根抵当権の債務者変更と利益相反の判断基準と登記手続き

根抵当権の債務者変更と利益相反の判断・登記手続きの全知識

「取締役会議事録はつけなくてもいいか、銀行も何も言わなかったし」と思って登記を進めると、後から登記申請が無効になるリスクがあります。

📋 この記事の3ポイント要約
⚠️

利益相反に該当すると登記が無効になることも

会社所有の不動産の根抵当権債務者を会社から取締役個人に変更するケースは利益相反行為に当たり、取締役会(または株主総会)の承認がないと法律行為が無効になるリスクがあります。

🔄

抵当権と根抵当権では判断が真逆になる

「会社を債務者→取締役個人へ変更」の場合、抵当権では利益相反に該当しませんが、根抵当権では利益相反に該当します。同じ状況でも担保の種類で結論が変わります(登記研究382号・昭和41年先例)。

📄

議事録が必要かどうかは旧債務者と新債務者の組み合わせで決まる

利益相反の有無は「誰が設定者で、誰が旧債務者・新債務者か」という組み合わせを1パターンずつ確認することが必要です。パターンによっては議事録が不要なケースもあります。


<% index %>

根抵当権の債務者変更で利益相反が問題になる理由

 

根抵当権の債務者変更は、一見すると単純な登記変更に見えます。しかし、設定者が会社で、新たな債務者が取締役個人(またはその逆)となるケースでは、会社法上の「利益相反取引」の規制が絡んでくるため、手続きが複雑になります。
利益相反取引とは何かを整理しましょう。会社法は「取締役が自己または第三者のために会社と取引をすること」あるいは「会社が取締役以外の者との取引において、会社と取締役の利益が相反する場合」について、取締役会(または主総会)の承認を得なければならないと定めています(会社法第356条、第365条)。これは会社の利益を犠牲にして取締役が利益を得ることを防ぐためです。
根抵当権の場面でこれが問題になるのは、根抵当権が「不特定の債権」を担保する点にあります。つまり根解です。
具体的には、会社が所有する不動産に根抵当権が設定されていて、その債務者を「会社」から「取締役個人」に変更した場合、会社は取締役個人の将来にわたる不特定の債務を物上保証することになります。これは、会社の不動産を使って取締役個人の利益を守る行為ですから、会社の利益が害されるおそれがある典型的な間接取引として、利益相反に該当するとされています(登記研究382号)。
この規制に違反した場合、単に登記申請が却下されるだけではありません。法律行為そのものが無効とされる可能性があります。
もっとも、会社法は悪意の第三者保護の観点から「会社は、承認を得なかった旨の取引の無効を善意の第三者に対抗できない」と定めています。つまり、善意の第三者がいれば会社は無効を主張できません。厳しいところですね。
しかし逆に言えば、悪意の第三者(取締役本人や関係者)との間では無効を主張できるため、承認なしで進めた変更契約や登記は、後から問題が表面化したとき大きなリスクを抱えることになります。
【参考】会社と取締役の利益相反取引 事例・議事録添付要否のまとめ(坂本事務所ブログ)

根抵当権の債務者変更で利益相反に「該当する・しない」の判断パターン

最も重要なのは、「どのパターンが利益相反に該当し、どのパターンは該当しないか」を正確に把握することです。これが根抵当権の債務者変更で一番混乱しやすいポイントです。
設定者を甲会社(代表取締役A)とした場合、以下のようにパターンが分かれます。

旧債務者 新債務者 利益相反該当 議事録添付
甲会社 A(代取)個人 ✅ 該当 必要(甲会社)
A(代取)個人 甲会社 ❌ 非該当 不要
甲会社 甲会社・A ✅ 該当 必要(甲会社)
甲会社・A A ❌ 非該当 不要
甲会社 乙会社(代取A) ✅ 該当 必要(甲会社)

ポイントは「会社が新たに誰かの不特定債務を担保する方向か」で判断することです。つまり担保の方向が条件です。
「A個人→甲会社」の変更が利益相反に該当しない理由を確認しましょう。この変更は、甲会社が自分自身の債務を担保することになる変更であり、会社に不利益をもたらすものではないため、利益相反取引に該当しないとされています(登記研究373号・515号)。一読して状況が理解できると思います。
一方で「甲会社→A個人」の変更は、甲会社(設定者)が取締役Aの個人的な不特定の将来債務を物上保証することになるため、明らかに会社の利益を害するおそれがあります。これが利益相反に該当する根拠です。
さらに、「甲会社を設定者・債務者兼設定者とする根抵当権の債務者を同代表取締役Aのみに変更する」ケースでは、同一の代表取締役Aを利益相反取引の承認に関わらせることができないため、特別利害関係人となるAを除いた他の取締役で取締役会を構成する必要があります。これが実務上のひとつの壁になります。
なお、抵当権の場合は「甲会社→A個人」の変更でも利益相反に該当しないという点が、根抵当権との大きな違いです(昭和41年6月8日第397号先例)。抵当権では特定の債務を担保しており、会社→取締役への変更で会社が債務を免れる方向になるためです。この差は覚えておかなければなりません。
【参考】利益相反行為一覧表(根抵当権・抵当権の全パターン比較)|司法書士法人フレンズ

根抵当権の債務者変更登記に必要な書類と承認機関の選び方

利益相反に該当すると判断されたら、承認機関による承認と、その証明書類の準備が必要になります。承認機関が必要です。
まず、承認する機関はどこかという問題があります。これは会社の種類によって異なります。
– 取締役会設置会社(大半の株式会社):取締役会の決議による承認 → 取締役会議事録の添付
– 取締役会非設置会社(小規模な株式会社・有限会社など):株主総会の普通決議による承認 → 株主総会議事録の添付
取締役会議事録には、議事録作成者として会社の代表取締役が会社実印で押印し、登記申請には会社の印鑑証明書(法人)を添付する必要があります。株主総会議事録の場合も同様です。
注意が必要なのは、特別利害関係取締役がいる場合の取締役会の成立要件です。取締役Aが利益相反の当事者である場合、Aは取締役会の議決に加わることができません(特別利害関係人)。ただし、定足数の計算にもAを含めないことが特徴です。つまり残りの取締役だけで成立させます。
具体的な添付書類の一覧を確認しましょう。
| 書類 | 内容 |
|—|—|
| 登記原因証明情報 | 根抵当権変更契約証書など |
| 登記識別情報 | 根抵当権設定時の通知書 |
| 根抵当権設定者の印鑑証明書 | 法人の場合は法人印鑑証明書 |
| 取締役会(株主総会)議事録 | 利益相反の承認を証明するもの |
| 会社の印鑑証明書 | 議事録押印の実印確認用 |
| 代理権限証書 | 司法書士に依頼する場合の委任状 |
ここで注意したいのが、抵当権の債務者変更登記との違いです。抵当権の場合は設定者の印鑑証明書が添付不要ですが、根抵当権の場合は必要となります。同じ「債務者変更」でも、根抵当権は添付書類が多いということです。
また、縮減的変更(債務者が減る変更)の場合は、権利者・義務者が逆転するため、根抵当権者の登記識別情報と根抵当権者の印鑑証明書が必要になります。間違えやすいので注意が必要です。
【参考】根抵当権の債務者変更登記で注意すること|司法書士桐ケ谷淳一氏ブログ

根抵当権の債務者変更と「縮減変更」の申請人問題:実務の落とし穴

実務において、根抵当権の債務者変更で見落とされやすいポイントがあります。それが「縮減変更」の申請人の問題です。これは実務の落とし穴です。
通常の債務者変更登記では、「根抵当権者が登記権利者、根抵当権設定者が登記義務者」として申請します(昭和46年10月4日民事甲第3230号通達)。しかし、債務者が減る方向の変更(縮減的変更)については、権利者と義務者が逆転します。
なぜ逆転するかというと、債務者が減るということは、その根抵当権で担保する債務の範囲が実質的に縮小されることを意味するからです。設定者にとっては有利になる(担保負担が軽くなる)方向の変更であり、根抵当権者にとっては不利になります。そのため、縮減的変更では「根抵当権設定者が権利者、根抵当権者が義務者」として申請する必要があります(質疑登研405号P91)。
ただし、「債務者A・B→法人C」のように、数は減っても純粋な縮減とはいえないケース(交替的変更)については、見解が実務者の間で分かれることがあります。香川県高松市の事例では、銀行が縮減変更だと主張したものの、司法書士が交替的変更として権利者・義務者の通常の配置で申請したところ、問題なく登記が完了したというケースも報告されています。つまり法務局によって判断が異なる可能性があります。
こうした実務上の不確実性がある場合には、事前に管轄法務局に問い合わせておくことが最も安全です。司法書士に依頼する場合も、法務局への事前確認の有無を確認しておくと安心です。
さらに、共同根抵当権(複数の不動産に同一の根抵当権が設定されている場合)については、すべての不動産について債務者変更登記を同時に行わなければならないという要件があります(民法第398条の16)。一つでも漏れると変更の効力が生じない可能性があるため、物件数が多い場合は特に注意が必要です。

根抵当権の債務者変更で見落とされがちな「債権の範囲変更」との関係

債務者変更登記をすれば完了と思いがちですが、実際には「債権の範囲の変更」も合わせて検討する必要があります。ここは見落とされがちなポイントです。
根抵当権の債務者を交替的に変更した場合、変更前の旧債務者に対してすでに発生していた債権は、変更後の根抵当権では担保されなくなります。なぜなら、根抵当権は「変更後の債務者」に関する債権のみを担保することになるからです。旧債務者の債権が無担保になる可能性があります。
具体例で確認しましょう。「債務者:A→B」と変更した場合、変更前にAに対して発生していた貸付金は、この根抵当権では担保されなくなります。仮に後日元本確定をしたときに、Aに対する旧債権が残っていても、根抵当権の被担保債権には含まれません。これは金融機関にとって大きな損失につながりうる問題です。
このため、旧債務者に対してすでに発生している特定の債権を引き続き担保させたい場合には、「債権の範囲の変更」を同時に行い、登記の「債権の範囲」欄に「〇年〇月〇日債務引受(旧債務者甲)にかかる債権」のように特定債権として記載することが必要です。
債務者変更と債権の範囲変更は、同一の申請書で一括して登記申請することが可能です。これは実務上のメリットで、登記費用(登録免許税)も一度の申請でまとめられます。ただし、両方の変更が必要なのにどちらかを見落とすと、後になって追加登記の手間と費用が発生します。合わせてチェックが必要です。
なお、この一連の手続きの中で利益相反が絡む場合(例:設定者が法人で、債務者に取締役個人が追加されるケースなど)には、前述の取締役会議事録または株主総会議事録を、この債務者変更&債権の範囲変更の登記申請にまとめて添付することになります。ここは複数の要素が交わる複合ケースとして、特に司法書士との密な連携が求められる場面です。
【参考】根抵当権の債務者を変更したいときは|兵庫県尼崎市 相続・遺言の司法書士事務所

ケースブック根抵当権登記の実務〔第3版〕─設定から執行・抹消までの実務と書式─ (ケースブックシリーズ)