脱炭素先行地域一覧と選定基準・交付金の活用法

脱炭素先行地域の一覧と選定・交付金・事例を徹底解説

選定されても辞退した自治体が全国でこれまでに3件あります。

この記事でわかること
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全国102件の地域一覧

第7回(2026年2月)まで選定された102件を地域ブロック別に整理。どの都道府県が対象かひと目でわかります。

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選定基準と交付金の仕組み

1計画あたり上限50億円の交付金が受け取れる制度です。選定されるための評価基準を具体的に解説します。

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辞退リスクと中間評価の実態

選定後も中間評価で「課題あり」と判定される可能性があります。松本市など3件の辞退事例から学べる落とし穴を紹介します。


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脱炭素先行地域とは何か:制度の目的と背景

脱炭素先行地域とは、環境省の「地域脱炭素ロードマップ」に基づいて選定される、カーボンニュートラルの先進的モデルとなる地域のことです。正式な定義では「2030年度までに民生部門(家庭部門および業務その他部門)の電力消費に伴うCO2排出を実質ゼロにし、運輸や熱利用等でも国全体の目標と整合した削減を実現する地域」とされています。
この制度が生まれた背景には、日本全体のCO2削減目標の厳しさがあります。民生部門は家庭で66%、業務その他部門で51%という削減率を2030年までに達成しなければならず、他部門よりも一層高い削減目標が課されています。それだけ対策が急務だということですね。
単なる環境対策に留まらないのがこの制度の特徴です。エネルギーの地産地消による地域経済の活性化、災害時のエネルギー自立、農山漁村の課題解決、人口減少への対応など、地域が抱えるさまざまな問題と脱炭素化を同時に解決することが求められています。つまり「環境と地域課題の一石二鳥」が条件です。
農山漁村、離島、都市部の街区など、地域類型は問いません。地域の特性を活かした多様なアプローチが認められているため、北海道の広大な農村から東京都の多摩市まで、規模・性格の異なる地域が選ばれています。
参考リンク(脱炭素先行地域の制度全体像・目的が詳しく解説されている環境省公式ページ)。
環境省 脱炭素地域づくり支援サイト「脱炭素先行地域」

脱炭素先行地域の一覧:全国ブロック別102件(第7回まで)

2026年2月13日に環境省が第7回選定結果を公表し、累計102件の計画提案が選定されました。同時に「2025年度までに少なくとも100か所を選定する」という目標を達成したため、今回で新規募集は終了となっています。選定地域は全国45道府県に広がっています。
以下に、各地域ブロック別の主な選定地域をまとめます(第1回〜第7回の累計です)。

ブロック 都道府県・主な選定市町村
🌲 北海道・東北 北海道(札幌市・苫小牧市・登別市・当別町・喜茂別町・滝上町・士幌町・鹿追町・厚沢部町)、青森県(八戸市・中泊町)、岩手県(陸前高田市・釜石市)、宮城県(東松島市)、秋田県(秋田市・大潟村)、山形県(鶴岡市・米沢市・飯豊町)、福島県(会津若松市)
🏙️ 関東 埼玉県(さいたま市・入間市・新座市・白岡市)、千葉県(千葉市・匝瑳市・市川市・銚子市)、東京都(多摩市)、神奈川県(横浜市・川崎市・相模原市・小田原市・厚木市・大和市・開成町)、茨城県(笠間市)、栃木県(宇都宮市)、群馬県(前橋市)
🗻 中部 新潟県(新潟市・佐渡市・妙高市)、長野県(伊那市・佐久市・東御市・安曇野市・箕輪町・高森町・小布施町・飯田市)、富山県(富山市・魚津市・氷見市・立山町)、石川県(加賀市・津幡町)、福井県(福井市・池田町)、岐阜県(美濃加茂市・山県市)、静岡県(静岡市・沼津市・富士市)、愛知県(名古屋市・岡崎市)、三重県(志摩市・度会町)
🌸 近畿 滋賀県(米原市・湖南市)、京都府(京都市・向日市・京丹後市)、大阪府(堺市・八尾市・河内長野市)、兵庫県(姫路市・尼崎市・淡路市・芦屋市・宝塚市・神戸市)、奈良県(奈良市)、和歌山県(和歌山市・那智勝浦町)
🌊 中国・四国 鳥取県(米子市・倉吉市)、島根県(邑南町・美郷町・出雲市)、岡山県(真庭市・西粟倉村・新見市・瀬戸内市)、広島県(呉市・福山市・東広島市・廿日市市・北広島町)、山口県(山口市・下関市)、徳島県(徳島市)、愛媛県(新居浜市・鬼北町・今治市)、高知県(高知市・土佐町・梼原町)、香川県(高松市)
🌺 九州・沖縄 福岡県(福岡市・北九州市・久留米市・糸島市・大木町)、長崎県(松浦市・五島市)、熊本県(球磨村・荒尾市)、大分県(中津市)、宮崎県(延岡市・宮崎市)、鹿児島県(知名町・鹿屋市・南九州市・宇検村)

第7回(2026年2月)では新たに青森県中泊町や茨城県笠間市、千葉県銚子市、香川県高松市などが加わりました。第7回が最終回ということですね。なお長野県松本市はかつて選定されていましたが、2025年9月に辞退届を提出しており現在は一覧から外れています。
参考リンク(第7回選定結果の公式発表・102件達成と募集終了が記載されている環境省プレスリリース)。
環境省「脱炭素先行地域選定結果(第7回)について」(2026年2月13日)

脱炭素先行地域の選定基準:審査で見られる5つのポイント

選定を受けるためには、環境省に計画提案書を提出し、「脱炭素先行地域評価委員会」の審査を複数回パスする必要があります。評価はおおむね3段階で行われ、確認事項の審査 → 先進性・モデル性の審査 → 地域経済循環や事業性を含む総合審査、という流れで厳格に評価されます。
審査で特に重視されるのは以下の5点です。

  • 🔋 再生可能エネルギー導入の具体性:太陽光・水力・バイオマスなど、どのエネルギーを何kW導入するかが数値で示されているか
  • 🤝 地域の実施体制:自治体だけでなく民間企業・地域住民・金融機関が連携した体制が整っているか
  • 💴 費用対効果と事業性:交付金に依存するだけでなく、民間資金も組み合わせた持続可能なビジネスモデルになっているか
  • 📡 他地域への波及可能性(モデル性):その取り組みが全国の他地域にも参考になる「先進事例」として機能するか
  • 📊 定量的な削減目標:2030年度までにCO2をどれだけ削減するかが、数字で明確に示されているか

重要なのは「提案を出せば通る」わけではないという点です。第7回の公募では全国39の地方公共団体から18件が提出されましたが、選定されたのは12件にとどまりました。採択率は約67%です。
また、選定後も3年目に中間評価が行われ、「実現に課題がある地域」と判定された場合は計画の抜本的な見直しが求められます。これは必須です。事前に地域の合意形成と事業採算性の精査を丁寧に行わないと、選定後に行き詰まるリスクがあります。

脱炭素先行地域に使える交付金:上限50億円の支援制度を解説

脱炭素先行地域に選定されると、環境省の「地域脱炭素推進交付金」(旧称:地域脱炭素移行・再エネ推進交付金)が利用できます。1計画あたりの交付限度額の上限は50億円です。
この交付金は大きく2種類に分かれています。

  • 💡 脱炭素先行地域づくり事業:脱炭素先行地域であることが必須条件。再エネ設備導入(太陽光・水力・バイオマスなど)が必須で、基盤インフラ整備(蓄電池・充放電設備など)や省CO2設備(ZEB・ZEH・EVなど)も対象。原則として交付率は3分の2です。
  • 特定地域脱炭素移行加速化交付金【GX】:民間裨益型自営線マイクログリッド等事業が対象。自治体や民間事業者が自ら敷設した送電線(自営線)を使い、特定エリア内で再エネを地産地消するネットワーク構築を支援します。

「マイクログリッド」という言葉は少し難しく聞こえますが、平たく言えば「学校区1つ分くらいのエリアで、そのエリアの太陽光パネルと蓄電池を繋いで独自の電力ネットワークを作る仕組み」のことです。これは使えそうです。
事業期間は両者とも5年程度で、3年度目に中間評価が実施されます。中間評価の結果次第で支援の継続可否が決まるため、計画通りに進捗を管理することが大切です。
なお、交付金の予算規模は年々拡大しており、国がこの制度に本腰を入れていることが数字からも伝わってきます。ただし、交付金が交付されるためには脱炭素先行地域への選定が「前提条件」です。まず選定を受け、そのうえで交付金の申請手続きを行う流れになります。
参考リンク(交付金の対象事業・交付率・申請手続きが詳しく記載されている環境省の交付金ページ)。
環境省「地域脱炭素推進交付金」公式ページ

脱炭素先行地域の成功事例3選:中間評価で高く評価された取り組み

中間評価や各種報告で成果が認められた地域の取り組みを3件、具体的に紹介します。
① 静岡県静岡市:清水駅周辺のマイクログリッドで都市型モデルを確立
静岡市は、清水駅東口エリアの文化会館や病院などを含む複数施設を自営線でつないだマイクログリッドを構築しました。このシステムでは太陽光パネルで発電した電力を蓄電池に貯めておき、夜間や災害時にも安定供給できる仕組みになっています。都市部のビル街でも脱炭素を実現できるという意味で、全国から注目される先行事例です。
② 神奈川県横浜市:16市町村の広域連携で東北の再エネ電力を活用
横浜市は神奈川県内の16市町村と広域連携し、「はまっこ電気plus」と呼ばれる再エネ電力プランを展開しています。みなとみらい地区では対象64施設のうち41施設が再エネ100%導入に合意済みです。都市側の電力消費と地方の再エネ発電を組み合わせる「広域分散型」の先進モデルとして評価されています。64施設中41施設というのは、約64%の達成率です。
③ 岡山県西粟倉村:人口1,400人の小さな村が示す「地域エネルギー自治」の形
西粟倉村(人口約1,400人・面積57km²、東京都世田谷区1つ分程度)は、太陽光・井水空調・バイオマスボイラーを組み合わせた多角的な再エネ体制を構築しています。林業と連携した木質バイオマスの活用が雇用創出にもつながっており、「小規模自治体だから脱炭素できない」という常識を覆す事例です。2026年度にはエリア全体での脱炭素化完了が予定されています。
小さな自治体でも実現できることがわかりますね。

脱炭素先行地域で辞退が起きる理由:3件の辞退事例が示すリスク

脱炭素先行地域に選定されながら、その後に辞退する自治体がこれまでに全国3件発生しています。これは多くの人が見落としがちなリスクです。
最も最近の事例が長野県松本市(乗鞍高原エリア)です。2025年9月に辞退届が提出されました。辞退の理由は、計画の中核に据えていた小水力発電事業の設計・工事調達が不調に終わり、2025年3月に断念。その後、代替案として太陽光発電に切り替えようとしたものの、当初の地域主導モデルから大きく乖離し「先進性・モデル性を損なう」と判断されたためです。
この事例が示す教訓は明確です。次の3点を事前に確認しておくことが重要です。

  • 📐 中核事業の調達リスクを検証する:特に小水力や地熱など、設計・施工業者が限られる設備は複数社から見積もりを取り、事業継続性を事前に確認する。
  • 💰 資材価格高騰を考慮した事業計画を立てる:松本市の辞退理由の一つに資材高騰もありました。物価変動リスクを織り込んだ予算設計が不可欠です。
  • 🏘️ 地域住民・議会との合意形成を先行させる:計画が途中で頓挫すると地元への説明責任が生じます。計画段階から議会・地元住民との丁寧な合意形成が必要です。

また環境省は、令和6年度に中間評価を実施した結果、選定から3年目前後のタイミングで「実現に課題がある地域」を複数抽出しています。評価で課題ありと判定されると、計画の抜本的な見直しや体制強化が義務付けられます。痛いですね。
選定はゴールではなく、スタートラインです。2030年度の目標達成まで継続的にモニタリングと改善を行い続けることが前提となっています。計画の「実行力」が問われる制度だということを、申請前にしっかりと認識しておく必要があります。
参考リンク(松本市の辞退経緯と背景・資材高騰リスクの詳細が記載されている記事)。
環境新聞「長野県松本市が選定辞退 脱炭素先行地域、全国で3例目」