マンション管理適正評価制度が不要と言われる理由と正しい判断基準
管理評価を取得していないマンションは、買主の住宅ローン審査で減点対象になるケースがあります。
マンション管理適正評価制度の概要と不要論が生まれた背景
マンション管理適正評価制度は、2022年4月に公益財団法人マンション管理センターが開始した制度です。管理組合が自分のマンションの管理状態を申請し、30項目の評価基準に基づいてS・A・B・C・Dの5段階で評価を受けられる仕組みになっています。
評価は任意取得です。法律で義務づけられているわけではありません。
この「任意」という点が、不動産従事者の間で「不要論」が広がる最大の理由と言えます。管理費・修繕積立金の収支状況、長期修繕計画の策定有無、理事会・総会の開催状況など、評価に必要な書類整備は管理組合にとって相当の工数がかかります。実際に申請から評価取得まで平均で3〜6ヶ月を要するとされており、「これだけ手間をかけても任意なら、やらなくてもよいのでは」という声が出るのは自然な流れです。
制度発足から約2年が経過した2024年時点で、評価取得マンションは全国で約1,800棟前後と推計されています(マンション管理センター公表値をもとにした業界推計)。国内の分譲マンション総数が約694万戸(国土交通省2023年調査)、棟数換算で約10万棟以上と言われることを踏まえると、普及率はまだ2%未満の水準です。
普及率が低い、という事実は「不要」の根拠にも、「差別化できる」の根拠にもなりえます。
不動産会社のエージェントとしては、この制度の数字と現場感覚の両方を持っておくことが、顧客への正確な情報提供につながります。
マンション管理センター|マンション管理適正評価制度公式サイト(制度概要・申請方法・評価基準30項目を確認できます)
マンション管理適正評価制度が不要と感じる主な理由とその実態
不動産従事者が「この制度は不要」と判断する理由は、大きく3つのパターンに集約されます。費用対効果の問題、管理組合の温度感の問題、そして制度自体の認知度の問題です。
費用面から見ると、評価取得には申請費用として1棟あたり約33,000円(税込)が必要です。さらに評価維持のために年1回の更新申請が求められ、更新費用は約16,500円(税込)かかります。毎年2万円近い出費が発生するということですね。管理組合の会計規模が小さい場合、「それだけ払って何が変わるのか」という反応は珍しくありません。
管理組合の温度感という観点では、区分所有者が高齢化し理事会の担い手不足が深刻なマンションでは、申請書類の準備それ自体がハードルになります。30項目の評価基準には「長期修繕計画が25年以上の計画で策定されていること」「修繕積立金の月額単価が国交省ガイドライン水準を下回っていないこと」など、書類整備だけでなく実態の改善が前提になる項目も含まれています。
制度の認知度については、買主側の一般消費者への浸透がまだ低い点が課題です。これが正直なところです。不動産ポータルサイト大手のSUUMOやHOME’Sでは「管理適正評価」の評価ランクを物件情報に掲載する機能が整備されつつありますが、検索フィルターで積極的に活用している買主はまだ少数派というのが現場の実感でしょう。
ただし「認知度が低い=不要」と結論づけるのは早計です。
制度の普及スピードは2023〜2024年にかけて加速しており、金融機関の住宅ローン審査においてもこの評価を参考情報として取り込む動きが出始めています。数年後に「取得していなかったことが不利になった」という状況が来た場合、今の「不要」という判断がそのまま管理組合や売主へのアドバイスとして残ることを意識しておく必要があります。
国土交通省|マンションの管理の適正化の推進に関する法律(制度の法的根拠と国の方針を確認できます)
マンション管理適正評価制度が本当に不要なケースの条件を整理する
「不要かどうか」はマンションの属性によって大きく変わります。一律に不要と言い切れるわけではありません。
本当に取得優先度が低いと判断できるのは、主に以下のような条件が揃う場合です。築5年未満の新築〜築浅物件で、管理組合の体制がまだ整備中の段階にある場合、または全戸が賃貸に回っており売買流通の予定がない場合、さらに総戸数が10戸以下などの超小規模マンションで申請コストの負担が割に合わない場合が該当します。
築浅物件については理由が明確です。築5年未満では長期修繕計画の精度がまだ低く、30項目の評価基準を満たしにくい項目が複数出るため、評価ランクが上がりにくい傾向があります。低評価で取得しても宣伝材料にならない、というのが正直なところです。
全戸賃貸のケースはどうなりますか?
賃借人は購入者ではないため、売買時の評価情報を意思決定に使うシーンがそもそも発生しません。管理組合が賃貸オーナーで構成される場合でも、評価取得が家賃に直結するという研究データは現時点では限定的です。賃貸専用マンションであれば、取得のROI(投資対効果)が出にくいと言えます。
一方、取得の優先度が高いケースは明確です。築20年超で大規模修繕の時期が近く、売却予定の区分所有者が複数いる場合はとくに重要です。また、地域のマンションポータルで競合物件と比較されやすい都市部の立地であれば、評価ランクが差別化要素として機能します。これが条件です。
「不要か否か」の判断軸は、売買流通の可能性と競合環境の2点で判断する、と覚えておけばOKです。
マンション管理適正評価制度を取得しないと生じる売却への影響と数字
「不要」と結論づける前に、取得しないことで実際にどのくらい売却価格に影響が出るかを数字で把握しておくことが重要です。意外ですね。
国土交通省が2023年に公表したマンション管理と資産価値に関する調査では、管理状態が良好と評価されるマンションは、同立地・同築年数の比較対象に対して平均で約5〜10%程度の価格プレミアムがつく傾向があると報告されています。たとえば3,000万円の物件なら150万〜300万円の差です。はがきの横幅くらいのわずかな差に聞こえますが、売主にとっては無視できない金額です。
また、住宅ローンの観点では、フラット35を提供する住宅金融支援機構が管理適正評価の活用を検討しているという情報が業界誌で報じられており、将来的に評価ランクが融資条件に組み込まれる可能性があります。現時点では必須ではありませんが、この流れが実現した場合、評価なしのマンションの買主が選べるローン商品が狭まるリスクが生じます。
買主候補が減れば、成約までの時間も長くなります。
不動産従事者の立場で言えば、「評価制度は不要」という言葉を売主に安易に伝えると、後になって「なぜ取得を勧めてくれなかったのか」という話になるリスクがあります。善管注意義務の観点からも、制度の存在と取得した場合のメリット・デメリットを一度は説明することが求められる時代になってきています。
実務的な対策として、売却相談のヒアリングシートに「管理適正評価の取得状況」を確認項目として加えておくと、対応漏れを防ぎやすくなります。
住宅金融支援機構|フラット35とマンション管理に関する情報(住宅ローンと管理状態の関連性を確認できます)
不動産従事者だけが知るマンション管理適正評価制度の独自活用法
ここまで「不要論」の根拠と反論を整理してきましたが、制度の使い方は申請・取得だけではありません。これは使えそうです。
評価制度の30項目は、それ自体が「管理組合の健全性チェックリスト」として機能します。申請しないとしても、このチェックリストを使って担当物件の管理状態を事前にスクリーニングすることで、「管理が問題になりそうな物件」を早期に見つけ出すことができます。買取再販や仕入れ判断の際に、管理状態が悪化しているマンションを早期に特定できれば、価格交渉や仕入れ見送りの根拠になります。
具体的には、評価基準の中にある「修繕積立金の累計額が長期修繕計画の必要額に対して80%以上確保されているか」「管理規約が最近10年以内に改定されているか」という項目は、物件調査の際に管理組合の議事録や収支計算書から確認できます。これらを自社のデューデリジェンス項目に加えるだけでよいのです。
評価を取るかどうかとは別の話です。
さらに、顧客向けの提案資料に「管理適正評価の取得状況および推奨理由」を1ページ追加するだけで、他社との差別化になります。多くの不動産会社がこの制度をまだ提案に組み込んでいない現状では、説明できるエージェントというだけで専門家としての信頼性が上がります。
不動産会社の中には、売却依頼を受けた際に管理組合に対して評価申請の段取りをサポートする付帯サービスを始めているところも出てきています。申請サポートを提供することで、売主との契約期間中の接点を増やし、他社への乗り換えを防ぐ効果もあります。
まとめると、制度を「取得するかしないか」の二択ではなく、「業務ツールとして活用する」視点を持つことが、不動産従事者として一歩先に行ける考え方です。
管理適正評価制度を理解している専門家として、売主・買主双方に付加価値を提供できるかどうかが、今後の不動産業務の差になっていきます。制度の「不要論」を超えた先に、実務上の活用余地が広がっているということですね。
マンション管理センター|評価基準チェックリスト(30項目の具体的な評価基準をPDFで確認できます)

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