直角度公差とJIS規格の読み方・使い方を正しく理解する
あなたが「直角度0.1」と図面に書いたとき、それは角度ではなく1mm未満の長さの話です。
直角度公差とはJIS B 0021・B 0621で定義された「長さ」の規制
直角度公差とは、「データム直線またはデータム平面に対して直角な幾何学的直線または幾何学的平面からの、直角であるべき直線形体または平面形体の狂いの大きさ」とJIS B 0621で定義されています。少し難しく聞こえますが、要は「基準面に対してどれだけ垂直に近いか」を数値化したものです。
ここで現場でよく起こる誤解に触れておきます。直角度公差の数値は「角度(°)」ではなく「長さ(mm)」で表されます。これが最重要ポイントです。たとえば図面に「⊥ 0.05」と記入してあれば、それは「0.05°以内にしろ」ではなく、「データム平面に直角な2つの仮想平面の間隔が0.05mm以内に収まるようにしろ」という意味になります。
具体的なイメージで説明します。高さ100mmの部品の側面に直角度公差0.05mmが指示されている場合、その側面全体が「データム面に対して直角で、かつ0.05mmだけ離れた2枚の平行な板」の間に収まっていなければなりません。高さが変わっても許容される「幅」は0.05mmのまま変わりません。一方、角度(°)で指示した場合は、高さが大きくなるほど許容される幅も広がります。つまり直角度公差のほうが、大型部品になるほど厳しい規制になるわけです。
直角度は姿勢公差の一種で、JIS B 0021(製品の幾何特性仕様:幾何公差表示方式)に図示方法が規定されています。姿勢公差には平行度・直角度・傾斜度の3種類があり、すべてデータムが必要です。データムなしでは直角度を意味のある形で指示できません。これが形状公差(真直度・平面度など)との大きな違いです。
図面への記入方法は、公差記入枠に直角度の記号(⊥)、公差値、データム記号の順で記入します。公差記入枠は通常3〜4区画で構成されます。対象形体が穴の中心軸など全周方向に規制が必要な場合は、公差値の前に「φ」を付けて円筒形の公差域であることを示します。
参考リンク(JIS B 0021の幾何公差表示方式について)。
JISB0021:1998 製品の幾何特性仕様(GPS)−幾何公差表示方式 | 規格票
直角度公差JISの普通公差(JIS B 0419)と公差等級の読み方
直角度公差に関して、多くの現場で見落とされがちな規格があります。それがJIS B 0419です。
JIS B 0419は「普通公差・第2部:個々に幾何公差の指示がない形体に対する幾何公差」を定めた規格です。図面に直角度の個別指示がない場合でも、この規格に基づいて直角度が自動的に管理されます。知らないと損する規格のひとつです。
JIS B 0419では直角度の普通公差について、以下のように公差等級H・K・Lの3段階が定められています。
| 公差等級 | 短い辺 100mm以下 | 100〜300mm | 300〜1000mm | 1000〜3000mm |
|---|---|---|---|---|
| H(精級) | 0.2mm | 0.3mm | 0.4mm | 0.5mm |
| K(中級) | 0.4mm | 0.6mm | 0.8mm | 1.0mm |
| L(粗級) | 0.6mm | 1.0mm | 1.5mm | 2.0mm |
測定する際のデータムは「直角を形成する2辺のうち長い方の辺」を基準とします。2辺が同じ長さの場合はどちらをデータムとしてもかまいません。
図面の表題欄や注記欄に「JIS B 0419-mK」などと記載してある場合、それはサイズ公差にJIS B 0405の中級(m)、幾何公差にJIS B 0419の中級(K)を適用するという意味です。両者が混在する表記になっているので、現場での確認が必要です。
直角度の普通公差が適用されると、たとえば辺の長さが50mm程度の部品にKグレードが適用された場合、直角度公差は0.4mmとなります。これはA4用紙の厚みの約40枚分にあたります。精密部品の場合はこの普通公差ではカバーできないため、個別に直角度公差を指示することが重要です。普通公差だけに頼ると、後工程でのクレームや手直しにつながるリスクがあります。
参考リンク(JIS B 0419の直角度普通公差の数値一覧)。
個々に公差の指示がない形体に対する幾何公差(JIS B 0419)| ミスミ技術情報
直角度公差の図面指示パターンと設計意図の読み解き方
直角度公差は、対象となる形体の種類によって図面への指示パターンが変わります。ここを正確に読み解けないと、加工後の検査で「合格なのに設計意図に反した部品」が出てしまいます。
代表的な指示パターンを整理します。
① 平面に対して平面を直角に規制する場合
もっともシンプルなパターンです。データム面(基準面)に対して、指示された側面が直角であることを規制します。公差域は「データム面に垂直な2枚の平行平面の間の空間」です。ただし注意点があります。この指示方法では、平面図から見て面が斜めに傾いていても、その方向の直角度は評価されません。必要であれば第2データムを追加することで、両方向の直角を同時に管理できます。
② 平面を基準に穴(軸)の中心線を直角に規制する場合
穴の中心線が台座面に対して真っ直ぐ立っているかを管理します。中心線はデータム面に対して方向性がないため、公差値には「φ」を付けて円筒公差域(直径0.1mmの円筒の中に中心線が収まる)であることを明示します。φを付けない2平面域と比べて、許容される面積が約1.57倍広くなります。
③ 断続面を一括管理する場合(CZ記号の使い方)
溝などで分断された複数の面を一体として直角度管理する場合に、公差値の後ろに「CZ(共通領域)」を記入します。個別の面ごとではなく、すべての面が同一の公差域に収まることを要求します。断続面に指示線をすべて当てる方法と、1箇所に当てて個数表記する方法の2通りがあります。
これらのパターンを理解していないと、受け取った図面の意図と実際の加工・検査の方向性がずれるリスクがあります。図面を見たらまず「データムはどこか」「対象形体は平面か軸か」「φがついているか」の3点を確認する習慣をつけることが大切です。
参考リンク(直角度の指示パターンと公差域の図解説明)。
直角度公差の測定方法:スコヤ・定盤からCMMまでの選び方
直角度の測定方法は複数あります。現場で使う測定器によって精度と客観性に大きな差が出るため、目的に応じた選択が必要です。
スコヤ+定盤(隙間ゲージ)による測定
もっとも手軽な方法です。データム面を定盤に密着させ、スコヤを対象面に当てて生じる隙間をシクネスゲージ(すきまゲージ)で測ります。設備コストが低く現場での即時確認に向いていますが、測定者のスキルや測定力(当て方の強さ)によって読み取り値がばらつきやすいです。精度の目安は0.01〜0.1mm程度の評価に向いています。
ダイヤルゲージ+定盤(ハイトゲージスタンド)による測定
スコヤよりも定量的な測定が可能です。データム面を定盤に置き、ダイヤルゲージを対象面に接触させながら高さ方向に走査します。振れ量の最大値と最小値の差が直角度の評価値になります。ダイヤルゲージは通常0.01mm(10μm)単位の分解能を持ちます。測定が数値化されるため、スコヤより再現性が高いです。
三次元測定機(CMM)による測定
最も信頼性の高い方法です。面全体の複数点を打点測定(または倣い測定)して、データム平面と対象面の空間的な関係を演算で評価します。国内で普及している門型接触式CMMの場合、測定精度は最高で1μm(0.001mm)程度です。JIS B 6190-1(幾何精度試験)ではダイヤルゲージや光学式スコヤを使った方法が記載されていますが、量産部品の品質保証には三次元測定機の使用が主流です。
測定方法を選ぶ際の基準は明確です。公差値が0.1mm以上であれば定盤+ダイヤルゲージで十分対応できますが、0.05mm以下の精密管理が求められる場合はCMMを使うべきです。検査記録の客観性が求められる取引先向けの検査にも、CMMの使用が推奨されます。
参考リンク(幾何公差の測定方法と測定器の選び方)。
直角度公差とサイズ公差の独立の原則:現場で起きがちな見落とし
直角度公差を理解する上で、もう一つ重要な概念があります。それが「独立の原則」です。これを知らないままだと、図面は公差内なのに組み立てで干渉する、という事態が起きます。厳しいですね。
独立の原則(JIS B 0024)とは「図面に指示されたサイズ公差と幾何公差は、特別な相互関係が指定されない限り独立して別々に適用される」というルールです。つまり、寸法公差(例:50±0.1mm)と直角度公差(例:⊥0.05)は、互いに影響しません。寸法が公差内でも直角度が外れていれば不合格ですし、逆も然りです。
現場でよく起きる誤解はこうです。「寸法公差の中に直角度も含まれているはずだ」という思い込みで、直角度を個別に検査しないケースがあります。しかし独立の原則のもとでは、寸法公差は直角度を一切規制しません。長さ10cmの部品(はがきの横幅程度)が±0.1mmの寸法公差で合格していても、直角度が0.5mmずれていたら直角度公差違反です。両方を別々に検査する必要があります。これが原則です。
一方で、独立の原則の例外として「包絡の条件(記号:Ⓔ)」があります。包絡の条件を指示した場合、その形体のサイズ公差の最大実体サイズにおける完全形状(包絡面)を超えてはならないという追加条件が課されます。軸や穴など、はめあいが重要な部位に適用されることがあります。ただし、包絡の条件は必ず図面に明示的に記入する必要があります。
設計者側でも加工・検査側でも、この独立の原則を理解した上で図面を読み解くことが、現場の品質トラブルを減らす最短ルートです。不明な点があれば、JIS B 0024の原典を確認するか、設計担当者に直接確認することをおすすめします。確認を怠らないのが基本です。
参考リンク(独立の原則と包絡の条件のわかりやすい解説)。
参考リンク(京都府中小企業技術センターによる幾何公差とサイズ公差の違いの解説資料)。