住宅マスタープランが変える渋谷区の住まいと暮らし
渋谷区の区営住宅は全9棟・計267戸しかなく、希望者全員が入居できるわけではありません。
<% index %>
住宅マスタープランとは渋谷区の住宅政策の10年間の指針
「渋谷区住宅マスタープラン(しぶや多様・快適・安心すまいプラン)」とは、令和3年度から令和12年度までの10年間を計画期間とする、渋谷区の住宅施策の総合的な指針です。通称「しぶや多様・快適・安心すまいプラン」という親しみやすい名称が付けられています。
この計画は、「渋谷区長期基本計画2017-2026」や「渋谷区まちづくりマスタープラン」といった上位計画に基づき、住宅・住環境整備に関する施策を総合的・計画的に展開するために策定されました。ひとことで言えば、区の住まいに関する約束事を文書化したものです。
基本理念は「多様な人や多世代が快適で安心できる住まいづくり」。この理念を実現するために、「ひと(居住者)」「すまい(住宅)」「まち(住環境)」という3つの視点から住生活の目標を設定し、7つの基本方針・複数の基本施策が定められています。
🏛️ 3つの住生活の目標
| 視点 | 目標 |
|——|——|
| ひと(居住者) | 人々の多様性やライフステージの変化を受け入れる居住支援を実現する |
| すまい(住宅) | 既存住宅ストックの活用・再生を促し、先端技術を活用した快適な住まいを実現する |
| まち(住環境) | 近隣で共助できる安全・安心なコミュニティを育む住環境を実現する |
計画の大きな特徴は、行政だけが施策を進めるのではなく、区民・事業者・行政の三者が連携して住まいの課題に取り組むという「協働体制」を明確に掲げている点です。つまり協働が原則です。
さらに令和元年度には、区民3,138人へのアンケート調査(回収率28.4%)、住宅確保要配慮者に対する支援団体58件のヒアリング調査、分譲マンション55棟の外観目視調査など、複数の実態調査が実施されました。これだけの調査を土台にしている点が、この計画の信頼性を支えています。
渋谷区では令和3年3月に現行プランを策定した後、中間年見直しの必要性も含め、毎年度「渋谷区住宅政策協議会」にてPDCAサイクルを回し、具体的取組の追加・修正を行っています。また2026年2月時点でも新たなパブリックコメントが実施されており、次期プランの検討が進んでいます。
渋谷区公式:住宅マスタープラン(しぶや多様・快適・安心すまいプラン)本編・概要版のダウンロードページ
住宅マスタープランが示す渋谷区の住宅事情と7つの課題
住宅マスタープランの策定にあたって明らかになった渋谷区の住宅実情は、多くの人が思っている以上に複雑です。
平成30年の住宅・土地統計調査によると、渋谷区の総住宅数は160,700戸にのぼり、5年間で17,750戸(12.4%)増加しています。これはちょうど東京ドーム約1.5個分を埋め尽くせるほどの増加規模です。しかし、単純に住宅が増えれば安心かというとそうではありません。
旧耐震基準(昭和56年以前)に基づいて建てられた住宅の割合は、持ち家で23.3%、借家で14.0%にのぼります。これは渋谷区内に数万戸単位の「古い建物」が残っているということです。老朽化が進んでいます。
高齢者のいる世帯のうち「一定のバリアフリー化住宅」に居住しているのはわずか42.2%にとどまっており、半数以上の高齢者世帯がバリアフリー化されていない住宅に暮らしているという事実も見逃せません。
📌 住宅マスタープランが指摘する7つの課題
| No. | 課題 | 視点 |
|—–|——|——|
| ① | ライフステージの変化に応じた区内での住替えの難しさ | ひと |
| ② | 住宅確保要配慮者への賃貸住宅供給不足 | ひと |
| ③ | 既存住宅の老朽化 | すまい |
| ④ | 建替え・利活用困難な空家等の点在化 | すまい |
| ⑤ | 高経年分譲マンションの老朽化 | すまい |
| ⑥ | 災害等の際の避難(在宅避難)の不安 | まち |
| ⑦ | 近所づきあいの減少やマンション管理の担い手不足 | まち |
特に注目すべきは課題②と⑤です。高齢者・障がい者・ひとり親世帯などの「住宅確保要配慮者」は、保証人の有無や身体的制約などを理由に民間賃貸住宅への入居を断られるケースが多く、住まいの確保自体が困難な状況にあります。課題⑤については、渋谷区内に旧耐震基準の分譲マンションが多数存在し、とりわけ小規模マンションでは老朽化・管理不全が深刻であることが調査で明らかになっています。住民の高齢化が追い打ちをかけています。
また、渋谷区の住宅政策として「最も期待されている施策」として区民が挙げたのは、「災害に強い住まい対策」と「犯罪に強い住まい対策」でした。住民の安心・安全への関心の高さが数字に表れています。
渋谷区住宅マスタープラン概要版PDF(渋谷区公式):計画内容・課題・目標が10ページにまとめられている
住宅マスタープランで活用できる渋谷区の居住支援制度
住宅マスタープランを実際の行動に落とし込んだのが「渋谷区住まいのガイドブック」です。区が整備しているさまざまな支援制度が一冊にまとめられており、知っているだけで家賃・初期費用を大幅に抑えられる可能性があります。これは使えそうです。
まず「立ち退きに伴う住み替え家賃助成制度」は、民間賃貸住宅の立ち退き要請を受けた高齢者世帯(65歳以上)・障がい者世帯・ひとり親世帯が区内で住み替える際に利用できる制度で、転居後の家賃上昇分の一部と、新家賃の3か月分を上限とした礼金・仲介手数料を補助します。月額上限1万円の家賃差分補助は、積み重なると年間12万円の節約効果があります。
次に「渋谷区家賃等債務保証制度」では、保証人が見つからずに民間賃貸住宅への入居が困難な高齢者・障がい者・ひとり親世帯に対して、登録保証会社を紹介するうえに、初回保証料の最大5万円を区が補助します。保証人の問題が解消されます。
また、区内の民間賃貸住宅への入居を希望する高齢者・障がい者・ひとり親世帯に対しては、「高齢者等入居支援制度」により、協力不動産店を紹介しています。通常の賃貸仲介では断られやすい層に対しても、専門の協力店が対応してくれる仕組みです。
🏘️ 渋谷区内の主な居住支援制度まとめ
| 制度名 | 対象 | 主な内容 |
|——–|——|———-|
| 立ち退き家賃助成 | 高齢者・障がい者・ひとり親 | 家賃上昇分補助+礼金・仲介料(新家賃3か月分上限) |
| 家賃等債務保証制度 | 高齢者・障がい者・ひとり親 | 保証会社紹介+初回保証料5万円補助 |
| 高齢者等入居支援 | 高齢者・障がい者・ひとり親 | 協力不動産店の紹介 |
| 区営住宅 | 低所得世帯 | 低廉な家賃での住宅供給(全9棟267戸) |
| 東京ささエール住宅 | 住宅確保要配慮者全般 | 入居拒否しない登録賃貸住宅の紹介 |
渋谷区の区営住宅は西原・笹塚・代々木・幡ヶ谷など9か所に分散しており、合計267戸という限られた戸数です。これらへの入居を希望する場合は、2年以上継続して渋谷区に居住していることが要件のひとつとなります。戸数に限りがあるため、民間賃貸住宅を活用した上記の居住支援制度の活用も合わせて検討することが現実的です。
これらの制度に関する相談は、渋谷区役所12階の住宅政策課居住支援係(☎03-3463-1848)で受け付けています。まず電話で相談することが第一歩です。
渋谷区住まいのガイドブック(PDF):区内の住宅関連支援制度が全50ページに網羅されている
住宅マスタープランにおける空き家対策と渋谷区の実態
渋谷区内の空き家数は平成30(2018)年時点で16,260戸、空き家率は10.1%です。23区全体の空き家率10.4%と比較するとやや低い水準ですが、それでも約1万6千戸もの住宅が未活用状態にあるということです。東京ドーム約8杯分の床面積が眠っている計算になります。意外ですね。
住宅マスタープランでは、空き家問題への対応として「地域活性化に向けた空家等の利活用の促進」を基本施策のひとつに掲げています。渋谷区では令和4(2022)年度に「渋谷区空家等実態調査」を実施し、令和6(2024)年度から令和15年度までを計画期間とした「渋谷区空家等対策計画」を策定・運用しています。
具体的な制度として、以下の3つが区民向けに提供されています。
🏚️ 渋谷区の空き家対策3制度
– 空家等適正管理支援事業:空き家の適正管理工事費用の50%を助成(上限:不良住宅除却は50万円、その他工事は10万円)
– 空家等利活用マッチング支援事業:空き家所有者と地域貢献施設として使いたい団体をつなぐマッチング支援
– 空家等ワンストップ相談窓口事業:空き家に関するあらゆる相談を一元的に受け付けるフリーダイヤル窓口(0120-336-366)
特に「利活用マッチング支援事業」は、活用するつもりがなかった空き家をNPOや地域団体に貸し出すことで、管理コストの削減と地域貢献を同時に実現できる仕組みとして注目されています。所有しているだけで固定資産税がかかり続ける空き家の場合、マッチングを通じて賃料収入を得たり、「特定空き家」に認定される前に適正管理状態に戻すことができれば、将来的な税負担増加リスクを回避できます。
空き家の扱いで困っている場合は、相談から始めることが重要です。渋谷区空家等ワンストップ相談窓口(NPO空家・空地管理センター)は平日9時〜17時まで無料で対応しています。
渋谷区空家等対策計画(PDF):空き家率10.1%の実態データと令和6年度からの対策方針
住宅マスタープランから見る分譲マンションの長寿命化と独自視点の課題
渋谷区の住宅マスタープランが特に力を入れている施策のひとつが、「高経年分譲マンション」の老朽化対策です。これはあまり語られない重要テーマです。
渋谷区内では、旧耐震基準(昭和56年以前建築)の分譲マンションが多数存在し、特に小規模なマンションほど管理不全のリスクが高いという実態が調査で明らかになっています。問題は老朽化だけではありません。「住宅と事務所の混在」「オーナー不在と賃貸化」「高齢化による役員のなり手不足」「修繕積立金の不足」など、複合的な要因が絡み合っています。
こうした課題に対し、住宅マスタープランでは以下の支援制度が整備・連携されています。
🔧 渋谷区のマンション関連支援制度
– マンション管理アドバイザー費用助成:外部専門家を招いて管理組合の運営を支援
– 分譲マンション専門相談制度/総合相談窓口:管理や建替えに関する専門家への相談が可能
– 分譲マンション長期修繕計画作成等費用助成:長期修繕計画の作成費用を助成
– マンション管理状況届出制度(東京都):管理状況を届け出ることで行政が把握・支援
– マンション建替え等の手法相談:建替法容積率許可要綱を活用した建替え促進
ここで見落とされがちな独自の課題があります。それは「賃貸比率の高いマンションにおける合意形成の困難さ」です。渋谷区のマンション実態調査では、「賃貸比率が高い」「住宅と事務所の混在・外国人増加が進み合意形成が困難」という問題が複数の物件で確認されています。渋谷区はビジネス拠点としての性格が強いため、居住専用でないマンションが多く、これが修繕積立金の合意形成や管理組合運営をより困難にしているのです。
渋谷区のプランでは、こうしたケースにも対応するため、管理組合の交流会(施策5-③-4)の実施や、マンション管理士の派遣制度を通じた個別サポートが盛り込まれています。管理不全は1棟だけの問題ではなく、周辺の住環境や地価にも影響します。長期修繕計画がないマンションのオーナーや居住者は、早期に専門相談を利用するのが得策です。
渋谷区公式:高齢者等世帯入居支援事業・各種住宅支援制度の詳細ページ

不動産証券化協会認定マスター 2023年版 終了試験