燃え代設計と準耐火で実現する木造現し設計の要点

燃え代設計と準耐火の仕組みと設計実務のすべて

燃え代設計を使えば、火災保険の保険料が上がるどころか、準耐火建築物として最大50%近く安くなります。

この記事でわかる3つのポイント
🔥

燃え代設計とは何か

火災時に表面が燃えても構造耐力が保たれるよう、あらかじめ断面を大きくして設計する手法。柱・梁を石膏ボードで覆わずに室内に「現し」できる。

📐

準耐火建築物との関係

燃え代設計は準耐火建築物(イ準耐)でのみ使える。省令準耐火や耐火建築物には適用不可。使える場面を正確に理解することがコストダウンの鍵。

📋

2025年法改正で何が変わったか

75分・90分準耐火構造が整備され、燃え代設計の適用範囲が中規模非住宅建築物にまで拡大。中大規模木造の設計選択肢が大きく広がっている。


<% index %>

燃え代設計の基本原理と準耐火建築物での役割

木材は一見「燃えやすい素材」と思われがちですが、実際の火災挙動は鋼材とは大きく異なります。鉄は一定の温度を超えると急激に強度が落ちますが、木材は表面が炭化することで内部への酸素供給を遮断し、燃え進みのスピードを自ら落とす性質があります。この特性を工学的に利用した設計手法が「燃え代設計(燃えしろ設計)」です。
具体的には、火災時に失われると想定される木材表面の厚み分をあらかじめ断面寸法に上乗せして設計します。結論は「太くした木材が自分自身を守る」ということです。
この手法が認められているのは、建築基準法上の「準耐火建築物」においてのみです。準耐火構造には45分・60分(1時間)・75分の基準があり、それぞれに必要な燃えしろ寸法が告示(平成12年建設省告示第1358号)で定められています。主な燃えしろ寸法の目安は以下のとおりです。

準耐火構造の種別 集成材の燃えしろ JAS製材(無垢材)の燃えしろ
45分準耐火(イ-2) 35mm 45mm
1時間準耐火(イ-1) 45mm 60mm
75分準耐火 65〜85mm (残存断面20cm以上が目安)

燃えしろは「1分間に約1mm」燃え進むと言われています。45分なら約45mm分を燃え代として加算するイメージです。例えば、1時間準耐火構造で独立柱(製材・4面現し)に必要断面が120mm角だとすると、4面に60mmずつ加えて240mm角の柱が必要になります。はがき(148mm)よりひとまわり大きいサイズです。
この設計が成立するのは、石膏ボード等の耐火被覆材を使わずに、木材そのものの断面で耐火性能を確保できるからです。いいことですね。建築の意匠性と防耐火性能を同時に達成できるのが最大のメリットです。
参考:準耐火建築物における燃えしろ設計の適用範囲と仕様について(国土交通省)
木造計画・設計基準の資料(国土交通省)

燃え代設計と準耐火で柱・梁を現しにするメリットと条件

燃え代設計の最大のメリットは、木造の魅力をそのまま空間に活かせることです。通常、準耐火建築物では石膏ボードで構造部材を覆う「メンブレン工法(被覆型)」が採用されますが、この場合は柱も梁も壁や天井の中に隠れてしまいます。燃え代設計を選べば、ダイナミックな現し架構が実現できます。これは使えそうです。
一方で、燃え代設計には守らなければならない条件があります。

  • 🪵 使用できる木材はJAS材のみ:燃え代設計に使えるのは、日本農林規格(JAS)に適合した集成材・製材・LVL・CLTに限られます。市販の一般流通材でも含水率が15%または20%以下のJAS製材であれば使用可能です。規格外の材(無等級材)は告示仕様では使えません。
  • 🏠 適用できる部材は主要構造部の柱と梁のみ:燃え代設計は柱・梁(軸組材)に対応しています。壁や床への適用は告示仕様では別途対応が必要です。
  • 🌳 耐火建築物には適用不可:燃え代設計は準耐火構造にのみ認められています。耐火建築物が要求される規模・用途では使えません。
  • 🏡 省令準耐火では使えない住宅金融支援機構が定めた「省令準耐火」は建築基準法の準耐火建築物とは別物です。省令準耐火では燃え代設計は認められていません。

燃え代設計が「準耐火建築物」限定という点は重要です。保育園や3階建て共同住宅など、法的に準耐火建築物が求められる用途では、燃え代設計を活用して木の空間を作ることが十分に実現可能です。
また、保育園や小学校など延床面積200㎡を超える施設では内装制限がかかります。45分準耐火(イ-2)のままでは壁・天井の木材使用が制限されるため、60分準耐火(イ-1)にランクアップすることで内装制限を適用除外にできるケースがあります。設計段階でどちらの準耐火グレードを選ぶかは、意匠コンセプトと法規確認のバランスで決まります。
参考:JAS製材と燃えしろ設計の関係について詳しく解説されています。
JAS構造材が拓くニッポンの木造(JAS構造材普及推進協議会)

燃え代設計における準耐火の断面設計と構造計算の実務

燃え代設計を実際に進める際、設計者が最初に直面するのは「どれだけ断面を大きくすれば十分か」という問いです。原理は単純ですが、実務では部材の露出面数・樹種・製材区分によって必要寸法が変わり、構造計画と意匠性を同時に調整しながら設計する難しさがあります。
断面計算の流れは次のとおりです。まず火災時に建物を支えるために必要な「有効断面(残存断面)」を構造計算で求めます。次に、要求される準耐火時間に対応した燃えしろ寸法を露出面に加算した断面が、実際の設計断面になります。
例えば1時間準耐火構造における梁(集成材・3面現し)の場合、梁幅105mm×梁せい450mmの有効断面が必要なら、集成材の燃えしろ45mmを加えて「梁幅195mm×梁せい495mm」を手配することになります。ソファと同じくらいの幅の梁、というイメージです。
断面が大きくなると、当然木材費はかさみます。しかし、石膏ボードの材料費・施工手間・仕上げ費用が不要になるため、コスト増分はある程度相殺されます。大断面の木材を現しにすることで、天井仕上げ材や壁下地の工事も省けるケースがあり、トータルの建築費でみると大きな差にならない場合も少なくありません。
燃え代設計が条件です。条件として重要なのは「JAS材の確保」で、特に製材(無垢)の大断面材は入手できる製材所が限られます。1時間準耐火対応の240mm角柱や、240mm×360mmの大梁などは、乾燥設備と在庫体制を備えた産地の協同組合などと事前に連携が必要です。設計の早い段階で木材の調達ルートを確認しておくことが、竣工までのリスク管理として不可欠です。
また構造計算においては、燃えしろを除いた有効断面に対して通常の長期・短期荷重を確認します。火災時荷重の組み合わせも別途確認が求められることがあり、意匠・防耐火・構造の三者を統合した設計能力が問われます。
参考:大規模木造での燃え代設計の構造計算の考え方が整理されています。
広がる木造準耐火の可能性!大規模木造における準耐火建築物まとめ(エヌ・シー・エヌ)

燃え代設計と準耐火の法改正|2025年以降の新しい選択肢

2019年の建築基準法改正を皮切りに、木造建築の防耐火規制は大きく変わり続けています。2025年4月施行の法改正では、燃え代設計に関係する準耐火構造のバリエーションがさらに拡大しました。
最大のポイントは「75分・90分準耐火構造」の整備です。従来の準耐火構造は45分と60分(1時間)の2種類が中心でしたが、これに75分・90分が加わることで、これまで耐火建築物でなければ建てられなかった規模・用途の建物でも、コストメリットのある準耐火建築物での設計が可能になりました。

準耐火構造の種別 主な適用場面 燃え代設計の可否
45分準耐火(イ-2) 戸建住宅・小規模非住宅 ✅ 可能
60分(1時間)準耐火(イ-1) 3階建て共同住宅・保育園など ✅ 可能
75分準耐火 中規模の非住宅建築物(2025年〜拡大) ✅ 可能(燃えしろ65〜85mm)
90分準耐火 高さのある中大規模建築物 ✅ 可能(大断面材使用)
耐火構造(1〜3時間) 防火地域の大規模建築物 ❌ 不可

75分準耐火構造における燃えしろ設計では、残存断面が20cm以上必要となり、燃えしろ寸法は65〜85mm程度が目安です。これはかなり大断面の木材が必要で、例えば柱一辺350mm超のサイズ感になります。これはスケール感の大きい空間を作る非住宅建築には、むしろデザイン的な強みになります。
2019年改正のもうひとつの重要な変化として、準防火地域で耐火建築物・準耐火建築物を建てる場合に「建ぺい率10%加算」が認められるようになりました。木造で準耐火建築物を選ぶだけで、同じ敷地でより広い建築面積を確保できるわけです。厳しいところですね、でも計画の幅が広がる好材料です。
さらに、CLT(直交集成板)を用いた燃え代設計も制度化が進んでいます。CLTは壁・床・柱がすべて木材でつくれる素材で、2016年にJAS規格化、2018年には建築基準法への位置付けが整理されました。木造でありながら大空間・大断面を実現できるCLTと燃え代設計の組み合わせは、学校・ホール・物流倉庫など多様な用途への応用が広がっています。
参考:2025年建築基準法改正と準耐火構造・燃えしろ設計の改正内容について。
建築基準法・建築物省エネ法 改正法制度説明資料(国土交通省)

燃え代設計と準耐火建築物の火災保険・コストへの影響

燃え代設計を採用した準耐火建築物は、設計・施工面だけでなく、長期にわたる維持コストにも大きなメリットをもたらします。つまり建てた後の話も重要です。
まず、火災保険料への影響があります。準耐火建築物として建てた建物は、火災保険料の算定上「T構造(耐火構造)」または「H構造(非耐火構造)」のうち、T構造に分類されるケースが多くなります。一般的な木造住宅(H構造)と比較すると、30〜50%程度保険料が安くなるケースも報告されています。30年間で数十万円単位の差が積み重なることになります。
一方で、燃え代設計を採用すると建材費が増えます。準耐火構造の木造建築物にした場合の建設コストは、一般的な木造(耐火性能なし)と比べて平均で約28.2%増加するというデータも存在します(国土技術政策総合研究所資料)。これは準耐火建築物全般の増加分であり、燃え代設計に特化したコスト増は使用する断面サイズや樹種によって変わります。
燃え代設計とメンブレン工法(石膏ボード被覆)のどちらを選ぶかは、コストと意匠性のトレードオフです。木肌を見せる必要があれば燃え代設計、見せなくていい部位はメンブレン工法と、部位別に組み合わせる設計も実務では一般的です。
🔍 コスト判断の目安として、以下の観点を同じ段落で整理することが有効です。

  • 💰 燃え代設計:木材費↑、石膏ボード不要、仕上げ工事↓、意匠性◎
  • 💰 メンブレン工法:木材費↓、石膏ボード費・施工費↑、仕上げ工事↑、意匠性△
  • 🔎 どちらもトータルでは準耐火コスト増(10〜28%)は変わらない場合が多い

また、準耐火建築物として建てることで火災そのものが起きにくくなる(延焼が抑制される)という本質的なメリットがあります。隣接建物からの延焼リスクが下がり、万が一の際の被害を抑えられます。これが火災保険料の低減につながっている根拠でもあります。
準耐火建築物に関する保険料の具体的な区分は、各保険会社や対象建物の用途によって異なるため、設計後に保険会社に確認することをお勧めします。
参考:準耐火建築物の建設コストや保険料区分について。
燃え代設計で省令準耐火の基準を満たすことはできるのか(houuul)