通大臣の認定を取得した製品を使用するものです。認定コードによって性能が異なります。

認定コード 遮炎時間 主な用途・設置場所
EA 60分間(1時間) 主に防火設備に係る関係条文等|国土交通省(PDF)

防火設備要否の判定でよくある設計ミスと確認ポイント

延焼ラインと防火設備の規定は、理解していると思っていても判断ミスが起きやすい項目です。厳しいところですね。ここでは実務でよく見られるミスのパターンを整理します。
① 地域種別の確認不足
防火地域・準防火地域・法22条区域の境界は意外と複雑で、1つの敷地が複数の地域をまたぐケースもあります。この場合、最も厳しい地域の規定が建物全体に適用されます。例えば、敷地の一部が準防火地域で残りが法22条区域にまたがっている場合、建物全体が準防火地域の規制を受けます。都市計画図は必ず複数の情報源(市町村の都市計画課窓口・GISサービス)でクロスチェックする習慣をつけてください。
② 建物の種別判断の誤り
「その他建築物」は耐火・準耐火建築物以外のすべての建物を指します。一見シンプルに見えますが、法27条が適用される特殊建築物が絡む場合、この判断が複雑になります。特殊建築物(病院・学校・共同住宅・飲食店など)は規模に応じて別途防火設備が求められるため、耐火・準耐火以外の構造であっても法27条の適用で開口部への防火設備が必要になる場合があります。
③ 延焼ラインの測定基点の誤り
延焼ラインの基準線(隣地境界線・道路中心線・建築物相互の外壁間中心線)は、それぞれ測定方法が異なります。特に「道路中心線」は道路の端(道路境界線)ではなく中心から測る点が引っかかりやすいです。道路幅員が6mの場合、中心線は道路境界線から3m入った位置になるため、建物の外壁面から延焼ラインを測る場合に混同しないよう注意が必要です。
④ 地階の取り扱いの見落とし
法文上は「1階」と「2階以上」しか規定がなく地階への言及がないため、地階を延焼ラインの対象外と誤解するケースがあります。しかし「建築物の防火避難規定の解説」によれば、地盤面上に地階の外壁・開口部がある場合は1階と同様に延焼ラインを適用するとされています。地階でも地盤面から出た外壁部分があれば対象になると理解しておくべきです。
⑤ 確認申請時の記載漏れ
防火設備の認定番号・告示番号の記載漏れは補正の定番です。また、袖壁・防火塀による緩和を適用する場合は、配置図・断面図・耐火リストすべてに整合した形で記載する必要があります。図面の一部にしか記載がない場合、審査機関から「遮断範囲が確認できない」として補正を求められます。
参考リンク(防火地域・準防火地域・法22条区域の違いと判断方法)。
延焼ライン(延焼のおそれのある部分)の定義、防火の基本と緩和|建築基準法.com