マーケットメイクとETFの仕組みを正しく理解する
出来高が少ないETFを買うと、あなたは想定より高い値段をつかまされています。
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マーケットメイクとETFにおける基本的な仕組み
ETFを売買するとき、画面上に表示される「売り気配」と「買い気配」を誰が提示しているか、意識したことがあるでしょうか。多くの場合、その注文を常時出し続けているのがマーケットメイカーと呼ばれる専門業者です。
マーケットメイカーとは、特定の金融商品に対して「この値段で買います(Bid)」「この値段で売ります(Ask)」という双方向の価格を、取引時間中に継続的に提示する会社のことです。証券会社のほか、Flow Traders・Optiver・IMC・Virtu・Susquehannaといった欧州系の専業トレーディング会社がその中心を担っています。
ETFにおけるマーケットメイクは、単に注文を出すだけではありません。マーケットメイカーはETFの構成銘柄の相場情報をリアルタイムで収集し、理論価格(純資産総額に基づく適正値)を算出したうえで板に価格を提示します。これが原則です。
つまり、マーケットメイカーの価格提示は恣意的なものではなく、ETFの中身である原資産の価値に連動した、裁定取引(アービトラージ)をベースとした活動です。投資家がETFを売買する際、その価格がNAVから大きく乖離しにくいのは、このメカニズムがあるからです。
| マーケットメイカーの収益源 | 内容 |
|---|---|
| スプレッド収益(Bid-Ask) | 売り価格と買い価格の差額を利ざやとして獲得 |
| 取引所からのインセンティブ | 気配提示義務を満たした場合の報酬(bps報酬制度) |
| 裁定取引(アービトラージ) | ETFと構成銘柄間・先物と現物間の価格差を収益化 |
| 自己売買(プロップ取引) | ヘッジを兼ねた短期的な方向性取引 |
マーケットメイカーが利益を得る主な手段は上表のとおりです。特にETFと構成銘柄の価格差を狙う裁定取引は、ETFの価格を理論値に引き戻す機能も持っています。マーケットメイカーは「市場の秩序係」でもあるといえます。
重要なのは、この裁定取引が高度なITシステムに支えられている点です。ある専業トレーディング会社では、トレーダー1人に対してITエンジニアが2人配置されているほど、システムへの依存度が高い業界です。
マーケットメイクETFの流動性に対する誤解を正す
「出来高が少ないETFは流動性が低い」という考え方は、多くの個人投資家に根づいています。これは個別株の常識をそのままETFに当てはめた誤解です。
個別株の場合、発行済み株式数は基本的に固定されています。したがって、板の厚みや日々の出来高が流動性の実態に直結します。板が薄ければリスクが大きくなるのは、個別株なら正しい判断です。
しかしETFは「オープンエンド型」の構造を持っており、市場の需要に応じて口数を増減できます。これが個別株との決定的な違いです。
ETFの流動性は「氷山」に例えられます。
- 🔹 水面上の流動性:取引所の板に見えている売買量
- 🔹 OTC(取引所外)流動性:証券会社・マーケットメイカーが提供する相対取引の流動性
- 🔹 原資産の流動性:ETFの構成銘柄が持つ、最も深い層の潜在的供給量
投資家の目に触れるのは水面上の部分だけです。しかし実際には、その水面下に巨大な供給能力が隠れています。
この構造を支えているのが、指定参加者(AP:Authorized Participants)と呼ばれる証券会社です。APは現物株のバスケットとETFを直接交換できる特別な資格を持ち、ETFの市場価格がNAVから乖離したときに裁定取引を行うことで、価格の歪みを修正します。ETFの需要が強ければAPがETFを新たに「設定」し、需要が弱ければ「解約」して原資産に戻す、この二方向の動きが流動性を支えています。
「インプライド・リクイディティ(Implied Liquidity)」という指標もあります。構成銘柄の中で最も流動性が低い銘柄をボトルネックとして算出した、「価格に影響を与えずに取引可能な理論的最大量」です。日々の出来高が数万口程度しかないETFでも、インプライド・リクイディティが出来高を大幅に上回るケースは珍しくありません。
つまり、出来高だけで判断するのは禁物です。
ETFの流動性を評価する際は、構成銘柄の原資産市場の深さを確認することが基本です。
マーケットメイクETF制度の導入効果と東証の取り組み
東京証券取引所は2018年7月2日、ETFの流動性向上を目的として「マーケットメイク制度」を正式導入しました。これは制度設計として画期的なものでした。
制度の骨格は3点です。
- 📌 気配提示義務:指定マーケットメイカーは、対象ETFに対して一定の時間帯に一定スプレッド・数量で売買気配を提示しなければならない
- 📌 インセンティブ制度:義務を満たしたマーケットメイカーには売買代金に応じた報酬(bps報酬)やアクセス料金の割引が提供される
- 📌 スポンサードMM制度:運用会社が独自にインセンティブを設定してマーケットメイカーを誘致できる制度
その効果は数字ではっきり示されています。制度導入後、対象銘柄の平均スプレッドは約30bpsから16bps前後へと約半減しました。スプレッドが1bps=0.01%であることを考えると、たとえば10万円分のETFを売買するコストが、約30円以上削減された計算になります。
また特定銘柄では劇的な変化が起きています。「ダイワ上場投信・TOPIX-17 電機・精密(1642)」では、制度導入後わずか3か月で売買代金が前月比341倍まで増加しました。業種別ETF(TOPIX-17シリーズ)は以前「板が薄くて取引しにくい」と敬遠されていましたが、マーケットメイク導入後に状況が大きく変わりました。
これは使えそうです。
板の変化を具体的に見ると、ある業種別ETFでは制度導入前の売り・買いの価格差が210円あったところ、導入後には50円にまで縮小しています。この数字は、投資家が「想定どおりの価格で売買できる」かどうかに直結します。
さらに東証は2019年4月にVer.2.0へと制度をバージョンアップし、期間限定で約1億円規模の注文を常時提示することをマーケットメイカーに求める仕組みも追加しました。現在も制度は定期的に見直され、アクティブ運用型ETFやカバードコール型ETFにも適用範囲が広がっています。
マーケットメイカーとしては国内大手証券会社のほか、Flow TradersやOptiverのような海外専業トレーディング会社が中心を担っています。これらの会社は証券会社のような部門間の制約がないため、コモディティ系ETFなど複合的なヘッジが必要な銘柄にも対応できる強みを持っています。
東証マーケットメイク制度の対象銘柄や義務条件の最新情報は、日本取引所グループ(JPX)の公式サイトで確認できます。
日本取引所グループ(JPX):マーケットメイカー一覧・マーケットメイク制度ページ(制度詳細・対象銘柄・義務条件を確認できる公式情報源)
マーケットメイクETFのスプレッドを「コスト」として意識する方法
多くの投資家が証券会社の売買手数料には敏感ですが、スプレッドというコストを軽視しがちです。これが意外と痛いところです。
スプレッドとは、売り気配(Ask)と買い気配(Bid)の価格差のことです。たとえば1口あたりの売り気配が1,010円、買い気配が1,000円のETFを売買すると、1口につき10円の「見えないコスト」を負担することになります。手数料は証券会社に支払うものとして意識されますが、スプレッドは板の価格差として自然に発生するため、見落とされやすいです。
特にスプレッドが大きくなるのは、流動性が低い銘柄や、マーケットメイカーが参入していないETFです。逆に言えば、マーケットメイク制度の対象銘柄や、出来高の大きな主要インデックスETFはスプレッドが狭く、コスト効率が良い選択肢になります。
スプレッドを意識した注文の工夫として、以下の点が参考になります。
- ✅ 成行注文より指値注文を使う:成行注文はその時点の最良Ask(または最良Bid)で即時約定するため、スプレッドの不利な側をそのまま受け入れることになります。指値注文であれば、自分が許容できる価格を指定できます。
- ✅ 板情報を確認してから注文する:マーケットメイク制度の対象銘柄では、売り・買い両側に一定の注文が常時入っているため、スプレッドが適切かどうかを確認できます。
- ✅ 流動性の高い時間帯を選ぶ:市場が開いて間もない時間帯や引け際はスプレッドが広がりやすいため、相場が落ち着いた時間帯に注文を出すほうが合理的です。
また、同じETFでも取引所によってスプレッドが異なる場合があります。ジャパンネクスト証券のPTS(X-Market)では、東証より狭いスプレッドが提示されるケースも報告されています。取引に使う市場を比較する発想も、コスト削減の一つの視点です。
マーケットメイカーは「競争相手」ではなく「流動性の供給者」です。スプレッドを意識して取引すれば、マーケットメイカーの活動を逆に味方にすることができます。
マーケットメイクETFを選ぶ独自視点:「見えない競争」が個人投資家を守る理由
マーケットメイカー同士の競争が激しいほど、投資家が有利になるという構造はあまり語られていません。意外ですね。
ETF市場では複数のマーケットメイカーが同一銘柄に対してスプレッドを縮小し合う「価格競争」が常時起きています。投資家から見えないところで行われる競争ですが、その恩恵は着実に取引コストの低下として現れます。Flow TradersやOptiverといった専業トレーディング会社が国内市場に参入し、大手国内証券会社と競い合うことで、この競争圧力は維持されています。
この観点から、ETFを選ぶ際に一つの実用的な基準が見えてきます。それは「マーケットメイカーが複数参入している銘柄かどうか」です。
マーケットメイカーが好む銘柄には共通した特徴があります。
- 🏆 構成比が明確なインデックス連動型:S&P500、日経225、TOPIXなどはヘッジが容易なため、複数のマーケットメイカーが参入しやすく、スプレッドも締まりやすい
- 🏆 関連する先物が存在する銘柄:WTI原油ETFや海外株式ETFなど、先物でリスクヘッジできる銘柄はマーケットメイカーが好む傾向がある
- 🏆 東証マーケットメイク制度の指定対象銘柄:制度上の義務と報酬があるため、マーケットメイカーの参入が促される
逆に注意が必要なのは、テーマ型ETFや新興市場のETFです。構成銘柄の流動性が低かったり、原資産のヘッジ手段が限られる場合、マーケットメイカーが敬遠しやすく、スプレッドが広くなりがちです。
一方で、「出来高は少なくても原資産の流動性が高いETF」という組み合わせも存在します。たとえば設定直後の米国株インデックス連動ETFは、上場したばかりで日々の出来高が少なくても、S&P500やNASDAQ100の構成銘柄は非常に流動性が高いため、インプライド・リクイディティは潤沢です。そのようなETFをスクリーニングする際は、出来高だけでなく「構成銘柄の流動性」と「指定マーケットメイカーの有無」も確認することが条件です。
ETF選びの視点として、JPXが公開しているマーケットメイカー一覧や、各運用会社が開示しているPCF(Portfolio Composition File)ファイルを参照することで、そのETFの内部構造や流動性供給体制を把握することができます。
シンプレクス・アセットマネジメント:ETFと指定参加者の役割解説(マーケットメイカーとAPの違いを理解するのに役立つ情報源)