公共補償基準の減耗を正しく理解して損を防ぐ完全ガイド

公共補償基準の減耗を正しく理解して損を防ぐ

「黒字の水道事業者でも、減耗分を控除せずに補償すると4,300万円超が過大支払いになります。」

この記事でわかること
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減耗(減価相当額)とは何か

公共補償基準要綱における「財産価値の減耗分」の定義と、なぜ補償費から差し引かれるのかを基礎から解説します。

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減耗分(Dn)の計算式と具体例

復成価格・耐用年数・残価率・経過年数を使った定額法の計算手順を、具体的な数値例を交えてわかりやすく説明します。

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控除しない例外と会計検査院の指摘事例

「やむを得ないと認められるとき」の要件と、誤った運用で何千万円もの過大支払いが指摘された実際の事例を紹介します。


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公共補償基準における「減耗」の基本的な意味

公共道路や河川の整備、農業農村整備事業などの公共事業を実施するとき、現場に埋設された水道管・ガス管・通信線路などの既存公共施設が支障となるケースがあります。その場合、事業主体(国や都道府県など)は施設の管理者に対して移設費用を「補償費」として支払うことになっています。
補償の根拠となるのが、「公共事業の施行に伴う公共補償基準要綱」(昭和42年閣議決定)と「公共補償基準要綱の運用申し合せ」(昭和42年用地対策連絡会)です。これらをまとめて「公共補償基準」と呼びます。
この公共補償基準において、補償費の核心的な概念が「財産価値の減耗分」、通称「減耗」または「減価相当額」です。つまりこれが原則です。
簡単に言えば、既存の施設はすでに一定期間使われていて、その分だけ価値が目減りしています。新しく同等の施設を造るコスト(復成価格)から、この目減り分を引いた金額が補償費の建設費部分となります。使い古した分まで全額補償するのは過剰だ、という考え方に基づいています。
一般補償(建物・土地など)との大きな違いとして、公共補償は「財産価値の補償」ではなく「公共機能の回復」を主眼としている点があります。施設が失われると、その地域の利用者全体に支障が及ぶため、機能維持を優先する考え方が取り入れられています。とはいえ減耗分は原則として控除しなければなりません。
<参考:会計検査院「架空送電線路の移設に係る補償費の算定が適切でなかったもの」>
会計検査院|平成29年度決算検査報告 架空送電線路の移設補償費に関する指摘事例(北海道)

公共補償基準の減耗分(Dn)の計算式と実例

減耗分の計算は、運用申し合せ第7第2項で定められた定額法によって行います。計算式は次のとおりです。
$$D_n = C \times \left(1 – R\right) \times \frac{n}{n + n’}$$

記号 意味 補足
Dn 経過年数n年間における減耗分相当額 補償費から控除する額
C 既存公共施設等の復成価格 同等施設を新築する場合の費用(材料費+設置費等)
R 耐用年数満了時における残価率 管路施設は原則10%
n 廃止時点までの経過年数 施設設置から移設時点までの使用年数
n’ 廃止時点からの残存耐用年数 耐用年数から経過年数を引いたもの

具体的な数値で考えてみましょう。
たとえば耐用年数55年の鋳鉄管(上水道用)が、設置後32年で移設対象となったケースで計算します。
– 復成価格(C):2,000万円
– 残価率(R):10%
– 経過年数(n):32年
– 残存耐用年数(n’):55 – 32 = 23年
$$D_n = 2{,}000\text{万円} \times (1 – 0.10) \times \frac{32}{32 + 23} = 2{,}000\text{万円} \times 0.9 \times 0.582 \approx 1{,}047\text{万円}$$
つまり約1,047万円が補償費から差し引かれます。補償費として実際に支払われるのは残りの約953万円相当となります。これが原則の計算です。
管路施設の標準耐用年数は、平成30年3月22日の運用申し合せ改正で大幅に拡充されました。主な内容は以下のとおりです。

  • ダクタイル鋳鉄管(上水道):従来55年 → 80年に延長
  • ポリエチレン管(ガス事業):新たに100年として規定
  • 光ファイバーケーブル(電気通信):新たに25年として規定
  • 鋼管(上水道):従来40年 → 70年に延長

耐用年数が長くなると、同じ経過年数でも減耗分が少なくなります。結果として補償費が増える方向に働く場合もあるため、最新の耐用年数表を使っているかどうかの確認が重要です。
<参考:国土交通省「公共補償基準要綱の運用申し合せ」最終改正版>
国土交通省|公共補償基準要綱の運用申し合せ(平成30年3月22日改正・別表含む)

公共補償基準の減耗分を控除しない例外条件とは

原則として減耗分は補償費から控除しなければなりませんが、例外があります。厳しいところですね。
ただし、その例外は明確に2つのパターンに限られています。
パターン①:施設の構造・形態による例外
道路、水路など「減耗分の算定が不可能と認められる施設」、または鉄道の線路・電線路など「その一部を付け替える場合で、当該部分のみの減耗分を算定することが適当でない施設」については、減耗分の全部または一部を控除しないことができます(運用申し合せ第7第3項)。
ただし、移設部分が取り替えなどの一つの発注単位となる場合には耐用年数の延長に寄与するとみなされ、この例外には当たりません。北海道の架空送電線路移設事案(平成29年度会計検査報告)で過大支払いが指摘されたのはこのケースです。
パターン②:財政上やむを得ない場合
地方公共団体等が管理する施設で「決算が継続的に赤字状況にある等、減耗分相当額を調達することが極めて困難な場合」は、全部または一部を控除しないことができます(運用申し合せ第7第4項)。
ここで注意が必要なのが「継続的な赤字」の判断基準です。水道事業など地方公営企業は「収益的収支」と「資本的収支」に区分されていますが、赤字の判断は原則として収益的収支決算によります。資本的収支と合算して赤字に見えても、収益的収支が黒字で内部留保があれば、例外として認められません。
農林水産省管内での会計検査院勧告(平成28年)によれば、この誤解により水道事業者の補償12件で合計4,306万余円の減耗分が控除されず、過大支払いが発生しました。内部留保が8億6,147万余円もある事業者に対して減耗分を免除していたケースも含まれていました。意外ですね。
<参考:会計検査院「農業農村整備事業における移設補償費の算定について(是正要求)」>
会計検査院|平成27年度・農業農村整備事業における移設補償費の減耗分控除に関する是正要求

「復成価格」の誤りが招く減耗計算ミスと実害

減耗分の計算において、最も多く会計検査院に指摘されているのが「復成価格の算定誤り」です。これは使えそうです。
復成価格とは、「既存公共施設等と同等の公共施設等を建設することにより機能回復を行う費用」のことです。材料費だけでなく、設置費(掘削費、布設費、舗装復旧費など)を含む建設コスト全体を指します。
ところが実務では、復成価格を「材料費のみ」で計算してしまうミスが繰り返し発生しています。こうなると復成価格が過小に算定されるため、そこから求められる減耗分(Dn)も過小になります。
$$\text{誤った復成価格(材料費のみ)} \xrightarrow{} \text{過小な減耗分} \xrightarrow{} \text{過大な補償費支払い}$$
令和2年度の会計検査報告では、茨城県・富山県・富山市・京都府・京都市・奈良県の4府県3市において、補償費が合計7,684万余円過大に算定され、交付金等として3,630万余円が不当に交付されていたことが認定されました。このうち富山県のケースでは、復成価格に基づくべき減価相当額を材料費のみの約604万円と算定していましたが、正しく算定すると約2,178万円となり、補償費が1,724万余円も過大となっていました。
「材料費だけでよい」という誤解が生まれやすい背景には、一般補償と公共補償の混同があります。一般補償(建物の移転費など)では材料費主体の考え方が馴染みやすいこともあり、担当者が同じ感覚で処理してしまうケースが見られます。つまり公共補償基準は別ルールです。
実務では、補償費の算定調書に復成価格の内訳(材料費・設置費・設計委託費等)が明記されているかを確認することが基本的な対策になります。調書の記載が薄い場合は、算定根拠を改めてヒアリングする必要があります。
<参考:会計検査院「通信線、ガス管等の移設に係る補償費の算定が適切でなかったもの(令和2年度)」>
会計検査院|令和2年度決算検査報告 通信線・ガス管等の移設補償費における減価相当額の誤算定事例(4府県3市)

補償コンサルタントが見落としやすい「管路施設以外」の減耗算定

管路施設(水道管・ガス管など)については、運用申し合せ別表に標準耐用年数が定められているため計算の起点が明確です。しかし、それ以外の施設については見落とされやすいポイントがあります。
たとえば、電気通信事業者の設備のうち「光ファイバーケーブル」は平成30年の改正で初めて標準耐用年数25年として規定されました。それ以前は別表に規定がなく、「専門家への意見聴取またはその他適切な方法により定めた実態的耐用年数」で対応する必要がありました。
鉄塔・鉄柱などの工作物系の設備については、原則として「減価償却の累積額」をもって減価相当額とする旨が会計検査報告の事例からも読み取れます。これも実務上の判断が求められる部分です。
また、架空送電線路では「1管理区間全体への耐用年数延長寄与」の判断が必要です。移設区間が管理区間全体のごく一部であれば減耗控除不要のケースもありますが、個々の鉄塔が独立した取替え単位となる場合は控除が必要です。結論は個別判断が必要です。

施設種別 減耗算定の根拠 注意点
水道管・ガス管・下水道管 運用申し合せ別表(標準耐用年数) 平成30年改正後の最新表を使用する
光ファイバーケーブル 別表(25年) 平成30年改正で初規定
架空送電線路(鉄塔) 減価償却累積額 1管理区間との関係で控除有無を個別判断
道路・水路 算定不能として全部または一部控除しないことができる 例外適用の根拠を明確化する必要あり

補償コンサルタントとして業務に携わる場合、特に別表に規定のない施設については「実態的耐用年数」をどのように根拠づけるかが問われます。専門家意見の取得記録を残しておくことが、後の検査対応の観点からも不可欠です。
<参考:大成出版社「公共補償基準要綱の解説」追補(平成30年改正対応)>
大成出版社|「公共補償基準要綱の解説」追補PDF(耐用年数表の新旧対照を含む)

減耗の誤りを防ぐ実務チェックのポイント

ここまで見てきた内容を整理すると、実務上で補償費算定ミスを防ぐために確認すべきポイントは大きく4つに集約されます。
① 復成価格に設置費が含まれているか
最も多い誤りです。材料費のみで復成価格を計算すると減耗分が過小になり、補償費が過大になります。算定調書の内訳を必ず確認し、「材料費+設置費(掘削費・布設費・舗装復旧費など)」が計上されているかを確認しましょう。
② 耐用年数は最新の別表を使用しているか
平成30年4月1日以降に協議を開始した案件については、改正後の耐用年数表を適用します。特にダクタイル鋳鉄管(80年)、ポリエチレン管(100年)など、大幅に耐用年数が延びた管種が含まれていないか確認が必要です。
③ 減耗控除を省略する場合に根拠は整っているか
「やむを得ない」として控除しない場合は、収益的収支の直近3か年分の決算書、内部留保の確認書類、累積欠損金の有無などの証拠書類を揃えておく必要があります。これが条件です。口頭での申出や会計合算での赤字だけでは根拠として不十分です。
④ 架空電線路など「移設区間の規模」の判断は記録されているか
架空送電線路を「ごく僅かな区間」として控除不要と判断した場合、その根拠(1管理区間の全長との比率、鉄塔ごとの取替え単位の確認など)を記録に残しておく必要があります。
会計検査の対象となった事案のほとんどは、「理解が十分でなかった」ことが原因として指摘されています。これは単なる計算ミスではなく、制度の読み方の問題です。公共補償に携わる担当者が定期的に最新の運用申し合せや会計検査報告を確認する習慣をもつことが、組織全体のリスク管理につながります。
補償業務管理士の資格を持つ専門家に算定内容の第三者チェックを依頼することも、ひとつの有効な対策です。(一社)日本補償コンサルタント協会では研修や情報提供を定期的に行っており、最新の基準運用の動向を把握する場として活用できます。
<参考:(一社)日本補償コンサルタント協会・公共補償基準要綱関連情報>
日本水道協会|会員提出問題「耐震管への変更に伴う公共補償基準の適用」について(実務Q&A的内容)