受益者連続型信託のデメリットと落とし穴を徹底解説

受益者連続型信託のデメリットと注意点を徹底解説

受益者連続型信託で「節税になる」と信じている人ほど、受益者が変わるたびに相続税を取られ続けて損をしています。

📋 この記事の3つのポイント

「30年ルール」には誤解が多い

信託開始から30年後、受益者が1回交代した時点で信託が終了します。ただし「30年で自動終了」ではないため、正しく理解して設計することが重要です。

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受益者が変わるたびに相続税が発生する

節税ではなく「受益権承継のたびに課税」が原則。何代も受益者が変われば、その都度財産が目減りするリスクがあります。

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遺留分侵害・信託強制終了のリスクも

設計を誤ると遺留分侵害額請求や、受託者と受益者が同一になることによる信託の強制終了という思わぬ落とし穴があります。


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受益者連続型信託とは何か:基本的な仕組みと相続との違い

受益者連続型信託とは、2007年の信託法改正(信託法第91条)によって初めて認められた、比較的新しい財産管理・承継の仕組みです。簡単に言うと、「自分が亡くなった後は配偶者へ、配偶者が亡くなった後は長男の子(孫)へ」というように、あらかじめ複数世代にわたる受益者を指定できる信託のことです。
通常の遺言は「一代限り」の財産承継しか指定できません。たとえば「妻に相続させる」と遺言を書いても、妻が亡くなった後に誰に財産が渡るかを指定する法的効力はないのです。受益者連続型信託はこの限界を突破できる点で、「超遺言」とも呼ばれます。
登場人物の役割をまとめると以下のとおりです。
| 役割 | 内容 | 例 |
|——|——|—–|
| 委託者 | 財産を信頼できる人に託す人 | 父 |
| 受託者 | 財産を管理・運用する人 | 長男 |
| 受益者 | 財産から生じる利益を受け取る人 | 父→母→孫の順 |
つまり受益者連続型信託とはこういうことですね。財産の「管理する人(受託者)」と「利益を受ける人(受益者)」を分離し、受益者を世代交代させながら財産を長期間にわたってコントロールする仕組みです。
親なきあと問題(障がいのある子の生活支援)や、先祖代々の土地を特定の家系内で守りたい場合、子のいない婦が財産を配偶者の死後に自分の親族へ戻したい場合などに活用されるケースが多い制度です。
信託協会|後継ぎ遺贈型の受益者連続信託について(制度の基本を権威ある機関が解説)

受益者連続型信託のデメリット①:「30年ルール」の本当の意味

受益者連続型信託を検討する上で、最初に必ず理解しなければならないのが「30年ルール」です。信託法第91条に定められたこのルールは、多くの人が誤解しています。
❌ よくある誤解:「信託契約から30年経ったら自動終了する」
✅ 正しい理解:「信託開始から30年経過した後に受益者の交代が起きた場合、その交代は1回限りとなり、その受益者が死亡した時点で信託終了」
この違いは非常に重大です。
たとえば、父親(委託者兼当初受益者)が信託を設定し、30年以内に父・母が次々に亡くなり、30年経過時点で長男が受益者になっているケースを考えてみましょう。このとき「30年ルール」が発動するのは、30年経過後に長男が亡くなって次男が受益者になり、さらにその次男が亡くなった時点です。つまり、父→母→長男→次男→(孫への残余財産帰属)という4世代にまたがる承継が実質的に可能になるのです。
30年ルールが重要なのは確かです。しかし「30年で終わり」ではないということも、同様に重要な事実です。
ただし、30年ルールを正確に理解した上でも注意点があります。信託開始から30年が経過した後は、受益者交代の「回数」が限られます。当初の設計より早く信託が終了してしまう可能性があるため、契約書を作成する段階で「残余財産の帰属先(帰属権利者)」を明確に指定しておくことが不可欠です。この指定が抜けると、信託財産の行き先が不明確になり、予期せぬ税務問題や家族間トラブルを招くリスクがあります。
宮田総合法務事務所|受益者連続型信託の「30年ルール」の誤解3パターンを専門家が解説

受益者連続型信託のデメリット②:受益者変更のたびに相続税が課税される

受益者連続型信託を「節税ツール」として活用しようと考えている方は注意が必要です。この制度は節税にはなりません。むしろ、相続税の課税が複数回にわたって発生するという構造を持っています。
受益者連続型信託では、受益者の死亡によって次の受益者に受益権が移るたびに、その受益権が「みなし相続財産」として相続税の課税対象になります(相続税法第9条の2)。
たとえば、評価額3,000万円の不動産を信託財産とした場合を考えてみましょう。
– 🔵 第一受益者(父)死亡時 → 受益権3,000万円相当に相続税課税
– 🔵 第二受益者(母)死亡時 → 残存する受益権に再び相続税課税
– 🔵 第三受益者(長男)が取得すれば → またしても課税対象
何度も課税されてしまうということですね。通常の相続では、10年以内に連続して相続が起きる場合「相次相続控除」という制度で税負担が軽減されますが、受益者連続型信託では世代を跨るごとに確実に課税されます。
さらに、信託された収益不動産(アパートや賃貸マンションなど)には「損益通算禁止」というルールも適用されます。通常であれば、不動産所得に赤字が出た場合、他の所得(給与所得など)と損益通算して税負担を下げることができます。しかし、信託財産から生じる不動産所得の赤字は、他の所得と通算できないのです(租税特別措置法第41条の4の2)。
この点は特に収益不動産を抱えるオーナーにとって、想定外のコスト増になりかねない大きなデメリットです。税務上の影響をあらかじめ税理士に試算してもらうことが基本です。
国税庁|相続税法第9条の2(信託に関するみなし課税規定の解説)

受益者連続型信託のデメリット③:遺留分侵害リスクと東京地裁判決が示す教訓

受益者連続型信託を設計する際に、見落としてはならないのが「遺留分」の問題です。遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人(配偶者・子・直系尊属)に民法上保障された最低限の遺産取り分のことです。
よく誤解されるのが、「信託契約は遺言より優先されるから、遺留分も関係ない」という考え方です。厳しいところですね。実際には、信託の内容が遺留分を侵害している場合、他の相続人から遺留分侵害額請求を受けるリスクは十分にあります。
参考になる事例として、2018年(平成30年)9月12日の東京地裁判決があります。この事案では、経済的利益が生じない不動産(自宅・山林等)を信託財産に含めた部分について、「遺留分制度を潜脱する意図で信託制度を利用したものとして公序良俗に反し無効」という判断が下されました。その後、控訴審で和解となったため一審判決の効力は失われましたが、信託設計と遺留分の問題を示す重要な事案として広く参照されています。
2019年7月1日の相続法改正後は、遺留分侵害額請求は「金銭債権」として処理されます。これは、遺留分を侵害された相続人は金銭での支払いを求められるということです。連続型信託でほぼすべての財産が信託財産化されている場合、第二受益者は手元に現金がなければ受益権を一部売却(代物弁済)しなければならなくなり、そこに譲渡所得税が発生するという二重の負担が生じるケースもあります。
遺留分対策が条件です。特定の相続人が不利になる設計をする場合は、事前に家族全員で話し合いを行い、生命保険を活用して遺留分相当額の現金を別に準備しておくことが有効な手段のひとつです。
リーガルエステート|家族信託と遺留分の関係・東京地裁判決の詳細解説(実務家向け)

受益者連続型信託のデメリット④:受託者と受益者が同一になると信託が強制終了する

これは知らないと大きな損失につながるリスクです。信託の仕組みは「管理する人(受託者)」と「利益を受ける人(受益者)」が別々の人であることを前提としています。ところが、受益者連続型信託では受益者が世代交代するにつれ、この2つが同一人物になってしまう事態が生じることがあります。
信託法第163条第2号では、「受託者が受益権の全部を固有財産として有する状態が1年間継続したとき」に信託は終了すると定めています。
具体的なケースとして考えてみましょう。たとえば、父親(委託者・当初受益者)が長男を受託者に指定し、母親(配偶者)を第二受益者としていた場合を想定します。母親が亡くなり、信託契約で「第三受益者=長男」と定めていれば、長男は受託者でありながら受益者にもなります。この状態が1年間続くと、信託は法律上強制的に終了してしまうのです。
意外ですね。入念に設計した信託が、こうした「構造上の落とし穴」で自動終了してしまうケースが実際に起きています。
これを回避するための対策は以下のとおりです。
– ✅ 受益者が受託者と同一になる場合に備え、第二受託者(予備的受託者)をあらかじめ契約に定めておく
– ✅ 受益権が特定の1名に集中しないよう、次順位受益者の設計を工夫する
– ✅ 信託監督人や受益者代理人を設置して、万が一の場合の対応体制を整えておく
この問題は信託契約書の作成段階で防げますが、経験の浅い専門家に依頼すると見落とされるリスクがあります。受益者連続型信託を設計する際は、家族信託の組成実績が豊富な司法書士や弁護士に相談することが賢明です。
ダーウィン法律事務所|受益者の役割と信託法163条2号による信託終了リスクの解説

受益者連続型信託を活用するための費用相場と専門家選びのポイント

デメリットを理解した上で「それでも活用したい」という場合、次に気になるのが費用でしょう。受益者連続型信託を含む家族信託の設定にかかる費用の目安は以下のとおりです。
| 費用の種類 | 目安の金額 |
|———–|———–|
| コンサルティング・設計費用 | 30万〜60万円程度 |
| 司法書士への登記報酬(不動産含む場合) | 10万〜30万円程度 |
| 登録免許税(不動産評価額×0.3〜0.4%) | 評価額による |
| 公正証書費用 | 3万〜11万円程度 |
| 合計目安 | 40万〜100万円超になることも |
信託財産の評価額が1億円以上になるケースでは、専門家報酬だけで数十万円〜100万円を超えることも珍しくありません。これは有料です。費用をかけて設計しても、契約書の不備があれば想定外の税金が発生したり、信託口口座が開けなかったり、不動産の売却ができなくなったりする深刻なリスクがあります。
専門家を選ぶ際のチェックポイントとして、以下の点を確認しましょう。
– 🔍 家族信託の組成実績件数を明示しているか(数件では少なすぎる)
– 🔍 税理士・弁護士と連携できる体制か(法務・税務を一体で設計できる)
– 🔍 信託契約書の雛形流用でなく、個別のオーダーメイド設計をしてくれるか
– 🔍 受益者連続型信託の出口戦略(信託終了後の処理)まで提案してくれるか
結論は専門家選びが成否を左右するということです。受益者連続型信託は、設計の自由度が高い分、経験と知識のある専門家でなければ適切に設計できません。相続・家族信託に特化した事務所に相談し、複数の専門家からセカンドオピニオンを得ることも一つの有効な方法です。
信託設計の前に「税務シミュレーション」を受けることを強くお勧めします。受益者が変わるたびの相続税負担や損益通算制限の影響を数字で確認してから判断するのが、後悔しない進め方の基本です。
国税庁|信託税制に関する手続き・制度の概要(相続税・贈与税の取り扱い)