スポット溶接の条件出しを基礎から徹底マスターする方法
電流を上げれば上げるほど溶接強度が高くなるわけではありません。
スポット溶接の条件出しに必要な「三大条件」の基本を理解する
スポット溶接の条件出しとは、溶接電流・通電時間・加圧力という三大条件を、材質と板厚に合わせて適正範囲に収める作業のことです。この3つはどれか1つだけ正しくても意味がなく、必ず「3つ同時にバランスが取れた状態」を目指す必要があります。
溶接電流(I) は、金属を溶かすための熱源そのものです。板厚ごとの電流の目安を知るには、「I = k × √t」(Iは電流、kは係数、tは板厚)という計算式がよく使われます。板厚0.8mmのSPCCを2枚重ねでスポット溶接する場合、中等条件(Bクラス)の目安電流は約6,400A前後です。一方、板厚2.0mmになると同条件で10,400A前後まで上昇します。電流が不足するとナゲットが形成されず剥離不良に直結し、逆に過電流になるとスパッタが大量発生して電極の寿命を大幅に縮めます。
電流を少しずつ上げながらナゲット径とスパッタ量を同時に確認し、JIS規格で定められた最小ナゲット径を満たす電流値に、さらに1kAを加えた値を上限とする方法が現場では有効です。これが条件出しの基本です。
通電時間(t) は、電流を流す時間の長さです。通電時間が長いほどナゲットは大きくなりますが、ある時間を超えると飽和状態になり、それ以上長くしてもナゲット径は大きくならず、電極への熱ダメージや焼けが増えるだけになります。見落とされがちなポイントとして、静岡県の富士川を境に電源周波数が異なる点があります。東日本(50Hz)と西日本(60Hz)では1サイクルあたりの時間が違うため、他工場の条件表をそのまま流用すると熱量がずれる場合があります。東日本で設定する場合、西日本の通電サイクル数に「×1.2」を掛けることで換算が可能です。
加圧力(F) は、電極で母材を押さえつける力です。加圧が弱すぎるとスパッタが多発し、強すぎると電流の通電面積が広がって電流密度が下がり、逆にナゲットが小さくなります。つまり加圧力が原因なのに「電流不足かと思ってさらに電流を上げる」という悪循環に陥りやすいのが、この条件の怖いところです。
加圧力は原則です。三大条件を調整するとき、「電流 → 加圧力 → 通電時間」の順で設定し、最後に通電時間で微調整すると迷いなく適正条件に近づけます。
参考:スポット溶接の基礎条件と4条件の解説(電元社トーア FAQ)
スポット溶接の条件出しで使う「ナゲット径」の判定基準を知る
条件出しをしたあとに「溶接がちゃんとできているか」を確認する指標として、ナゲット径が使われます。ナゲットとは、スポット溶接で金属が溶けて固まり、2枚の板をつなぎとめている部分のことです。溶接の打痕(へこみ)の大きさとは別物なので注意が必要です。打痕が深くてもナゲットが不十分な場合はあります。
JIS Z 3140では、ナゲット径の等級を以下のように定めています。
| 等級 | ナゲット径の基準 | 用途の目安 |
|---|---|---|
| A級 | 平均値で5√t以上 | 自動車ボデーや高強度部品など、強度要求が高い製品 |
| B級 | 平均値で4√t以上5√t未満 | 一般的な構造部品 |
| C級 | 4√t未満 | 強度要求が低い補助部品など |
「√t」は板厚(mm)の平方根です。板厚1.0mmの場合、√1.0 = 1.0なので、A級の基準は5×1.0 = 5.0mm以上のナゲット径が必要になります。板厚1.6mmであれば√1.6 ≒ 1.26なので、A級基準は約6.3mm以上です。つまり板厚が変わるたびにナゲット径の合格基準が変わるため、条件出しの際には板厚ごとに計算しなおすことが必要です。
これは使えそうです。
現場でナゲット径を確認するには、主に次の3つの方法が使われています。
- 破壊試験(ピール試験・たがね試験): テストピースをペンチなどで強制的に剥離させ、破断面に現れたナゲット径をノギスで実測する。最も信頼性が高く、条件出しの際には必須です。
- 断面マクロ試験: 溶接部を切断・研磨・腐食液処理してナゲット断面を顕微鏡で観察する。鋼板の場合はナイタール液、SUS材はシュウ酸電解エッチングが一般的です。
- 非破壊検査(超音波など): 量産ラインでのサンプリング検査に用いられますが、機器コストが高く、条件出し段階では破壊試験が中心になります。
条件出しの段階で破壊試験を複数枚実施し、ナゲット径が安定してJIS下限 + 0.5mm以上あることを確認してから本溶接条件として確定するのが原則です。スパッタ付着量と電極温度の上昇傾向もあわせて確認するようにします。
参考:JIS Z 3140 スポット溶接部の検査方法・判定基準の解説

スポット溶接の条件出しを狂わせる「加圧力の誤差」と測定方法
条件出しで意外に見落とされるのが、加圧力の「設定値と実測値のズレ」です。エアーガン式の溶接機では、制御装置に5.0kNと入力しても、実際に電極にかかっている力が4.3〜4.5kN程度にしかなっていないケースが珍しくありません。この差は、エアー経路の圧力損失やシリンダーの摩擦抵抗、エア供給圧力の変動などによって生じます。
痛いですね。これは現場では見えにくい問題です。
設定値と実測値が10%以上ずれていると、条件出し時に「正しい」と思っていた条件が実は適正範囲を外れていた、ということが起きます。加圧力が実際より弱ければスパッタが増え、実際より強ければ電流密度が落ちてナゲットが小さくなります。どちらの場合も、「電流や通電時間の問題だ」と間違った方向で条件調整を続けてしまう原因になります。
対策として、条件出しの前に市販の加圧力計(ロードセル式)を使って実測値を確認することが重要です。専用のハンディ溶接計測器を使えば加圧力と通電時間を同時に記録でき、条件出しの再現性が大きく向上します。また、サーボガン式の溶接機であっても定期的な校正と実測確認が必要です。実測値を条件表に記録しておくことで、後日トラブルが起きたときの原因追跡がしやすくなります。
加圧力の実測確認が条件です。条件表に「設定値」だけでなく「実測値」を併記する習慣を持つことが、安定した生産への近道になります。
スポット溶接の条件出しで起こる「分流」の落とし穴と対策
分流とは、すでに打ったスポット溶接の打点や近くの金属部分に電流が逃げる現象のことです。スポット溶接では、電流は電極直下の最短経路だけでなく、周辺の低抵抗経路にも分散して流れます。分流が起きると、ターゲットの溶接部に流れる実効電流が減少し、ナゲット径が条件出し時の想定より小さくなります。
日本溶接学会の資料によると、溶接打点のピッチ(隣り合う打点の間隔)が短いほど分流の影響は大きくなり、ある一定のピッチ以下になるとピッチを詰めても溶接強度はほぼ横ばいになることが分かっています。この「頭打ち」の原因が分流です。電流が隣の打点へ逃げてしまい、新しい溶接部に届かないのです。
分流の影響は、条件出しをテストピースで単独打点で行い、量産時には連続打点で行うという「一点条件と多点条件のギャップ」として現れます。テストピースでは合格だったのに量産品では強度が出ない、という典型的なトラブルの原因の一つです。
対策として有効なのは以下の点です。
- ピッチを規定値以上確保する: RWMAや各溶接機メーカーの条件表には最小ピッチの推奨値が板厚ごとに示されています。板厚1.0mmの場合、最小ピッチの目安は約18mm以上とされています。これより短くするとナゲット径の安定確保が難しくなります。
- 連続打点での条件出しを行う: 量産と同じ打点順序・ピッチで条件出しを行い、2点目以降も破壊試験でナゲット径を確認します。
- 多段電流制御(溶接電流を分流量に応じて補正): 近年のインバータ式溶接機では、打点ごとに電流をわずかに上げる「アップスロープ」や多段通電機能を使って分流の影響を補正できます。
分流に注意すれば大丈夫です。条件出しは単点で終わらせず、量産の打点パターンで再確認するというステップを必ず踏みましょう。
参考:スポット溶接における打点ピッチと分流の関係(株式会社ヤシマ)
スポット溶接の条件出しを長期間安定させる「電極管理」の具体的手順
条件出しでせっかく最適な設定値を決めても、電極チップが摩耗すると同じ条件では同じ品質が出せなくなります。これは電極の先端径が使用によって広がるためです。先端径が初期値の4mmから5mmに広がると、電流密度は面積比で約36%も低下します。同じ電流を流していても、溶接部に集中する熱量が大幅に減るのです。
この問題が厄介なのは、電極の摩耗は少しずつ起きるため、ある時点で突然品質が落ちるのではなく、「気づかないうちにじわじわナゲット径が縮小していく」という形で現れるからです。打痕は変わらずあるのに、ピール試験をしてみると合格ギリギリ、あるいは不合格になっているというパターンが多くみられます。
電極管理の基本手順は以下のとおりです。
- ドレッシング(チップドレス)の周期を決める: 使用する材質や板厚によって異なりますが、亜鉛めっき鋼板(ガルバ材)はメッキが電極に付着しやすいため、軟鋼に比べて2〜3倍頻繁なドレッシングが必要です。
- 先端径を定期的に計測する: ノギスや先端径測定ゲージを使い、初期値から20%以上広がった時点でドレスまたはチップ交換の目安とします。
- ドレッシング後と新品チップ装着後に破壊試験を実施する: ドレス後は先端形状が変化しているため、必ずテストピースを数枚打って条件が維持されているかを確認します。
電極管理は条件出しとセットで考える必要があります。条件表に「使用可能なチップ先端径の範囲(例:3.5〜4.5mm)」を明記しておくと、現場で基準を共有しやすくなります。また、定電流制御機能(CC制御)を持つインバータ式溶接機では、電極摩耗に伴う抵抗変化を自動補正して電流を一定に保つ機能があり、ナゲット径のばらつきを大幅に抑えられます。特に自動車部品など品質基準が厳しい分野では、この機能の活用が品質安定化の鍵の一つになっています。
参考:スポット溶接の電極摩耗と品質への影響(株式会社都留 コラム)
https://www.tsuru.co.jp/column/basic-knowledge5/

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