利回り法の問題点と継続賃料評価の落とし穴
地価が30%下落しても、利回り法の計算ミスで賃料が逆に上がることがあります。
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利回り法の問題点①:不動産価格変動が賃料にフルスライドするリスク
利回り法は「基礎価格 × 継続賃料利回り + 必要諸経費等」という計算式で継続賃料の試算賃料を求める手法です。シンプルな式の構造に見えますが、その内部には深刻な問題を孕んでいます。
最も代表的な問題点は、不動産価格が急激に変動した場合に試算賃料がその変動にフルスライドしてしまうリスクです。具体的な数字で見てみましょう。現行賃料が年間600万円、前回改定時の不動産価格が1億円、価格時点の不動産価格が1億2千万円だったとします。このとき、前回改定時の継続賃料利回りをそのまま採用して計算すると、不動産価格の上昇(+20%)に比例して試算賃料も上昇します。
ここで注意すべき重要な論点があります。
不動産価格の変動が「効用の増減を伴う変動」か「効用の増減を伴わない変動」かによって、話がまったく変わるのです。建物の増改築によって実際の使い勝手がよくなったなら、賃料が上がることには合理性があります。しかし、バブル期のように土地の評価額だけが跳ね上がった場合、建物の使用価値は何も変わっていないのに、賃料計算だけが過大になってしまうのです。これは貸主・借主の間で深刻な不公平を生みます。
つまり、不動産価格の変動に賃料を連動させてよいかどうかを精査せずに利回り法を適用すると、現実離れした試算賃料が算出されてしまうということです。
実際、バブル崩壊後に短期間で地価が大幅に下落した局面では、利回り法を適用した鑑定書が裁判所や代理人弁護士から「なぜ周辺賃料の下落率よりも対象賃料の下落率が大きくなるのか」と激しく批判された事例が複数あります。小川不動産鑑定のコラムにも「仮に前回の利回りをそのまま採用すれば、賃料は不動産価格と経費の増減にフルスライドする結果となります」と明記されています。
不動産価格が変動した時こそ、この問題点が表面化します。
利回り法の問題点として確認しておきたいのは以下の3点です。
| 問題の場面 | 具体的な影響 | リスク |
|---|---|---|
| 地価の急激な上昇期(バブル期など) | 試算賃料が実態賃料を大幅に上回る | 借主側から鑑定書の信用性を否定される |
| 地価の急激な下落期(バブル崩壊後など) | 試算賃料が周辺賃料下落率より大幅に低下 | 貸主側から「合理的説明がない」と批判される |
| 前回改定時が遠い過去の場合 | 当時の利回りが現在の市場実態を反映しない | 利回り設定の恣意性を指摘される |
利回り法を実務で使う際は、こうした場面に該当しないかを事前に必ず確認することが基本です。
参考:利回り法の問題点と具体的なコラム解説(小川不動産鑑定)
コラム第38回「賃料評価(その7)…利回り法」 – 小川不動産鑑定
利回り法の問題点②:「継続賃料利回り」の査定が極めて難しい
利回り法の計算式の中で最も難しいパラメータが「継続賃料利回り」です。不動産鑑定士が、前回合意時点の継続賃料利回りをほぼそのまま採用してしまい、時点の異なる不動産価格に当該利回りを乗じるという「時制の不一致」を起こしてきた歴史があります。田原都市鑑定のコラムでは、この構造的な問題を「基礎価格・継続賃料利回り・必要諸経費の3つは価格時点という同じ時点で考えなければならない」のに、「継続賃料利回りのみ価格時点における利回りでなかったために生じた」と明確に指摘しています。
継続賃料利回りの査定アプローチには、現在の実務でも主に次のような方法が並存しており、統一された手法がないのが実情です。
- 最終合意時点の純賃料利回りをそのまま採用する方法:計算が簡便だが、基礎価格の変動率をスライド指数として使う同一の結果になる。つまり利回り法を適用した意味がなくなる。
- 折半法的な補正を加える方法:継続賃料利回りの査定手法(不動産鑑定2011年9月号掲載)
利回り法の問題点③:スライド法と試算結果が一致してしまう構造的矛盾
利回り法の問題点として、実務家の間でも指摘されながら意外に知られていないのが「スライド法との実質的な同一性」という問題です。
一見まったく異なる手法のように見える利回り法とスライド法ですが、継続賃料利回りの査定方法によっては、2つの手法が同じ試算賃料を導き出してしまうのです。実際の計算で示しましょう。
最終合意時点の純賃料利回りをそのまま継続賃料利回りとして採用した場合、計算式を変形すると次のように整理されます。- 利回り法による試算賃料 = 価格時点の基礎価格 × (最終合意時点の純賃料 ÷ 最終合意時点の基礎価格)
- = 最終合意時点の純賃料 × (価格時点の基礎価格 ÷ 最終合意時点の基礎価格)
- = 最終合意時点の純賃料 × 基礎価格変動率
これはスライド法において「スライド指数として基礎価格変動率を採用したもの」と同一です。また、継続賃料利回りを「最終合意時点の純賃料利回り × 賃料変動率 ÷ 基礎価格変動率」で求める方法も、計算式を展開すると最終的に「最終合意時点の純賃料 × 賃料変動率」となり、スライド法で賃料指数を使った場合と同じ結果になります。
スライド法の二重計上、ということですね。
継続賃料評価では不動産鑑定評価基準により、差額配分法・利回り法・スライド法・228)判例に見る継続賃料の利回り法 – 田原都市鑑定 鑑定コラム利回り法の問題点④:差額配分法・スライド法との比較で見える弱点
利回り法の問題点を正確に把握するには、継続賃料を求める他の手法との比較が欠かせません。主要な3手法それぞれの特徴と弱点を整理しましょう。
手法 着目点 主な問題点・弱点 裁判でのウェイト傾向 差額配分法 現行賃料と正常賃料(新規賃料水準)との差額 正常賃料水準の算定に専門判断が必要。配分率の設定根拠が不明確だと批判される やや高め(エース級の手法とも言われる) 利回り法 不動産の元本価格と果実(賃料)の関係 継続賃料利回りの査定に恣意性が入りやすい。スライド法と結果が一致しやすい 中程度(利回り設定への批判が多い) スライド法 経済指標の変動率(物価・地価など) 採用する指標によって結果が大きく変わる。現行賃料自体の乖離を直接是正できない 中程度(指標の選択が争点になりやすい) 賃貸事例比較法 類似不動産の賃貸事例 継続賃料の事例収集が困難。新規賃料事例との混同リスクがある 適切な事例があれば高め 差額配分法が実務や裁判で「エース級」と言われる理由は明確です。「現行賃料と市場賃料の差が何円あるか」を数値で共有できるため、当事者の議論が現実的な範囲に収まりやすく、貸主・借主の双方にとって理解しやすい構造になっているからです。
一方、利回り法は「なぜその利回り率なのか」という説明が難しいため、実際の賃貸借契約で「この利回りで賃料を決めた」という合意をしているケースはほとんどありません。そのため、「利回り4.61%で賃料を計算すると契約した覚えはない」と代理人弁護士から突っ込まれた際に返答に窮した、という具体的な事例も実務上存在します。
ただし、利回り法にも固有の強みがあります。
貸主側の投資採算性(「これだけの価格の不動産を保有しているのだから、最低限この果実が必要」という論理)を数字で示せる点は、差額配分法やスライド法にはない視点です。このため、裁判所が選任した鑑定人は利回り法を完全に捨てることはなく、4手法のひとつとして必ず試算します。
利回り法単独では説得力に限界があります。
4手法を組み合わせて使うことで、それぞれの弱点を補い合いながら最終的な鑑定評価額の合理性を高めることが、現在の不動産鑑定実務の基本です。
参考:差額配分法と利回り法の比較・実務解説
【解説】差額配分法と利回り法 市場相場との乖離の配分および投資利回りに着目した手法 – 地代・家賃の鑑定相談室利回り法の問題点⑤:裁判での鑑定書信用性を守るための実務上の注意点
利回り法の問題点を理解したうえで、実務でどう対処すべきかを整理します。裁判例の分析から明らかになっている「鑑定書の信用性を守るための注意点」をまとめました。
まず押さえるべき原則は、4手法の「網羅的な適用」です。裁判所は、利回り法を含む4手法を可能な限り適用した鑑定を重視します。特段の合理的な理由がない限り、利回り法だけを省略した鑑定は「手法の恣意的な取捨選択」とみなされ、鑑定全体の信用性が疑われるリスクがあります。
次に重要なのが、継続賃料利回りの設定根拠を鑑定書に明記することです。鑑定書には、採用した継続賃料利回りがなぜその数値なのかを、以下のような要素を踏まえて記載する必要があります。- 直近合意時点における基礎価格に対する純賃料の割合(実績純賃料利回り)
- 直近合意時点から価格時点までの間の期待利回りや市場利回りの推移
- 同一需給圏内の類似不動産事例や、J-REITデータ等の公表情報
- 地価変動の程度と、賃料変動の程度の関係性
「慣行に基づき前回合意時の利回りをそのまま採用した」という記載では、裁判所や相手方代理人から反論を受けた際に対応できません。
また、地価が急激に変動している局面では、利回り法の試算結果が他の3手法と著しく乖離しやすいため、その原因を分析し、試算賃料の調整において利回り法のウェイトをどう取り扱うかの判断を明示することが求められます。
利回り法の採用を完全に断念する場合は、注意が必要です。
東京地裁の判例では「地価が著しく下落しているから利回り法は採用しない」という判断が支持されたケースもありますが、一方でこの判断を「利回り法の解釈を充分理解していないための誤った考え方」と批判する専門家もいます。利回り法を不採用にする場合は、単に「地価変動が大きいから」という理由だけでは不十分であり、他手法で継続賃料を適切に評価できていることを示す必要があります。
賃料改定の相談を受けた場合、鑑定士が最初に確認するのは「適正賃料いくら?」ではなく「現行賃料と市場賃料の差額がいくらか」という点です。この差額の把握を起点として、利回り法を含む4手法のどれに重きを置くかを判断する実務アプローチが、裁判においても信用性の高い鑑定に結びついています。
継続賃料の評価に関わる実務家や不動産オーナー、弁護士の方で、鑑定書の内容を詳しく検討したい場合は、不動産鑑定士への個別相談を活用することで、利回り法の問題点が自分の案件に与える影響を具体的に確認することができます。
参考:賃料鑑定が裁判の争点となった場合の手法ごとの採用傾向の解説

地方・ボロボロ戸建て 超高利回り不動産投資法
