清算受託者が不動産を売却するための権限・手続き・税務を解説
信託が終了しても、売却権限の条項が1つないだけで不動産を動かせなくなります。
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清算受託者とは何か:家族信託終了後に不動産を管理する役割
家族信託は、委託者の死亡や信託期間の満了など、信託契約で定めた終了事由が発生した時点で終わりを迎えます。しかし、終了事由が発生したからといって、信託がすぐに完全に終了するわけではありません。信託法第176条では、終了事由が発生しても信託はただちに終了せず、清算手続きが必要だと定めています。
その清算手続きを担う者が「清算受託者」です。これが基本です。
清算受託者の職務は、信託法第177条に明確に定められています。具体的には、①現務の結了、②信託財産に属する債権の取立てと信託債権に係る債務の弁済、③受益債権(残余財産の給付を内容とするものを除く)に係る債務の弁済、④残余財産の給付、の4つです。
清算受託者は誰が就任するのでしょうか?信託契約に特段の定めがなければ、信託終了時の受託者がそのまま清算受託者に就任します(信託法177条)。ただし、信託契約で別の人物を清算受託者として指定することも可能です。例えば、「清算受託者は○○○○とする」と明記しておけば、家族以外の法律専門家などを指定することもできます。
また、清算受託者の業務は「清算活動」が中心であるため、信託業法の適用を受けません。そのため、弁護士・司法書士などの専門家が清算受託者として報酬を受け取ることも、法的には可能と解されています。いいことですね。
ただし実務上は、信託終了時の受託者がそのまま清算受託者となり、清算事務を専門家がサポートするほうがシンプルで効率的とされています。専門家を清算受託者にすると、信託口口座の名義変更や不動産の受託者への名義変更登記といった追加作業が発生するためです。つまり、専門家の活用は「サポート役」として活かすのが賢明です。
参考:家族信託終了後の清算受託者の役割や業務内容について詳しく解説しています。
始める前に知っておこう!家族信託終了後の実務|ファミリー信託
清算受託者が不動産売却をするための信託契約書の条項と権限設定
不動産を清算受託者が売却できるかどうか、ここが最も重要な論点です。信託法第177条が定める清算受託者の職務では、残余財産の給付は原則として「不動産を現物のまま帰属権利者に引き渡す」ことが原則とされています。
つまり、信託契約書に売却権限の条項がなければ、清算受託者は不動産をそのまま帰属権利者に渡すしか選択肢がありません。これは大きなポイントです。
では、どうすれば清算受託者に売却権限を与えられるのでしょうか?答えは、信託契約書に「委託者が死亡しても不動産を換価処分できる」旨の条文を明記しておくことです。信託スキームの関係当事者全員が合意しているならば、信託法第177条や第181条とは異なる処理(不動産を売却してその代金を引き渡す方法)も認められると解釈されています(逐条解説新しい信託法〔補訂版〕(商事法務)376頁)。
この権限設定を忘れると、いざ不動産を売りたい段階で手詰まりになります。一度帰属権利者に不動産の所有権を移転し、そこから帰属権利者が改めて売却する手続きが必要になるのです。
この場合、固定資産税評価額の0.4%の登録免許税が所有権移転の段階で発生します。評価額が5,000万円の土地なら20万円、1億円の物件なら40万円の追加コストになります。これは避けられるなら避けたいですね。
なお、清算受託者が不動産を売却する場合も、受託者名義のまま売却手続きを進めることが可能です。売却に伴う納税(譲渡所得税など)も、清算受託者が対応します。権限の明記と登記の整合性が条件です。
- ✅ 条項例:「清算受託者は、信託財産に属する不動産を換価処分し、その代金を帰属権利者に給付することができる」
- ✅ 注意点:この条項は信託原簿(登記記録)への反映が必要
- ✅ メリット:帰属権利者への名義変更登記を省略でき、登録免許税の節約になる
- ⚠️ リスク:条項がないと帰属権利者への所有権移転→再度売却という2段階の手続きが必要になる
参考:清算受託者への不動産売却権限の付与に関するQ&Aをわかりやすく解説しています。
清算受託者が土地など不動産を売却することは可能ですか?|つなぐ司法書士事務所
清算受託者による不動産売却の具体的な手続きの流れ
清算受託者が不動産を売却する場合、大まかに次のような流れで手続きが進みます。順を追って確認しましょう。
まず、信託の終了事由(委託者の死亡など)が発生したことを確認します。この時点で清算受託者としての地位が確定します。清算受託者が最初に行うのは「現務の結了」、つまり進行中の信託事務の後処理です。
次に、未払い債権の回収と信託債務の弁済を行います。信託口口座の残高を回収し、固定資産税の未払い分・管理費・信託内ローンなどがあれば、信託財産から返済します。信託不動産にローンが残っている場合は、金融機関の承諾を得た上で、不動産と債務を一体として帰属権利者に引き継ぐ(債務引受)という実務上の処理が行われることが多いです。
債権・債務の整理が済んだら、いよいよ不動産の売却です。売却手続きは通常の不動産売却と同様に進みますが、売主として登場するのは清算受託者(受託者名義のまま)です。買主への所有権移転登記と信託の抹消登記を同時に行います。
売却が完了したら、残余財産(売却代金から費用・税金等を差し引いた残り)を帰属権利者に分配します。この際、複数の帰属権利者がいる場合は、信託契約で定めた受益権割合に応じて分配します。
最後に、清算受託者は清算事務に関する計算書類を作成し、信託終了時の受益者および帰属権利者全員の承認を得なければなりません(信託法第184条)。承認を求めてから1ヶ月以内に異議が出なければ、承認したものとみなされます。これが条件です。
| ステップ | 内容 | ポイント |
|—|—|—|
| ① | 終了事由の確認・清算受託者就任 | 信託法177条に基づき自動的にスライド |
| ② | 未払い債権の回収・信託口口座の解約 | 金融機関によって手続きが異なる |
| ③ | 信託債務の弁済 | ローンは金融機関と協議の上で債務引受も可 |
| ④ | 不動産の売却(受託者名義のまま) | 信託契約書に売却権限の条項があること |
| ⑤ | 残余財産の帰属権利者への分配 | 受益権割合に応じて分配 |
| ⑥ | 最終計算書類の作成・承認 | 1ヶ月異議なしで承認とみなす |
清算受託者の不動産売却に関わる税務と登録免許税の注意点
清算受託者が不動産を売却する際には、税務面でも整理しておくべきことがいくつかあります。税務の扱いを間違えると、本来不要な税金まで支払う羽目になりかねません。
まず、不動産売却によって生じる譲渡所得税は、「受益者」に対して課税されます。受託者名義で売却したとしても、税法上の利益帰属者は受益者とみなされるためです。これが原則です。
次に、信託終了後の残余財産の帰属に関する税務です。信託終了時の受益者がそのまま帰属権利者となる場合(受益者=帰属権利者)は、経済的価値の移動がないため、贈与税・相続税は発生しません。
一方、受益者以外の第三者を帰属権利者に指定している場合は注意が必要です。受益者から帰属権利者に経済的価値が移動するため、適正な対価のやり取りがなければ贈与税が課されます。また、「受益者の死亡」を終了事由とした場合は、遺贈とみなされ相続税の対象になります(相法第9条の2第4項)。厳しいところですね。
登録免許税については、以下の点に注意が必要です。
- 📌 信託設定時の所有権移転登記:非課税
- 📌 信託設定時の信託登記:固定資産税評価額の0.4%(土地は当面の間0.3%に軽減)
- 📌 信託終了後の受益者への所有権移転:固定資産税評価額の0.4%
- 📌 清算受託者が不動産を直接売却した場合:帰属権利者への所有権移転登記を省略できるため、0.4%のコストをカットできる可能性あり
- 📌 信託抹消登記:不動産1件につき1,000円
信託終了に伴う税務申告については、原則として「信託に関する受益者別調書」と「信託に関する受益者別調書合計表」を、信託契約の日が属する月の翌月末日までに所轄の税務署に提出する必要があります(相法59条・相規30条)。
ただし、例外として「信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合」や「信託終了直前の受益者と帰属権利者が同一の場合」は、提出不要です。提出不要な例外は2つだけ覚えておけばOKです。
参考:家族信託に関わる税金の種類や課税タイミングをわかりやすく解説しています。
家族信託終了後の清算手続きとは?手続きの流れと税務を解説|リーガルエステート
清算受託者の不動産売却で見落とされがちなリスクと信託契約設計の独自視点
清算受託者が不動産を売却する際、多くの家族が設計段階で見落としているポイントが3つあります。これを知っておくと、将来の手続きを大幅にスムーズにできます。これは使えそうです。
① 信託財産が赤字になった場合の受託者責任(無限責任)
信託財産の残額が清算に必要な金額に足りなかった場合、その差額は受託者が個人財産から補填しなければなりません。これを「無限責任」といいます(信託法)。たとえば不動産に多額のローンが残っていて、売却代金がローン残高を下回るような場合、清算受託者となった子どもが個人財産で補填を求められることがあります。信託設計の段階でローン残高と不動産評価額のバランスをチェックしておくことが重要です。
② 帰属権利者の一部が承認しない場合のリスク
清算事務の計算書類は、帰属権利者「全員」の承認が必要です(信託法第184条)。複数の子どもを帰属権利者に指定している場合、一人でも承認しないと清算が完結しません。この問題への対策として、「受益者代理人」を信託契約で設定しておく方法があります。受益者代理人を設定すれば、その代理人が最終計算を承認でき、帰属権利者の承認が得にくいケースでも清算をスムーズに完了させやすくなります。全員承認が条件ですから、揉める可能性がある場合は必ず検討してください。
③ 売却タイミングと委託者の生存中との違い
清算受託者による売却は、信託終了「後」の手続きです。委託者が存命中であれば、受託者の通常の権限で不動産を売却できます(もちろん信託契約書に売却権限が明記されていることが前提)。一方、清算受託者として売却するのは、委託者が死亡して信託が終了した後です。タイミングが異なると登記手続きの内容も変わります。
まず「売却前に委託者が亡くなる可能性があるか」を想定しておき、信託設計の段階で「清算受託者による換価処分権限」も同時に定めておくことが、最善の備えになります。不動産処分を目的とした家族信託では、この二重の権限設定(通常時と清算時の両方)が業界では「必須」とされています。
なお、信託設計を司法書士や弁護士などの専門家に依頼する際は、「清算受託者への売却権限付与」が契約書に盛り込まれているかを必ず確認することをお勧めします。家族信託の組成実績が多い専門家であれば、このポイントは当然に提案してくれるはずです。
参考:清算受託者の職務や信託法の条文について、実務的な観点から詳しく解説されています。
信託法条文 第177条・第178条 よ・つ・ば的解説付|よつば信託