現況調査報告書の記入例と建築・競売での正しい書き方

現況調査報告書の記入例と正しい書き方を徹底解説

現況調査報告書がキレイに書けていても、記載時点の情報が6ヶ月前のデータなら、あなたの判断は大きく狂います。

この記事でわかること
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現況調査報告書とは何か

建築確認申請や競売手続きで使われる「現況調査報告書」の目的と全体像を整理します。

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記入例・書き方のポイント

国土交通省の最新ガイドライン(令和7年版)に基づいた記入例と、間違えやすいポイントを解説します。

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見落としやすい重大リスク

記載内容の鮮度・「不適合」と「既存不適格」の混同など、知らないと損するリスクを具体的に説明します。


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現況調査報告書とは何か:建築と競売の2つの顔

「現況調査報告書」という言葉は、実は大きく異なる2つの分野で使われています。一方は建築確認申請における書類、もう一方は不動産競売手続きで裁判所が作成する書類です。この違いを最初に押さえておくことが、すべての理解の出発点になります。
建築分野の現況調査報告書は、既存建築物に対して増築・改築・用途変などを行う際に、現行の建築基準法への適合状況を確認・記録するために作成されます。国土交通省が令和7年3月に公表した「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)」では、調査手順・記載項目・作成例が詳しく整理されています。建築士や施工管理者が作成し、確認申請書の添付図書として活用されます。
つまり確認申請の根拠資料です。
競売分野の現況調査報告書は、裁判所の執行官が競売物件を実地調査した結果をまとめた書類で、購入検討者(入札参加者)向けに公開されます。土地の現況地目、建物の種類・構造、占有者の氏名・占有状況、室内外の写真などが含まれており、「物件明細書」「評価書」とあわせた”3点セット”の一部として、BIT(不動産競売物件情報サイト)で誰でも閲覧できます。
どちらも「現在の状況を正確に記録する」という目的は共通ですが、作成者・提出先・使用目的がまったく異なります。この記事では両方の内容を順に詳しく解説していきます。
国土交通省「既存建築物の現況調査ガイドライン(第3版)令和7年11月」:調査手順・チェックリスト・記入例がまとめられた公式資料

現況調査報告書の記入例:建築確認申請での書き方と手順

建築分野での現況調査報告書の作成は、国土交通省ガイドラインのフローに沿って進めるのが原則です。手順を整理すると次のようになります。
【STEP1】検査済証の交付状況の確認
まず、対象建築物が検査済証を取得しているかどうかを確認します。台帳記載事項証明書や処分等概要書で判断するのが一般的です。昭和・平成初期に建てられた建物の場合、完了検査を受けていないケースが全体の約30〜40%あるとされており、その場合は以降の調査範囲がすべての規定に広がります。検査済証がある場合は現地調査の範囲が一部に限定されますが、それでも現地調査自体は必要です。省略はできません。
【STEP2】工事の着手時点の確認(基準日の確定)
既存不適格かどうかを判断するための「基準日」を確定させます。確認申請書の副本や請負契約書などで着手日を確認しますが、これらが手元にない場合は増築の確認申請先に早めに相談するのが安全です。
【STEP3】現地調査の実施
現地で構造・安全性・法令適合状況を確認します。調査結果は規定ごとに「適合」「不適合(既存不適格)」「不適合(その他)」「不明」のいずれかに分類します。「不明」のままでは既存不適格の緩和を受けることができません。これは条件が厳しいところですね。
隠蔽部分の調査については、ガイドラインでは「少なくとも1か所以上」とされており、全数調査は必須ではありません。ただし、確認申請先に事前相談しておくのが安心です。
【STEP4】現況調査報告書の作成
記入書式は国土交通省のサンプル(Word形式)が公開されており、以下の項目を記載します。
| 記載項目 | 内容 |
|—|—|
| ①調査者情報 | 建築士資格・登録番号・勤務先・所在地・電話番号 |
| ②調査対象建築物の位置 | 敷地位置・防火地域用途地域・現況用途・構造・階数・敷地面積・建築面積・延べ面積 |
| ③調査結果概要 | 直近工事の着手時点・検査済証の有無・現況調査結果・特記事項・調査年月日 |
| ④改変の有無 | 増改築・用途変更などの改変履歴 |
| ⑤現況調査に用いた図書 | 現況図面の有無 |
| ⑥備考 | その他特記事項 |
記入欄が不足する場合は、枠の拡大・行の追加・別紙添付のいずれかで対応できます。
記入例のポイントで特に見落としがちなのは「調査者情報の建築士事務所登録番号の記載漏れ」と「調査年月日の未記入」です。建築主の名前の記入漏れも多いので注意してください。
国土交通省「現況調査報告書サンプル(Word形式)」:実際に使える様式ファイル。調査項目チェックリストも含まれています

現況調査報告書の記入例:競売での読み方と落とし穴

競売物件の入札を検討するとき、3点セットの中でも現況調査報告書は最重要資料です。その構成と読み方を具体的に解説します。
📄 現況調査報告書の構成
– 物件目録:表紙と同内容なので読み飛ばしてOKです
– 土地・建物について:住居表示・占有者・占有状況・管理費滞納額などを記載
– 関係人の陳述等:執行官が債務者・占有者・近隣住民などにヒアリングした生の声
– 執行官の意見:第三者的立場から見た物件状況の所見
– 図面・現地写真:公図・地積測量図・建物平面図・現況写真
特に「関係人の陳述等」と「執行官の意見」は最も重要な箇所です。
関係人の陳述では、建物の不具合・境界に関する争い・賃貸借契約の内容などが生の言葉で記載されます。また、陳述内容から占有者の人柄を推察することもでき、執行官に対して真摯に回答している人物であれば落札後の交渉もスムーズになる可能性が高いといえます。
執行官の意見では、陳述では出てこない第三者的な見解が記載されます。「陳述には疑わしき点がある」「正常と思われない反応がある」といった記述があれば、それはトラブルの予兆です。また、物件内での不自然死(自殺・孤独死など)が確認された場合もここに記載されます。長い文章が書かれている物件は要注意です。
管理費・修繕積立金の滞納額は必ず確認しましょう。 区分マンションの場合、債務者が滞納していた管理費等は買受人(落札者)に引き継がれます。売却基準価額が異様に安いマンションには、高額な滞納が積み重なっているケースが少なくありません。滞納額の確認を怠ると、落札後に予期せぬ出費が発生します。
一般社団法人全日本任意売却支援協会「競売開始が決定すると行われる現況調査」:執行官調査の流れや3点セットの内容、任意売却との関係を詳しく解説

現況調査報告書の記入例でよくある「適合・不適合・既存不適格」の違い

建築分野での現況調査報告書作成において、最も混乱が起きやすいのが「不適合(既存不適格)」と「不適合(その他)」の区別です。この2つを正確に区別することが、増築計画全体の方向性を左右します。
既存不適格とは何か?
建築当時は建築基準法などに適合していたものの、その後の法改正や用途地域の変更などによって現行の基準に合わなくなってしまった建物のことを「既存不適格建築物」といいます。所有者の過失によるものではなく、時代の変化による適合逸脱です。
既存不適格の場合は「既存不適格の緩和措置」により、増築時に現行法への遡及適用が免除される場合があります。ただし緩和を受けられる条件は規定ごとに異なるため、法令集での確認が必須です。
不適合(その他)とは何か?
建築当時から建築基準法に違反していた状態です。この場合は増築にあたって「不適合部分を是正する前提」で計画を立てる必要があります。緩和措置は適用されません。これは厳しいところですね。
「不明」は最も避けるべき区分です。 隠蔽部分の調査が不十分で適合状況が確認できない場合、「不明」という扱いになります。不明のままでは既存不適格の緩和を受けることができないため、計画が大幅に変更を余儀なくされるケースがあります。
ガイドラインP.18には「既存不適格早見表」が掲載されており、各規定の改正時期が時系列で整理されています。着手日が特定できれば、どの規定が既存不適格に該当するかを素早く確認できます。

区分 意味 増築時の扱い
✅ 適合 現行法に適合している 問題なし
🟡 不適合(既存不適格) 法改正前は合法だったが現行法に合わない 緩和措置が使える場合あり
🔴 不適合(その他) 建築当初から違法だった可能性 是正が必要
⬜ 不明 隠蔽部分などで確認できない 緩和措置が使えない

なお、検査済証がない建物で「旧4号特例により壁量計算が省略されていた」という状況であっても、検査済証がない以上、審査省略の対象となった規定も含めてすべての調査が必要になります。これは多くの設計者が意外に思うポイントです。
「既存不適格の緩和措置」について理解しよう(リフォーム向け):現況調査との関連で既存不適格の緩和措置の仕組みを詳しく解説

現況調査報告書の記入例で注意:情報の「鮮度」という盲点

競売の現況調査報告書を読む際に、多くの入札検討者が見落としているのが「情報の鮮度」の問題です。ここは非常に重要なポイントです。
現況調査は通常、競売開始決定の通知が債務者に到達してから1〜2週間後に行われます。その後、競売が公告されるまでに3〜5ヶ月、さらに期間入札が開始されるまで公告期間を含め1ヶ月程度かかります。
つまり、現況調査報告書に記載された情報は、あなたが入札を検討している時点から見て、およそ4〜6ヶ月以上前に収集されたものなのです。
この「タイムラグ」は実際の入札判断に大きな影響を与えます。具体例を挙げると次のようなリスクがあります。
– 報告書では「本件所有者が占有している」と記載されているのに、実際に現地を訪れると誰も住んでいないケースがある
– 逆に「空き家」と記載されているのに、第三者が無断で占有を始めているケースがある
– 室内状況の写真よりも実態がひどく、想定以上のリフォーム費用が発生するケースがある
– 報告書作成後に、売却決定後に所有者の遺体が発見されたケース(名古屋高裁平22・1・29の裁判例として残っています)
また、執行官による現況調査報告書は「完全な書類」ではありません。民事執行手続きとしての迅速性・経済性が求められる上に、関係者が非協力的なケースも多く、記載漏れが生じる可能性があります。平成9年7月15日の最高裁判例では、記載内容が実際の状況と異なる場合でも、「調査・判断の過程に著しく合理性を欠いた」と立証できなければ国家賠償責任は認められないとしています。つまり裁判で争うのはハードルが高いということですね。
だからこそ、入札前には独自調査が必須です。 競売物件への入札を検討する場合、現況調査報告書はあくまで「参考資料」として活用し、可能な限り現地に足を運んで直接確認することが大切です。物件の周辺環境・外観状況・近隣住民からの聞き取りなど、自分の目で確かめられることは確かめる姿勢が、大きな損失を回避することにつながります。
競売物件の調査に不慣れな場合は、競売専門の不動産会社や弁護士・司法書士に相談することが有効な選択肢です。3点セットの読み方から入札手続きまで一括してサポートしてもらえます。
「執行官の調査は信用できない?競売を扱う際に覚えておきたい現況調査報告書の限界」:現況調査報告書の記載内容と実態の乖離について、裁判例をもとに詳しく解説した専門家記事

現況調査報告書の記入例で見落とされがちな「独自視点」:図面復元という隠れた作業

建築分野で現況調査報告書を作成する際、多くの設計者が想定していないのが「図面の復元作業」です。これは現況調査とは別に発生する作業であり、計画全体のスケジュールや費用に影響するにもかかわらず、見積もりから抜け落ちることがあります。
国土交通省のガイドラインには明確に記されています。「法適合性を確認するには図面や計算書が欠かせない。そのため、これらがない場合は復元が必要になる。壁量計算書も構造の確認に関わるため、復元の対象となる。」
復元の対象となる図書は次の通りです。
– 平面図・立面図・断面図・配置図などの設計図書
– 壁量計算書(構造に関する計算)
– 設備関連の仕様書
昭和・平成初期に建てられた建物では確認申請の副本が行政庁に保存されていない場合も多く、施主側にも図面が残っていないケースが珍しくありません。こうした場合、設計者は現地での実測・目視調査をもとに図面を一から復元することになります。
復元作業には相応の時間と費用がかかります。規模や状態にもよりますが、木造2階建て住宅の場合、復元図面の作成だけで数十万円規模になるケースもあります。増築工事の見積もりを取る前に、まず現況調査+図面復元の費用感を把握しておくことが重要です。
また、着手日が不明な場合に「登記事項証明書で判断できる」と思っている方がいますが、これも注意が必要です。登記事項証明書には着手日は記載されていません。ただし建物の「新築年月日」から着工時期を推測できる場合があります。確信が持てない場合は確認申請先に早めに相談するのが安全です。
なお、建築分野の現況調査報告書の作成は、建築士事務所に登録した建築士が行うことが前提です。事務所登録の確認は各都道府県の建築士事務所協会のデータベースで調べることができます。増築計画を持つ方は、信頼できる建築士に早い段階で相談することで、手戻りを最小限に抑えることができます。
兵庫確認検査機構「不適格調書および現況の調査書の記入例」:同一敷地内の増築を例に、不適格調書と現況調査書の記入例をわかりやすく解説した実務向け資料