行政財産の目的外使用許可と地方自治法の基本と落とし穴
使用許可を受けていても、補償なしで翌日から退去を迫られることがあります。
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行政財産の目的外使用許可の意味と地方自治法第238条の4の構造
行政財産とは、地方公共団体が「公用」または「公共用」に供している財産のことです。庁舎、学校、公民館、公園など、日常生活のなかで目にする多くの公共施設が該当します。地方自治法第238条第4項では、これらの行政財産について貸付・売払い・私権の設定などを原則として禁止しています。
ただし、同法第238条の4第7項では「その用途又は目的を妨げない限度においてその使用を許可することができる」と定めており、これがいわゆる「目的外使用許可」の根拠条文です。つまり、本来の用途を損なわない範囲に限って、例外的に第三者の使用を認める制度です。
ここで一点、実務上のマメ知識があります。意外ですね。地方自治法の条文には「目的外使用許可」という文言は一切存在しません。条文では「用途又は目的を妨げない」という表現が使われており、「目的外使用許可」とは実務・学説上の呼称です。自治体の担当者でも見落とすポイントなので、覚えておくと役立ちます。
典型的な利用事例としては、庁舎内・学校内への自動販売機の設置、食堂・売店・ATMコーナーの設置、掲示板や広告物の設置、NPO等の活動スペースとしての余裕教室の提供などが挙げられます。なかでも「自動販売機の設置」は最も多い事例として知られており、全国の自治体で広く行われています。
「目的内」か「目的外」かは微妙なケースも多く、例えば庁舎内に入る記者クラブは「庁舎の広報機能の一環」として目的内と扱われることが多い一方、自動販売機は目的外として扱われます。この線引きは住民訴訟に発展するリスクもあるため、慎重な判断が必要です。
地方自治法web辞典「目的外使用許可」の解説ページ(条文の基本構造と典型事例を詳しく解説)
行政財産の目的外使用許可と借地借家法の関係——保護されない使用権の実態
行政財産の目的外使用許可を受けた場合、「借りているのだから借地借家法で守られるのでは?」と考える方は少なくありません。これが大きな誤解です。
地方自治法第238条の4第8項では、「前項の規定による許可を受けてする行政財産の使用については、借地借家法の規定は、これを適用しない」と明記されています。借地借家法が適用されないということは、次のような重要な違いが生じます。
まず、契約の更新保護がありません。民間の賃貸借では、借地借家法により正当事由なく更新拒絶はできませんが、目的外使用許可は行政処分であるため、許可期間が満了すれば更新される保障はありません。次に、立ち退き料の請求ができません。賃貸借契約とは異なり、退去にあたって立ち退き料や補償を当然に請求できる権利がありません。
さらに重要なのが、使用許可の取消に関する規定です。地方自治法第238条の4第9項では、「公用若しくは公共用に供するため必要を生じたとき、又は許可の条件に違反する行為があると認めるとき」は、長又は委員会は許可を取り消すことができると定めています。つまり、一方的に許可を取り消す権限が行政側に与えられています。
これが原則です。借地借家法の保護は一切ありません。使用許可の法的性格は「行政処分(設権行為)」であり、私法上の契約ではないため、民事上の保護ルールが適用されない点に細心の注意が必要です。
e-Gov法令検索「地方自治法」(第238条の4の全文確認に活用できます)
行政財産の目的外使用許可が取り消された場合の損失補償——最高裁昭和49年判決の衝撃
「使用許可を取り消されたら、損失補償を請求できるのでは?」という疑問は自然です。ところが、最高裁はこれについて非常に厳しい判断を示しています。
最高裁昭和49年2月5日判決では、東京都の行政財産である土地の使用許可が取り消されたケースが争われました。使用者は建物の撤去費用などの損害について損失補償を求めましたが、最高裁は「原則として損失補償の対象にはならない」と判示しました。
その理由として、「行政財産の本来の用途または目的上の必要を生じたときは、その時点で使用権は原則として消滅すべきものであり、権利自体にそのような制約が内在している」と述べています。つまり、使用許可を受けた段階から、「行政の必要が生じれば使用権は消える」というリスクはすでに使用権の中に組み込まれているという考え方です。
ただし、例外として損失補償が認められるケースも存在します。①対価を支払って使用許可を受けたが、当該財産の使用収益によってその対価を償却するに足りない期間内に取消があった場合、②使用許可の際に別段の定めがなされており、使用者がなお使用権を保有する実質的理由があると認められる特別の事情がある場合——これらに限って補償請求が可能です。
厳しいところですね。特に事業用途で行政財産を使用している方は、許可取消によって事業継続が不可能になるリスクを常に念頭に置く必要があります。使用料を長期前払いしているケースや、大規模な初期投資を行うケースでは、契約条項に「別段の定め」として補償条項を盛り込むことが損失回避の観点から重要です。
最判昭49.2.5の解説ページ(「使用許可の取消し」と「損失補償」の論点を詳細に解説)
行政財産の目的外使用許可の期間・使用料・申請手続きの実務ポイント
実際に申請を行う際に押さえておくべき実務上のポイントを整理します。まず許可期間については、多くの自治体の規則・要領において「原則1年以内」と定められています。これが条件です。
ただし、この「原則1年」は絶対ではありません。総務省は平成25年6月(総行行第107号)と令和6年7月(総行行第287号)の通知において、「将来にわたって当該行政財産を公用または公共用に使用する予定がない場合には、適切な期間設定による長期継続的使用の許可も可能」と示しています。ソーラーパネルの設置や通信基地局の設置などで、長期許可が活用されるようになっています。
次に使用料の計算方法です。これは自治体ごとに条例で定められており一律ではありませんが、多くの場合は土地・建物の固定資産評価額をベースに算定されます。例えば、葛飾区の規定では「財産台帳記載の土地価格÷土地面積×使用許可面積×2.5/1,000(月額)」という計算式が設定されています。また、使用目的や使用者の性格(NPO・公共的団体など)によって、減額や免除の規定を設けている自治体も多くあります。
申請の一般的な流れは次の通りです。
| ステップ | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| ①事前相談 | 管理担当部署へ使用目的・期間・場所を相談 | 使用目的が「用途又は目的を妨げない」かの事前確認が重要 |
| ②申請書提出 | 行政財産使用許可申請書(様式は各自治体による)を提出 | 使用場所の図面、使用目的の説明書類が必要な場合も |
| ③審査・決定 | 管理者が審査し許可または不許可の処分を下す | 標準処理期間は30日程度(自治体・内容によって異なる) |
| ④使用料納付 | 許可書と納入通知書を受領し使用料を支払う | 前払い・月払いなど自治体ごとに異なる |
| ⑤使用開始 | 許可された条件の範囲内で使用を開始 | 条件違反は即時取消の理由になる |
申請に際して特に注意すべきなのが、使用後の原状回復義務です。使用者は許可期間終了後、原則として費用負担のうえで原状に回復する義務があります。大規模な設備を設置する場合は、撤去費用の試算を事前に行っておくことが重要です。
総務省通知「行政財産の目的外使用許可について」(平成25年、許可期間の基本的考え方が示された通知)
行政財産の目的外使用許可と普通財産貸付の違い——知らないと損する使い分けの視点
行政財産の目的外使用許可と混同されやすいのが「普通財産の貸付」です。この2つの制度は根拠規定も法的性格も大きく異なります。結論はシンプルです。「長期・安定した利用をしたいなら、普通財産の貸付の方が圧倒的に有利」ということです。
まず「行政財産の目的外使用許可」は、前述の通り行政処分であり、借地借家法の保護を受けられず、許可取消があっても補償なしとなるリスクがあります。一方、普通財産(行政目的に供していない財産)の貸付は、地方自治法第238条の5に基づき、私法上の賃貸借契約として締結されます。
| 比較項目 | 行政財産の目的外使用許可 | 普通財産の貸付 |
|—|—|—|
| 根拠条文 | 地方自治法第238条の4第7項 | 地方自治法第238条の5 |
| 法的性格 | 行政処分(公法上) | 賃貸借契約(私法上) |
| 借地借家法 | ❌ 適用なし | ✅ 原則適用あり |
| 取消・解除 | 公用必要が生じれば可能 | 正当事由が必要 |
| 損失補償 | 原則なし | 正当な補償が必要 |
| 許可期間 | 原則1年(長期も可) | 契約で設定可能 |
平成18年の地方自治法改正により、行政財産についても「一部」を民間に「貸し付ける」ことが可能になりました。この改正で、例えば庁舎の空きスペースをコンビニに貸し出す場合は、目的外使用許可ではなく「行政財産の貸付」として処理することも選択肢に加わりました。これは使えそうです。
事業者やNPOの立場からすると、長期的・安定的に施設を使いたい場合は、まず普通財産化されているかどうかを確認したうえで、「貸付」の形態を積極的に交渉することが有益です。また、平成18年改正後は行政財産の一部貸付も可能になったため、自治体の担当部署に「貸付という形態は可能か」と確認することも、交渉戦略として有効です。
練馬区「行政財産の目的外使用および貸付けについて」(目的外使用許可と貸付の比較・実態調査が詳しく掲載)
行政財産の目的外使用許可と住民訴訟——適正な許可がなければ行政が問われるリスク
行政財産の目的外使用許可は、許可を受ける側だけでなく、許可を与える行政側にとってもリスクが伴います。意外ですね。「許可が適切でなかった」として住民から住民訴訟(地方自治法第242条の2)を提起されるケースが各地で起きています。
住民訴訟の典型的なパターンは、①使用料の設定が不当に低額で自治体に損害を与えているとして損害賠償を求めるもの、②許可すべき基準を欠く相手方への許可が行われたとして取消を求めるもの、③使用許可が特定の団体に対して不公平に行われているとして問題提起するもの——などです。
例えば、福岡・愛知・埼玉などの地方裁判所や高等裁判所では、行政財産の目的外使用許可に関連した住民訴訟の判決が複数出されており、使用料が相場より著しく低額で設定されていた事例や、許可基準が不透明だった事例で行政の責任が問われています。
行政側が適正に許可を運用するためには、①許可基準を明確にした規則・要領の整備、②使用料の適正な算定根拠の確立、③許可の可否についての記録・文書管理の徹底——この3点が不可欠です。
使用許可を申請する民間事業者・NPO等の立場からも、「許可基準が公開されているかどうか」「使用料の算定根拠が明示されているかどうか」を事前に確認することが、後のトラブルを防ぐうえで有効です。自治体によっては「行政財産目的外使用許可事務取扱要領」を公開しているケースが多く、インターネット上で確認できる場合があります。
自治体担当者の立場では、使用許可に関する審査基準・標準処理期間を整備・公表することが行政手続法上も求められており、これが不十分な場合は制度運用上の問題として指摘を受けるリスクがあります。許可基準が条例・要領として整備されているかを定期的に点検することが必要です。

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