全振れ公差とは何か・記号・測定・円周振れとの違い

全振れ公差とは・記号・データムの指示・円周振れとの違い

全振れ公差を「円周振れの厳しい版」と思っていると、3ミクロンのズレで規格外が出て納期を丸ごと飛ばします。

この記事の3ポイントまとめ
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全振れ公差の定義と記号

JIS B0021に基づき、データム軸を中心に回転させた際の円筒表面または軸直角平面「全体」の振れ幅を規制する幾何公差。記号はダイヤルゲージが移動するイメージの二重矢印マーク。

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円周振れとの本質的な違い

円周振れは「任意の1本の母線(輪切り線)」だけを評価するのに対し、全振れは「表面全体」を評価する。テーパー面・ひょうたん形には円周振れしか使えない点に注意が必要。

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測定時の見落とされがちな落とし穴

基準円筒(データム)が短いワークでは、3ミクロン程度の中心座標ズレが測定値を0.2mm超の規格外に変化させる。三次元測定機でも再測定のたびに数値が変わる現象が起こりうる。

全振れ公差とは何か:JIS定義と幾何公差の中での位置づけ

全振れ公差(Total Runout Tolerance)は、幾何公差の分類の中で「振れ偏差」グループに属する公差です。JIS B0021では、「データム軸直線を軸とする円筒面をもつべき対象物、またはデータム軸直線に対して垂直な円形平面であるべき対象物を、データム軸直線の周りに回転したとき、その表面が指定した方向に変位する大きさ」と定義されています。つまり「軸中心にグルグル回したときに、表面がどれだけブレるか」の限界を定めるものです。

幾何公差には形状公差・姿勢公差・位置公差・振れ公差という4つの大きなグループがあります。全振れ公差は「振れ公差」の中の1種であり、もう1種の「円周振れ公差」と並んで定義されています。真円度や円筒度との大きな違いは、全振れ公差には必ずデータム(基準となる軸)が必要になる点です。

データムが必須ということですね。

データムが指定されるということは、単なる部品単体の形状ではなく、「この軸を中心に回したときにどうか」という機能的な評価ができることを意味します。軸受で支持されるシャフト、カムシャフト、歯車の軸部などに使われるのはこのためです。実際の使用状態を想定した公差指示が可能になるため、回転部品の品質保証には欠かせない考え方となっています。

全振れ公差の指示対象となる形体は、「直径に変化のない円筒表面」または「軸直角の平面」に限定されます。テーパー面や球面には指示できません。この制約が後述の円周振れとの使い分けに直結します。

キーエンス「振れ公差(振れ偏差)|幾何公差の種類」:円周振れ・全振れの記号と図面解釈の具体例を図解で確認できる

全振れ公差の図面記号とデータムの書き方・公差域の解釈

全振れ公差の記号は、二重矢印(↗↗のような形)で表されます。ミスミの解説では「移動するダイヤルゲージの針」と覚えると忘れにくいとされています。確かにダイヤルゲージがスライドしながら測定していくイメージそのものです。

図面への記入方法は、公差記入枠を3区画以上に分けて、左から「記号|公差値|データム記号」の順で書きます。全振れは表面全体を規制するため、公差値の前に直径記号「φ」は付けません。これは「2本の同心円の間」ではなく「2本の円筒面の間(半径方向)」または「2つの平面の間(軸方向)」が公差域になるためです。

φが付かないのが原則です。

公差域のイメージをもう少し具体的に説明します。たとえば半径方向の全振れ公差が0.1mmと指示されている場合、部品をデータム軸を中心に回転させながら表面全体をなぞったとき、どの点もデータム軸からの半径差が0.1mmを超えてはならないという意味になります。これはA4用紙の厚さ(約0.1mm)ほどのわずかな幅の中に、円筒表面のあらゆる点が収まらなければならないということです。

指示線の矢印は、必ず「寸法線の延長線上から外した位置」に引くことが基本ルールです。寸法線と重なると公差が直径寸法に対するものと混同されるからです。このルールを守らずに指示してしまうと、加工現場での解釈にズレが生じ、検査時に「どこを測るのか」で手戻りが発生することがあります。

データムは通常、軸受に挿入される部分の軸線に設定します。両端を2つの軸受で支えるような部品では、2つのデータムをハイフンで結んだ「共通データム(例:A-B)」として設定するのが標準的な方法です。共通データムを使うことで、2点で支持した状態での回転を基準にした振れ評価が可能になります。

ミスミ meviy「振れは良い仕事の敵だ。−全振れの意味と記号の使い方−」:公差記入枠の書き方・公差域のパターン・指示例を豊富な図とともに解説

全振れ公差と円周振れ公差の違い:使い分けの判断基準

「全振れ」と「円周振れ」は、同じ振れ公差でありながら、評価する範囲が根本的に異なります。これを混同したまま図面を書くと、加工コストや測定の難易度に大きな差が出ます。

円周振れは「任意の位置にある1本の母線(輪切りにしたときの稜線)」の変位を評価します。部品を回転させながら、ある1点だけにダイヤルゲージを当てたときの振れ幅がその値です。対して全振れは「円筒表面全体のあらゆる点」の変位を評価します。ダイヤルゲージを軸方向にスライドさせながら測定し、全範囲の中の最大値が公差値以内でなければなりません。

つまり全振れは円周振れより厳しい評価です。

ここで知っておきたい重要な事実があります。全振れ公差は、真円度・同軸度(同心度)・円筒度という複数の形状要素を一括して規制する複合的な公差です。一方で、全振れを指示できるのは「直径に変化のない円筒面」または「軸直角の平面」に限られます。テーパー面やくびれ形状、球面のような直径が変化する面には、全振れは使えません。そういった形体には円周振れを使います。

項目 円周振れ 全振れ
評価範囲 任意の1本の母線(点) 表面全体
適用できる形体 テーパー面・球面・曲面 含む 直径一定の円筒・軸直角平面のみ
厳しさ 比較的ゆるい より厳しい
測定の難易度 比較的容易 難しい(全面トレースが必要)
コスト 低め 高め

加工現場でよくある誤りは、テーパー形状の面に全振れを指示してしまうケースです。全振れはテーパー面には指示できないため、JIS上は不適切な指示となり、検査方法が確定できず工場側で解釈が割れます。形状に変化がある部位には円周振れを使うのが原則です。

アイアール技術者教育研究所「振れ公差は回転部品に使う幾何公差|円周振れ/全振れの違いと使い方」:公差域の図解と使い分けのルールを詳しく説明

全振れ公差の測定方法と三次元測定機での落とし穴

全振れ公差の測定方法には大きく2つあります。1つ目は「Vブロック+ダイヤルゲージ」を使う方法、2つ目は「真円度測定機」または「三次元測定機(CMM)」を使う方法です。

Vブロックとダイヤルゲージの組み合わせは現場でよく使われますが、全振れの場合は円周振れよりも測定が難しくなります。円周振れは1点にゲージを当てて1回転させるだけですが、全振れは軸方向全体にわたってゲージをスライドさせ、あらゆる位置での最大変位を記録しなければなりません。測定中にゲージがわずかでもぐらつくと数値に影響します。

測定は精度が命です。

三次元測定機を使う場合には、特有の注意点があります。基準円筒(データム形体)が短いワークでは、測定値が安定しないという現象が起きます。具体的な例を挙げます。板厚2.0mmの部品でデータム円筒高さが2mm程度しかない場合、2か所の測定円の中心座標にわずか3ミクロン(0.003mm)のズレがあると、計算上の振れ値は0.207mmとなり、規格外と判定されることがあります。0.003mm(3ミクロン)というのは人の毛髪の直径(約0.07mm)の20分の1程度の極めて微小な差です。それだけの誤差でも、データム軸の傾きが大きく影響するため、測定値が大幅に変動します。

同じワークを再測定してまったく違う数値が出るとしたら、データム設定の問題を疑うべきです。この場合の解決策は、データムとなる基準円筒を長くする設計変更か、測定点数を増やしてデータム軸をより正確に算出することです。三次元測定機の数値を「信用できない」と感じるケースの中には、測定器の精度ではなくデータム設計の問題が原因となっているものが少なくありません。

こういった測定のトラブルは、設計段階でデータム形体の長さや位置を適切に設計することで多くが防げます。加工会社や測定会社に相談しながら設計を詰めることが、手戻りを減らす確実な方法です。

三次元測定研究所「幾何公差 振れ(全振れ)に関する良くある悩み解決します」:基準円筒が短いワークでの測定値不安定現象を数値で詳しく解説

全振れ公差の指示が招くコストアップと設計意図の伝え方

全振れ公差は、設計の現場で「念のため」「厳しくしておけば安心」という感覚で指示されることがあります。これが問題です。全振れは円周振れと比べて測定が難しく、加工の制御も厳密になるため、安易な指示はコストアップに直結します。

加工会社の立場から見ると、全振れ公差が指示された箇所は「特別に手をかけなければならない部分」として扱われます。不要な箇所への全振れ指示は、加工工程の追加・検査工数の増大・治具の準備などを引き起こし、見積価格に影響します。必要のない公差を付けてしまうことで、1品あたりの製造コストが想定より跳ね上がるケースは実務でも珍しくありません。

コストと品質は両立が条件です。

一方で、全振れ公差の指示漏れも問題です。機能上どうしても外せない精度要件が図面に明記されていないと、加工会社は「普通公差(JIS B0405)の範囲で仕上げれば良い」と判断します。そうして納品されたものが実際に使えない、あるいは組立でトラブルが起きるという事態になります。指示漏れと過剰指示のどちらも、結果として余計なコストと時間を消費します。

理想的なのは「機能上必要な箇所にだけ、適切な公差で全振れを指示する」ことです。たとえば軸受で支持される部分の外径面や、相手部品との密着が求められるフランジ端面など、機能要件に直結する部位に絞って全振れを使います。そうでない部位はサイズ公差による指示で十分なケースが多く、この使い分けが品質とコストの両立につながります。

迷ったら加工会社に相談するのが現実的です。製品用途を伝えた上でVA・VE提案を引き出すことで、設計者が気づかないコストダウンの余地が見つかることがあります。図面を出す前に加工会社と打ち合わせる習慣が、トラブルを未然に防ぐ最も確実な手段です。

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